おばちゃんエクソシストの成長
❤安心のお名前設定❤
楽しく読むためにおばちゃんの名前を変えることが出来ます。
好きな名前に変換して読んでみましょう。
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
第3話。
食堂では、すでに小さな事件が起きていた。
「おかわりお願いします!」
「ジェリー! こっちも大盛りで頼むよ!」
アレンとトシコ。
二人の寄生型エクソシストが、向かい合ってチャーハンを爆食いしていた。
山盛りのチャーハンが運ばれてくる。
湯気が立つ。
次の瞬間には、もうチャーハンが半分ない。
レンゲが見えない程の速さ。
見えたと思ったら消えている。
アレンはにこにこと礼儀正しく「おいしいです!」と言いながら、信じられない速度で皿を空にしていく。
一方のトシコは、涙目で頬をパンパンにしながら、完全に戦後の炊き出しに命を救われた人の顔をしていた。
「んんん~~~っ! 生き返るねぇぇ! 米! 油! 卵! ネギ! これだよ、これ! 人間、最後に信じられるのは温かい飯だよ!」
「分かります! 温かいご飯って、本当にありがたいですよね!」
「分かるかい、ボクちゃん!」
「はい!」
「よし、あんたはいい子だ!」
一応会話は成立している。
積み上がっていく空皿の塔を前に、リナリーと科学班の面々は、ただ呆然と立ち尽くしている。
「……リーバー班長」
「なんだ」
「これ、止めた方がいいんでしょうか」
「止められると思うか?」
「……無理です」
「なら記録だけしておけ」
科学班の一人が震える手でメモを取る。
『寄生型二名、食堂にてチャーハンを大量摂取。速度、異常。多数の料理の消失を確認』
リナリーはぽかんと二人を見比べたあと、困ったように笑った。
「アレンくんもトシコも、よっぽどお腹が空いてたんだね……」
その間にも、ジェリーが新しい大皿を持ってくる。
「はいよ、麻婆豆腐だよ!」
「ありがとうございます!」
「ありがとよ、ジェリー!」
二人の声が綺麗に重なった。
そして、二人のレンゲが同時に動く。
ザッ。
ザザッ。
ザザザザッ。
まるで訓練された部隊の一斉射撃のような速度で、豆腐が消えていく。
「……すごい」
誰かが呟いた。
「戦闘より迫力あるな……」
「AKUMAより飯の方が早く消えてます」
「食費、どうなるんだ?」
リーバーが眉間を押さえた。
その横で、リナリーだけがふふっと笑う。
「でも、なんだか安心した」
「リナリー様?」
「アレンくん、さっきまであんなに不安そうだったから。ちゃんと食べられてよかった」
その言葉に、科学班の面々は少しだけ表情を和らげた。
たしかに、黒判定で騒ぎになった少年は、今や山盛りチャーハンを前に目を輝かせている。
そして隣には、同じ勢いで米をかき込みながら、いちいち「うまいねぇ!」と感動するおばちゃんがいる。
警戒心も、緊張も、気まずさも。
湯気と卵の香りの中で、少しずつほどけていくようだった。
ただし、食堂の在庫も同時にほどけていた。
「ジェリー! 次、もう一皿!」
「僕もお願いします!」
ジェリーは一瞬だけ厨房の奥を見た。
米びつを見た。
そして、覚悟を決めた顔で親指を立てる。
「任せな! 今日は食わせるよ!」
その瞬間、トシコは拳を握りしめた。
「聞いたかい、ボクちゃん! ここが黒の教団だよ!」
「はい! すごくいいところです!」
「判断基準が食堂になってる……」
リーバーの呟きは、チャーハンをかき込む音にかき消された。
こうして、黒判定で始まった緊急事態は、いつの間にか――
寄生型二名による、チャーハン大食い大会へと姿を変えていた。
そこへ、任務から帰ってきたばかりのラビとブックマンが、それぞれ食事の乗ったトレイを手にやってきた。
ラビはいつもの調子で明るく声を弾ませる。
「なぁなぁ! 新しいエクソシストが入ったって聞いたさ!」
噂の新人を一目見ようと、興味津々でやって来たのだろう。
だが、ラビの足はトシコたちの手前でぴたりと止まった。
目の前に広がっていたのは、新人歓迎の穏やかな昼食風景――ではなかった。
テーブルの上に積み上がる、皿、皿、皿。
空になった皿の塔。
横に避けられたスープ皿。
