マーダーミステリーD~断罪のリゾートホテル
【断罪のリゾートホテル、3日目】
「その10分間で、妹は記録者ラビの部屋に斧を投げ込み、兄の方は少年に罪を擦り付けるためか、弱点を探しに少年の部屋へ」
ティキはそこで、リモコンをくるりと指先で弄んだ。
その軽い手つきとは裏腹に、目だけは二人の顔色の変化を見逃さない。
「君たちはランダムでと言ったけど、ボーガンの矢をどこに向けるかは決まっていたんじゃないか? このリモコンでポチッと、記録者をバーン」
アレンの顔が引きつる。
ラビが“偶然”ではなく選ばれて死んだのだとしたら、このゲームの残酷さは最初から仕組まれていたことになる。
「そして、その後、君たち兄妹は配電室へ。そこはリネン室と繋がっていたね。そこで神田という男を殺害、窓から崖に落とす」
ここで、リナリーが鼻で笑う。
ティキはその反応を見ても、特に言い返さなかった。
ただ「まあ、その辺はどっちでもいい」とでも言いたげに、軽く肩をすくめるだけだ。
「この後も割愛する」
面倒そうなティキミック。そして、考える素振りを見せて
「あれ? ここから話すことなくない?」
純粋な子供のようにティキが目を大きく開ける。
「新婚さんが死に、警部が死に、そして、今ここ……」
そこでティキは一度だけ食堂を見回した。
拘束されたアレン、青ざめたリナリー、観念したように黙るコムイ。
もう“謎”と呼べるものは、ほとんど残っていない。
「以上だよ。少年」
アレンににっこりと笑ってみせる。
アレンは乾いた唇をわずかに震わせ、ようやく絞り出す。
「……じゃあ、本当に……全部、このふたりが……?」
「そういうこと」
アレンが恐る恐る言う。
「……これ、もう終わりですよね?それなら……あの、これ、外してくれません?」
ティキはわざとらしく首を傾げた。
「えー? でも、外したらこのふたりのも外れちゃうじゃん」
「……っ」
アレンはごもっともすぎて、口を尖らせ、それ以上言い返せなくなる。
それから、ふいにリモコンを見下ろす。
「で、これどうすんの?」
「え?」
「いや、このまま首と手首固定されてんの可哀想じゃん」
あまりにも気まぐれな口調だった。
「外すんですか!? 今その流れで!?」
アレンのツッコミに、当たり前のようにティキが言う。
「そうだけど?」
ティキはリモコンを裏返したり表に戻したりしながら、適当なボタンへ親指を乗せる。
「これかな?ポチッとな」
カチ。
次の瞬間。
――ギギギギギ……
テーブルの中央がせり上がり、さっきまで格納されていたボーガンが再び姿を現した。
「ギャアアアアアアア!!」
アレンが半泣きで絶叫する。
「しまって!! しまってしまって!!」
「どこ!? しまうボタンどれ!?」
ティキまで少し焦った声を出す。
慌ててさっきと同じボタンをもう一度押すと、ボーガンはぎこちない音を立てながら再びテーブルの中へ引っ込んだ。
静寂。
「……ホッ」
アレンがあからさまに本気で安堵の息を漏らす。
「お前うるせぇな……」
ティキが眉をひそめ、それからコムイへリモコンを向けた。
「ねえ、どれ押したら解除できるの?」
コムイは嫌そうに口元を歪める。
しばらく黙っていたが、やがて諦めたように吐き捨てた。
「……左から下に10個目だよ」
「……それって右のいちばん下ってことじゃないか」
ティキは眉間に皺を寄せ、子供みたいに口先を尖らせた。
その顔を見て、コムイが小さく鼻で笑う。
「ふっ」
ティキはむっとした顔のまま、言われた位置のボタンを見下ろした。
「最初からそう言えよ」
「信じるんですか!?」
アレンが素っ頓狂な声を上げる。
ティキはリモコンを指先でひらひらさせながら、にやりと笑った。
「俺、純粋だから信じちゃう❤」
「えっ、そこ可愛く言うところですか!?」
アレンが叫ぶのと、ティキがボタンを押すのはほぼ同時だった。
――ポチッ。
次の瞬間。
ドォンッ!!
腹の底を揺さぶるような爆発音が、地下から突き上げる。
「え?」
食堂全体が大きく沈んだ。
床がぐらりと傾き、椅子ごと全員の身体が揺れる。
「まじ?」
ティキが珍しく素の声を漏らす。
「ほらぁ! 信じるからぁ!!」
アレンが半泣きで叫ぶ。
コムイは、そんな騒ぎの中で口元を吊り上げていた。
「初めから僕たちを生きて出そうなんて思ってなかったんですよー!」
アレンが泣き喚く。
その直後、二発目の爆発が来た。
ドゴォンッ!!
今度は片側の床だけが、目に見えて沈んだ。
五十センチは落ちたかというほど、食堂がぐしゃりと傾く。
「わーーん、おかあさーーん!!」
「うるせぇ!!」
ティキは叫び返しながら、一気にコムイの胸ぐらを掴み上げた。
「おいおい! 嘘教えんなよ! どれだボタン!」
拘束されたままのコムイの体が引きずられるように揺れる。
「俺はな! お前らを置いて逃げたっていいんだぜ!? お前、妹も道連れにするつもりか!?」
ティキの怒声に、リナリーがびくりと肩を震わせた。
だが、その目には不思議なほど強い覚悟が宿っていた。
それを見たティキが、苛立ちを押し殺したように眉を寄せる。
「…お前らに死なれると…俺の目覚めが悪いんだが?」
その時、食堂全体が不気味な音を立てた。
ゴゴゴゴゴゴォ……
床の下から、建物そのものが軋むような低い唸りが響く。
壁の装飾が震え、シャンデリアの細かなガラスがかちかちとぶつかり合った。
ティキはコムイを睨みつける。
その視線の圧に、さすがのコムイも一瞬だけ言葉を失った。
やがて、低く息を吐く。
「……わかったよ」
「兄さん!?」
リナリーが叫ぶ。
コムイは彼女を見ずに続けた。
「妹だけは、助けてほしい」
「兄さん!!」
今度の声は、さっきとは違う。
本気で狼狽えた声だった。
「どれだ」
ティキがリモコンを突きつける。
コムイは短く答えた。
「……白いボタンだよ」
「少しは疑ってくださいよー!」
アレンが泣き声混じりに叫ぶ。
だがティキはまたも躊躇なく、その白いボタンを押した。
――カチッ。
一拍。
それから、首と手首に食い込んでいた金具が一斉に跳ね上がった。
ガチャン! ガチャンッ!
