おばちゃんエクソシスト誕生
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第5話。
医務室の空気を破ったのは、ベッドの上の男だった。
「……あ、あの」
包帯だらけだったはずのファインダーが、ぴんと背筋を伸ばしている。
右腕を握って開いて、ぱあっと顔を明るくした。
「動きます!痛くありません!」
そのまま、勢いよく頭を下げた。
「ありがとうございます!」
トシコはまだ胸を押さえたまま、へらっと笑う。
「やだよ、そんな大げさに……」
膝が笑っている。
「ちょっと心臓が飛び出そうになっただけだよ」
コムイが支えながら言う。
「ちょっとじゃないよ。本当に大丈夫かい?」
ブリジットはメモを取りながら冷静に。
「心拍数、一時的に倍近くまで上昇しました」
「倍!?お得じゃないか!」
「お得ではありません」
神田は無言。 だが視線は逸らさない。
トシコはよろよろと立ち上がる。
「ほら、次はどの人だい?」
「トシコくん、無理を――」
「人の役に立つって、気持ちいいもんだねえ」
笑って、隣のベッドへ移動する。
神田が小さく舌打ちした。
「……止めねぇのか」
コムイはこめかみを押さえる。
ブリジットが静かに言う。
「どのような能力か確かめる必要があります」
結局、誰もトシコを止めなかった。
二人目。 三人目。
光が走るたび、おばちゃんの背中が丸くなる。
血管に沿って白い線が浮かび、胸を押さえ、息を荒くする。
だが――
ベッドの上の団員たちは次々と回復していく。
最後の一人が起き上がったとき。
トシコはゲッソリと壁にもたれていた。
「……はは……世界救う前に、わたしが救急搬送だよ」
足が震える。
全然歩けていない。
手を伸ばして、つい、無意識に近くにいた神田の腕にがっちりしがみついてしまう。
まるでぎっくり腰の人の姿勢で。
「ゼーハー……兄ちゃん……ちょっと肩貸しな……」
「…重い」
「なんだって?」
「チッ」
どこから出したのか、神田は松葉杖を押し付けた。
「これ使え」
「いつの間に持ってたんだい」
「フン」
「用意周到だねえ!」
松葉杖を使っても、歩き方は明らかに老人。
コムイが咳払い。
「では次は科学班へ行こうか」
「まだあんの!?」
「採寸だよ。団服を作らないとね」
トシコは自分の腹と神田を交互に見る。
正しくは神田のスタイルの良さと比較してる。
「似合うかねえ……」
ブリジットが真顔で。
「心配ありません」
トシコは自分の腹を摘む。
ここで神田が足を止める。
「俺は行く必要ねぇだろ」
コムイがにっこり。
「じゃあ俺は鍛錬場行く」
トシコに目を向ける。
「おい、ババア」
「ゼーハー……なんだい」
「終わったら鍛錬場に来い」
「ゼーハー……わかったよ……ゼーハー」
神田は踵を返す。
去り際に一瞬だけ、トシコの足元を見る。
それから、何も言わずに去った。
静かになる廊下。
トシコは松葉杖に体重を預けながら、ぼそり。
「そういや……鍛錬場ってどこや?」
コムイが微笑む。
「迷子にならないように案内するよ」
「ありがとねえ」
だけどトシコは深いため息をつく。
「はぁ……到着したばかりだってのに…」
そして、顔を上げて、にやり。
「忙しい職場だねえ。嫌いじゃないよ」
コムイが少しだけ真面目な目をした。
「……ありがとう、トシコくん」
「で、科学班はどこだい?」
松葉杖を上手く使っておばちゃんはふたりの先を歩き出す。
その背中を見ながら、ブリジットが小さく呟いた。
「……心臓への負荷が大きすぎます」
コムイは何も答えられなかった。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
科学班の区画に入った瞬間、空気が変わった。
医務室の血と薬品の匂いとは違う。
鉄とアルコールと、熱いガラスの匂い。
静かなのに――何かが常に動いている気配がする。
どこを見ても白衣、白衣、白衣。
何人もが行き交い、器具を運び、書類を抱えて早足で通り過ぎていく。
トシコは松葉杖をつきながら、きょろきょろした。
「うわぁ……ここ、台所より忙しいねえ」
ブリジットが淡々と説明する。
「科学班です。武器・装備・測定・記録。すべてここで行います」
「つまり、なんでも屋かい」
「雑にまとめないでください」
そう言いながらも、ブリジットの足は迷いなく目的の部屋へ向かう。
コムイは途中で帽子を取り、職員に軽く会釈した。
そのとき。
「室長!」 「室長、医務室から連絡が――」 「例の“寄生型支援”の適合者は本当ですか!?」
白衣たちが、コムイに波のように寄ってきた。
目が真剣で、早口。
まるで、珍しい試薬瓶を見つけたみたいなテンションだ。
トシコは反射的に松葉杖を抱きしめた。
「な、なんだい……人気者かい?あたし」
だけど群がられてるのはコムイであって
おばちゃんにでは無い。
コムイが苦笑して両手を上げる。
「落ち着いて、落ち着いて。まだ本人もよく分かってないんだ」
白衣の一人が、トシコの掌を見ようと身を乗り出す。
「十字の痕は?発光は持続性ですか?」 「発動時の自覚症状は?胸部痛?失神は?」 「代償の部位固定は?全身反応?」
「質問が多いよ!」
トシコが思わず叫ぶと、白衣たちは一瞬ぴたりと止まった。
そして次の瞬間。
「声量は十分ですね」
「肺活量がある」
「心肺耐性……」
勝手にメモが始まった。
「耐性とか言うなあ!」
ブリジットが低い声で制する。
「距離を保ってください。まだ検査前です」
白衣たちは渋々一歩下がるが、目は離さない。
トシコは小声でコムイに囁いた。
「ねえ室長さん、あたし今……見世物になってないかい?」
コムイはにっこり。
「なってるね!」
「即答すな!」
ざわっと笑いが起きる。
でもその笑い方は、どこか安堵みたいでもあった。
“使えるかもしれない希望”が、そこに立っているから。
部屋の奥から、コーヒーの香りが漂ってきた。
白衣の波の向こうに、団服姿がひとり。
リナリーだった。
トレイを抱えて、研究員にカップを配っている。
「兄さん、ブリジット。お疲れさま」
トシコはその姿を見て、喉が鳴った。
「あらまあ…」
団服。
ぴっちり。
そして、綺麗。
そして自分の腹。
(ゴクリ…)
リナリーは一瞬で察したように微笑み、トシコの前にカップを差し出す。
「どうぞ。甘いの、入れておきました」
「ありがとねえ……優しいねえ……」
「私、リナリー・リー。よろしくね」
「私はトシコ。おばちゃんでいいよ」
それを見て、白衣の一人が真顔で言った。
「精神安定効果。甘味投与は有効ですね」
ブリジットが次の扉を開けて、端的に言う。
「中へ。ここからが本題です」
白衣たちが一斉に道をあけた。
トシコは松葉杖をつきながら、ぽつり。
「……なんだか、入院手続きみたいだねえ」
コムイが優しく、でも逃がさない声で返す。
「近いよ。入院じゃなくて――入団だけどね」
つづく、2026/02/25