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多忙を極める日々を終え、帰宅したのは日付が変わるギリギリだった。
(そういえば今日は七夕かぁ…)
友人達のSNSに上げられた天の川を模した煌びやかな料理やスイーツを眺めていると『帝統ぅ〜〜!お誕生日おめでと〜〜!!!』
私の恋人の名前を呼んで誕生日を祝福する女の子の声。
「え?何…?どういうこと?」
慌てて声の正体を確認すると、それは乱数ちゃんのストーリーに上がった短い動画から聴こえてきた。
《本日の主役》と書かれた襷を肩から掛けて真っ赤な顔で嬉しそうにお酒を煽る帝統。
両隣にはすらりとした脚の綺麗な女の子が座っていて、流石に顔は映らなかったけれど楽しそうに笑っている声が入っていた。
「何これ」
(どういうこと?帝統、今日が誕生日だったの…?)
自分が所謂社畜と呼ばれる部類に入る人間だとは理解している。仕事は嫌いじゃないしやり甲斐も感じてはいるけれど、恋人の誕生日と仕事を天秤に掛けて仕事が勝つ程の仕事人間ではない。
(何で誕生日だって教えてくれなかったの?)
彼は野良猫みたいな人なので誰にでも懐く。
私の知らない所で女の子と呑んでいたって構わないと思っていたけれど、彼にも会えず激務に追われてやっと帰宅した所に彼の誕生日を知り、その彼が女の子と遊んでいるのを知って許せる程の寛大な心は今現在持ち合わせていない。
(乱数ちゃんや夢野先生が居るにしたって今は話が別だ。)
知らなければ何ともない事も知って仕舞えば後戻りは出来ない。
どろりとした感情が流れ込む。
寝不足で迎えた翌朝、大人として流石にどうなんだと冷静になってお祝いのメッセージを送ったけれど既読が付く事はなかった。
彼からの返信がないまま数日が過ぎようやく訪れた連休の最終日。
私は今、無心で玉ねぎを切っている。
流れる涙で前が見えなくなるくらい、泣いて、この涙は玉ねぎのせいだと自分に言い聞かせる為に。
山盛りの玉ねぎをバターと一緒に飴色になるまで丁寧に炒めて、水を足してくつくつと煮えるそれは彼が好きだと言ったオニオンスープ。
喧嘩をしてはストレス発散にこのオニオンスープを作るのが私のルーティーンになっている気がする。スープが出来上がるまでの間、ぐちゃぐちゃになった頭の中を整理して彼との関係に蹴りをつけようと思うのに毎度、彼はスープが出来上がる直前にやって来て憎めないあの笑顔で私を上手い事言いくるめてしまう。
大きな喧嘩は何度もした。
でも今回こそ終わりだ。
私たちはもう終わってしまったのだ。
「自然消滅かぁ…」
自然に溢れた言葉にじわりと目頭が熱くなる。感傷に浸る間も無く、鳴り響く軽快なインターフォンの音。
思わず涙は引っ込んでしまった。
荷物は頼んでいないし新聞の勧誘か何かかと思ってモニターを見るとそこに映っていたのは久々に見る顔。
「…何ですか?新聞なら間に合ってます」
「ちげぇよ!なぁ、入れてくれよぉ」
急に降ってきちまってよぉ…と、チェーンロックを掛けたままのドアの隙間から私の機嫌を窺う様な猫撫で声を上げている全身ずぶ濡れの野良猫がいっぴき。
「ウチ、ペット禁止なんで」
ドアを閉めようとした瞬間、隙間にガッと差し込まれる彼の足。
「ちょっと!何すんの!?」
「お前が入れてくんねぇからだろ!つーか何怒ってんだよ。目も赤いじゃねぇか。…泣いたのか?」
「怒ってない!泣いてない!」
「じゃあ、入れてくれよ」
「……」