「あれ?」
アレンが目を瞬かせる。
「外れた」
「逃げるぞ!」
ティキが叫び、すぐに数歩駆け出す。
だが、ついてきたのはアレンだけだった。
後ろを振り向く。
コムイとリナリーは、まだ席に座ったままだ。
「このやろ……!」
ティキは舌打ちして引き返した。
まずリナリーの腕を掴み、無理やり立たせる。
「やめてっ!」
リナリーが叫ぶ。
「兄さんも一緒じゃなきゃ嫌! 兄さんも、兄さんも――!」
「うるせぇ、行くぞ!」
ティキはものすごい力で彼女を引っ張るが、リナリーは泣きながら抵抗する。
「兄さん! 兄さん! 置いていけない!」
「コムイ! お前も逃げるぞ! 早く来い!」
ティキが怒鳴る。
その声に、コムイは一度だけ顔を上げた。
「俺はここに残るよ。リナリー、君は生きるんだ」
ホテル全体が、また不穏に軋む。
ミシ……ミシミシ……。
天井の一部に、大きく亀裂が走った。
「まずい!」
アレンが叫んだ瞬間だった。
バキィンッ!!
天井の一部が崩れ落ちる。
シャンデリアが落ち、食堂のテーブルが砕け、木片と石膏が飛び散る。
ティキは舌打ちすると、泣き叫ぶリナリーを力任せに引き寄せ、そのまま肩へ担ぎ上げた。
「離して!! 兄さん! 兄さん!!」
「暴れんな!!」
ティキはアレンに向かって怒鳴る。
「先に出ろ、少年!」
「は、はいっ!」
アレンが食堂の外へ飛び出す。
ティキもすぐその後に続いた。
食堂を出た、その瞬間。
背後で轟音が弾けた。
ドオオォォンッ!!
振り返る。
さっきまでいた食堂の天井が、完全に崩れ落ちていた。
その瓦礫の向こう、最後の一瞬だけ。
下敷きになる寸前のコムイが、泣きそうな顔で、ほんの少し笑った。
「ごめんね」
次の瞬間、その姿は崩れた天井の向こうへ消えた。
食堂を飛び出した三人は、まず本能みたいに一階の出口を目指した。
正門玄関。
「くそっ、開かない!」
アレンが叫ぶ。
「裏口はどうだ!?」
三人は廊下を駆けた。
だが、数メートルも進まないうちに、その希望はあっさり潰える。
先の曲がり角の向こうから、どす黒い煙がどっと吹き出してきたのだ。
「うわっ!」
アレンが思わず足を止める。
次の瞬間、煙の奥でオレンジ色の炎がぶわりと膨らんだ。
爆発で裂けた配線に火が回ったのだろう。
壁紙を舐め、床を這い、天井を焦がしながら、火は信じられない速さで広がっていく。
熱い。
まだ距離はあるのに、頬がじりじりと焼けるようだった。
「駄目だ!」
ティキが舌打ちする。
「こっちは火が回りすぎてる!」
「じゃあ、どこから出るんですか!?」
アレンはもう半泣きだ。
返事をする間にも、館全体が低く唸るような音を立てた。
ゴゴゴゴゴゴォ……
足元が揺れる。
床板が悲鳴を上げる。
どこか遠くで、また何か重いものが崩れる音がした。
一階に留まるのは危険だ。
地下で起きた爆発の真上にいるのだから。
ティキは一瞬だけ廊下の左右を見比べ、それからアレンを振り返った。
「上だ!」
「えっ!?」
「一階はもう保たねぇ! 二階へ逃げる!」
「で、でも、上がってどうするんですか!」
「いいから来い!」
リナリーを肩に担いだまま、ティキは逆方向へ駆け出した。
「えっ、あの階段、落ちかけてません!?」
「だから急ぐんだよ!」
リナリーを肩に担いだまま、ティキは迷わずその回廊へ踏み出した。
ギシ……。
足元で嫌な音が鳴る。
アレンは思わず吹き抜けの下を見た。
そこでは一階のロビー側に火が回り、赤い舌のような炎が揺れている。
「ひっ……!」
「下見んな!」
ティキの怒声が飛ぶ。
アレンは半泣きのまま、崩れかけた回廊を追った。
階段を登りきった瞬間、ティキはリナリーを下ろした。
そして、三人は前を見て、揃って息を呑んだ。
二階の廊下は、もう廊下の形をしていなかった。
建物の片側が大きく沈んだせいだろう。
床は出口のある方へ向かって斜めにせり上がり、まるで巨大な滑り止めのない坂道みたいに反り返っている。
壁には深い亀裂が走り、天井からは白い粉塵が絶えずぱらぱらと降っていた。
階段の下では、赤い火が不規則に揺れ、遅れて這い上がってくる煙が二階の空気までじわじわと汚していく。
「……最悪だな」
ティキが低く吐き捨てた。
その傾斜を、まともに歩いて登るのは無理だった。
「悪ぃがこっからは自分で歩け」
そう言ってリナリーを下ろす。
リナリーは「兄さん…」と涙を零しているが、つま先は前を向いたままだった。
それを見て安心したティキは「よし」と小さく頷いて足を進めた。
廊下の片側、壁に沿って取り付けられていた手すりだけが、かろうじて使えそうだった。
三人はそれにしがみつくようにして、傾いた床を一歩ずつよじ登り始める。
手すりを離したらそのまま階段の方へ転がり落ちるだろう。
下へ落ちれば、火の上だ。
ティキは片手で手すりを掴み、もう片方で壁を押すようにして身体を持ち上げる。
そのすぐ後ろで、リナリーも泣きながら必死に同じ動きをなぞる。
アレンは歯を食いしばり、滑りそうになる足をどうにかねじ込んで、二人の後を追った。
数メートル登ったところで、廊下の中ほどが見えた。
そこで床が、ぱっくりと裂けていた。
大きな割れ目だった。
ティキは向こう側の床まで、飛べない距離ではない。
だが、残りのふたりはどうだろうか。
その下に見えるのは暗がりではなく、地下から回った炎の赤い明かりだった。
落ちればただでは済まない。
そういう種類の裂け目だ。
「地獄の釜が開いたみたいだ」
アレンの喉がひくりと鳴る。
ティキは一瞬だけ距離を測ると、手すりを強く握り直した。
それから、さらに数歩、壁伝いによじ登る。
裂け目の手前まで来たところで、手すりを掴む力を反動にして身体を浮かせ、一息に向こう側へ飛んだ。
向こう側へ着地すると、「おっとっと…」と下り落ちそうになり、滑りかけた靴裏をねじ込むようにして踏みとどまった。
すぐさま手すりを掴み直して、振り返る。
「リナリー。来い」
リナリーは割れ目の手前で足を止めたまま、泣き腫らした目で下を見ていた。
「無理……」
掠れた声だった。
「ふざけるな。俺のために飛べ」
ティキの声は怒りが含まれていた。
「こっち側は下り坂になってる。俺が掴んでやるから、飛べ!」
その言葉に、リナリーの肩が大きく揺れる。
唇はまだ「兄さん」と動いている。
けれど、足はわずかに前へ出た。
泣いていても、つま先だけは生きる方を選んでいる。
ティキはそれを見て、片手を大きく差し出した。
「さあ!」
リナリーは一度だけ目を閉じた。
それから、短く助走をつける。
飛ぶ。
だが、上り坂のせいで勢いが足りない。
つま先が割れ目の縁をかすめ、体が前へ沈みかけた。
「っ!」
その瞬間、ティキが大きく身を乗り出し、彼女の腕を掴んだ。
ぶらりと宙に浮いたリナリーの体が大きく揺れる。
床板がぎしりと不吉に鳴った。
「リナリーさん!頑張って!もう少しです!」
「うおりゃあ!」
ティキが腕一本で強引に引き上げる。
次の瞬間、リナリーの体は向こう側の床へ転がり込んだ。
息を詰めていたアレンが、そこでようやく呼吸を吐く。
だが、休む暇はない。
「次だ、少年」
ティキが言う。
アレンは無言で頷いた。
もう弱音を吐いている余裕はなかった。
ここで足を止めたら、本当に全員終わる。
