帰り道、彼女と一緒に駅まで向かうことになった。
心臓がやけに煩い。

大きく潤んだ瞳。
綺麗な言葉を紡ぐぽってりとした唇。
桜色の小さな爪。
柔らかそうな腰。
彼女を構成する全てが可憐で美しく思う。
触れてみたい。
その気持ちを抑えてゆっくり時間を掛けて外堀を埋めていく。
…つもりでいた。

大通りの外れ。
立派な門の日本家屋の前に止まった黒塗りの高級車。
柄の悪いゴツい男達の作る花道の真ん中を歩く、白いスーツに白銀の髪をオールバックにした顔の良い若い男。
映画の中のワンシーンが目の前にあった。
「うわ、ヤクザだ…」
「あ、サマトキさん」
思わず出た言葉が重なって、彼女の顔を思わず見詰める。
「えっ？」
「サマトキさ〜ん！」
彼女の視線は白いスーツの男を見ていて、恐らくあの男の名と思われる聞き慣れない名を嬉しそうに呼んだ。

男は彼女の声に気付いて挙げた右手をひらひらと気怠く手招いた。
「ごめんね、呼ばれちゃった。」
バイバイ、とはにかんだ笑顔で手を振る彼女を呆気に取られたらまま見送る。
俺が触れてみたかった彼女の柔らかそうな身体に男は我が物顔で触れる。
男が彼女の腰を抱き寄せてキスをするのを茫然と見詰めていた。

《コイツに手を出したら殺す》

勝ち目はない。
男の視線がそう語っていた。
白い悪魔の視線に殺される。