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舎弟の運転する車で自宅に戻ったのは日付けが変わる少し前だった。
ワックスで後ろに流した前髪を掻き乱しながら静まり返る自宅の廊下を歩く。
組頭の親父に俺の誕生日祝いだと馴染みの懐石屋に連れて行かれて、永遠と呑まされ、そろそろ身を固めろだとか、初孫が可愛くて仕方がないだとか小言や惚気話を聞かされた。
誕生日に特別思入れなどはない。
ガキの頃、俺の誕生日に親父は帰って来なかった。親父が居なければ殴られたり怒鳴られたりする事もない。母親が近所のケーキ屋で買ってきた小さなケーキを妹と3人で囲んで食べた。親父の機嫌を伺いながらとるいつもの食事とは違い、あの日は少なからず幸せな日だったと思う。
次の誕生日が来る前に母親が親父を殺して、母親も死んだから家族で過ごす《幸せな誕生日》を俺は知らない。
必要最低限の家具だけが置かれたリビングは静まり返っている。窮屈なジャケットを脱ぎ捨てて、黒の革張りのソファーに座る。
ふと、目の前にあるガラス張りのローテーブルの上に封筒が置かれているのに気付いた。
拾い上げたそれには見慣れた彼女の丸っこい字で俺の名が書かれていた。
可愛らしい花のシールで止められた封を開けると、中には動物や花が描かれたポップなデザインのバースデーカードが入っていた。
〜〜♪〜〜〜♫
「うぉッ、」
開くと同時に流れ出した電子音のバースデーソングにビビって思わずカードを閉じる。
「ンだよコレ」
無機質で静かな部屋にそぐわない軽快な音楽を少し鬱陶しく思いながら再びカードを開いて中身を確認する。
《左馬刻さんへ
お誕生日おめでとうございます。
今日という日が左馬刻さんにとって素敵な一日になりますように…! 〇〇より》
「あ?」
誕生日を祝うメッセージの下に小さな字で書かれた《冷蔵庫を見て下さい》の指示。
その指示に従って冷蔵庫を開けると今朝まで酒とミネラルウォーター位しか入って居なかった筈の場所とは思え無い程、詰め込まれたいくつかのタッパーと棚の半分以上を占領するデカい箱。
その紙箱を開けると中にはアップルパイがワンホール。
その上には林檎で出来た薔薇と《HAPPY BIRTHDAY 左馬刻さん》と書かれたプレートが乗っている。
「気合い入ってンな…」
アップルパイを箱に戻し、上段に並んだタッパーを取り出す。
タッパーを1つ開けると中には餡の掛かった肉団子。一つ摘んで口へと放り込む。
うまい。
もう一つ、と肉団子を摘んだ所で隣のタッパ ーに《摘み食い禁止!ご飯は毎日三食しっかり食べる事!》と書かれたメモを見つけた。
そのメッセージを無視して再び肉団子を口へと放り込む。
メモの裏を見ると、《次はお風呂場です。お酒を呑んでるでしょうから長湯はダメですよ!》と次の指示が書かれていた。
「なんもねーじゃねぇか…」
風呂場には波々と張られた湯船。脱衣所にはご丁寧にタオルと着替えが畳んで用意してあった。
堅っ苦しいスーツを脱ぎ捨てて湯船に浸かってシャワーを済ませ、用意されていたタオルを引っ掴む。
それと同時にはらりと落ちる空色の封筒。
タオルの下にでも隠されていたのだろう。
封筒を拾って中を確認すると《次はベッドルームです!》の指示。
着替えを済ませて指示通りにベッドルームへと向かうとドアに貼られた一枚のカード。
《ちゃんと髪の毛を乾かして寝る事!!風邪ひきますよ!》
「ったく、ウルセェなぁ」
来た道を戻る羽目になった。
髪を乾かし終えて再びベッドルームへと向かう。