アレンは割れ目の手前まで出ると、一度だけ下の炎へ目をやり、すぐ視線を切った。
「行きます」
短くそう言って、踏み切る。
跳躍そのものは悪くなかった。だが、着地の瞬間に足元がずれた。
片足が縁を踏み外しかけ、体が前へ大きく傾く。
「危ねぇ!」
ティキの手がアレンの腕を掴んだ。
勢いのまま前へ引かれ、アレンはほとんど膝から向こう側へ突っ込むように転がり込んだ。
痛みはあった。だが、文句を言う暇もない。
向こう側の床は、今度は急なくだり坂になっていたのだ。
「うわっ……!?」
着地した瞬間、足がまるで地面を掴めない。
アレンの身体はそのまま坂に持っていかれ、廊下の上を滑り落ちていく。
「わあああああああ!!」
転がる。
滑る。
造作家具の横をかすめ、倒れた花台を脇腹で避け、壁に掛かっていた額縁の残骸を腕で払う。
止まらない。
「少年!」
後ろでティキの声が飛ぶ。
アレンは半ば反射で、壁から突き出た照明の土台へ手を伸ばした。
指先がかすめる。
掴めない。
さらに滑る。
「ぎゃあああああ!!」
その直後、廊下の途中でひしゃげて飛び出していた手すりの支柱に、アレンの脇腹が思いきりぶつかった。
「ぐぇっ!!」
鈍い声を漏らしたまま、アレンの身体がようやく止まる。
数秒、廊下に静寂が落ちた。
それから、支柱にしがみついたままアレンが震える声を絞り出す。
「……し、死ぬかと思った……」
背後で、今しがたまで三人がいた側の床が鈍い音を立ててさらに崩れた。
ドゴォッ――。
割れ目がじわじわと広がる。
アレンは息を整えながら顔を上げた。
アレンのはるか上にいるティキとリナリーも、辛うじて体勢を立て直していた。
そして、先のくだり坂を睨む。
ティキはすぐにリナリーに声をかける。
「行くぞ」
リナリーはまだ涙を拭いきれていなかったが、小さく頷いた。
二人は壁の手すりにしがみつきながら、滑らないよう慎重に坂を下っていく。
リナリーの靴裏がずるずると流され、そのたびにティキがリナリーの背中を支えた。
やがて二人は、支柱にぶつかって止まったアレンのところまで辿り着く。
ティキが見下ろした。
「生きてるか?」
アレンは支柱にしがみついたまま、痛みに顔を歪める。
「……たぶん……あばら、いきました……」
「だろうな」
あまりにも雑な返答だった。
だが、その声が聞こえるだけで、アレンは少しだけ気が楽になった。
ティキは先に坂の下を見やる。
くだり坂の先、廊下の終点近くでは、外壁ごとラウンジの一角が崩れ、夜の風が吹き込んでいた。
吹き抜けのように抉れたその先には、瓦礫と土砂が折り重なってできた斜面が見える。
本来なら二階の高さがあるはずの場所だ。
だが、建物の沈み込みで、外との段差は思っていたよりずっと小さい。
「……いけるな」
ティキが低く呟く。
その瞬間、背後で大きな亀裂音が弾けた。
ミシィッ――!
どこかが崩れた音がした。
ドゴォォンッ!!
火の粉が舞い上がる。
熱気が、遅れて廊下を這ってきた。
「のんびりしてる暇はねぇぞ」
ティキはそう言うと、アレンの襟首を半ば乱暴に掴み上げた。
「立て、少年」
「い、言われなくても……!」
強がってみせたものの、立ち上がるだけで脇腹が悲鳴を上げる。
「っ……!」
息が詰まり、アレンの顔が一瞬で歪む。
ティキは舌打ちした。
「歩けるか」
「……歩くしか、ないです……」
「よし」
その一言で済ませると、ティキは先に立つ。
リナリーも、泣き腫らした目を伏せたまま、何も言わず後に続いた。
三人は、くだり坂になった廊下を慎重に下っていく。
上りよりはましだ。
だが油断すると、すぐ足元を持っていかれる。
アレンは壁の手すりに片手を這わせ、片足ずつ確かめるように進んだ。
崩れたラウンジが近づくにつれ、外から吹き込む風が煙を揺らし、焼けた木の匂いがいっそう濃くなった。
ラウンジらしきの入り口まで来たところで、天井の一部が崩れ落ちて道を塞いでいた。
「嘘でしょ……」
アレンが青ざめる。
だがティキは立ち止まらない。
崩れた梁を見上げ、足場を一度目で測ると、そのまま一番低いところへ足をかけた。
「上から越える」
「えっ、これを!?」
「他に道があるか?」
ない。
それだけは、アレンにもすぐ分かった。
ティキは先に梁を乗り越え、向こう側へ降りる。
次に振り返ってリナリーへ手を差し伸べた。
「来い」
リナリーは一瞬だけホテルの奥を見た。
食堂の方角。
兄が消えた場所。
ティキの目が細くなる。
「今そっち向いたら、兄貴が泣くぞ」
冷たい言い方だった。
けれど、それでようやくリナリーは前を向いた。
彼女は無言で梁へ手をかけ、よろめきながらも自分で乗り越える。
ティキがその腕を取り、向こう側へ引き下ろした。
最後にアレンだ。
アレンは顔をしかめながら梁へ手をかける。
「これ、絶対折れてる…痛いです……」
「俺は頭が痛ぇよ」
「うっ…。すみません」
半泣きで言い返しつつ、どうにか体を持ち上げる。
途中で脇腹がずきりと痛み、思わず動きが止まった。
その瞬間、背後でまた崩落音。
「うわっ!」
「止まるな!」
ティキの怒声に背を押されるように、アレンは最後の力で梁を越えた。
向こう側へ転がり落ち、呼吸を荒げる。
「はっ……はっ……」
もう、ホテル全体が長くは保たない。
ラウンジの外壁は大きく裂けていた。
そこから先は、外だ。
ただし、足元は安全な地面ではない。
壊れた壁材、飛び散った家具、剥がれた床板、土砂――それらが重なって、斜面を作っている。
ティキはその裂け目の縁へ行くと、身をかがめて下を確かめた。
「俺はお前の兄貴を恨むね」
リナリーに向かって低く言う。
「俺らが脱出してから(ボタン)押せよ」
「押したの貴方ですけども……」
アレンの声が死んでいる。
「あいつが左から下に10番目だって言ったんだぜ」
「信じるからですよ……」
ティキは聞き流し、まず自分が裂け目から外へ出た。
残った外壁の手すりに片手をかけ、もう片方で壁の縁を掴みながら、ゆっくりと体を外へ滑らせる。
足場を探り、下の瓦礫へ靴裏を当てる。
ざり、と嫌な音が鳴るが、まだ崩れない。
「リナリー」
呼ばれたリナリーも、しばらく外を見つめていた。
兄を置いて出る。
その現実だけが、まだうまく飲み込めない顔だった。
それでも、彼女は何も言わず、ティキの方へ手を伸ばす。
ティキはその手を取り、下へ導いた。
リナリーの足が瓦礫に触れる。
ぐらりと傾きかけるが、ティキが腰を支えて体勢を立て直させる。
「次」
上からアレンを見る。
アレンは裂け目の縁に手をついたまま、少しだけ目を閉じた。
覚悟を決めるみたいに、ひとつ息を吸う。
「……行きます」
「来い」
アレンは外壁の縁に腰をかけ、片足ずつ外へ出す。
その時、脇腹がずきりと疼いた。
「ぅ……っ」
思わず力が抜ける。
「おい」
ティキの声が鋭くなる。
アレンは歯を食いしばり、そのまま体を外へ滑らせた。
だが途中で、足場にした瓦礫が崩れた。
「うわっ!」
身体が一気に落ちる。
そのままアレンは半分転がるように斜面へ滑り出た。
「ぎゃああああ!!またああああ!!」
瓦礫が弾け、土砂が散る。
アレンは二度、三度とぶつかりながら滑り落ち、そのまま少し下の平らな地面へ放り出された。
ドン!ガン!ゴン!
