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金属が擦れる音に手を伸ばす。
もう少し、あと少しという所で俺の右手が掴んだのは空気で、鍵を掲げた彼女が悪戯っぽく笑う。
「テメェ…」
「残念でした。今日は大人しく寝ていて下さい」
スポーツドリンクはここに置きますからトイレに行きたくなったら言って下さいね、そう言い残して彼女はリビングへと消えた。
「クッソ…」
自分の左手首に嵌められた忌々しい手錠を睨む。手錠の反対側はご丁寧にベッドフレームに嵌められていて鎖の長さからしても起き上がるのがやっとだった。
昨晩から身体のダルさはあった。しかし、今朝は外せない組の用事とMTCの集まりがあった。組の用事を済ませて銃兎と合流した所で俺は不覚にも熱で倒れたらしい。
そのまま銃兎と理鶯に抱えられて自宅へと帰ってきた。(らしい)
ベッドに運ばれても起き上がろうとする俺にブチ切れた銃兎が俺の左手とベッドルームを手錠で繋ぎ、理鶯が作った栄養ドリンク(という名の得体の知れない液体)を飲まされた所で、部屋を掃除しに来た彼女と運がいいのか悪いのかやって来た。
銃兎は猫被りな営業スマイルで彼女に事情を話し、呉々も手錠は外さないようにと念を押して理鶯と共に帰っていった。
(一度必要な物を買い揃えて届けてくれたらしい。無駄な恩が出来ちまった…。)
熱と左手の手錠のおかげに身動きが出来ない俺は天井を見つめるか睡眠を貪る事しか出来ない。
しばらく眠ってはいたが熱が上がりだしたのか魘されて目が覚めた。
「おい、」
尿意を覚え、ガチャガチャと手錠を鳴らせばリビングから彼女がやって来る。
「どうしましたか?」
「便所」
「はいはい」
自由になった左手をさすりながらフラフラと廊下を歩けば、背後からついて来るもう一つの足音。
「おい」
「はい?」
「便所ン中までついて来るんじゃねぇだろうな…」
「流石にそこまではついて行きませんよ。そのまま逃げないかここで見張ってます」
パタパタとスリッパを鳴らした彼女はトイレを通過し玄関の前で仁王立ちしてみせる。
「さぁ、逃げれるものなら逃げてみて下さい!」
「どんだけ信用されてねぇんだよ…」
自信に満ち溢れた彼女の顔を一暼し、トイレのドアを閉めた。
彼女に背中を押されながらベッドルームへと戻る。
「汗、かいてますね着替えましょうか」
有無を言わさず着ていたスウェットは脱がされてボディーシートで背中を拭かれてあれよあれよと彼女の手で着替えさせられる。
「自分で出来るわ…!」
「もう終わってますよ」
ガチャリと再び手錠を嵌められて、手際よく氷枕と額の解熱シートが変えられる。
「腹減った」
「理鶯さんが作ってくれたドリンク飲みますか?」
「…いや、」
「嘘です。もう無いですよ」
悪戯っぽく笑う彼女が、おかゆ作って来ますから少し寝ていて下さいね。と再びリビングの方へ消えていく。
何にも無い真っ白な天井を見上げているとリビングの方から米の甘い匂いが微かにした。
しばらくして現れた彼女の手には盆に載った小さな土鍋。
「ウチにンなのあったか?」
「ん?左馬刻さんとお鍋しようと思ってこの間買ったんです」
いいでしょうと笑いながら彼女がベッドの端に座った。
「それじゃ一人分にしかならねぇだろ」
「そうですね、でも今日役に立ったので良かったです!銃兎さんと理鶯さんも居ますし次は大きいの買いますね」
そういう事を言っている訳ではないが熱に浮かされた今は突っ込む体力も無いので黙っておくことにした。
「いーから早く食わせろや」
「はいはい、あーんしてください」
「あ、」
卵の入った粥が腹を満たしていく。
熱はあっても食欲はそれなりにあって、ちいさな土鍋の中はあっという間に空になった。
「ぺろりでしたね」
「うまかった」
「それは良かったです。次は薬飲んで下さい」
「水寄越せ」
手渡された錠剤を口に放り込んでミネラルウォーターで流し込む。それを見詰める彼女が楽しそうに笑っていた。
「何笑ってんだよ」
「いいえ、今日は甘えたさんだなぁ〜〜と思って」
「うるせぇよ、つか逃げねぇからいい加減コレ外せや」
「はいはい分かりましたよ」