薄暗いベッドルーム。
リビング同様、必要最低限の家具が置かれただけの室内はいつも通り無機質で、いつもと違う所と言えばキングサイズのベッドに人一人分の膨らみがある事位だ。
膨らみに掛けられた布団をめくる。
其処にはすやすやと無防備な寝顔を晒す俺の彼女が居た。
「おい、〇〇何してんだ」
「ん…、さまときさん?」
おかえりなさい、と瞼を擦る彼女。
もぞもぞとベッドの上に座り直してばつが悪そうにへらりと笑う。
「驚かそうと思って靴とかも隠して隠れていたんですけど、ベッドに入ったら眠たくなっちゃって寝ちゃってました…」
「左馬刻さんの事だから、手紙なんて読まずにそのまま寝ちゃうかと思ってここに隠れていたんですけど…ちゃんとドライヤーまでして来てくれたんですね。」
嬉しそうに笑う彼女の小さな手がセットしていない俺の髪を撫でる。
「なんなんだよアレはよぉ?つーか手紙でもウルセェって相当だぞ…」
「折角なので楽しんで貰おうと思って。宝探しみたいで楽しくなかったですか?」
「母親に説教される餓鬼の気分」
「えー、酷くないですかそれ!」
俺の髪を弄ぶ小さな手がもどかしくて、でも少しだけ心地よくて、その手を引寄せて彼女の頭の天辺に顔を埋めると甘いシャンプーの匂いがした。
「左馬刻さん、お誕生日おめでとうございます。これからもずっと大好きです」
「ンな事知ってるわ」
俺の胸に抱きついたままで彼女が笑う。
「〇〇、」
その髪を撫でて彼女の耳元に唇を寄せて愛の言葉を囁けば、少し驚いた顔をした彼女が満開の花みたいな笑顔で「私も知ってますよ」と笑うのだ。
「それよか、これが宝探しだってンなら、お前がお宝って事でいいンだよなぁ?」
無防備なパジャマの隙間に手を突っ込んで脇腹を軽く撫でれば薄い腹がびくりと震えて茹で蛸みたく真っ赤になる。
「ちッ違います‼︎お宝はこれです!」
上へと向かう俺の手を押し退けてサイドボードの引き出しから取り出したのはさっき散々見た空色の封筒。
「また命令か…?」
「違います!中見てください!」
押し付けられた封筒を開けると中には温泉旅館のパンフレットとチケットが2枚。
チケットには明日の日付が書かれている。
「温泉のペアチケットです…左馬刻さんと温泉に行きたくて…個室に露天風呂付きです。一緒に行ってくれますか…?」
大分前に俺の誕生日以降の予定を聞いて来たのはそう言う事だったのか。
自信なさげにぽつぽつと言葉を選びながら話す彼女が愛おしくて、込み上げてくる笑いを嚙み殺しながら彼女を抱き締める。
「お前がどうしてもっつーんなら行ってやるよ」
「本当ですか!」
ぱぁっと笑顔になった彼女が俺の分の旅行の準備も済ませてあるのだと上機嫌で話し出す。どこまでも用意周到な癖に最後の最後まで自信が無い彼女の性格は中々面白いと思う。
「左馬刻さんニヤニヤしてる!」
「してねぇよ」
「あ、そういえばお誕生日ケーキにアップルパイ焼いて来たので明日の朝ごはんにしましょうね」
明日というより今日ですけど、へらりと笑う彼女を抱き締めたままスマートフォンの画面をちらりと見ると日付けが変わっていた。
「2人で食べきれンのかよ、飯も作ってあったじゃねぇか…」
冷蔵庫の中のタッパーの存在を思い出し、しまった…という顔をする彼女。
ころころと変わる表情には感動さえ覚える。
「旅行に行く前にお弁当箱に詰めて舎弟さんとか銃兎さん達にお裾分けに行きますか?」
「いや、ぜってぇ食う。彼奴らにはやらねぇ」