追加待ちの大皿。
そして、その中心で、白い髪の少年が礼儀正しく、しかし凄まじい速度でチャーハンを口に運んでいる。
向かい側では、トシコも同じ勢いで米をかき込みながら、涙目で「うまいねぇ……!」と震えていた。
「…………」
ラビは目を丸くした。
片目をぱちぱちと瞬かせる。
「……え?」
それから、隣に立つブックマンを見る。
ブックマンは無言で皿の山を見た。
次に、アレンを見た。
さらに、トシコを見た。
そして、低く呟いた。
「……寄生型が二人揃うと、食堂はこうなるのか」
「いや、ジジイ、そこ冷静に分析するとこか!?」
ラビが思わずツッコむ。
「おっ、ラビ! ブックマン! 久しぶりだねぇ!」
トシコが勢いよく振り返る。
ただし、その口の周りにはチャーハンの米粒が数粒、見事に張りついていた。
ブックマンは一瞬だけ目を細めると、淡々と指摘する。
「これ、トシコ。口周りに米粒が付いとるぞ」
「ん? ああ、あとで取るよ!」
「今取れ」
「食べてる途中なんだよ!」
「見れば分かるわい」
ブックマンは呆れたように息を吐き、それからトシコの真向かいに座る白髪の少年へ視線を移した。
「……む。その隣の白髪の小僧が、噂の新入りのようじゃな」
その言葉に、アレンは慌ててレンゲを置こうとした。
だが、口の中にはまだチャーハンが残っている。
それでも礼儀正しく挨拶をしようと、もごもごと咀嚼しながら背筋を伸ばした。
「あ、はじめまふ。ほくは、アレ――」
「このボクちゃん、行き倒れそうだったんだよ!」
トシコの声が、アレンの自己紹介を見事に踏み潰した。
「ふーっ!?」
アレンが目を丸くする。
だが、トシコはまったく気づいていない。
むしろラビのトレイに素早く視線を走らせると、そこに乗っていた唐揚げを見つけて、目を光らせた。
「ラビ、あんたの唐揚げ、いいねぇ!」
「え? 俺の?」
「このボクちゃんに回すよ!」
「えーっ!? 俺の唐揚げ!」
ラビが大げさに叫ぶ。
しかし、アレンの細い肩と、皿の山と、それでもまだ足りなさそうな食べっぷりを見た瞬間、ラビはにっと笑った。
「……ま、いっか!また貰ってくればいいさ」
ラビのトレイから取り上げた唐揚げをトシコは、ひょいとアレンの皿へ移した。
「ほら、ボクちゃん。食いな食いな!」
「ふ、ふーっ!? んぐっ……ぼ、僕はボクちゃんでは……!」
「遠慮しない!」
トシコが横から即座に言う。
「ラビの唐揚げは、今この瞬間からボクちゃんの栄養だよ!」
「俺の唐揚げ、転職早いさ」
ラビが笑いながら肩をすくめる。
アレンは、せっかく名乗ろうとした口を再びチャーハンと唐揚げで塞がれ、完全に背景と化した。
「むぐ……ふ、ふぁの……僕は……ア…」
「よしよし、食べながらでいいよ!」
「よふなあです……!」
「食べる子は偉いんだよ!」
「名おるふぉもえがいと思ひます!」
その必死な抗議も、トシコには届かない。
リナリーは口元を押さえながら、とうとう肩を震わせ始めた。
リーバーをはじめとした科学班の面々も、完全に観察対象を「新入りの能力」から「新入りがいつ自己紹介に成功するか」へ切り替えている。
ブックマンは静かにアレンを見つめ、低く呟いた。
「……名乗る前に餌付けされるとは、珍しい入団じゃな」
「爺さん、そこ記録してもいいよ」
「ふむ。記録に値する」
「するんだ……」
ラビは笑いながら、アレンの皿にさらに自分の付け合わせを少し分けた。
「ま、よろしくな。ボクちゃん」
「ですから、僕は――」
「アレンくんだよ、ラビ」
リナリーが笑いながら助け舟を出す。
その瞬間、アレンの顔がぱっと明るくなった。
だがその直後、トシコが満足げに頷く。
「はいはい、アレンちゃんね。じゃあアレンちゃん、唐揚げ冷める前に食べな」
「ちゃん付けになりました……!」
「よかったさ、ボクちゃんから昇格したな」
「それは昇格なんですか!?」
食堂に、どっと笑いが起きる。
黒判定で教団中を騒がせた白髪の少年は、こうして正式な自己紹介より先に、チャーハンと唐揚げとトシコの世話焼きに飲み込まれることになった。
そして科学班の記録には、静かに一行が追加される。
『新入り、自己紹介に失敗。原因、主にトシコさん』
つづく、2026/06/02