おばちゃんエクソシスト誕生
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第11話。
午前10時頃。
教団の科学班が徹夜のテンションで縫い上げたという、驚異の寄生型支援エクソシスト用・超伸縮仕様の団服が、ついにトシコの部屋に届けられた。
姿見の前に立つトシコの表情は、かつてないほど輝いている。
「お? おおっ……?」
クルッ、クルッ、と左右に贅肉を捻りながら、鏡の中の自分を凝視する。
そこに映っているのは、いつもの「歩くだるま」ではない。
黒い生地の引き締め効果と、科学班執念の立体裁断により、奇跡的に二割ほど視覚的なスリム化に成功した、凛々しき女戦士(予定)の姿だった。
「キュっとしてるのに、全然苦しくない……! 魔法かい、こりゃあ!」
腹周りのホールド感に感動し、トシコが自慢の腹をポンと叩く。
特注の長ズボンは、激しい運動(主に神田からの逃走)を想定したストレッチ素材。太もものパツパツ感は否めないが、不思議と足が軽く感じる。
「トシコ、どう? 」
ひょこっと、鏡の端からリナリーが顔を出した。
彼女のダークブーツに合わせた軽やかな装いに対し、おばちゃんのは重戦車のような安定感がある。
「いーねぇ、これ。見た目は鋼鉄みたいに硬そうなのに、動くと羽みたいに軽いよ。これなら神田の兄ちゃんから逃げるのも可能かねぇ」
「ふふふ。科学班の自信作だもの」
リナリーがトシコの隣にぴたりと並び、鏡に向かって微笑む。
その瞬間。
トシコの胸に、さざ波のような衝撃が走った。
(……若さ……スタイル……そして、この溢れ出るヒロインオーラ……)
隣に並ぶのは、しなやかな曲線美を誇る美少女。片や自分は、漆黒の布に包まれた「気合の入ったダルマ」。
一瞬、トシコの肩がシュンと落ちる。
が、おばちゃんの再起動は、Windowsの立ち上げより速い。
「……ま、素材が違うのは百も承知だよ! あたいはあたいの道を行くのさ!」
パンッ、と自分のケツを叩いて気合を入れると、トシコは鏡の前で不敵に片手を腰に当て、もう片方の手を天に突き出した。
「嬢ちゃん、見てな。これが女戦士の『キメポーズ』だよ! 嬢ちゃんもやってごらん!」
「こう……?」
リナリーが少し照れながらも、トシコに合わせて鋭いポーズを決める。
黒い団服を纏った二人が並び、ビシィッ!とポーズが決まった。
「そうさ! うちら二人揃って、『黒の聖女(ブラッディ・ヴィーナス)コンビ』だよ!」
「「ビシィッ!!」」
脱衣所の「パンッ」に続き、またしても新たな絆が爆誕したその時。
背後の扉から、冷気を帯びた低い声が水を差した。
「……『黒の肉団子(ブラック・ミートボール)』の間違いじゃねぇのか」
「むむっ! 出たな! 悪のポニテ魔人!」
トシコは即座に振り返り、六幻を携えた神田を指差す。
神田は心底呆れたように、こめかみに青筋を浮かべて立っていた。
「……誰が魔人だ」
「悪の方は認めるんだ…」
リナリーがぽつりと呟いた言葉に、神田はわずかに言葉を詰まらせ、さらに不機嫌そうに目を細めた。
「おいババア、馬鹿なことしてねぇで早速任務だ。……行くぞ、時間だ」
「任務!? もうかい? せめてこの新品の服で、食堂のジェリーさんに自慢しに行く時間くらいおくれよぅ!」
「……五秒以内に来ねぇと、引きずっていくぞ」
神田は踵を返し、廊下へと消えていく。
トシコは「相変わらず可愛げがないねぇ」と毒づきながらも、リナリーと顔を見合わせ、新調されたブーツで床を力強く踏みしめた。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
