おばちゃんエクソシスト誕生
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第6話。
測定室の前。
コムイは扉の外で待機。
「じゃあ僕はここで待ってるよ。終わったら声かけて」
ブリジットは隣で何やら素早くペンを動かしている。
ジョニーが中へ案内する。
「えーと……こちらへどうぞ!」
扉が閉まる。
中は白く、整然としている。
器具、巻き尺、記録板。
ジョニーが書類を確認する。
「まずは基本採寸から……えっと……服を……」
トシコ、ジョニーをじっと見る。
ジョニーが手に持った巻き尺は、彼の心臓の鼓動に合わせて小刻みに震えている。
「え、えっと……では、上着を脱いでいただいて……その……下着で……」
トシコは一瞬だけ、計算されたかのように目を丸くした。
「……下着?」
「は、はい。正確な採寸のために……」
重苦しい数秒の沈黙。
トシコはそっと胸元に手を当て、わざとらしく、しかしどこか艶っぽく肩をすくめてみせた。
「やだねぇ……そんな……若い兄ちゃんの前で……」
もぞもぞと、もどかしげに上着を脱ぐ。そして、拒絶するように、あるいは期待させるように、くるりと背を向ける。
「見ないでおくれよ? おばちゃんだって恥じらいぐらいあるんだよ……」
まるで、若い男を弄ぶイケナイ魔性の女のような表情で。だけど、見た目がアレだもんで、少々気持ちが悪い。
…ぽい!
無造作に放られたスカート。
ジョニーは完全に石化していた。視線は泳ぎ、喉が鳴る。
「えっ、あっ、ぼ、僕はその……!」
トシコは肩越しにちらりと振り向く。
その頬は微かに朱を帯び、袖で口元を隠す仕草は少女のようでもあった。
仕草だけね…。ほんと仕草だけ。
やってるのはぽっちゃりのおばちゃんだ。
「ほんと、見ないでおくれよ……」
そして――。
くるり。
そこに現れたのは、虚飾を脱ぎ捨てたトシコの真実。
でん。
顔を埋めたら窒息しそうな豊かな胸。
でん!
いくらでも攻撃を跳ね返しそうな、ふくよかな腹。
ででん!
そして、座っただけで地殻変動が起きるお尻。
ジョニーの顔から、さっと血の気が引いた。
まるで――
「ボク、食べられる!?」と悟った小動物のような顔。
一瞬で真っ青である。
巻き尺を持つ手がぷるぷる震える。
目は泳ぎ、視線の置き場が完全に迷子。
トシコは不思議そうに首を傾げた。
「どうしたんだい?」
ジョニーの口がぱくぱく動く。
声が出ない。
そして次の瞬間。
「わあああああ!!」
指先から力が抜け、巻き尺が無残に床へ落ちる。
「ぼ、ぼ、僕、気が利かなくてすみません!! 女性と代わりますぅ!!」
脱兎のごとく、ジョニーは部屋を飛び出していった。バタン!と勢いよく閉まる扉。
残されたのは、静寂とトシコの威風だけだ。
トシコは悠然と腕を組み、口角を吊り上げた。
「なんだい、私のグラマラスにやられちまったのかい……。ウブだねぇ……」
その時。コン、と控えめで、どこか救いのようなノックが響く。
「……失礼します」
ひょこっと顔を出したのは、リナリーだった。
「私が代わりますね」
トシコの表情が、一瞬でひまわりのようにパッと明るくなる。
「あらまぁ、助かったよ」
満面の笑み。そこには、数秒前までジョニーを翻弄していたはずの“恥じらい”の破片すら、もうどこにも残っていなかった。
リナリーが微笑む。
「すみません、配慮が足りませんでした」
「いいや、私がからかいすぎたんだよぉ」
巻き尺を手に取るリナリー。
