じゅわじゅわじゅわ。

水分が飛ぶ音と肉の脂身が溶ける少しだけ甘い香り。
大きな揚げ鍋にたっぷりと入った黄金色の油。
その中で気持ちよさそうに泳ぐとんかつ。

いつもより早く帰れた日はあまり得意とは言い難い料理に腕を振るう。
何が良いかな、なんて喜んで貰えるように少ないレパートリーから絞り出してスマートフォンでレシピを検索して、スーパーで食材を吟味して。
あれもこれも全部大好きな食べ盛り三兄弟の為。

「ただいま〜〜」

玄関から気怠げなただいまが聞こえて一郎が帰って来た。

「おかえり、お邪魔してます。今日は早かったね」
「お、〇〇来てたのか」

うまそーな匂い！嬉しそうに笑う一郎の顔が普段よりも少し幼くみえて思わず顔が緩む。

「揚げモンじゃねーか」
「とんかつ嫌い…？」
「いや、大好きだけど…」

隣で手を洗う一郎がなんとなく歯切れ悪そうに答える。

「気分じゃなかった？」
「そーじゃなくて、油。跳ねたら危ねぇだろ？後は俺がやるから」
と、持っていた菜箸を奪われる。
「え、大丈夫だよ？」
「もし跳ねた時、俺が大丈夫じゃねぇから…な？」
困った様に笑う一郎の顔に私は弱い。
それに急に女の子扱いをされるとどうしたらいいか分からない。
「…わかった」
「よし、いい子だな」
頭をくしゃりと撫でられて、体温が上がって行くのがわかる。
茹で蛸のように真っ赤になっているであろう私の顔を覗き込んだ一郎の顔も伝染して赤くなっていく。
「わ、悪ぃ‼︎こうすると弟達が喜ぶからつい…」
「大丈夫！急でびっくりしただけだから…！」

＊ ＊ ＊

「うっまぁ‼︎」
「食べながら騒ぐなよ、低脳‼︎…この胡麻和えもすっごく美味しいです！」
「ウッセェ三郎‼︎〇〇姉ぇおかわり‼︎」
「こら、お前ら食事中に喧嘩すんなっつーの！」
「…ごめんよ、にいちゃん」
「ごめんなさい…」
食べ盛り三兄弟の食事はある意味戦争だ。
すぐに無くなるおかずと毎日飽きない言い争い。

「三人は本当に仲が良いねぇ」

こんな風に食べてもらえると気持ちが良い。
空になっていくお皿達、お腹が満たされて幸せそうな彼らの顔。

さぁ、次は何を作ろうか？