ドサッ!!
数秒、動かない。
ティキが眉をひそめる。
「おい、少年!死んだか!?」
「……いっ、生きてます……」
地面に大の字になったまま、アレンがかすれた声で返す。
ティキはそこでようやく短く息を吐いた。
「ならいい」
自分もリナリーも、残りの斜面を滑るように下りる。
最後は軽く飛び降り、二人ともアレンの少し手前へ着地した。
その直後だった。
ホテルの二階部分が、大きく沈み込もうとした。
「やっべ。走れ!」
ティキのその声を合図に3人はホテルから離れようと一目散に走った。
ドガァァァンッ!!
三人は反射的に振り返る。
炎に包まれたホテルが、ゆっくりと崩れ落ちていく。
一階も、二階も、さっきまで自分たちがいた廊下もラウンジも、もう元の形は残っていない。
アレンはその場に転がったまま、呆然と呟いた。
「……出られた……」
その言葉だけで、ようやく実感が追いついた。
生きている。
どうにか、外へ出た。
だが、ティキはそこで止まらなかった。
「解散。お前らあとは好きにしな」
「え……?」
アレンの声に、ティキはちらりと視線だけを向ける。
「俺は港に行く。助けが来るなら、あそこがいちばん早い」
正論すぎて、アレンは何も言えない。
リナリーはこの時にはもう、泣き声も出なかった。
ただ何度もホテルの方を振り返りそうになるのを、前を見ることで堪えている。
アレンもよろよろと起き上がり、脇腹を押さえた。
「ほんとに……折れてる気がする……」
「俺は頭が切れてる気がする」
「ご、ごめんなさい」
夜風にさらされながら、三人は燃え盛るホテルを背に港へ向かった。
歩いているのか、這っているのか、自分でもよく分からない。
それでも進んだ。
やがて港へ辿り着いた時、アレンはもう限界だった。
「むりです」
その一言と共に、その場へ大の字に倒れ込む。
ティキは少し離れた岸壁に腰を下ろした。
胸ポケットから煙草を取り出し、一本くわえ、火をつける。
「おー、来た来た。思ってたより早かったな」
ティキが沖を見て言う。
アレンが薄く目を開ける。
海の向こうに、船が。
その船がこちらへ向かってくる。
本土からこの異様に大きな“焚き火”が見えたのだろう。
警察か、消防か、それとも両方か。
いずれにせよ、人が来る。
リナリーは少し離れた場所に大人しく座り込んでいた。
膝を抱え、燃えるホテルの方をただ黙って見ている。
誰も何も言わなかった。
波の音。
崩れるホテルの音。
近づいてくる船のエンジン音。
その全部の真ん中で、ティキだけが静かに煙を吐いている。
アレンは地面に寝転んだまま、その横顔をぼんやり見た。
「……ティキ・ミック卿」
「んー?」
「死ななくて……よかったです」
ティキは煙草をくわえたまま、少しだけ口元を歪めた。
「俺もそう思う」
短い返事だった。
だが、それで十分だった。
昼の港に、船影がひとつ、ゆっくりと大きくなっていく。
ようやく全部が終わったのだと、誰かが口にする前に、こちらへ近づいてくる船の姿が、三人を否応なく現実へ引き戻していた。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
事件概要報告書(抜粋)
本件は、○月○日、灰火島内リゾートホテルにおいて発生した連続殺人、死体損壊、監禁、放火及び爆発事案である。
現場ホテルは火災及び爆発により大破し、焼け跡から計5名の焼死体が発見された。
また、断崖絶壁下の岩場に転落したとみられる2名については、当時の潮位及び海流の影響により遺体は発見されなかった。
その後の生存者供述、現場資料及び関係物証の照合により、本件はコムイ・リー及びリナリー・リーの兄妹による計画的犯行であると認められた。
両名は、過去に発生した港湾開発反対派夫婦死亡事故に端を発する復讐を動機として、関係者に対する一連の殺害及び犯行隠蔽工作を行ったものと推定される。
犯行は周到かつ悪質であり、ホテル館内の設備を改造した拘束装置、放送設備及び殺傷装置を用いて、宿泊者らを強制的に“話し合い”へ参加させるなど、精神的圧迫を伴う異常な態様で実行された。
さらに、現場には死体損壊、証拠隠滅及び罪の転嫁を意図した工作が多数認められた。
コムイ・リーについては、ホテル崩落時に死亡したものと認定された。
一方、リナリー・リーについては港で保護され、搬送先において軽傷と診断された。
リナリー・リーは当初、強い精神的動揺を示したものの、その後の事情聴取において兄コムイ・リーとの共謀を認めた。
また、自らの関与についても否認せず、逃亡又は抵抗の意思を示すことなく、静かに刑に服する意向を表明した。
以上のとおり、本件は復讐を目的とした極めて重大かつ悪質な計画犯罪であり、被疑者リナリー・リーについては、関係法令に基づき厳正な処分を求めるものである。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
半年後。
古びた雑居ビルの三階。
汚れたガラス戸に、貼ったばかりの白い文字が少しだけ曲がっている。
『 ミック探偵事務所』
室内には、机とソファと灰皿。
それから、まだ片づけきれていない段ボールがいくつか。
ティキはそのひとつを畳んだ。
べこり、と乾いた音がする。
続けてもう一つ。
最後のひと箱をぺしゃんこにして、ティキはそれたちにガムテープを貼り付けて縛った。
「……よし」
短く息を吐く。
見回せば、狭いなりに、もうそれっぽく見えた。
会社は辞めた。
理由を訊かれたら、たぶんこう答える。
推理するのが、楽しくなったから。
ティキは潰したばかりの段ボールを壁際へ蹴りやると、ソファに腰を下ろした。
ん?
アレン・ウォーカーはどうしたのかって?