「ふふふ。では腕を少し上げてください」
距離が近い。
でも空気はやわらかい。
トシコがぽつりと言う。
「……若いねえ」
「え?」
「その団服、ぴったりだねえ」
自分の腹を見る。
引っ込める。
「引っ込めないでください」
「やっぱり言うかい!」
ふっと笑いがこぼれる。
リナリーが優しく測る。
胸囲。 腕周り。 腰回り。
触れ方が丁寧で、ためらいがない。
(ああ……この子、戦ってる手だ)
「怖くないのかい?」
「何がですか?」
「前線」
一瞬だけ、リナリーの表情が静かになる。
「怖いですよ」
でも、すぐ微笑む。
「でも、守りたいから」
トシコの胸がじんとする。
「安心しなよ」
「え?」
「怪我したら、あたしが何とかするからさ」
リナリー、ふっと笑う。
「それなら安心ですね」
トシコ、リナリーの可愛さに完全にやられる。
「胸囲、記録完了」
「おばちゃんのサイズに驚いただろん?」
リナリーが巻き尺を巻きながら笑った。
その笑顔が眩しい。
「お嬢ちゃん…モテるだろ?」
「ふふふ、トシコって面白いのね。…団服は後日仕上がります」
トシコは鏡の中の自分とリナリーを見て言った。
「……似合うかね」
リナリーは迷わない。
「きっと、似合いますよ」
その言い方が、本気だ。
トシコ、照れ隠しに笑う。
「完成したら、隣に立ちな」
「え?」
「一人じゃ心臓もたない」
リナリーが小さく頷く。
「はい」
扉の向こうでは男たちがそわそわしている。
でもこの部屋の中は、穏やかで、やわらかい。
女だけの、少しあたたかい空間だった。
測定室を出ると、廊下にはジョニーが壁に寄りかかっていた。
まだ顔色が悪い。
「終わりましたか……?」
逆にトシコはケロッとしている。
ジョニーの前まで歩いていくと、にやりと笑った。
「さっきは悪かったねぇ!」
バン!バン!と遠慮なしにジョニーの背中を叩く。
「うわっ!?」
ジョニーの体が前につんのめる。
トシコは豪快に笑った。
「ガハハ!ウブそうな子を見ると、ついからかいたくなるんだよぉ」
ジョニーはまだ少し青い顔のまま、あわあわしている。
「か、からかうって……」
トシコはまだジョニーの背中をバンバン叩いている。
「安心しなよ」
にやっと笑う。
「ほんとに取って食ったりしないからさ」
ジョニーは一瞬だけ固まり――
それから小さく肩を落とした。
「ぼ、僕……命の危険を感じました……」
ジョニーが壁にもたれかかり、未だ魂の半分が測定室に置き去りにされたかのように背中をさすっていると、コムイが眼鏡のブリッジを指先でクイと押し上げた。
「さて」
冷徹なほどに事務的な空気が、その一言で空間を支配する。
「僕たちは科学班にまだ少し用事があるんだ」
傍らに控えていたブリジットも、無機質な表情のまま一礼した。
「トシコのデータ整理と装備登録がありますので」
トシコは松葉杖にドッシリと全体重を預け、どこか愉快そうに目を細める。
「おや、じゃあここでお別れかい?」
コムイは、まるでいたずらっ子を見守るような慈愛を含んだ笑みを浮かべた。
「そうなるね。鍛錬場はここから少し離れているから――」
視線が横に流れる。そこに立つリナリーを捉えた。
「リナリー、案内してあげてくれる?」
「わかったわ、兄さん」
リナリーが柔らかく、淀みのない笑顔で頷く。トシコは、顔をぱっと明るくした。
「おやまぁ、こんなに可愛いお嬢ちゃんとまだ居れるのかねぇ。こりゃあ贅沢だねぇ」
コムイが小さく吹き出す。
「迷子にならないようにね、トシコ」
「ありがたいねぇ」
