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明け方のサービスエリア休憩がてら煙草を吸いに行った彼を追ってふらふらとサービスエリア内を散策する。
人が疎らなお土産コーナー、電気の消えたレストラン。
ズラリと並んだ自販機の前でココアを買おうとしてお財布を車内に忘れたのに気付いてやめた。
車に戻ると彼の姿はまだ無くて車の前で佇む。
しばらくして現れた彼の手にはプラスチックの蓋がされた紙カップがふたつ。
さっき私が眺めて居た自販機のやつだった。
「ほら、」
「ありがとうございます」
受け取ったカップを片手に車に乗り込んで、彼がカーナビを弄る。
私は何処へ連れて行かれるんだろう。
昨夜、突然彼が「蕎麦とうどんどっちがいい」と言い放って、私が蕎麦と答えたら車に乗せられここまできてしまった。
カーナビを覗くと現在地は群馬県。
随分と遠くへ来てしまった気がする。
「まだ遠いですか?」
「いや、もうちょい」
そう言った彼が持っていたカップに口を付けるから、それに習って私も一口。
口に広がったのはココアの甘さじゃなくて、ブラックコーヒーの苦さで、思わず声を上げる。それとほぼ同時に彼が顔を顰める。
「甘っめぇ…!」
「に、苦いです…」
カップを受け取った際に入れ違ってしまったのだろう、苦笑いを浮かべながらお互いのカップを交換した。
「悪ぃ、間違えた」
「びっくりして舌、火傷しちゃいました…」
べ、と出した私の舌を彼の唇が食んで、口内に広がるココアの甘さと煙草の匂い。
「ふ、ぅ……」
頭に響く水音と鼻から抜ける甘い声に体温が上昇するのがわかった。
「エロい顔」
喉を鳴らしてにたりと笑う彼は何処か満足気でちょっとだけ悔しい。
「左馬刻さんのせいです…!」
唇を尖らせてプイとそっぽを向けば、頰を掴んで彼の方を向かされる。
「ンな事言うならもっぺん塞いでやろうか」
「いーです!」
「ハハッ、ぶっさいく」
頰を掴まれたまま乱暴な口付けが落とされる。
しばらく走った高速を降りて、ぐねぐねの山道を抜けて、再び車が停まったのは山奥の小さなお店の前だった。
「ここは…?」
「長野」
「な、長野」
嗚呼、と言う彼はエンジンを止めて車を降りてしまう。慌ててシートベルトを外して彼の後を追う。
小さなお店の年季の入ったテーブルにかける。彼がぽいっとメニューを投げてきて、それを受け取り眺めて、
「何がいい」
「ざ、ざるそば…?」
ざるそば大盛りと普通の、ひとつずつ。注文を受けた店員さんが暖簾の奥へと消えていった。
小さな小鉢に入った煮物や漬物がいくつか出された後、やってきたのはざるそばと揚げたての天麩羅。
頼んでいない天麩羅に目をまあるくする私に店員さんが「ここはお蕎麦にはオマケで天麩羅がつくんですよ」と教えてくれた。
随分と贅沢なオマケだ。
割り箸を割った彼がぽつりと呟く。
「銃兎が、」
「銃兎さんが?」
「ここの蕎麦が美味いって言っててよぉ」
「はい、」
「食ってみたくなった」
「…それだけですか?」
「あ?」
「もし、私がおうどんがいいって言ってたら…?」
あー、と暫く考える素振りを見せた彼が海老の天麩羅を頬張りながら答える。
「山梨でほうとうか、香川まで行ってたンじゃね?」
先生が美味いって言ってたし、さらりと言い放つ彼の行動力には時々呆れてしまう。
お蕎麦もおうどんもこんなに遠くまで来なくたって食べられるのに。
「ほら、食えよ」
彼に急かされてお蕎麦を啜る。
うん、美味しい。
これは横浜では食べられない味だ。
「美味しいです。妹さんにお土産買って帰らないとですね」
私が笑えば彼はおーと気の無い返事を返す。
「銃兎と理鶯にもな、」
そう言って笑う彼の髪は朝陽に照らされてキラキラと輝いていて、この人となら何処に行ってもいい。
それが例え地獄だろうと、彼が居るならそれでいい。