彼なら借金返済のために、またどこかで働いているよ。
𝐞𝐧𝐝ꔛ⋆☽2026/04/06
最後まで読んでくれたくれた方。
(神ㅅ神)
まさかこんなしょうもないトリック(と呼べないけど!)がこんな長くなるとは!!
それではまた( ´ ▽ ` )ノ
「その10分間で、妹は記録者ラビの部屋に斧を投げ込み、兄の方は少年に罪を擦り付けるためか、弱点を探しに少年の部屋へ」
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アレンの顔が引きつる。
ラビが“偶然”ではなく選ばれて死んだのだとしたら、このゲームの残酷さは最初から仕組まれていたことになる。
「そして、その後、君たち兄妹は配電室へ。そこはリネン室と繋がっていたね。そこで神田という男を殺害、窓から崖に落とす」
ここで、リナリーが鼻で笑う。
ティキはその反応を見ても、特に言い返さなかった。
ただ「まあ、その辺はどっちでもいい」とでも言いたげに、軽く肩をすくめるだけだ。
「この後も割愛する」
面倒そうなティキミック。そして、考える素振りを見せて
「あれ? ここから話すことなくない?」
純粋な子供のようにティキが目を大きく開ける。
「新婚さんが死に、警部が死に、そして、今ここ……」
そこでティキは一度だけ食堂を見回した。
拘束されたアレン、青ざめたリナリー、観念したように黙るコムイ。
もう“謎”と呼べるものは、ほとんど残っていない。
「以上だよ。少年」
アレンににっこりと笑ってみせる。
アレンは乾いた唇をわずかに震わせ、ようやく絞り出す。
「……じゃあ、本当に……全部、このふたりが……?」
「そういうこと」
アレンが恐る恐る言う。
「……これ、もう終わりですよね?それなら……あの、これ、外してくれません?」
ティキはわざとらしく首を傾げた。
「えー? でも、外したらこのふたりのも外れちゃうじゃん」
「……っ」
アレンはごもっともすぎて、口を尖らせ、それ以上言い返せなくなる。
それから、ふいにリモコンを見下ろす。
「で、これどうすんの?」
「え?」
「いや、このまま首と手首固定されてんの可哀想じゃん」
あまりにも気まぐれな口調だった。
「外すんですか!? 今その流れで!?」
アレンのツッコミに、当たり前のようにティキが言う。
「そうだけど?」
ティキはリモコンを裏返したり表に戻したりしながら、適当なボタンへ親指を乗せる。
「これかな?ポチッとな」
カチ。
次の瞬間。
――ギギギギギ……
テーブルの中央がせり上がり、さっきまで格納されていたボーガンが再び姿を現した。
「ギャアアアアアアア!!」
アレンが半泣きで絶叫する。
「しまって!! しまってしまって!!」
「どこ!? しまうボタンどれ!?」
ティキまで少し焦った声を出す。
慌ててさっきと同じボタンをもう一度押すと、ボーガンはぎこちない音を立てながら再びテーブルの中へ引っ込んだ。
静寂。
「……ホッ」
アレンがあからさまに本気で安堵の息を漏らす。
「お前うるせぇな……」
ティキが眉をひそめ、それからコムイへリモコンを向けた。
「ねえ、どれ押したら解除できるの?」
コムイは嫌そうに口元を歪める。
しばらく黙っていたが、やがて諦めたように吐き捨てた。
「……左から下に10個目だよ」
「……それって右のいちばん下ってことじゃないか」
ティキは眉間に皺を寄せ、子供みたいに口先を尖らせた。
その顔を見て、コムイが小さく鼻で笑う。
「ふっ」
ティキはむっとした顔のまま、言われた位置のボタンを見下ろした。
「最初からそう言えよ」
「信じるんですか!?」
アレンが素っ頓狂な声を上げる。
ティキはリモコンを指先でひらひらさせながら、にやりと笑った。
「俺、純粋だから信じちゃう❤」
「えっ、そこ可愛く言うところですか!?」
アレンが叫ぶのと、ティキがボタンを押すのはほぼ同時だった。
――ポチッ。
次の瞬間。
ドォンッ!!
腹の底を揺さぶるような爆発音が、地下から突き上げる。
「え?」
食堂全体が大きく沈んだ。
床がぐらりと傾き、椅子ごと全員の身体が揺れる。
「まじ?」
ティキが珍しく素の声を漏らす。
「ほらぁ! 信じるからぁ!!」
アレンが半泣きで叫ぶ。
コムイは、そんな騒ぎの中で口元を吊り上げていた。
「初めから僕たちを生きて出そうなんて思ってなかったんですよー!」
アレンが泣き喚く。
その直後、二発目の爆発が来た。
ドゴォンッ!!
今度は片側の床だけが、目に見えて沈んだ。
五十センチは落ちたかというほど、食堂がぐしゃりと傾く。
「わーーん、おかあさーーん!!」
「うるせぇ!!」
ティキは叫び返しながら、一気にコムイの胸ぐらを掴み上げた。
「おいおい! 嘘教えんなよ! どれだボタン!」
拘束されたままのコムイの体が引きずられるように揺れる。
「俺はな! お前らを置いて逃げたっていいんだぜ!? お前、妹も道連れにするつもりか!?」
ティキの怒声に、リナリーがびくりと肩を震わせた。
だが、その目には不思議なほど強い覚悟が宿っていた。
それを見たティキが、苛立ちを押し殺したように眉を寄せる。
「…お前らに死なれると…俺の目覚めが悪いんだが?」
その時、食堂全体が不気味な音を立てた。
ゴゴゴゴゴゴォ……
床の下から、建物そのものが軋むような低い唸りが響く。
壁の装飾が震え、シャンデリアの細かなガラスがかちかちとぶつかり合った。
ティキはコムイを睨みつける。
その視線の圧に、さすがのコムイも一瞬だけ言葉を失った。
やがて、低く息を吐く。
「……わかったよ」
「兄さん!?」
リナリーが叫ぶ。
コムイは彼女を見ずに続けた。
「妹だけは、助けてほしい」
「兄さん!!」
今度の声は、さっきとは違う。
本気で狼狽えた声だった。
「どれだ」
ティキがリモコンを突きつける。
コムイは短く答えた。
「……白いボタンだよ」
「少しは疑ってくださいよー!」
アレンが泣き声混じりに叫ぶ。
だがティキはまたも躊躇なく、その白いボタンを押した。
――カチッ。
一拍。
それから、首と手首に食い込んでいた金具が一斉に跳ね上がった。
ガチャン! ガチャンッ!
「あれ?」
アレンが目を瞬かせる。
「外れた」
「逃げるぞ!」
ティキが叫び、すぐに数歩駆け出す。
だが、ついてきたのはアレンだけだった。
後ろを振り向く。
コムイとリナリーは、まだ席に座ったままだ。
「このやろ……!」
ティキは舌打ちして引き返した。
まずリナリーの腕を掴み、無理やり立たせる。
「やめてっ!」
リナリーが叫ぶ。
「兄さんも一緒じゃなきゃ嫌! 兄さんも、兄さんも――!」
「うるせぇ、行くぞ!」
ティキはものすごい力で彼女を引っ張るが、リナリーは泣きながら抵抗する。
「兄さん! 兄さん! 置いていけない!」
「コムイ! お前も逃げるぞ! 早く来い!」
ティキが怒鳴る。
その声に、コムイは一度だけ顔を上げた。
「俺はここに残るよ。リナリー、君は生きるんだ」
ホテル全体が、また不穏に軋む。
ミシ……ミシミシ……。
天井の一部に、大きく亀裂が走った。
「まずい!」
アレンが叫んだ瞬間だった。
バキィンッ!!