トシコはリズムよく松葉杖を床につき、軽やかな足取り(杖の調子も悪くないようだ)で歩き出す。
「じゃあ案内しておくれよ、お嬢ちゃん」
リナリーは少し前を歩き出し、回廊の角で足を止めて振り返った。
「鍛錬場はこの先です」
トシコは、その背中を慈しむような視線で追いかけながら、わざとらしくトボけた口調でぽつりと呟く。
「……ところでさ」
リナリーが不思議そうに首を傾げる。
「なにかしら?」
トシコは、今度は隠し事なんて一切ないという顔で、ニヤリと豪快に笑ってみせた。
「あんた、良い人はいるのかい?」
リナリーの足が、回廊の床を叩く音を立ててぴたりと止まった。
「えっ……?」
予期せぬ直球に、彼女の瞳が揺れる。トシコは至って真顔だ。
「若い娘さんだろ? ここは野郎が多そうだしねぇ。恋の一つや二つ、転がってやしないのかい?」
「い、いません!」
食い気味の即答だった。リナリーの頬が、あからさまに朱に染まる。トシコは目を細め、ニヤリと悪戯っぽく笑った。
「へぇ~。そんなに潔く否定されると、余計に怪しいもんだねぇ」
「本当に、いないんですってば!」
リナリーは少し早足になり、言い訳をするように視線を泳がせる。トシコはそんな彼女の背中を、懐かしむような眼差しで見つめていた。
「そうかい、そうかい。まぁ、あたしも若い頃はあちこちでモテたけどねぇ」
リナリーが不意に足を止め、振り返る。
「そうなんですか?」
トシコは松葉杖を突き、誇らしげに豊かな胸を張った。
「そりゃもう。当時のあたしは、自分でも惚れ惚れするくらいの超美人だったよ」
静寂。
リナリーは一瞬、トシコの今の姿に、輝かしい面影を探すようにじっと見つめ――ふわりと、心からの笑顔を浮かべた。
「……今も、とても素敵ですよ」
トシコは「ふん」と鼻で笑い、杖の柄を握り直す。
「お世辞が上手いねぇ、あんた」
リナリーは小さく首を横に振り、少し照れたように、でも真っ直ぐな瞳で続けた。
「本当です。……トシコは、痩せたら絶対に美人だわ」
その言葉は、トシコという人間への純粋な敬意に満ちていた。
トシコは一瞬、きょとんとして固まった。
次いで、腹の肉を揺らすほどの豪快な笑い声を廊下に響かせる。
「ははははは! それ、よく言われるよ!」
トシコは満足げに自分の腹をバンと叩くと、リナリーの隣に並び、再び歩き出した。
「あんたみたいな真っ直ぐな子に言われると、なんだか本当にそうなれる気がしてくるねぇ」
やがて廊下の奥から、金属がぶつかる乾いた音が聞こえてきた。
ガシャッ、カチャッ
不規則的な音。
トシコは耳を澄ます。
「なんだい、この音」
リナリーが微笑む。
「鍛錬場からだわ」
曲がり角をひとつ抜けると、広い空間が見えてきた。
高い天井。
石の床。
団員たちが剣や武器を振るい、汗を流している。
トシコは松葉杖を止めた。
「ほぉ……」
目を細める。
その入口に、黒い室内着の男が一人、壁にもたれて立っていた。
腕を組み、こちらを見ている三白眼。
神田だった。
リナリーが軽く手を振る。
「神田、連れてきたよ」
神田はゆっくり顎を上げる。
「……遅ぇ」
トシコは松葉杖をつきながら肩をすくめた。
「悪かったねぇ。若い娘さんと話してたんだよ」
神田の眉がわずかに動く。
鍛錬場の空気が、少しだけ張り詰めた。
トシコはその空間をぐるりと見渡す。
「さて……」
にやりと笑う。
「ここで何をやらされるんだい?」
神田はゆっくり腕をほどいた。
「……来い」
次の瞬間。
鍛錬場の空気が、変わった。
つづく、2026/03/11