溜め息を吐く私を見てドアに挟んでいた足を退かす彼。一度ドアを閉めて深呼吸をして彼を迎える為にドアを開けた。
「…お風呂、入れば」
「そーするわ」
彼がお風呂から上がると室内を嫌な沈黙が満たしていく。自分の家なのに居心地の悪さを感じていると洗濯物が終わったという合図が鳴って、慌ててそちらに逃げた。
洗濯物を干す私の背中に彼の視線を痛い程感じる。
「なー、俺なんかしたか?」
「別に」
「そんな目ェ腫らして『別に』って事ァねえだろ?何に怒ってんだって…」
玉ねぎで発散した筈の黒い感情が再びどろりと流れ込む。
「誕生日…楽しかった…?」
「あ〜、乱数か?急に呼ばれて行ってみたらアレでよぉ。まぁ普通に楽しかったぜ?」
お前も来れば良かったのに、と言われた瞬間目の前がカッと赤くなって干していた彼の服を投げ付けた。
「女の子侍らせて嬉しそうにしてた癖に良くそんな事言えるね‼︎」
「おい!キレんなって‼︎あれは乱数が連れて来た奴等で別に何もしてねぇよ!つーかそんな事でキレるなよ…」
「そんな事じゃない…!だって…ッ私‼︎帝統の誕生日知らなかったッ‼︎」
堰を切ったように溢れた醜い感情と涙。
嗚呼、こんな事を言いたかったのでは無いのに…
「はぁ…、ンな事かよ」
彼の溜め息に自分の肩が震えるのが分かる。
面倒な女だと思われただろうか、きっとこれでサヨナラなんだ。彼から直接別れの言葉を聞くくらいならあのまま自然消滅してしまいたかった。
彼が立ち上がり、私の前にしゃがみ込む。
握り締めた洗濯物よりも自分の指先が冷たく感じた。
「教えてなかったのは悪かったけど聞かれなかったし、7月はお前が忙しいって言ってたから…誕生日だって自分から祝って欲しいなんて言えなかっただけで、俺だってお前と一緒に居たかったに決まってるだろ?」
なぁ、泣くなよ…、耳元で彼の掠れた声が響く。彼には不釣合いな私のお気に入りの甘いシャンプーの匂い。熱すぎる彼の体温に抱き締められていることをやっと認識した。
「不安にさせて悪かった…お前が泣いてるとどうしたらいいかわかんねぇんだよ。なぁ、泣き止んでくれよ…」
痛いくらいに握られた私の指先に彼がキスを落とす。
「なぁ…?」
子犬みたいに潤んだ瞳で見詰められればあっという間に絆されてしまう自分は馬鹿な女だなぁと思ってはいる。
簡単に絆されてしまう位には彼のことが好きだし愛している。
「…来年は一緒に居てもいい?」
一瞬驚いたという様に目をまあるくした彼がにかりと笑う。
「当たり前だろ?」
今日もまた、未練を断ち切るためのオニオンスープは彼の笑顔に絆されて仲直りの味に変わってしまった。
(そういえば今日は七夕かぁ…)
友人達のSNSに上げられた天の川を模した煌びやかな料理やスイーツを眺めていると『帝統ぅ〜〜!お誕生日おめでと〜〜!!!』
私の恋人の名前を呼んで誕生日を祝福する女の子の声。
「え?何…?どういうこと?」
慌てて声の正体を確認すると、それは乱数ちゃんのストーリーに上がった短い動画から聴こえてきた。
《本日の主役》と書かれた襷を肩から掛けて真っ赤な顔で嬉しそうにお酒を煽る帝統。
両隣にはすらりとした脚の綺麗な女の子が座っていて、流石に顔は映らなかったけれど楽しそうに笑っている声が入っていた。
「何これ」
(どういうこと?帝統、今日が誕生日だったの…?)
自分が所謂社畜と呼ばれる部類に入る人間だとは理解している。仕事は嫌いじゃないしやり甲斐も感じてはいるけれど、恋人の誕生日と仕事を天秤に掛けて仕事が勝つ程の仕事人間ではない。
(何で誕生日だって教えてくれなかったの?)
