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幻太郎さんのお家の一室は書庫になっていて、図書館の様にずらっと本棚が並んでいる。
ちなみに、普段使われていない部屋や彼の書斎にはその本棚から溢れた書物が所狭しと積まれてそれはまるで渋谷センター街の街並みの様にも見える。
彼が締め切りに追われ、書斎に閉じこもっている間の私の仕事は彼の食事を作る事と山積みにされた本を本棚へと戻す事だ。彼も彼なりに片付けようと試みてはいるものの、さすが今をときめく売れっ子小説家。何本もの連載を抱えていくつもの締め切りに追われている。そうともなると片付けようとも本は増えるばかりで一向に進まない。
そんな積まれゆく本達を私が少しでも正しい居場所に戻してやるのだ。
書庫の整理、夕食の下ごしらえ、掃除洗濯…家事を一通り済ませると時計の針は天辺を越えた頃だった。
ここに来る前に立ち寄ったパン屋さんで買った食パンと冷蔵庫の余り物でサンドイッチを拵えて、それとコーヒーを淹れて彼の書斎に持っていく。
「幻太郎さん、コーヒー入りましたよ」
一応ノックはしたものの、執筆中の彼の返事が無いのは当たり前の様なものだった。入りますよ、と声を掛けて静かに書斎へと入る。
「コーヒーここ置きますね」
「……」
「サンドイッチも作りましたから食べて下さいね」
ん、と短い返事をしてコーヒーを啜る彼の筆は止まらない。執筆中は周りが見えなくなるのだと彼は言っていた。マグカップを置いた手がサンドイッチに伸びて彼の口に運ばれて行く。
サンドイッチが一切れ彼の胃に消えたのを見届けて書斎を後にした。
「私もちょっと休憩」
再び書庫の扉を開けると、ひんやりとした空気と紙とインクの匂いがした。設置されたストーブを点けてさっき片付け中に見つけた面白そうな本を何冊か抱えて書庫の奥にあるソファースペースへと移動する。
其処には二人掛けのソファーと小さなローテーブルが設置されている。
それはいつも気がつくと書庫の床に座り込んで夢中で書物を読む私の為に彼が設置してくれたものだった。
『何度言っても貴女が書庫で本を読み耽っているからですよ』
そう彼はぶつくさとお小言を言っていたけれど、夏は今あるストーブの代わりに扇風機が設置されるし、あれも彼なりの愛情表現だと思う。
その日からここは私のお気に入りになった。彼が執筆中の時や外出中もこっそりとやって来てはここで沢山の本を読んだ。歴史的な書物、美術の本、恋愛小説、漫画や雑誌…ここにはありとあらゆるジャンルの本がある。
勿論、彼の作品も。
今日見つけた本は彼がデビュー直後に書いた初の恋愛小説だった。
彼は自分の昔の作品を『黒歴史だ』などと言ってあまり見せてくれない。付き合い出してから出版された本達は私が本棚に並べているので揃っているがそれ以前の本は彼の積んだ本の一番下の方や絶対に本を置かないだろうと思う様な彼らしい捻くれた場所に隠されていたりする。
今日見つけた彼著書の恋愛小説は本と一緒に積まれていたDVDBOX(Xファイルコンプリートボックス)の中にパッケージと一緒に並べられていた。
(ちなみに、以前見つけたデビュー作は食器棚の一番上の段の普段使わない大皿の背後に隠されていた。)
古いインクの匂い。
ストーブがたてる無機質な音。
紙が擦れる音が心地よかった。
どれ位の時間が経ったのだろうか気が付くと本を抱えたまま私は眠っていた。
彼の書いた恋愛小説の他にも何冊か本を読んでいる間に眠ってしまったのだろう。窓の外は真っ暗になっていた。
「いけない!晩御飯の時間!」
慌てて起き上がろうとすると腹部に感じる重さ。驚いて視線を下げると、私のお腹の上には彼の頭。眠っているのか小さな寝息を立てている。
掛けられたブランケットと私の腰に回ったままの彼の腕を見る限り、無事締め切りを終えて私を探して書庫にやって来た彼がここで眠っていた私にブランケットを掛けてくれたのだろう。そして、そのまま彼も力尽きて眠ってしまったのだと考えられる。
その瞼に隈まで拵えて、ボサボサの彼の髪を優しく梳いてやる。
「お疲れ様です」
普段晒されていない白くまあるい彼の額にそっとキスをする。彼が小さく唸って私のお腹に額を押し付けてくる。
「全然起きないし」
くすりと笑う私の声をくぐもった彼の声が遮った。
「…眠り姫も白雪姫も眠りから目覚めるのは愛する人のキスでしょう?」
「いつから起きてたんですか…!」
「麿はまだ起きていないでおじゃるぅ。愛する人のキッスで目覚めるのでおじゃ〜」
「キスなら今したじゃないですか…!」
「誓いのキスは唇にと相場で決まっているであろう」
「もー!」
「…これでいいですか!」
彼の唇に触れるだけのキスを落とす。
「妾の運命の人とやらは情緒もへったくれもないのぅ」
不服そうな彼に手首と後頭部を捕らえられ、普段はしないちょっとえっちなキスをされた。
やっと離れた二人の唇を銀の糸が繋ぐ。
「ふぅ…ッ、」
「キスとはこの位情熱的な物を言うんですよ」
