人様の家でのんびりとする不思議な時間。
開け放った窓から心地良い風が舞い込む。
上質な革のソファーに凭れて読みかけの本を読むには丁度いい。ゆったりとした時間が流れている。
待つのは得意な方だと思う。
本があれば何時迄も待つ事が出来る自信がある。今までもこうして彼を待つ事は度々あったし、その度に沢山の本のページをめくった。

ぱらぱらと雨が降って来た。
そういえば今朝天気予報で午後から雨が降るって言っていたっけ。
「狐の嫁入りだ」
清々しいほど晴れ渡っているのにキラキラと降り注ぐ雨が綺麗で見惚れてしまった。
風が吹いて顔に水滴が当たって、慌てて窓を閉める。
家主様はちゃんと傘を持って出掛けただろうか。きっと持っていないだろう。
まぁ、お付きの人が居るだろうし移動は車なのだから問題は無いだろう。
読み終えたハードカバーを鞄に仕舞ってスマートフォンを取り出す。
「なんか作ろう」
彼は夜に会食があると言っていたし、帰ってくる頃には日付が変わっているかもしれないけれど、お酒とミネラルウォーターしか入っていない空に近い冷蔵庫。
初めてこの家に来た時には塩胡椒の類も無く、辛うじて醤油があるだけの恐ろしく生活感のない場所だった。
それでも私が調理器具や調味料を少しずつ持ち込んだ所為もあり当初より生活感のあるキッチンになった。
しかし、彼は自炊を殆どしないので私が来なければ外で済ませているのかキッチンは大体綺麗なままだ。

スマートフォンのアプリからお気に入り登録してあるレシピを参考に買う物を書き出す。
随分と増えたお気に入り登録されたレシピは彼が珍しく美味しいと言ってくれたものばかり。好きな物の話なんてほとんどしない彼の好みを料理を作る中でひとつ、またひとつと発見していくのが私の楽しみだったりもする。
買い物リスト片手に部屋を出る。

幸い雨は止んだようだ。