取引先からの帰り、先輩が欠伸を噛み殺したのを見逃さなかった。
「先輩、帰りは私が運転しますよ」
「いや、悪いからいいよ。大丈夫」
へらりと笑う先輩の目の下には浅黒い隈。
「後輩の優しさに甘えて下さい」
「じゃあ…」
お言葉に甘えて、と助手席に乗り込んだ先輩は居心地悪そうに背中を丸めてシートベルトを締めた。
「寝ていていいですからね」
「いや、大丈夫」
そう言って数分後、先輩は睡魔に負けて眠ってしまった。
赤信号の際、営業マンとは思えない程不健康な先輩の顔をこっそりと覗き込んだ。

先輩、意外とカッコいいのになあ〜。
なんで他の女子社員から怖がられちゃうのかな。
先輩は面倒見も良いし、意外と紳士的なのだ。
缶コーヒーが開けられなくて困っていたら煙草を加えたまま片手で缶を開けてくれたし、重い物も持ってくれる。
体調が悪いのも気付いてくれるし…。

「誰にでもそうなのかなぁ…」

「…何が？」
隣から聞こえた声に、ギギギと音がしそうな程ぎこちなく横を見ると咳払いをする先輩。
「へっ⁉︎先輩、起きてたんですか⁉︎」
「まぁ…隣でそれだけ独り言言われたら…」
「い、いつから…」
「先輩、意外とカッコいいのになぁ〜〜…の辺りから…」
「そ、それ多分最初からじゃないですか！」
「すまん」
「いや、私も悪いですけどぉ〜〜‼︎やだぁ〜〜死にたい〜〜‼︎」
「おいバカ！前見ろ‼︎」
横から咄嗟にハンドルを操作する先輩。

「嗚呼もうそこで停まれ…交代だ」
路肩に車を停めて、先輩と運転を交代する。
溜息を吐いてシートベルトを締めた先輩が車を発進させる。
「…すみません」
「いや、俺も悪かったから」
運転する先輩をちらりと盗み見ると耳が赤くなっていて、自分の言った事の恥ずかしさを思い出してまた死にたくなった。