科学班の奥深くに鎮座する、設計図めいた紋――転送門。
教団が各地の拠点と繋いでいるこの超常的な移動手段を使い、トシコと神田は任務先に最も近い教会へと一気に跳躍した。
だが、一瞬の浮遊感の後、降り立った礼拝堂で最初に響いたのは、聖なる祈りではなく、この世の終わりのような音だった。
「……オ、……オェェェ…………」
トシコは教会の冷たい石床に四つん這いになり、生まれたての小鹿……というよりは、限界を迎えたトドのように激しく肩を揺らしていた。
トシコの顔色は新調した団服のボタン(シルバー色)よりも青白くなっている。
「……だ、だから、酔い止めを用意しとけと、…あたいの三半規管は……紀元前で止まってるんだよ……。あんな、内臓が置いていかれるような移動……二度とお断りだよぅ……」
「……チッ。汚ねぇな、ババア。出すなら外でやれ。聖域を汚すんじゃねぇ」
神田は、死にかけのトシコを一瞥し、心底嫌そうに鼻先を指で覆った。
「……アンタは……心がないのかい……。オェッ……あぁ、朝のおかずが…………再会を求めて逆流してくるよ……」
「再会させるな! 」
神田の怒声が礼拝堂に響き渡る。
ようやく胃袋の反乱を気合で鎮めたトシコは、ガタガタと震える足で、どうにか用意されていた馬車へと乗り込んだ。
ここから目的地までは、馬車を乗り継ぐ数時間の旅となる。
ガタゴトと揺れる馬車の狭い車内、トシコはおもむろに懐から“それ”を取り出した。
「ねぇ、兄ちゃん。さっき室長さんに、これの使い方は兄ちゃんに聞きながら行けって渡されたんだけどさ。なんだい、この羽の生えた青色の団子は」
「……」
神田は窓の外を見つめたまま、深い、深い溜息をついた。
トシコは構わず、手の中のゴーレムを「おもちゃかい?」と適当に弄り回す。
すると、ゴーレムの目がカチリと赤く点灯した。
「わわっ! 動いたよ! 生きてるのかい、こりゃ!」
『――こちら本部通信班。どうされましたか? 緊急事態ですか?』
「喋ったよ! 兄ちゃん、これ喋ったよ! どうすんだい、これぇ!」
「おい、やめろ……ッ!」
パニックになったトシコが、隣の神田の肩をバシバシと力任せに叩く。
その衝撃で神田の体が窓に押し付けられ、馬車全体がトシコの重みと相まってミシミシと悲鳴を上げた。
神田は苛立ちの絶頂でトシコの手からゴーレムを鷲掴みにすると、通信口に向かって一言、
「……誤作動だ」
とだけ低く言い捨て、ブツリと強制的に回線を遮断した。
「……チッ。これは教団との通信機だ。無闇に触るんじゃねぇ」
神田は忌々しそうにゴーレムをトシコの膝に放り投げる。
「へぇー! そんな便利なもんがあるんだねぇ。で、どこをどう押せばいいんだい? このへんかい?」
再びゴーレムを突っつこうとするトシコの指を、神田が鋭い視線で制した。
「……その前に、もっとあっちに行けねぇのかよ。狭ェんだよ。俺を窓のサッシに埋め込む気か!」
「行ってるよ! これが限界だよ! 男のくせに少しの窮屈くらい我慢しな!」
「そのセリフ、現代だとアウトらしいぜ(※ハラスメント的な意味で)」
「……アンタにだけは言われたくないよ……。その性格、どの時代でもアウトだよ……」
トシコは口を尖らせながら、不満げに窓の外へ目を向けた。
神田の冷たい沈黙と、トシコのパツパツの団服が放つ圧倒的な圧。
そして膝の上で困惑したように羽を休めるゴーレム。
目的地に辿り着く前に、神田の忍耐という名の壁が崩壊するのが先か。
あるいは、トシコの重さで馬車の床が抜けるのが先か。
教団の肉団子とポニテ魔人の旅路は、まだ始まったばかりである。
つづく、2026/03/31