ガチャリ、と外された手錠。軽くなった左手をさすってベッドに寝転ぶ。新しくなった氷枕が熱を放つ体をひんやりと冷ます。
「リビングに居ますから何かあったらまた呼んで下さいね、おやすみなさい」
少しひんやりとした彼女の手が頬をするりとなでる。末端冷え性な彼女の手が役に立つ日が来るとは、なんてくだらないことを考えている内に瞼が降りてきて眠りについた。
どれくらい眠っていたのだろう。
薬が効いているのか、身体は軽く思考も少しクリアになっていた。時間を確認しようとサイドテーブルに手を伸ばす。
この部屋には時計が無い。いつも通りスマートフォンで時間を確認しようとして彼女に没収されている事を思い出した。
窓には分厚い遮光カーテンが引かれているので今が夕方なのか夜なのかすら分からなかった。
サイドテーブルに置かれた空のペットボトルを持って仕方無くリビングへと向かう。
リビングの時計は午後22時を過ぎた所で随分と深く眠っていたようだ。
リビングに居ると言っていた彼女の姿が見当たらず辺りを見回すとソファーにもたれて眠る彼女の姿があった。
「おい、こんな所で寝てンじゃねーよ」
風邪ひくぞ、肩を持って揺らせばゆっくりと開く瞼。まだ寝惚けているのかぼんやりとした目で俺を見る。
「左馬刻さん?」
「なんも掛けねぇで寝てたらマジで風邪引くぞ」
「左馬刻さんの二の舞になっちゃいますね」
ふにゃりと無防備に笑う寝惚けた彼女を抱きかかえて再びベッドルームへと向かう。
「病人に心配掛けンじゃねぇよ」
「ごめんなさい。でも左馬刻さんさっきより熱下がってますね。良かった」
俺の首筋に彼女の手が触れる。まだ眠いのかいつも冷たい指先はほんのりと暖かかった。
「ほら、早く寝ろ」
ベッドに彼女を降ろしてやれば、俺の名前を呼んで布団の中へと誘う。どっちが病人か分かったもんじゃない。
彼女の隣に寝転んで腕の中に抱き込めば寝惚けた彼女がまたふにゃりと無防備な笑顔を見せて「おやすみなさい」なんて俺の胸に顔を埋める。
「嗚呼、おやすみ」
翌日、左馬刻の風邪がうつって左馬刻が彼女をベッドに縛り付けて滅茶苦茶看病する羽目になるのはまた別のお話。
もう少し、あと少しという所で俺の右手が掴んだのは空気で、鍵を掲げた彼女が悪戯っぽく笑う。
「テメェ…」
「残念でした。今日は大人しく寝ていて下さい」
スポーツドリンクはここに置きますからトイレに行きたくなったら言って下さいね、そう言い残して彼女はリビングへと消えた。
「クッソ…」
自分の左手首に嵌められた忌々しい手錠を睨む。手錠の反対側はご丁寧にベッドフレームに嵌められていて鎖の長さからしても起き上がるのがやっとだった。
昨晩から身体のダルさはあった。しかし、今朝は外せない組の用事とMTCの集まりがあった。組の用事を済ませて銃兎と合流した所で俺は不覚にも熱で倒れたらしい。
そのまま銃兎と理鶯に抱えられて自宅へと帰ってきた。(らしい)
ベッドに運ばれても起き上がろうとする俺にブチ切れた銃兎が俺の左手とベッドルームを手錠で繋ぎ、理鶯が作った栄養ドリンク(という名の得体の知れない液体)を飲まされた所で、部屋を掃除しに来た彼女と運がいいのか悪いのかやって来た。
銃兎は猫被りな営業スマイルで彼女に事情を話し、呉々も手錠は外さないようにと念を押して理鶯と共に帰っていった。
(一度必要な物を買い揃えて届けてくれたらしい。無駄な恩が出来ちまった…。)
熱と左手の手錠のおかげに身動きが出来ない俺は天井を見つめるか睡眠を貪る事しか出来ない。
しばらく眠ってはいたが熱が上がりだしたのか魘されて目が覚めた。
「おい、」
尿意を覚え、ガチャガチャと手錠を鳴らせばリビングから彼女がやって来る。
「どうしましたか?」
「便所」
「はいはい」
自由になった左手をさすりながらフラフラと廊下を歩けば、背後からついて来るもう一つの足音。
「おい」
「はい?」
「便所ン中までついて来るんじゃねぇだろうな…」
「流石にそこまではついて行きませんよ。そのまま逃げないかここで見張ってます」
パタパタとスリッパを鳴らした彼女はトイレを通過し玄関の前で仁王立ちしてみせる。
「さぁ、逃げれるものなら逃げてみて下さい!」
