帰宅後ヒールも揃えず、マフラーとコートを脱ぎ捨ててソファーに倒れ込む。
お風呂に入って、化粧を落として、ご飯を食べて…家に帰って来てもやるべき事は山積みだ。
「つかれた…」
思わず溢れた言葉に身体がずしりと重くなる。

「〇〇？今帰ったのか」

ふと顔を上げるとアイスブルーの瞳がこちらを覗き込む。コンビニの袋をテーブルに置いた彼は私の投げ捨てたコートを当たり前の様に自分のMA-1の横に掛けた。
「りおーさん、来てたんですね」
「おかえり。食事が出来ているが先に風呂にするか？今日は随分と冷え込んでいる。風邪予防の為にも手洗い・うがいを…」
コートに除菌消臭スプレーを掛けながら今日の夕食のメニューを丁寧に説明してくれる彼の腰に抱き着く。
私が勢い良く抱きついた所で体幹が鍛えられた彼の身体はビクともしない。
「〇〇？」
私の名を呼ぶ彼の声が心地良くて安心する。

「お風呂、一緒に入りませんか？」
「嬉しい誘いだが小官が一緒では狭くないか？折角の風呂なのだからゆっくりのんびり入って…」
「だめですか？」
む、と小さな声を上げた彼の耳が段々と赤くなっていく。
「や、やっぱり嘘です！一人で入ります！！」

なんて恥ずかしい事を言ったんだろうと一人、湯舟でぶくぶくしながら反省する。

お風呂から上がるとあたたかな料理の香りがした。
「おいしそう…」
「食事の前に髪を乾かさなくては風邪を引くぞ」
小官がやってもいいだろうか？まるで大きな犬がボール遊びを強請るような目で彼が問う。
「お願いします」
彼の大きな手が優しく私の髪に触れる。
彼はこうやって行動一つ一つに私の承諾を得ようとする。手を繋ぐ時もキスもセックスも私が嫌だと言う事は絶対にしない。
前に承諾を得なくてもいいと言った事もあったが「大切にしたいから」と言われて仕舞えば恥ずかしいが悪い気はしない。
それからずっとこのスタイルだ。
「きもちい…」
「そうか」
丁寧に乾かされた髪にヘアオイルまで塗ってもらい、彼が温め直してくれたご飯を二人で食べて、二人で寝るには少し小さなベッドに潜り込む。
「〇〇、」
「なんですか？」
「…抱き締めてもいいだろうか」
「いいですよ」
おずおずと彼の腕の中へ潜り込むと、嬉しそうに少しだけ微笑む彼が愛おしい。
「理鶯さん、」
「ん？」
「大好きです」
「小官も愛している」
そう言って落とされるキスはとても心地が良い。とろりと下がる瞼に落とされたキスと優しく響く彼の声を感じながら深い微睡みの中へと落ちた。

「おやすみ〇〇、どうか良い夢を」