おばちゃんエクソシスト誕生
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第9話。
【教団・大浴場】
白く濁った湯気が、高い天井へとゆったりとのぼっていく。
広大な石造りの湯船に満ちた湯は、教団の地下深くから湧き出る霊泉か、あるいは単なる福利厚生の結晶か。
白濁した湯面が、ランプの光を柔らかく反射して揺れていた。
「はぁぁぁぁぁぁ……」
トシコは、顎までどっぷりと湯に沈み、肺にある全ての空気を吐き出した。
あまりの解放感に、肉体が湯に溶け出しているのではないかという錯覚さえ覚える。
「……生き返るねぇ……」
「ふふ、お疲れさま。……本当、すごい訓練だったものね」
隣でリナリーが、上気した頬を緩めてくすくすと笑った。
「すごいなんて、生易しいもんじゃないよ……あんなの、前世でどんな大罪を犯せば受ける拷問だい……」
おばちゃんは湯の中で手足をゆらゆらと動かし、焦点の合わない目で天井を仰いだ。
「兄ちゃん、絶対人間じゃないね。……ありゃ、筋肉でできた精密機械だよ」
「神田は、その……ちょっとストイックなところがあるから」
「ちょっとかい? だいぶだよ。あんな高速ピストン、人間業じゃないよ」
二人の間に、女同士の気安い笑い声が広がる。
汗と、汗と、汗と、泥にまみれた一日の終わりに訪れる、静かな安らぎ。
張り詰めていた空気は、湯の温もりに溶けて、跡形もなく消えていった。
「……よし、のぼせる前に出るよ」
トシコがよっこいしょと立ち上がると、リナリーも軽やかな動作で後に続いた。
磨き抜かれた木の床に、整然と並ぶ竹籠。
夕方の大浴場には他に人影もなく、湿り気を帯びた静寂が空間を支配していた。
「……あー、さっぱりしたねぇ」
おばちゃんはタオルで濡れた短髪をわしゃわしゃと乱暴に拭きながら、満足げなため息をついた。
リナリーもその隣で、白磁のような肌を丁寧にタオルで押さえていた。
その時である。
パンッ!
乾いた、小気味よい音が静かな脱衣所に響いた。
「?」
リナリーが怪訝そうに振り向く。
パンッ、パンッ。
トシコが、片足をぐいと椅子にかけ、手慣れた手つきでお股の間を、タオルでリズミカルに叩いていた。
迷いがない。一切の躊躇もない。
それはもはや、熟練の職人が素材を検品するような、神聖なまでの所作であった。
「……え」
リナリーが、動きを止めて固まる。
パンッ。
「……な、なにしてるの、トシコ……?」
おばちゃんは手を止めず、呼吸を整えるように当然の顔で答えた。
「乾かしてんのさ」
パンッ。
「こういうデリケートな場所はねぇ、水分をしっかり飛ばしておかないと、後でえらいことになるんだよ」
リナリーの大きな瞳が、ぱちぱちと瞬く。
「え、でも……普通に拭けば、それでいいんじゃ……」
「甘いねぇ。嬢ちゃん、あんたはまだ若すぎるよ」
トシコは手を止め、びしりとリナリーを指差した。
その目は、神田が訓練を強要する時よりも真剣だった。
「いいかい。女のアソコは、文字通り『神殿』なんだよ。蒸れたままにしておくなんて、不潔の極みさ。放置すればカンジダや細菌性腟炎の温床だし、ひどい時には毛じらみの隠れ家になっちまう」
妙に専門的で、圧倒的な説得力。
リナリーの表情が、一気に対AKUMA戦並みの真剣さに変わる。
「……そうなの?」
「そうさ。特にあんたたちは、戦場で駆け回るだろ? 蒸れは乙女の天敵だよ。痒くなってからじゃ遅いんだ。ちゃんとケアするのが、自立した大人ってもんさ」
パンッ!!