「どんだけ信用されてねぇんだよ…」
自信に満ち溢れた彼女の顔を一暼し、トイレのドアを閉めた。
彼女に背中を押されながらベッドルームへと戻る。
「汗、かいてますね着替えましょうか」
有無を言わさず着ていたスウェットは脱がされてボディーシートで背中を拭かれてあれよあれよと彼女の手で着替えさせられる。
「自分で出来るわ…!」
「もう終わってますよ」
ガチャリと再び手錠を嵌められて、手際よく氷枕と額の解熱シートが変えられる。
「腹減った」
「理鶯さんが作ってくれたドリンク飲みますか?」
「…いや、」
「嘘です。もう無いですよ」
悪戯っぽく笑う彼女が、おかゆ作って来ますから少し寝ていて下さいね。と再びリビングの方へ消えていく。
何にも無い真っ白な天井を見上げているとリビングの方から米の甘い匂いが微かにした。
しばらくして現れた彼女の手には盆に載った小さな土鍋。
「ウチにンなのあったか?」
「ん?左馬刻さんとお鍋しようと思ってこの間買ったんです」
いいでしょうと笑いながら彼女がベッドの端に座った。
「それじゃ一人分にしかならねぇだろ」
「そうですね、でも今日役に立ったので良かったです!銃兎さんと理鶯さんも居ますし次は大きいの買いますね」
そういう事を言っている訳ではないが熱に浮かされた今は突っ込む体力も無いので黙っておくことにした。
「いーから早く食わせろや」
「はいはい、あーんしてください」
「あ、」
卵の入った粥が腹を満たしていく。
熱はあっても食欲はそれなりにあって、ちいさな土鍋の中はあっという間に空になった。
「ぺろりでしたね」
「うまかった」
「それは良かったです。次は薬飲んで下さい」
「水寄越せ」
手渡された錠剤を口に放り込んでミネラルウォーターで流し込む。それを見詰める彼女が楽しそうに笑っていた。
「何笑ってんだよ」
「いいえ、今日は甘えたさんだなぁ〜〜と思って」
「うるせぇよ、つか逃げねぇからいい加減コレ外せや」
「はいはい分かりましたよ」
ガチャリ、と外された手錠。軽くなった左手をさすってベッドに寝転ぶ。新しくなった氷枕が熱を放つ体をひんやりと冷ます。
「リビングに居ますから何かあったらまた呼んで下さいね、おやすみなさい」
少しひんやりとした彼女の手が頬をするりとなでる。末端冷え性な彼女の手が役に立つ日が来るとは、なんてくだらないことを考えている内に瞼が降りてきて眠りについた。
どれくらい眠っていたのだろう。
薬が効いているのか、身体は軽く思考も少しクリアになっていた。時間を確認しようとサイドテーブルに手を伸ばす。
この部屋には時計が無い。いつも通りスマートフォンで時間を確認しようとして彼女に没収されている事を思い出した。
窓には分厚い遮光カーテンが引かれているので今が夕方なのか夜なのかすら分からなかった。
サイドテーブルに置かれた空のペットボトルを持って仕方無くリビングへと向かう。
リビングの時計は午後22時を過ぎた所で随分と深く眠っていたようだ。
リビングに居ると言っていた彼女の姿が見当たらず辺りを見回すとソファーにもたれて眠る彼女の姿があった。
「おい、こんな所で寝てンじゃねーよ」
風邪ひくぞ、肩を持って揺らせばゆっくりと開く瞼。まだ寝惚けているのかぼんやりとした目で俺を見る。
「左馬刻さん?」
「なんも掛けねぇで寝てたらマジで風邪引くぞ」
「左馬刻さんの二の舞になっちゃいますね」
ふにゃりと無防備に笑う寝惚けた彼女を抱きかかえて再びベッドルームへと向かう。
「病人に心配掛けンじゃねぇよ」
「ごめんなさい。でも左馬刻さんさっきより熱下がってますね。良かった」
俺の首筋に彼女の手が触れる。まだ眠いのかいつも冷たい指先はほんのりと暖かかった。
「ほら、早く寝ろ」
ベッドに彼女を降ろしてやれば、俺の名前を呼んで布団の中へと誘う。どっちが病人か分かったもんじゃない。
彼女の隣に寝転んで腕の中に抱き込めば寝惚けた彼女がまたふにゃりと無防備な笑顔を見せて「おやすみなさい」なんて俺の胸に顔を埋める。
「嗚呼、おやすみ」
翌日、左馬刻の風邪がうつって左馬刻が彼女をベッドに縛り付けて滅茶苦茶看病する羽目になるのはまた別のお話。