天井の一部が崩れ落ちる。
シャンデリアが落ち、食堂のテーブルが砕け、木片と石膏が飛び散る。
ティキは舌打ちすると、泣き叫ぶリナリーを力任せに引き寄せ、そのまま肩へ担ぎ上げた。
「離して!! 兄さん! 兄さん!!」
「暴れんな!!」
ティキはアレンに向かって怒鳴る。
「先に出ろ、少年!」
「は、はいっ!」
アレンが食堂の外へ飛び出す。
ティキもすぐその後に続いた。
食堂を出た、その瞬間。
背後で轟音が弾けた。
ドオオォォンッ!!
振り返る。
さっきまでいた食堂の天井が、完全に崩れ落ちていた。
その瓦礫の向こう、最後の一瞬だけ。
下敷きになる寸前のコムイが、泣きそうな顔で、ほんの少し笑った。
「ごめんね」
次の瞬間、その姿は崩れた天井の向こうへ消えた。
食堂を飛び出した三人は、まず本能みたいに一階の出口を目指した。
正門玄関。
「くそっ、開かない!」
アレンが叫ぶ。
「裏口はどうだ!?」
三人は廊下を駆けた。
だが、数メートルも進まないうちに、その希望はあっさり潰える。
先の曲がり角の向こうから、どす黒い煙がどっと吹き出してきたのだ。
「うわっ!」
アレンが思わず足を止める。
次の瞬間、煙の奥でオレンジ色の炎がぶわりと膨らんだ。
爆発で裂けた配線に火が回ったのだろう。
壁紙を舐め、床を這い、天井を焦がしながら、火は信じられない速さで広がっていく。
熱い。
まだ距離はあるのに、頬がじりじりと焼けるようだった。
「駄目だ!」
ティキが舌打ちする。
「こっちは火が回りすぎてる!」
「じゃあ、どこから出るんですか!?」
アレンはもう半泣きだ。
返事をする間にも、館全体が低く唸るような音を立てた。
ゴゴゴゴゴゴォ……
足元が揺れる。
床板が悲鳴を上げる。
どこか遠くで、また何か重いものが崩れる音がした。
一階に留まるのは危険だ。
地下で起きた爆発の真上にいるのだから。
ティキは一瞬だけ廊下の左右を見比べ、それからアレンを振り返った。
「上だ!」
「えっ!?」
「一階はもう保たねぇ! 二階へ逃げる!」
「で、でも、上がってどうするんですか!」
「いいから来い!」
リナリーを肩に担いだまま、ティキは逆方向へ駆け出した。
「えっ、あの階段、落ちかけてません!?」
「だから急ぐんだよ!」
リナリーを肩に担いだまま、ティキは迷わずその回廊へ踏み出した。
ギシ……。
足元で嫌な音が鳴る。
アレンは思わず吹き抜けの下を見た。
そこでは一階のロビー側に火が回り、赤い舌のような炎が揺れている。
「ひっ……!」
「下見んな!」
ティキの怒声が飛ぶ。
アレンは半泣きのまま、崩れかけた回廊を追った。
階段を登りきった瞬間、ティキはリナリーを下ろした。
そして、三人は前を見て、揃って息を呑んだ。
二階の廊下は、もう廊下の形をしていなかった。
建物の片側が大きく沈んだせいだろう。
床は出口のある方へ向かって斜めにせり上がり、まるで巨大な滑り止めのない坂道みたいに反り返っている。
壁には深い亀裂が走り、天井からは白い粉塵が絶えずぱらぱらと降っていた。
階段の下では、赤い火が不規則に揺れ、遅れて這い上がってくる煙が二階の空気までじわじわと汚していく。
「……最悪だな」
ティキが低く吐き捨てた。
その傾斜を、まともに歩いて登るのは無理だった。
「悪ぃがこっからは自分で歩け」
そう言ってリナリーを下ろす。
リナリーは「兄さん…」と涙を零しているが、つま先は前を向いたままだった。
それを見て安心したティキは「よし」と小さく頷いて足を進めた。
廊下の片側、壁に沿って取り付けられていた手すりだけが、かろうじて使えそうだった。
三人はそれにしがみつくようにして、傾いた床を一歩ずつよじ登り始める。
手すりを離したらそのまま階段の方へ転がり落ちるだろう。
下へ落ちれば、火の上だ。
ティキは片手で手すりを掴み、もう片方で壁を押すようにして身体を持ち上げる。
そのすぐ後ろで、リナリーも泣きながら必死に同じ動きをなぞる。
アレンは歯を食いしばり、滑りそうになる足をどうにかねじ込んで、二人の後を追った。
数メートル登ったところで、廊下の中ほどが見えた。
そこで床が、ぱっくりと裂けていた。
大きな割れ目だった。
ティキは向こう側の床まで、飛べない距離ではない。
だが、残りのふたりはどうだろうか。
その下に見えるのは暗がりではなく、地下から回った炎の赤い明かりだった。
落ちればただでは済まない。
そういう種類の裂け目だ。
「地獄の釜が開いたみたいだ」
アレンの喉がひくりと鳴る。
ティキは一瞬だけ距離を測ると、手すりを強く握り直した。
それから、さらに数歩、壁伝いによじ登る。
裂け目の手前まで来たところで、手すりを掴む力を反動にして身体を浮かせ、一息に向こう側へ飛んだ。
向こう側へ着地すると、「おっとっと…」と下り落ちそうになり、滑りかけた靴裏をねじ込むようにして踏みとどまった。
すぐさま手すりを掴み直して、振り返る。
「リナリー。来い」
リナリーは割れ目の手前で足を止めたまま、泣き腫らした目で下を見ていた。
「無理……」
掠れた声だった。
「ふざけるな。俺のために飛べ」
ティキの声は怒りが含まれていた。
「こっち側は下り坂になってる。俺が掴んでやるから、飛べ!」
その言葉に、リナリーの肩が大きく揺れる。
唇はまだ「兄さん」と動いている。
けれど、足はわずかに前へ出た。
泣いていても、つま先だけは生きる方を選んでいる。
ティキはそれを見て、片手を大きく差し出した。
「さあ!」
リナリーは一度だけ目を閉じた。
それから、短く助走をつける。
飛ぶ。
だが、上り坂のせいで勢いが足りない。
つま先が割れ目の縁をかすめ、体が前へ沈みかけた。
「っ!」
その瞬間、ティキが大きく身を乗り出し、彼女の腕を掴んだ。
ぶらりと宙に浮いたリナリーの体が大きく揺れる。
床板がぎしりと不吉に鳴った。
「リナリーさん!頑張って!もう少しです!」
「うおりゃあ!」
ティキが腕一本で強引に引き上げる。
次の瞬間、リナリーの体は向こう側の床へ転がり込んだ。
息を詰めていたアレンが、そこでようやく呼吸を吐く。
だが、休む暇はない。
「次だ、少年」
ティキが言う。
アレンは無言で頷いた。
もう弱音を吐いている余裕はなかった。
ここで足を止めたら、本当に全員終わる。
アレンは割れ目の手前まで出ると、一度だけ下の炎へ目をやり、すぐ視線を切った。
「行きます」
短くそう言って、踏み切る。
跳躍そのものは悪くなかった。だが、着地の瞬間に足元がずれた。
片足が縁を踏み外しかけ、体が前へ大きく傾く。
「危ねぇ!」
ティキの手がアレンの腕を掴んだ。
勢いのまま前へ引かれ、アレンはほとんど膝から向こう側へ突っ込むように転がり込んだ。
痛みはあった。だが、文句を言う暇もない。