トシコは最後に1回だけお股をタオルで叩くと、ようやく手を止め、満足げにタオルを肩にかけた。
「……じゃあ」
リナリーがおそるおそる、自分のタオルを手に取る。
トシコはにやりと口角を上げた。
「そうそう。やってごらん」
師匠が見守る中、教団のアイドルであるリナリーは、少しだけ顔を林檎のように赤くしながら――。
パンッ。
「……っ」
あまりの音の大きさに、自分自身で驚いて肩を跳ねさせる。
トシコは深く頷いた。
「いいねぇ。いい響きだよ」
パンッ、パンッ。
「そうやって、空気を通してやるんだよ。湿気を追い出すのさ」
リナリーは、もはや儀式に臨む騎士のような顔で、必死に「パンッ」を繰り返す。
パンッ。
「……なんだか、不思議な感じ……でも、確かに清々しいかも」
「そのうち慣れるよ。いい女ってのはねぇ、見えないところ、つまり『土台』をちゃんとしてるもんさ」
リナリーは、その教えを心に刻むように、小さく、しかし力強く頷いた。
「……うん。わかったわ、トシコ」
脱衣所に、乾いた音が等間隔で響き続ける。
パンッ。
パンッ。
それは、ダークブーツを履いて戦う少女が、人生の先輩から受け継いだ、もうひとつの生き残るための強さの音であった。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
朝の五時。
遠慮という概念を母親の腹の中に置いてきたような開け方で、扉が開けられた。
そりゃそう、彼は母親のお腹からは産まれていないのだから。
「おい、ババア。いつまで寝てんだ!修行するぞ!」
低いがどこか愉しそうな声。
当然のようにノックはない。
そこにいるのは、朝五時という時間帯を“起床時間”ではなく“活動開始時間”と認識している男、神田ユウである。
そして。
その視線が、おばちゃんを捉えた瞬間。
――止まった。
「……」
数秒。
いや、神田の体感では数十秒に匹敵する、重く濃密な沈黙。
(……今、俺は何を見ている)
思考が、一瞬だけ停止する。
脳が、情報の処理を拒否している。
そこにあったのは――
半ケツである。
正確には、ズボンを臀部の中腹まで下げた状態で、腰を折り曲げ、見事なまでに“突き出された”それである。
さらに付け加えるならば。
既に、背中・肩・太ももといった各所に、白い湿布がペタペタと貼られている。
その様は、まるで戦場から帰還した兵士か、あるいは貼ることそのものに快感を覚え始めた新種の生物か。
そして当の本人は。
「……っ……い゛だだだだだ……っ」
産まれたての小鹿のように、ぷるぷると震えていた。
完全に、足腰が死んでいる。
「兄ちゃん……」
トシコは、背後に立つ気配に気づいたらしく、振り向こうとして――
振り向けない。
腰が、言うことをきかない。
結果。
ケツだけが、ぐいっと強調された。
「……いいところに来たね……ちょっと手伝いな……」
神田のこめかみが、ぴくりと動いた。
「……なにをしてやがる」
声は低い。
だが明らかに、いつものそれではない。
トシコは、そんなことなど一切気にせず、手に持っていた湿布をひらひらと振った。
「見りゃ分かるだろう。アンタのせいで全身筋肉痛だよぅ……」
ぐらり。
その場で体が揺れる。
「……っ、腰が……!死ぬ……!」
「……」
(引き返すか)
一瞬、本気でそう思った。
だが。
「ちょっとこれ、貼っておくれよ」
トシコの声は、あまりにも自然だった。
まるで、
“そこに神田がいるのが当然”
と言わんばかりの口調。
神田の眉間に、深い皺が刻まれる。
「……ケツをしまえ」
「しまったら貼れないだろうが!」
即答。
間髪入れずの反論。
正論である。
「そこが痛いんだから……っ、あ゛あ゛……」
トシコは腰のあたりを手探りで探るが、どうにも届かない。
「ほら、ここだよ……腰とケツの真ん中……!」
ぐいっ。
指で指し示す。
つまり。
完全に、的確な位置を指定してきた。
神田は、無言で視線を逸らした。
だが、視界の端にはどうしても入る。
――でかい。
ぷりんとした、でかいケツが。
余計な感想が、頭に浮かぶ。
(初めて見た女のケツが……これとは·····。くっ·····)
内心で自分を殴る。
「……チッ」
小さく舌打ち。
観念したように、一歩踏み出した。
「……動くなよ」
「動けるかいこんな状態で!」
トシコの返しが速い。
神田は、なるべく視線を固定しないようにしながら、湿布を受け取る。
冷たい感触。
ぺた。
必要最低限の接触。
だが。
「そこそこそこ!もうちょい上!」
「……」
「違う違う、そこじゃない!もうちょい右だよ!」
「……」
「だからそこじゃ――あ゛あ゛あ゛あ゛!そこ痛いとこ!」
「黙れ」
低く吐き捨てる。
だが手は止めない。
結果的に、的確な位置にぴたりと貼り付けられた。
ぺしっ。
吸い付くように、密着する。
「……貼った」
「おお……!」
トシコの声が、一気に明るくなる。
「そこそこ……!いいとこ貼るねぇ兄ちゃん……」
数秒。
じわじわと湿布が効いてくる。
トシコは、ゆっくりと体を起こそうとして――
「い゛っっっっ!!」
再び崩れた。
「……まだダメだねぇ……」
「……」
神田は、何も言わずに湿布の袋を放り投げた。
そして、一度だけ、トシコを見た。
湿布だらけで、半ケツで、ぷるぷる震えているおばちゃん。
(……訳が分からねぇ)
そう結論づけるしかなかった。
「……着替えろ。五分で来い」
それだけ言って、踵を返す。
「五分!?無理だよ!!」
背後から悲鳴が飛ぶ。
神田は止まらない。
ただ一つ。
ドアノブに手をかけた瞬間だけ。
ほんの一瞬だけ。
「…今度から…鍵、かけとけ」
ぼそりと呟いた。
そして、出ていった。
残された部屋。
トシコはしばらくぽかんとしたあと。
「……なんだい、優しいとこあるじゃないかい」
と、にやりと笑った。
つづく、2026/03/22