翌朝、日持ちするおかず以外は平らげたが結局2人ではホールのアップルパイを食いきれる筈もなく、彼女がまた作るからと言うので半分残ったアップルパイは銃兎と理鶯にくれてやった。
ワックスで後ろに流した前髪を掻き乱しながら静まり返る自宅の廊下を歩く。
組頭の親父に俺の誕生日祝いだと馴染みの懐石屋に連れて行かれて、永遠と呑まされ、そろそろ身を固めろだとか、初孫が可愛くて仕方がないだとか小言や惚気話を聞かされた。
誕生日に特別思入れなどはない。
ガキの頃、俺の誕生日に親父は帰って来なかった。親父が居なければ殴られたり怒鳴られたりする事もない。母親が近所のケーキ屋で買ってきた小さなケーキを妹と3人で囲んで食べた。親父の機嫌を伺いながらとるいつもの食事とは違い、あの日は少なからず幸せな日だったと思う。
次の誕生日が来る前に母親が親父を殺して、母親も死んだから家族で過ごす《幸せな誕生日》を俺は知らない。
必要最低限の家具だけが置かれたリビングは静まり返っている。窮屈なジャケットを脱ぎ捨てて、黒の革張りのソファーに座る。
ふと、目の前にあるガラス張りのローテーブルの上に封筒が置かれているのに気付いた。
拾い上げたそれには見慣れた彼女の丸っこい字で俺の名が書かれていた。
可愛らしい花のシールで止められた封を開けると、中には動物や花が描かれたポップなデザインのバースデーカードが入っていた。
〜〜♪〜〜〜♫
「うぉッ、」
開くと同時に流れ出した電子音のバースデーソングにビビって思わずカードを閉じる。
「ンだよコレ」
無機質で静かな部屋にそぐわない軽快な音楽を少し鬱陶しく思いながら再びカードを開いて中身を確認する。
《左馬刻さんへ
お誕生日おめでとうございます。
今日という日が左馬刻さんにとって素敵な一日になりますように…! 〇〇より》
「あ?」
誕生日を祝うメッセージの下に小さな字で書かれた《冷蔵庫を見て下さい》の指示。
その指示に従って冷蔵庫を開けると今朝まで酒とミネラルウォーター位しか入って居なかった筈の場所とは思え無い程、詰め込まれたいくつかのタッパーと棚の半分以上を占領するデカい箱。
その紙箱を開けると中にはアップルパイがワンホール。
その上には林檎で出来た薔薇と《HAPPY BIRTHDAY 左馬刻さん》と書かれたプレートが乗っている。
「気合い入ってンな…」
アップルパイを箱に戻し、上段に並んだタッパーを取り出す。
タッパーを1つ開けると中には餡の掛かった肉団子。一つ摘んで口へと放り込む。
うまい。
もう一つ、と肉団子を摘んだ所で隣のタッパ ーに《摘み食い禁止!ご飯は毎日三食しっかり食べる事!》と書かれたメモを見つけた。
そのメッセージを無視して再び肉団子を口へと放り込む。
メモの裏を見ると、《次はお風呂場です。お酒を呑んでるでしょうから長湯はダメですよ!》と次の指示が書かれていた。
「なんもねーじゃねぇか…」
風呂場には波々と張られた湯船。脱衣所にはご丁寧にタオルと着替えが畳んで用意してあった。
堅っ苦しいスーツを脱ぎ捨てて湯船に浸かってシャワーを済ませ、用意されていたタオルを引っ掴む。
それと同時にはらりと落ちる空色の封筒。
タオルの下にでも隠されていたのだろう。
封筒を拾って中を確認すると《次はベッドルームです!》の指示。
着替えを済ませて指示通りにベッドルームへと向かうとドアに貼られた一枚のカード。
《ちゃんと髪の毛を乾かして寝る事!!風邪ひきますよ!》
「ったく、ウルセェなぁ」
来た道を戻る羽目になった。
髪を乾かし終えて再びベッドルームへと向かう。
薄暗いベッドルーム。
