うぜぇ、うぜぇ、うぜぇ。
堅苦しいスーツもワックスで固めた髪も、何も生み出さない無駄な会話も。
老いぼれ共はグダグダと毎回同じ様な武勇伝ばかりを語る。

退屈な会合をやっと終えて車に乗り込もうとした時、
「左馬刻さ〜ん！」
聞き慣れた甘い声。
道路の反対側でアイツが嬉しそうに手を振っていた。
隣には見知らぬ男。
男はこの状況が飲み込めないのか焦り顔でアイツと俺の顔を交互に忙しなく見詰めていた。
煙草を取り出そうとしていた手を挙げて手招きをする。
立ち尽くす男に何か言葉をかけて、アイツが嬉しそうにこちらへかけてくる。
「左馬刻さん！」
無邪気に笑う彼女。
男に見せ付ける様に腰を抱いてキスをした。
絶望顔の男に睨みを効かせれば、踵を返して目の前から消えた。

「ざまぁねえな」

「左馬刻さん？」不思議そうに俺を見詰める彼女を車に押し込んで運転手に行き先を告げる。
「左馬刻さん今日はいつもと違くて格好良いですね」
スーツ素敵です。なんて頰を赤らめた彼女が言う。
車がさっきの男の横を通り過ぎる。
スモークが濃く車内は見えていないだろうが男はジッと恨めしそうにこちらを見ていた。
他の奴の気も知らねぇで俺の隣で無邪気に笑う女の柔らかな腰をするりと撫でた。