向こう側の床は、今度は急なくだり坂になっていたのだ。
「うわっ……!?」
着地した瞬間、足がまるで地面を掴めない。
アレンの身体はそのまま坂に持っていかれ、廊下の上を滑り落ちていく。
「わあああああああ!!」
転がる。
滑る。
造作家具の横をかすめ、倒れた花台を脇腹で避け、壁に掛かっていた額縁の残骸を腕で払う。
止まらない。
「少年!」
後ろでティキの声が飛ぶ。
アレンは半ば反射で、壁から突き出た照明の土台へ手を伸ばした。
指先がかすめる。
掴めない。
さらに滑る。
「ぎゃあああああ!!」
その直後、廊下の途中でひしゃげて飛び出していた手すりの支柱に、アレンの脇腹が思いきりぶつかった。
「ぐぇっ!!」
鈍い声を漏らしたまま、アレンの身体がようやく止まる。
数秒、廊下に静寂が落ちた。
それから、支柱にしがみついたままアレンが震える声を絞り出す。
「……し、死ぬかと思った……」
背後で、今しがたまで三人がいた側の床が鈍い音を立ててさらに崩れた。
ドゴォッ――。
割れ目がじわじわと広がる。
アレンは息を整えながら顔を上げた。
アレンのはるか上にいるティキとリナリーも、辛うじて体勢を立て直していた。
そして、先のくだり坂を睨む。
ティキはすぐにリナリーに声をかける。
「行くぞ」
リナリーはまだ涙を拭いきれていなかったが、小さく頷いた。
二人は壁の手すりにしがみつきながら、滑らないよう慎重に坂を下っていく。
リナリーの靴裏がずるずると流され、そのたびにティキがリナリーの背中を支えた。
やがて二人は、支柱にぶつかって止まったアレンのところまで辿り着く。
ティキが見下ろした。
「生きてるか?」
アレンは支柱にしがみついたまま、痛みに顔を歪める。
「……たぶん……あばら、いきました……」
「だろうな」
あまりにも雑な返答だった。
だが、その声が聞こえるだけで、アレンは少しだけ気が楽になった。
ティキは先に坂の下を見やる。
くだり坂の先、廊下の終点近くでは、外壁ごとラウンジの一角が崩れ、夜の風が吹き込んでいた。
吹き抜けのように抉れたその先には、瓦礫と土砂が折り重なってできた斜面が見える。
本来なら二階の高さがあるはずの場所だ。
だが、建物の沈み込みで、外との段差は思っていたよりずっと小さい。
「……いけるな」
ティキが低く呟く。
その瞬間、背後で大きな亀裂音が弾けた。
ミシィッ――!
どこかが崩れた音がした。
ドゴォォンッ!!
火の粉が舞い上がる。
熱気が、遅れて廊下を這ってきた。
「のんびりしてる暇はねぇぞ」
ティキはそう言うと、アレンの襟首を半ば乱暴に掴み上げた。
「立て、少年」
「い、言われなくても……!」
強がってみせたものの、立ち上がるだけで脇腹が悲鳴を上げる。
「っ……!」
息が詰まり、アレンの顔が一瞬で歪む。
ティキは舌打ちした。
「歩けるか」
「……歩くしか、ないです……」
「よし」
その一言で済ませると、ティキは先に立つ。
リナリーも、泣き腫らした目を伏せたまま、何も言わず後に続いた。
三人は、くだり坂になった廊下を慎重に下っていく。
上りよりはましだ。
だが油断すると、すぐ足元を持っていかれる。
アレンは壁の手すりに片手を這わせ、片足ずつ確かめるように進んだ。
崩れたラウンジが近づくにつれ、外から吹き込む風が煙を揺らし、焼けた木の匂いがいっそう濃くなった。
ラウンジらしきの入り口まで来たところで、天井の一部が崩れ落ちて道を塞いでいた。
「嘘でしょ……」
アレンが青ざめる。
だがティキは立ち止まらない。
崩れた梁を見上げ、足場を一度目で測ると、そのまま一番低いところへ足をかけた。
「上から越える」
「えっ、これを!?」
「他に道があるか?」
ない。
それだけは、アレンにもすぐ分かった。
ティキは先に梁を乗り越え、向こう側へ降りる。
次に振り返ってリナリーへ手を差し伸べた。
「来い」
リナリーは一瞬だけホテルの奥を見た。
食堂の方角。
兄が消えた場所。
ティキの目が細くなる。
「今そっち向いたら、兄貴が泣くぞ」
冷たい言い方だった。
けれど、それでようやくリナリーは前を向いた。
彼女は無言で梁へ手をかけ、よろめきながらも自分で乗り越える。
ティキがその腕を取り、向こう側へ引き下ろした。
最後にアレンだ。
アレンは顔をしかめながら梁へ手をかける。
「これ、絶対折れてる…痛いです……」
「俺は頭が痛ぇよ」
「うっ…。すみません」
半泣きで言い返しつつ、どうにか体を持ち上げる。
途中で脇腹がずきりと痛み、思わず動きが止まった。
その瞬間、背後でまた崩落音。
「うわっ!」
「止まるな!」
ティキの怒声に背を押されるように、アレンは最後の力で梁を越えた。
向こう側へ転がり落ち、呼吸を荒げる。
「はっ……はっ……」
もう、ホテル全体が長くは保たない。
ラウンジの外壁は大きく裂けていた。
そこから先は、外だ。
ただし、足元は安全な地面ではない。
壊れた壁材、飛び散った家具、剥がれた床板、土砂――それらが重なって、斜面を作っている。
ティキはその裂け目の縁へ行くと、身をかがめて下を確かめた。
「俺はお前の兄貴を恨むね」
リナリーに向かって低く言う。
「俺らが脱出してから(ボタン)押せよ」
「押したの貴方ですけども……」
アレンの声が死んでいる。
「あいつが左から下に10番目だって言ったんだぜ」
「信じるからですよ……」
ティキは聞き流し、まず自分が裂け目から外へ出た。
残った外壁の手すりに片手をかけ、もう片方で壁の縁を掴みながら、ゆっくりと体を外へ滑らせる。
足場を探り、下の瓦礫へ靴裏を当てる。
ざり、と嫌な音が鳴るが、まだ崩れない。
「リナリー」
呼ばれたリナリーも、しばらく外を見つめていた。
兄を置いて出る。
その現実だけが、まだうまく飲み込めない顔だった。
それでも、彼女は何も言わず、ティキの方へ手を伸ばす。
ティキはその手を取り、下へ導いた。
リナリーの足が瓦礫に触れる。
ぐらりと傾きかけるが、ティキが腰を支えて体勢を立て直させる。
「次」
上からアレンを見る。
アレンは裂け目の縁に手をついたまま、少しだけ目を閉じた。
覚悟を決めるみたいに、ひとつ息を吸う。
「……行きます」
「来い」
アレンは外壁の縁に腰をかけ、片足ずつ外へ出す。
その時、脇腹がずきりと疼いた。
「ぅ……っ」
思わず力が抜ける。
「おい」
ティキの声が鋭くなる。
アレンは歯を食いしばり、そのまま体を外へ滑らせた。
だが途中で、足場にした瓦礫が崩れた。
「うわっ!」
身体が一気に落ちる。
そのままアレンは半分転がるように斜面へ滑り出た。
「ぎゃああああ!!またああああ!!」
瓦礫が弾け、土砂が散る。
アレンは二度、三度とぶつかりながら滑り落ち、そのまま少し下の平らな地面へ放り出された。
ドン!ガン!ゴン!
