おばちゃんエクソシスト誕生
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第3話。
「おなか空いたよぅ。朝飯食わせねぇとおばちゃん暴れるぞ」
おばちゃんが低く言った。
コムイは一瞬だけ真顔になったあと、ぱっと笑った。
「それは大変だ。じゃあ先に食堂でご飯を食べておいでよ。その後に続きをやろう」
「話が分かるじゃないか、室長さん」
「兄ちゃん、食堂どこだい?」
当然のように神田の腕を掴む。
神田の眉間に皺が寄る。
任務報告をさっさと済ませたいのが見え見えだった。
神田は無言でコムイを見る。
コムイはすっと視線を逸らした。
「……途中まで連れてってやるよ」
諦めた絞り出すような声だった。
「最初からそう言えばいいんだよ」
廊下を歩きながら、トシコはきょろきょろと辺りを見回す。
「広いねえここは。掃除する人は大変だよ」
「……関係ねぇだろ」
「関係あるよ。働く人の気持ちを考えな」
神田は面倒すぎて、何も言い返さなかった。
食堂の手前で足を止める。
「ここをまっすぐ行けば着く」
「ありがとよ、兄ちゃん」
腕を離すと、トシコはずんずん進んでいった。
神田は一瞬だけその背中を見てから、深いため息をついた。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
扉を開けた瞬間。
トシコは立ち止まった。
「……うわあ」
思わず声が漏れる。
広い。 とにかく広い。
長いテーブルがずらりと並び、天井は高く、朝の光が大きな窓から差し込んでいる。
そして何より――
「いい匂いだねえ……」
焼きたてのパン、スープ、肉料理。 香りだけで腹が鳴りそうだった。
「白パンがこんなに!」
カウンターの向こうで、マッチョな料理長が笑う。
「おや、新人さん?」
「さっき入団したよ。よろしくだわよ」
「私はジェリー。ここの料理長よ」
「あたしはトシコ。おばちゃんでいいよ」
「OK、お姉さん、何食べる?」
「何があるのかい?」
「言ってくれりゃ何でも作るわよ」
目が輝いた。
「じゃあこれとこれと……あとそれも!これはなんだい?」
「東洋の島国の味噌汁っていうスープよ」
「知らないねぇ。じゃあそれも」
気づけば皿が増えていく。
パンの山、シチュー、卵料理、焼き魚、サラダ、肉の煮込み。
テーブルいっぱいになった。
(頼みすぎたよ……どうしようかねえ)
一瞬だけ冷静になる。
だが腹は正直だった。
「いただきます!」
勢いよく食べ始める。
一口目で目を見開く。
「美味しい!」
手が止まらない。
パンをちぎり、スープをすすり、肉を頬張る。
(ありゃ不思議だねえ……)
どれだけ食べても苦しくならない。
むしろ、体の奥から力が湧いてくる。
(いくらでも食べれちゃうよ!)
夢中で食べ続ける。
その様子を、斜向かいの席から赤毛の青年がぽかんと見ていた。
フォークを持ったまま固まっている。
「……すげぇ」
思わず呟く。
トシコは顔を上げた。
口いっぱいに頬張ったまま言う。
「なんだい兄ちゃん。見せ物じゃないよ」
「いや……見せ物レベルさ」
青年はにかっと笑った。
「俺、ブックマンジュニア。まぁ、みんなラビって呼ぶさ。あんた新人?」
「そうだよ。あたしゃトシコ。腹減ってるおばちゃんさ」
ラビは笑いながらテーブルを見る。
「それ全部一人で?」
「今のところはね」
そう言って、ラビに肉団子が乗った皿を送る。
「ここからは兄ちゃんも食うんだよ」
「へ?」
「兄ちゃん、若いからイケるやろ、ほら食べな」
ラビは呆気に取られたまま、笑った。
「アンタ面白い人だね」
「アンタじゃない。おばちゃんだよ。兄ちゃんならお姉さんでもいいよ」
ラビはこめかみから汗を垂らしながら、つくねの皿を受け取った。
「……どーも……」
すでに満腹だったらしい。 フォークを持つ手がわずかに震えている。
「腹いっぱいお食べ」
トシコは笑いながらパンをちぎる。
「出されたもんは残さず食べな」
「いや、出されたのはお姉さんの方なんだけどさ…」
ラビはテーブルいっぱいの皿を見て身震いをする。
「お姉さんと呼んでくれるのかい!兄ちゃん良い奴だね!」
そのとき、食堂の入口が開いた。
神田だった。
任務報告を終えたらしい。 いつもの仏頂面で中を見回し――そして、例のテーブルでぴたりと視線が止まる。
皿の山。 パンの残骸。 そして中心で幸せそうに食べ続けるおばちゃん。
神田は深いため息をついた。
トシコはすぐ気づいて手を振る。
「おーい長髪の兄ちゃん!ここ空いてるよ!」
隣の椅子をばんばん叩く。
神田は無視した。
少し離れた席に座る。
「ちょっと!なんでそっち座るんだい!」
「うるせえ。ババアって呼ぶぞ」
ぴしっと言い放つ。
トシコは目を細めた。
「……あらあら、躾が必要みたいだねえ」
ゆっくりラビのほうを見る。
ラビは吹き出しそうになるのを必死でこらえた。
口元を押さえながら、にやにやする。
「ユウ!聞こえてるぞ」
「聞かせてんだよ!」
神田は無表情でパンをかじる。
だが耳がほんの少し赤い。
トシコは腕を組んでうんうん頷いた。
「反抗期だねえ。若い子は難しいよ」
「誰が子供だ!」
「はいはい」
適当に流して、また皿に手を伸ばす。
ラビは完全に面白がっていた。
(これから絶対楽しくなるさ……)
ニタニタ笑いながら二人を見る。
食堂の喧騒の中で、皿の音と笑い声が混ざり、新しい日常が、もう始まっていた。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
しばらくしても、トシコの食べる勢いは衰えなかった。
ラビがぽかんと見守る中――
食べ終わった神田が音もなく隣に立った。
影が落ちる。
「おい、いつまで食ってんだ」
トシコは唐揚げを頬張ったまま顔を上げた。
「あくあうあへー」
口いっぱいで何を言っているのか分からない。 だが“なくなるまで”と言いたいのは伝わった。
神田は無言で皿をひったくる。
「あっ」
唐揚げの皿が消えた。
「はにふんのさ!」
椅子から半分立ち上がる。
「今すぐ着いてこい」
神田は皿をカウンターに置きながら言った。
「たへおわったははね!」
必死に抗議する。
「ババア……てめえには時間がいくらあっても足んねぇんだよ。来い」
腕を掴まれる。
ずるずる引きずられる。
「はべものはほあつにしちゃいけないんだよ!」
必死にテーブルへ手を伸ばす。
いちごをつまんで口に突っ込む。
「往生際悪いな」
神田は容赦なく歩く。
椅子ががたんと鳴る。
ラビは腹を抱えて笑っていた。
「ユウ!後で行くさー」
「来るな!」
遠ざかる背中に叫ぶ。
トシコは最後のひと口をもぐもぐ咀嚼しながら、まだ未練がましく振り返った。
「ジェリーさーん!あとで続き食べるから取っとい――」
扉が閉まった。
食堂に一瞬の静寂。
次の瞬間、爆笑が起きた。
ラビは涙を拭いながら呟く。
「……あの人、サイコー」
つづく、2026/02/13