昔から家族ぐるみの付き合いで良くしてくれている俺より少し歳上の姉ちゃん。
多分山田家三兄弟揃って彼女が初恋の人。
毎週日曜日は決まって家で料理を作ってくれて四人で食卓を囲むのが決まりだった。

「あ、そういえばコレ」
洗い物を終え台所から出てきた彼女がエプロンのポケットから取り出したのは白い封筒。
「私結婚するんだ」
恥ずかしそうに笑う彼女と驚きながらも祝福の言葉を述べる弟達。
「マジか…！スゲーじゃん。何ですぐ言ってくんなかったんだよ！」

必死で取り繕った笑顔で

「なんとなく、言い難くて」

ごめんね、と困った顔で謝る彼女に胸が押し潰されそうになる。

「一郎が攫ってくれたらいいのに。依頼したら私を攫ってくれる？」
へらりと笑う彼女。

言葉を探していた。何も言えなかった。
彼女のドレスの写真を楽しそうに眺める弟達の声が何処か遠くに聴こえた。
「ごめん、じょーだん！忘れて！」
「 」
「え？」
「なんでもねぇよ！凄ェキレー！」
スマートフォンの画面越しドレス姿の彼女は恥ずかしそうに笑っている。

「なぁ！幸せになれよ…！」
「…うん」

俯向く彼女に無理矢理貼り付けた笑顔で思ってもいない言葉を投げ掛ける事しか出来なかった。