ドサッ!!
数秒、動かない。
ティキが眉をひそめる。
「おい、少年!死んだか!?」
「……いっ、生きてます……」
地面に大の字になったまま、アレンがかすれた声で返す。
ティキはそこでようやく短く息を吐いた。
「ならいい」
自分もリナリーも、残りの斜面を滑るように下りる。
最後は軽く飛び降り、二人ともアレンの少し手前へ着地した。
その直後だった。
ホテルの二階部分が、大きく沈み込もうとした。
「やっべ。走れ!」
ティキのその声を合図に3人はホテルから離れようと一目散に走った。
ドガァァァンッ!!
三人は反射的に振り返る。
炎に包まれたホテルが、ゆっくりと崩れ落ちていく。
一階も、二階も、さっきまで自分たちがいた廊下もラウンジも、もう元の形は残っていない。
アレンはその場に転がったまま、呆然と呟いた。
「……出られた……」
その言葉だけで、ようやく実感が追いついた。
生きている。
どうにか、外へ出た。
だが、ティキはそこで止まらなかった。
「解散。お前らあとは好きにしな」
「え……?」
アレンの声に、ティキはちらりと視線だけを向ける。
「俺は港に行く。助けが来るなら、あそこがいちばん早い」
正論すぎて、アレンは何も言えない。
リナリーはこの時にはもう、泣き声も出なかった。
ただ何度もホテルの方を振り返りそうになるのを、前を見ることで堪えている。
アレンもよろよろと起き上がり、脇腹を押さえた。
「ほんとに……折れてる気がする……」
「俺は頭が切れてる気がする」
「ご、ごめんなさい」
夜風にさらされながら、三人は燃え盛るホテルを背に港へ向かった。
歩いているのか、這っているのか、自分でもよく分からない。
それでも進んだ。
やがて港へ辿り着いた時、アレンはもう限界だった。
「むりです」
その一言と共に、その場へ大の字に倒れ込む。
ティキは少し離れた岸壁に腰を下ろした。
胸ポケットから煙草を取り出し、一本くわえ、火をつける。
「おー、来た来た。思ってたより早かったな」
ティキが沖を見て言う。
アレンが薄く目を開ける。
海の向こうに、船が。
その船がこちらへ向かってくる。
本土からこの異様に大きな“焚き火”が見えたのだろう。
警察か、消防か、それとも両方か。
いずれにせよ、人が来る。
リナリーは少し離れた場所に大人しく座り込んでいた。
膝を抱え、燃えるホテルの方をただ黙って見ている。
誰も何も言わなかった。
波の音。
崩れるホテルの音。
近づいてくる船のエンジン音。
その全部の真ん中で、ティキだけが静かに煙を吐いている。
アレンは地面に寝転んだまま、その横顔をぼんやり見た。
「……ティキ・ミック卿」
「んー?」
「死ななくて……よかったです」
ティキは煙草をくわえたまま、少しだけ口元を歪めた。
「俺もそう思う」
短い返事だった。
だが、それで十分だった。
昼の港に、船影がひとつ、ゆっくりと大きくなっていく。
ようやく全部が終わったのだと、誰かが口にする前に、こちらへ近づいてくる船の姿が、三人を否応なく現実へ引き戻していた。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
事件概要報告書(抜粋)
本件は、○月○日、灰火島内リゾートホテルにおいて発生した連続殺人、死体損壊、監禁、放火及び爆発事案である。
現場ホテルは火災及び爆発により大破し、焼け跡から計5名の焼死体が発見された。
また、断崖絶壁下の岩場に転落したとみられる2名については、当時の潮位及び海流の影響により遺体は発見されなかった。
その後の生存者供述、現場資料及び関係物証の照合により、本件はコムイ・リー及びリナリー・リーの兄妹による計画的犯行であると認められた。
両名は、過去に発生した港湾開発反対派夫婦死亡事故に端を発する復讐を動機として、関係者に対する一連の殺害及び犯行隠蔽工作を行ったものと推定される。
犯行は周到かつ悪質であり、ホテル館内の設備を改造した拘束装置、放送設備及び殺傷装置を用いて、宿泊者らを強制的に“話し合い”へ参加させるなど、精神的圧迫を伴う異常な態様で実行された。
さらに、現場には死体損壊、証拠隠滅及び罪の転嫁を意図した工作が多数認められた。
コムイ・リーについては、ホテル崩落時に死亡したものと認定された。
一方、リナリー・リーについては港で保護され、搬送先において軽傷と診断された。
リナリー・リーは当初、強い精神的動揺を示したものの、その後の事情聴取において兄コムイ・リーとの共謀を認めた。
また、自らの関与についても否認せず、逃亡又は抵抗の意思を示すことなく、静かに刑に服する意向を表明した。
以上のとおり、本件は復讐を目的とした極めて重大かつ悪質な計画犯罪であり、被疑者リナリー・リーについては、関係法令に基づき厳正な処分を求めるものである。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
半年後。
古びた雑居ビルの三階。
汚れたガラス戸に、貼ったばかりの白い文字が少しだけ曲がっている。
『 ミック探偵事務所』
室内には、机とソファと灰皿。
それから、まだ片づけきれていない段ボールがいくつか。
ティキはそのひとつを畳んだ。
べこり、と乾いた音がする。
続けてもう一つ。
最後のひと箱をぺしゃんこにして、ティキはそれたちにガムテープを貼り付けて縛った。
「……よし」
短く息を吐く。
見回せば、狭いなりに、もうそれっぽく見えた。
会社は辞めた。
理由を訊かれたら、たぶんこう答える。
推理するのが、楽しくなったから。
ティキは潰したばかりの段ボールを壁際へ蹴りやると、ソファに腰を下ろした。
ん?
アレン・ウォーカーはどうしたのかって?
彼なら借金返済のために、またどこかで働いているよ。
𝐞𝐧𝐝ꔛ⋆☽2026/04/06
最後まで読んでくれたくれた方。
(神ㅅ神)
まさかこんなしょうもないトリック(と呼べないけど!)がこんな長くなるとは!!
それではまた( ´ ▽ ` )ノ