🐰
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「隣いいですか?」
「ええ、」
上品なジャズが流れるバー
今回の潜入先はそこだった。
いつもより洒落たスーツを着た銃兎が隣に掛けてバーテンダーにオーダーを伝える。
「彼女にも何か」
「ありがとう、じゃあワインクーラーを」
「…強気だな」
「だってあの男はそういう女が好きなんでしょう?」
「まぁな、…首尾は?」
「上々」
「ならいいが、あまり無理はするなよ」
「ご心配ありがとう」
インカムに標的が近くに来たと連絡が入る。
気を付けろよ、そう告げた彼が私から離れていく。
入口のベルがチリンと小さく鳴り、標的の到着を告げる。
一瞬、
視線を絡ませてまた外して、
女が気のある素振りを見せて掛からない男なんていないだろう。
「お嬢さん、一人かい?」
「えぇ、」
「ご一緒しても?」
「是非」
にこりと微笑んで見せれば、
隣の席に標的が着く。
掛かった。
ゆるく巻いた髪。
甘い香水。
真紅のルージュに潤んだ瞳。
気怠げな表情で誘う
お高くとまった気の強い女。
目の前の標的好みの女を演じる。
他愛もない会話をして、時々気のある素振りで男をその気にさせる。
2杯目のカクテルが空になった頃、男の手が私の手の甲をゆっくりと包んで優しく微笑む。
その裏には欲の色がチラつく。
「今夜の予定は?」
「1人でバーにいる女に今夜の予定を聞くなんて野暮でしょう?」
「それは失礼」
男の腕がするりと腰に回る。
「今夜の予定を聞くなんて何するつもり?」
男の耳に真っ赤な唇を寄せて甘く囁く。
奥のソファーで女と談笑する銃兎と目が合った。
誘うように微笑めば、眼鏡の奥の彼の顔が少しだけ歪む。
それはきっと私にしか分からないだろう。
「君を特別な場所に連れて行きたいんだ」
「特別な場所?」
「嗚呼、君も満足するだろう」
男の呼んだ車に乗り込んでバーを後にする。
この車が向かうのは恐らく都心から少し離れた廃墟だろう。
沢山の女がこの男に誘われて連れ込まれ、嬲り殺されたあの場所。
2杯目のカクテルに薬か何を仕込まれたのは知っている。
意識が少しずつ遠退いていくのがわかった。
このまま私はこの男の好きなようにされるのだろうか。
でも、殺されない自信ならある。
私に取り付けらたGPSを銃兎が追って来てくれる。
顔を合わせれば喧嘩ばかりの仲ではあるが私は彼を信じている。
「私を騙すなんで悪い娘だ」
隠し持っていたGPSが外されてコンクリートの地面に叩きつけられる。
「何が目的だ‼︎」
「貴方の犯罪の証拠に決まってるでしょ!」
「ふざけるな‼︎」
男の革靴が私の腹を蹴り上げて縛り付けられた椅子ごと床に倒れてしまう。
「ぐっ、」
何度も繰り返される行為を避ける術もなく唯々耐えた。
「ポリ公がザマァねえな。嗚呼そうだ、これでお前を眠らせてコンクリ詰めにしてしまえば証拠は無くなるな…」
ニヤリと笑う男の手には小さな注射器。
「何、それ…」
「安心しな、中身はただの睡眠薬だ。まぁ、眠っちまった後はハマの海底に沈む事になるがな!」
縛られた身体では抗う術も無く、左腕につぷりと小さな痛み。
「じゃあな、嬢ちゃん」
「ふざ、けるな…ッ!」
「動くな‼︎」
男の下品な高笑いを遮ったのは銃兎の声だった。
耳慣れた声があの上品な姿からは想像もつかない様な汚い罵声の暴力を振るう。
なるべく聴かないようにと思考を巡らせる。
キャンセラーを持たない生身の身体には少なからず影響があるはずだ。
しばらくして、辺りに静けさが戻ってくる。
「大丈夫か、」
頭上から彼の声が聞こえて、直ぐに拘束が解ける。それと同時に彼の着ていたジャケットを被せられた。
「汚れるよ」
「構わない」
そう告げた彼の声は少しだけ冷たくて、大人しくソレを羽織る。
駆け寄ってきた部下に一通り指示を出した彼は「後は任せましたよ」と告げて、ひょいと私を抱き上げて現場を後にする。
「ちょっと、」
「黙ってろ」
「…」
緊張の糸が解けたのか思考回路が鈍りだす。
「じゅ、と」
「あぁ?」
「眠い」
「じゃあ、寝とけ」
「ん、」
温かい。
ゆらゆらと揺れる感覚で銃兎に抱き抱えられている事を理解した。
辺りには見慣れないシンプルな部屋が広がっている。
「ん…、」
「目ェ覚めたか?」
「うん、ここどこ?」
「俺の家だ」
「なんで」
「お前の家より近いだろ」
それにその身体じゃあ一人で何も出来ねぇだろ、そう言い捨てる彼に反論しようと口を開くと、ぐわり。
視界が歪む。
「そんな事ッ…⁉︎」
「暴れんな」
ベッドの端に座らされる。
力が上手く入らなくて座っても後ろに倒れそうな私の頭を彼の手が支えてくれた。
「じゅうと、」
「服、脱がせるぞ」
「えっやだ!」
「こんな泥まみれじゃ寝かせらんねぇだろうが。それともお前が床で寝るか?」
「ッ、」
身体が震えているのがわかる。
無様だ。
触れられるのが怖いだなんて。
「ついでに手当てもしておくか…」
慣れた手付きで消毒などの処置を施される。
「もういいって」
「傷、残ったら困るだろ」
「別に、そんな生娘じゃないんだから!」
「お前は鈍すぎんだよ」
ブカブカのスウェットを頭から被せられる。
「ほら、終わったぞ」
「ぎゃっ!」
若干荒っぽくベッドに押し倒されて変な声が出た。
「色気のねぇ声」
「う、煩い」
「ここも痕になってるな…」
するりと彼の長い指が私の手首を撫でる。
縄で縛られていたからか、手首には赤い擦り傷と鬱血痕が出来ていた。
「この位すぐになおる」
「そーかよ」
手首をぐいと引かれて、そこに彼の唇が当たる。
「ちょっ、と!」
「これ以上は何もしねぇよ。それともこれ以上の事するか?」
「じゅ、銃兎?」
そう言った彼の表情は照明の光が眩しくてよく分からなかった。
「冗談だ。身動き取れない女を嬲る趣味はねぇからな。じゃあ、さっさと寝ろよ」
おやすみ、照明が落とされて1人になったベッドルームを月明かりが薄っすらと照らす。
手首が熱い。
彼が口付けた場所から身体がどんどんと熱くなっていく。
今着ているスウェットもベッドルームも彼の匂いで満ち溢れている。
「寝れる訳無いじゃん、馬鹿ッ」