「明日、地球が滅びるとしたら何をする？」
開けた窓から入る風に秋の訪れを感じる。
昇りかけの朝日が寝不足の目に痛い程染みる。
「は？」
「さっきの映画の話。」
暴力的な朝日から逃れる様に彼女が窓にレースのカーテンをひく。
そのまま冷蔵庫から麦茶を取り出して空になった二つのコップを満たしていく。
「お前は何すんの？」
彼女の手から受け取った麦茶に口を付けながら意図の汲み取れない質問をそのまま投げ返した。
彼女は少し考えるそぶりを見せて、机の横に落ちたゲームボードの駒を摘み上げてボード上へ戻す。
「好きな食べ物買って、観たかったDVDと昔クリアできなかったゲームとか沢山持って、一郎の家に行く。で、二郎ちゃんと三郎くんと四人でDVD観ながらごはん食べてゲームしたりして夜更かしする。」
「それ、いつも通りじゃねーか」
俺が笑ったのを見て、彼女も同じようにふわりと笑った。
昼間干して畳んだままになっていたブランケットを広げて寝落ちした二郎と三郎に掛ける。
「で、朝方に疲れた~ってリビングで皆で寝落ちしてそのまま死ねたら最高。」
悪戯っぽく笑った彼女の細い指先が二郎の乱れた髪を耳にかけてやり、三郎のまだ幼さの残る白い頬を優しく撫でた。
再び俺の隣に座った彼女の頭が肩にもたれ掛かる。
「一郎は？」
彼女の大きくまあるい瞳が楽しそうに俺を見つめる。
柔らかな腰を引き寄せて腕の中に閉じ込める。
「そうだな…、俺が作った飯を二郎と三郎とお前が幸せそうに食ってるのを眺める。飯が終わったら順番に風呂に入って、アイスを食べながら全員でボードゲームして、アニメの録画を消化して、寝落ちした弟達に布団を掛けてくれる優しい彼女を抱きしめる。」
「現在進行形じゃん」
白い首筋にキスを落とすと腕の中の彼女がくすぐったそうに笑って小さく身じろぎをする。
「そうかもな。で世界が滅ぶ前にお前にプロポーズする。」
腕の中の彼女が驚いた顔で俺を見上げる。
「こうやって、当たり前に過ごす日々がすげぇ幸せだって思う。これから喧嘩もするし、すれ違う事もきっとあるだろうけど、世界が終わる瞬間も俺はお前と…、〇〇と一緒にいたい。」
彼女の小さくて白い手をとってサイドテーブルに置いた自分のリングを1つ、左の薬指にはめてやる。
「ゆるいな」
「うん、」
短く答えた彼女の声が少し震えていた。
彼女の細い指に俺のリングは緩く、簡単に外れてしまう。
その細い指の付け根をするりと優しく撫でてキスをする。
「今すぐにお前にぴったりな指輪は渡せないし豪華な式も挙げてやれない。けどこれだけは約束する。〇〇を幸せにしてみせるから、俺と結婚して下さい。」
大きな瞳からぽろぽろと涙を流す彼女が精一杯の笑顔を作って「はい、」と答えた。
「ぜってぇ幸せにするから、」
その笑顔が愛おしくて、強く抱きしめて涙を流す瞳にキスをする。
「一郎、だいすき。」
今まで見た中で一番綺麗な彼女が柔らかく幸せそうに笑った。
カーテンが揺れて暖かな朝日が部屋に差し込む。
その光に彼女の涙が照らされて優しく輝いた。

キスは甘くて優しい幸せの味がした。