妖艶な笑みを浮かべる彼のつむじに照れ隠しの手刀をかますまで、あと2秒…。
ちなみに、普段使われていない部屋や彼の書斎にはその本棚から溢れた書物が所狭しと積まれてそれはまるで渋谷センター街の街並みの様にも見える。
彼が締め切りに追われ、書斎に閉じこもっている間の私の仕事は彼の食事を作る事と山積みにされた本を本棚へと戻す事だ。彼も彼なりに片付けようと試みてはいるものの、さすが今をときめく売れっ子小説家。何本もの連載を抱えていくつもの締め切りに追われている。そうともなると片付けようとも本は増えるばかりで一向に進まない。
そんな積まれゆく本達を私が少しでも正しい居場所に戻してやるのだ。
書庫の整理、夕食の下ごしらえ、掃除洗濯…家事を一通り済ませると時計の針は天辺を越えた頃だった。
ここに来る前に立ち寄ったパン屋さんで買った食パンと冷蔵庫の余り物でサンドイッチを拵えて、それとコーヒーを淹れて彼の書斎に持っていく。
「幻太郎さん、コーヒー入りましたよ」
一応ノックはしたものの、執筆中の彼の返事が無いのは当たり前の様なものだった。入りますよ、と声を掛けて静かに書斎へと入る。
「コーヒーここ置きますね」
「……」
「サンドイッチも作りましたから食べて下さいね」
ん、と短い返事をしてコーヒーを啜る彼の筆は止まらない。執筆中は周りが見えなくなるのだと彼は言っていた。マグカップを置いた手がサンドイッチに伸びて彼の口に運ばれて行く。
サンドイッチが一切れ彼の胃に消えたのを見届けて書斎を後にした。
「私もちょっと休憩」
再び書庫の扉を開けると、ひんやりとした空気と紙とインクの匂いがした。設置されたストーブを点けてさっき片付け中に見つけた面白そうな本を何冊か抱えて書庫の奥にあるソファースペースへと移動する。
其処には二人掛けのソファーと小さなローテーブルが設置されている。
それはいつも気がつくと書庫の床に座り込んで夢中で書物を読む私の為に彼が設置してくれたものだった。
『何度言っても貴女が書庫で本を読み耽っているからですよ』
そう彼はぶつくさとお小言を言っていたけれど、夏は今あるストーブの代わりに扇風機が設置されるし、あれも彼なりの愛情表現だと思う。
その日からここは私のお気に入りになった。彼が執筆中の時や外出中もこっそりとやって来てはここで沢山の本を読んだ。歴史的な書物、美術の本、恋愛小説、漫画や雑誌…ここにはありとあらゆるジャンルの本がある。
勿論、彼の作品も。
今日見つけた本は彼がデビュー直後に書いた初の恋愛小説だった。
彼は自分の昔の作品を『黒歴史だ』などと言ってあまり見せてくれない。付き合い出してから出版された本達は私が本棚に並べているので揃っているがそれ以前の本は彼の積んだ本の一番下の方や絶対に本を置かないだろうと思う様な彼らしい捻くれた場所に隠されていたりする。
今日見つけた彼著書の恋愛小説は本と一緒に積まれていたDVDBOX(Xファイルコンプリートボックス)の中にパッケージと一緒に並べられていた。
(ちなみに、以前見つけたデビュー作は食器棚の一番上の段の普段使わない大皿の背後に隠されていた。)
古いインクの匂い。
ストーブがたてる無機質な音。
紙が擦れる音が心地よかった。
どれ位の時間が経ったのだろうか気が付くと本を抱えたまま私は眠っていた。
彼の書いた恋愛小説の他にも何冊か本を読んでいる間に眠ってしまったのだろう。窓の外は真っ暗になっていた。
「いけない!晩御飯の時間!」
慌てて起き上がろうとすると腹部に感じる重さ。驚いて視線を下げると、私のお腹の上には彼の頭。眠っているのか小さな寝息を立てている。
掛けられたブランケットと私の腰に回ったままの彼の腕を見る限り、無事締め切りを終えて私を探して書庫にやって来た彼がここで眠っていた私にブランケットを掛けてくれたのだろう。そして、そのまま彼も力尽きて眠ってしまったのだと考えられる。
その瞼に隈まで拵えて、ボサボサの彼の髪を優しく梳いてやる。
「お疲れ様です」
普段晒されていない白くまあるい彼の額にそっとキスをする。彼が小さく唸って私のお腹に額を押し付けてくる。
「全然起きないし」
くすりと笑う私の声をくぐもった彼の声が遮った。
「…眠り姫も白雪姫も眠りから目覚めるのは愛する人のキスでしょう?」
「いつから起きてたんですか…!」
「麿はまだ起きていないでおじゃるぅ。愛する人のキッスで目覚めるのでおじゃ〜」
「キスなら今したじゃないですか…!」
「誓いのキスは唇にと相場で決まっているであろう」
「もー!」
「…これでいいですか!」
彼の唇に触れるだけのキスを落とす。
「妾の運命の人とやらは情緒もへったくれもないのぅ」
不服そうな彼に手首と後頭部を捕らえられ、普段はしないちょっとえっちなキスをされた。
やっと離れた二人の唇を銀の糸が繋ぐ。
「ふぅ…ッ、」
「キスとはこの位情熱的な物を言うんですよ」
妖艶な笑みを浮かべる彼のつむじに照れ隠しの手刀をかますまで、あと2秒…。