おばちゃんエクソシスト誕生
❤安心のお名前設定❤
楽しく読むためにおばちゃんの名前を変えることが出来ます。
好きな名前に変換して読んでみましょう。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第4話
廊下に引きずり出されたトシコは、まだもぐもぐしていた。
「なんだい、まだ食べたかったよぅ」
手には、いつの間にか確保していた小さなパン。
神田は腕を掴んだまま、足を止めない。
ぐい、と強く引く。
「チッ……デブになりてぇのか」
一瞬間を置いて、ぼそり。
「あ。もうなってるか……」
「失礼だね!」
トシコは即座に噛みつく。
「このガ……じゃないわ、兄ちゃん」
ギリギリで言い換える。
神田のこめかみがぴくりと動いた。
(ったく……俺だって暇じゃねぇんだよ)
小さく舌打ちしながら、ぶつぶつと呟く。
歩きながら、トシコはふと首を傾げた。
「ねえ、兄ちゃん」
「……なんだ」
「ところでどこ行くんだい?」
「コムイん所だ」
(ああ。そういや、まだなんかあったわねぇ)
「じゃあさ。エクソシストって、何やるんだい?」
神田の足が、ぴたりと止まった。
一瞬、廊下の空気が止まる。
(……そこからかよ)
振り返らずに、低く吐き捨てる。
「……めんどくせぇ」
「なにさその溜め息」
「知らねぇ。コムイに聞け」
再び歩き出す。
「悪魔祓いとか?」 「……」 「十字架振り回したり?」 「……」 「聖水ぶっかけたり?」
「……うるせぇ」
だが否定はしなかった。
トシコは勝手に納得する。
「まあ、あたし向いてるかもしれないねえ。食堂の酔っ払い相手で慣れてるし」
「AKUMAと一緒にすんな」
「似たようなもんだろ」
「全然違う」
そうこうしているうちに、廊下の突き当たりに木製の扉が見えてきた。
金属の装飾が施された、いかにも“偉い人の部屋”という雰囲気。
神田は立ち止まり、扉の前で手を放す。
「着いたぞ」
トシコはパンを飲み込み、服の裾を軽く払った。
「ここが室長さんの巣かい」
「…そうだな」
神田がノックする。
「連れてきてやったぞ」
中から聞こえる、やけに元気な声。
「どうぞー!」
扉が開く。
そこには、書類に目を通すコムイ・リーとその横に室長補佐のブリジットがいた。
眼鏡の奥の目が、きらりと光る。
「やあやあ!お腹は満たされたかい?」
トシコはにっこり笑った。
「ええ!素晴らしい職場だねここは!」
神田は無言で天井を仰いだ。
(……先が思いやられる)
こうして――
“何も分かっていない新人寄生型支援エクソシスト”の、本当の説明会が始まろうとしていた。
「あのね、早速だけどトシコくんのイノセンスだけどね」
「“トシコくん”?おばちゃんでいいよぅ」
「そんな訳には行かないよ。トシコくんはエクソシストだから特にね」
(そんな呼ばれ方初めてだよ…くすぐったいねえ。後ろの兄ちゃんなんて、ババア呼びだよ)
コムイが書類をぺらりとめくる。
「トシコくんの力は癒し系だね」
「“癒し系”…」
トシコはぽーっと頬を赤く染めた。
「そりゃ、若い頃は……“癒しのトシコ”って言われたもんさ!ガハハ!モテてモテて……」
室内がしん、と静まる。
神田は無表情。 ブリジットは瞬き。 コムイは書類を見たまま動かない。
「……やだよ……冗談も通じないのかい……」
小さく肩を落とす。
コムイは咳払いをひとつ。
「正確には“傷を肩代わりする力”だね。治すというより、引き受ける」
「引き受ける?」
「試してみようか」
さらりと言って、立ち上がる。
ブリジットが静かに前へ出る。
「こちらへ」
医務室へ4人で移動。
扉を開けた瞬間、空気が変わった。
血と薬品の匂い。 静かなうめき声。 白いシーツの上に横たわる団員たち。
どのベッドも、重症者ばかりだった。
トシコは足を止める。
「……あらまあ」
声が自然と小さくなる。
「この人たち、どうしたんだい?」
ブリジットが静かに答える。
「闘いで傷を負った団員たちです」
