1️⃣
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「ど、どちら様ですか?」
目を覚ました彼女は怯えていた。
いつもの可愛らしい笑顔が向けられる事はなく、解っていたが心が騒つく。
近付く俺に向けられたのは警戒心。
近くにあったクッションを抱えて壁を作っているつもりなのだろう。
「こんにちは、萬屋ヤマダの山田一郎です」
「こ、こんにちは…?」
精一杯の笑顔を向けて、違法マイクで一時的に記憶が飛んでしまっていると彼女の身に起きている事を丁寧に伝える。
「私、自分の名前も住所も電話番号も家族構成だって言えますッ!…何の記憶が消えているんですか?」
「…貴女の大切な人の記憶です。俺はその方から依頼を受けて貴女の記憶を戻す為のお手伝いをします」
彼女が失くしたのは恋人である《山田一郎》の記憶。
俺を怨んだヤツの攻撃で彼女を危険な目に遭わせてしまったのだから、彼女に俺の記憶がない今…俺が身を引くべきなのかもしれない。
そうすれば今後彼女が危険な目に遭う事はなくなるだろう。
それでも彼女を手放さないのは俺のエゴだってわかってる。
「一郎さんはお医者さん…ですか?」
「いえ、萬屋です。今日は遅いので家に泊まって下さい」
「え、でも…悪いです!」
「明日の朝になったら他の記憶も消えた…なんて事があると困るので」
「そんな…」
「万が一ですから」
状況整理が追い付かず泣きそうな彼女。
抱き締めてやりたい気持ちを抑えて、彼女に笑いかける。
「大丈夫です、俺が何とかしてみせます!」
なぁ、いつもみたく笑ってくれよ。
* * * * *
昨日の今日で俺も疲れていたのか、珍しく寝坊してしまった。
「やっべぇ‼︎弁当の準備…ッ‼︎」
慌てて部屋を出ると、キッチンから美味そうな匂い。
二郎か?三郎か?
何にしても今朝の食事当番は俺だ。
「悪ぃ‼︎兄ちゃん寝坊しちまっ…た…」
キッチンに立つ彼女の姿。
意味が分からずに立ち尽くす俺。
「あ、一郎おはよう。ご飯出来てるよ」
俺のネイビーブルーのエプロンを着けて、エプロン借りちゃった、と恥ずかしそうにふにゃりと笑う。
「お前ッ、俺の事…わかるのか…?」
「えぇっ、何〜?勿論わかるよ?」
「山田一郎、BusterBrosのリーダー。山田家の長男で萬屋ヤマダの経営者。かつてはブクロでは名を知らない者がいないほどの不良だった…情に厚く…〜〜」
「なんだよそのWikiに載ってそうな情報はッ!」
「Wikiにも載ってない情報知ってるよ」
「…なんだよ」
「自分を犠牲にしがち。実はちょっぴり不器用な、私の大切な人」
「〜〜お前ッ‼︎」
「例え記憶を消されたって絶対に思い出すし、それが無理でも私は何回だって一郎に恋するよ?」
「こんなに素敵な人他には居ないもん‼︎」
抱き締めた彼女がふにゃりと笑う。
それは俺が大好きないつもの彼女の笑顔。
「俺だって絶対離さねぇから…」
その日、食卓に並んだ卵焼きはほんのちょっぴり焦げていた。