彼は野良猫みたいな人なので誰にでも懐く。
私の知らない所で女の子と呑んでいたって構わないと思っていたけれど、彼にも会えず激務に追われてやっと帰宅した所に彼の誕生日を知り、その彼が女の子と遊んでいるのを知って許せる程の寛大な心は今現在持ち合わせていない。
(乱数ちゃんや夢野先生が居るにしたって今は話が別だ。)
知らなければ何ともない事も知って仕舞えば後戻りは出来ない。
どろりとした感情が流れ込む。
寝不足で迎えた翌朝、大人として流石にどうなんだと冷静になってお祝いのメッセージを送ったけれど既読が付く事はなかった。
彼からの返信がないまま数日が過ぎようやく訪れた連休の最終日。
私は今、無心で玉ねぎを切っている。
流れる涙で前が見えなくなるくらい、泣いて、この涙は玉ねぎのせいだと自分に言い聞かせる為に。
山盛りの玉ねぎをバターと一緒に飴色になるまで丁寧に炒めて、水を足してくつくつと煮えるそれは彼が好きだと言ったオニオンスープ。
喧嘩をしてはストレス発散にこのオニオンスープを作るのが私のルーティーンになっている気がする。スープが出来上がるまでの間、ぐちゃぐちゃになった頭の中を整理して彼との関係に蹴りをつけようと思うのに毎度、彼はスープが出来上がる直前にやって来て憎めないあの笑顔で私を上手い事言いくるめてしまう。
大きな喧嘩は何度もした。
でも今回こそ終わりだ。
私たちはもう終わってしまったのだ。
「自然消滅かぁ…」
自然に溢れた言葉にじわりと目頭が熱くなる。感傷に浸る間も無く、鳴り響く軽快なインターフォンの音。
思わず涙は引っ込んでしまった。
荷物は頼んでいないし新聞の勧誘か何かかと思ってモニターを見るとそこに映っていたのは久々に見る顔。
「…何ですか?新聞なら間に合ってます」
「ちげぇよ!なぁ、入れてくれよぉ」
急に降ってきちまってよぉ…と、チェーンロックを掛けたままのドアの隙間から私の機嫌を窺う様な猫撫で声を上げている全身ずぶ濡れの野良猫がいっぴき。
「ウチ、ペット禁止なんで」
ドアを閉めようとした瞬間、隙間にガッと差し込まれる彼の足。
「ちょっと!何すんの!?」
「お前が入れてくんねぇからだろ!つーか何怒ってんだよ。目も赤いじゃねぇか。…泣いたのか?」
「怒ってない!泣いてない!」
「じゃあ、入れてくれよ」
「……」
溜め息を吐く私を見てドアに挟んでいた足を退かす彼。一度ドアを閉めて深呼吸をして彼を迎える為にドアを開けた。
「…お風呂、入れば」
「そーするわ」
彼がお風呂から上がると室内を嫌な沈黙が満たしていく。自分の家なのに居心地の悪さを感じていると洗濯物が終わったという合図が鳴って、慌ててそちらに逃げた。
洗濯物を干す私の背中に彼の視線を痛い程感じる。
「なー、俺なんかしたか?」
「別に」
「そんな目ェ腫らして『別に』って事ァねえだろ?何に怒ってんだって…」
玉ねぎで発散した筈の黒い感情が再びどろりと流れ込む。
「誕生日…楽しかった…?」
「あ〜、乱数か?急に呼ばれて行ってみたらアレでよぉ。まぁ普通に楽しかったぜ?」
お前も来れば良かったのに、と言われた瞬間目の前がカッと赤くなって干していた彼の服を投げ付けた。
「女の子侍らせて嬉しそうにしてた癖に良くそんな事言えるね‼︎」
「おい!キレんなって‼︎あれは乱数が連れて来た奴等で別に何もしてねぇよ!つーかそんな事でキレるなよ…」
「そんな事じゃない…!だって…ッ私‼︎帝統の誕生日知らなかったッ‼︎」
堰を切ったように溢れた醜い感情と涙。
嗚呼、こんな事を言いたかったのでは無いのに…
「はぁ…、ンな事かよ」
彼の溜め息に自分の肩が震えるのが分かる。
面倒な女だと思われただろうか、きっとこれでサヨナラなんだ。彼から直接別れの言葉を聞くくらいならあのまま自然消滅してしまいたかった。
彼が立ち上がり、私の前にしゃがみ込む。
握り締めた洗濯物よりも自分の指先が冷たく感じた。
「教えてなかったのは悪かったけど聞かれなかったし、7月はお前が忙しいって言ってたから…誕生日だって自分から祝って欲しいなんて言えなかっただけで、俺だってお前と一緒に居たかったに決まってるだろ?」
なぁ、泣くなよ…、耳元で彼の掠れた声が響く。彼には不釣合いな私のお気に入りの甘いシャンプーの匂い。熱すぎる彼の体温に抱き締められていることをやっと認識した。
「不安にさせて悪かった…お前が泣いてるとどうしたらいいかわかんねぇんだよ。なぁ、泣き止んでくれよ…」
痛いくらいに握られた私の指先に彼がキスを落とす。
「なぁ…?」
子犬みたいに潤んだ瞳で見詰められればあっという間に絆されてしまう自分は馬鹿な女だなぁと思ってはいる。
簡単に絆されてしまう位には彼のことが好きだし愛している。
「…来年は一緒に居てもいい?」
一瞬驚いたという様に目をまあるくした彼がにかりと笑う。
「当たり前だろ?」
今日もまた、未練を断ち切るためのオニオンスープは彼の笑顔に絆されて仲直りの味に変わってしまった。
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