神田がぽつりと言う。
「あんたもすぐ、こうなる」
空気がわずかに冷える。
コムイはこめかみから汗を垂らしながら、神田を見る。
「神田くん、もう少し言い方というものが――」
「事実だろ」
神田は視線を逸らさない。
トシコは黙ってベッドを見回す。
入口から一番近いベッドの傍に立ってブリジットが説明する。
「この人はファインダーの方です。昨夜、運ばれて来ました。全体に挫滅創、右腕に開放性骨折です」
白い包帯が、赤く滲んでいる。
顔色は悪く、呼吸も浅い。
「聞いただけで元気が無くなるよ……」
トシコはぽつりと呟く。
だが、その目はもう笑っていなかった。
ベッドの横に立ち、そっとその人の顔を覗き込む。
「この人、助かるのかい?」
コムイは少し間を置いた。
「君の力を見たい」
コムイの静かな声。
トシコは自分の掌を見る。
十字の痕が、かすかに熱を帯びる。
「……触ればいいのかい?」
「そうだね」
神田が腕を組んだまま見ている。
「無理ならやめろ」
ぶっきらぼうな声。
「ババア。死ぬぞ」
コムイが慌てて補足する。
「いや、死なないよ!とは言い切れないけどね!?でも大丈夫なはずだよ!多分!」
「多分ってなんだい!」
だが、この痛々しい人たちを放っておけない。
トシコはそっと、怪我人の腕に手を重ねた。
「……ちょっと失礼するよ」
目を閉じて、何となく念を送る。
ベッドの脇には、車輪付きの監視装置が置かれていた。
細い管が患者の腕に繋がり、心拍と脈拍を示す波形が小さな画面に映し出されている。
ブリジットはその横に立ち、静かにモニターを見ていた。
「バイタル安定……」
同時に、モニターの波形が跳ね上がった。
ピッ、ピッ、ピッ――と警告音が鋭く鳴る。
ブリジットの目が鋭くなる。
「心拍数急上昇……!」
視線を動かす。
「患者ではありません――適合者側です!」
その瞬間。
掌の十字が、白く光った。
掌から流れた白い光が、傷口へ吸い込まれる。
最初は、じんわり。
あたたかい。
「……あれ」
次の瞬間。
ドン、と心臓を内側から殴られた。
「……っ!」
息が止まる。
胸を掴む。
白い光が、今度は逆流した。
ファインダーの体から抜け出した光が、糸のようにトシコへと繋がり――
そのまま、血管に沿って一気に駆け上がる。
ばあああっと、白い筋が皮膚の下を走る。
腕から、肩へ。 首筋を通り。 胸へ。
「ぐ……っ……!」
心臓が、握り潰される。
肋骨の内側で何かが暴れている。 鼓動が乱れる。
神田の目が、はっきりと見開かれた。
腕を組んでいたはずの腕が、解ける。
一歩、無意識に前へ出る。
ブリジットは表情を保ったまま、しかし眉間に深い皺が刻まれる。
光は、トシコの胸元で爆ぜるように収束した。
そして――消える。
ベッドの上のファインダーが、ゆっくりと起き上がった。
「……あれ?」
右腕を動かす。
「痛く、ない……?」
完全に治っている。
その代わりに、トシコは、胸を押さえたまま膝をついた。
「は……っ……は……」
息が浅い。
「トシコくん!」
コムイがすぐ腕を支える。
だがトシコは、自分の胸を叩く。
「な、なんだい……今の……心臓……止まるかと思ったよ……」
立とうとするが、足が言うことをきかない。 膝が崩れ落ちる。
神田が、無言で一歩寄る。
口がわずかに開いている。
ほんの一瞬、焦りが見えた。
ブリジットが低く言う。
「代償型?……いえ、吸収型……?」
トシコは苦笑した。
「だ、だいじょうぶ……大丈夫だよ……」
胸の奥はまだひりひりする。
「こんなの……出産に比べりゃ……」
そこで息が詰まる。
一瞬だけ、目が揺れた。
コムイが静かに問う。
「トシコくん……子供がいるんだ?」
沈黙。
トシコは目を逸らした。
「あは……」
唇だけで笑う。
「居たねえ……」
胸を押さえたまま、ぽつり。
その言葉だけが、医務室に残る。
神田の指先が、ぎゅ、とわずかに握られた。
さっきよりも、強く。
つづく、2026/02/21