リビング同様、必要最低限の家具が置かれただけの室内はいつも通り無機質で、いつもと違う所と言えばキングサイズのベッドに人一人分の膨らみがある事位だ。
膨らみに掛けられた布団をめくる。
其処にはすやすやと無防備な寝顔を晒す俺の彼女が居た。
「おい、〇〇何してんだ」
「ん…、さまときさん?」
おかえりなさい、と瞼を擦る彼女。
もぞもぞとベッドの上に座り直してばつが悪そうにへらりと笑う。
「驚かそうと思って靴とかも隠して隠れていたんですけど、ベッドに入ったら眠たくなっちゃって寝ちゃってました…」
「左馬刻さんの事だから、手紙なんて読まずにそのまま寝ちゃうかと思ってここに隠れていたんですけど…ちゃんとドライヤーまでして来てくれたんですね。」
嬉しそうに笑う彼女の小さな手がセットしていない俺の髪を撫でる。
「なんなんだよアレはよぉ?つーか手紙でもウルセェって相当だぞ…」
「折角なので楽しんで貰おうと思って。宝探しみたいで楽しくなかったですか?」
「母親に説教される餓鬼の気分」
「えー、酷くないですかそれ!」
俺の髪を弄ぶ小さな手がもどかしくて、でも少しだけ心地よくて、その手を引寄せて彼女の頭の天辺に顔を埋めると甘いシャンプーの匂いがした。
「左馬刻さん、お誕生日おめでとうございます。これからもずっと大好きです」
「ンな事知ってるわ」
俺の胸に抱きついたままで彼女が笑う。
「〇〇、」
その髪を撫でて彼女の耳元に唇を寄せて愛の言葉を囁けば、少し驚いた顔をした彼女が満開の花みたいな笑顔で「私も知ってますよ」と笑うのだ。
「それよか、これが宝探しだってンなら、お前がお宝って事でいいンだよなぁ?」
無防備なパジャマの隙間に手を突っ込んで脇腹を軽く撫でれば薄い腹がびくりと震えて茹で蛸みたく真っ赤になる。
「ちッ違います‼︎お宝はこれです!」
上へと向かう俺の手を押し退けてサイドボードの引き出しから取り出したのはさっき散々見た空色の封筒。
「また命令か…?」
「違います!中見てください!」
押し付けられた封筒を開けると中には温泉旅館のパンフレットとチケットが2枚。
チケットには明日の日付が書かれている。
「温泉のペアチケットです…左馬刻さんと温泉に行きたくて…個室に露天風呂付きです。一緒に行ってくれますか…?」
大分前に俺の誕生日以降の予定を聞いて来たのはそう言う事だったのか。
自信なさげにぽつぽつと言葉を選びながら話す彼女が愛おしくて、込み上げてくる笑いを嚙み殺しながら彼女を抱き締める。
「お前がどうしてもっつーんなら行ってやるよ」
「本当ですか!」
ぱぁっと笑顔になった彼女が俺の分の旅行の準備も済ませてあるのだと上機嫌で話し出す。どこまでも用意周到な癖に最後の最後まで自信が無い彼女の性格は中々面白いと思う。
「左馬刻さんニヤニヤしてる!」
「してねぇよ」
「あ、そういえばお誕生日ケーキにアップルパイ焼いて来たので明日の朝ごはんにしましょうね」
明日というより今日ですけど、へらりと笑う彼女を抱き締めたままスマートフォンの画面をちらりと見ると日付けが変わっていた。
「2人で食べきれンのかよ、飯も作ってあったじゃねぇか…」
冷蔵庫の中のタッパーの存在を思い出し、しまった…という顔をする彼女。
ころころと変わる表情には感動さえ覚える。
「旅行に行く前にお弁当箱に詰めて舎弟さんとか銃兎さん達にお裾分けに行きますか?」
「いや、ぜってぇ食う。彼奴らにはやらねぇ」
翌朝、日持ちするおかず以外は平らげたが結局2人ではホールのアップルパイを食いきれる筈もなく、彼女がまた作るからと言うので半分残ったアップルパイは銃兎と理鶯にくれてやった。