なんて、物騒だけれど。
揚げたての天麩羅を食べながら、なんとなくそんな風に思った。
人が疎らなお土産コーナー、電気の消えたレストラン。
ズラリと並んだ自販機の前でココアを買おうとしてお財布を車内に忘れたのに気付いてやめた。
車に戻ると彼の姿はまだ無くて車の前で佇む。
しばらくして現れた彼の手にはプラスチックの蓋がされた紙カップがふたつ。
さっき私が眺めて居た自販機のやつだった。
「ほら、」
「ありがとうございます」
受け取ったカップを片手に車に乗り込んで、彼がカーナビを弄る。
私は何処へ連れて行かれるんだろう。
昨夜、突然彼が「蕎麦とうどんどっちがいい」と言い放って、私が蕎麦と答えたら車に乗せられここまできてしまった。
カーナビを覗くと現在地は群馬県。
随分と遠くへ来てしまった気がする。
「まだ遠いですか?」
「いや、もうちょい」
そう言った彼が持っていたカップに口を付けるから、それに習って私も一口。
口に広がったのはココアの甘さじゃなくて、ブラックコーヒーの苦さで、思わず声を上げる。それとほぼ同時に彼が顔を顰める。
「甘っめぇ…!」
「に、苦いです…」
カップを受け取った際に入れ違ってしまったのだろう、苦笑いを浮かべながらお互いのカップを交換した。
「悪ぃ、間違えた」
「びっくりして舌、火傷しちゃいました…」
べ、と出した私の舌を彼の唇が食んで、口内に広がるココアの甘さと煙草の匂い。
「ふ、ぅ……」
頭に響く水音と鼻から抜ける甘い声に体温が上昇するのがわかった。
「エロい顔」
喉を鳴らしてにたりと笑う彼は何処か満足気でちょっとだけ悔しい。
「左馬刻さんのせいです…!」
唇を尖らせてプイとそっぽを向けば、頰を掴んで彼の方を向かされる。
「ンな事言うならもっぺん塞いでやろうか」
「いーです!」
「ハハッ、ぶっさいく」
頰を掴まれたまま乱暴な口付けが落とされる。
しばらく走った高速を降りて、ぐねぐねの山道を抜けて、再び車が停まったのは山奥の小さなお店の前だった。
「ここは…?」
「長野」
「な、長野」
嗚呼、と言う彼はエンジンを止めて車を降りてしまう。慌ててシートベルトを外して彼の後を追う。
小さなお店の年季の入ったテーブルにかける。彼がぽいっとメニューを投げてきて、それを受け取り眺めて、
「何がいい」
「ざ、ざるそば…?」
ざるそば大盛りと普通の、ひとつずつ。注文を受けた店員さんが暖簾の奥へと消えていった。
小さな小鉢に入った煮物や漬物がいくつか出された後、やってきたのはざるそばと揚げたての天麩羅。
頼んでいない天麩羅に目をまあるくする私に店員さんが「ここはお蕎麦にはオマケで天麩羅がつくんですよ」と教えてくれた。
随分と贅沢なオマケだ。
割り箸を割った彼がぽつりと呟く。
「銃兎が、」
「銃兎さんが?」
「ここの蕎麦が美味いって言っててよぉ」
「はい、」
「食ってみたくなった」
「…それだけですか?」
「あ?」
「もし、私がおうどんがいいって言ってたら…?」
あー、と暫く考える素振りを見せた彼が海老の天麩羅を頬張りながら答える。
「山梨でほうとうか、香川まで行ってたンじゃね?」
先生が美味いって言ってたし、さらりと言い放つ彼の行動力には時々呆れてしまう。
お蕎麦もおうどんもこんなに遠くまで来なくたって食べられるのに。
「ほら、食えよ」
彼に急かされてお蕎麦を啜る。
うん、美味しい。
これは横浜では食べられない味だ。
「美味しいです。妹さんにお土産買って帰らないとですね」
私が笑えば彼はおーと気の無い返事を返す。
「銃兎と理鶯にもな、」
そう言って笑う彼の髪は朝陽に照らされてキラキラと輝いていて、この人となら何処に行ってもいい。
それが例え地獄だろうと、彼が居るならそれでいい。
なんて、物騒だけれど。
揚げたての天麩羅を食べながら、なんとなくそんな風に思った。