この闇で、お前と
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〈この闇で、お前と〉
教団の夜は、いつだって底なしの暗闇だ。
微睡みの中で見ていた景色が、音を立てて崩れ去る。
夢の中のミナミは、眩しいほどに笑っていた。
あいつの手の温もり、俺の名前を呼ぶ声、あの穏やかな日常の残滓。
それらを必死に掴み取ろうとした指先には、冷たいシーツの感触だけが残る。
「……ッ」
喉の奥から、乾いた音が漏れた。
目が覚めても、そこには何もない。
ただ、淀んだ空気が俺の肺を重く圧迫するだけだ。
あいつがいない世界で呼吸をすることに、なんの意味があるのか。
何を食っても味がせず、誰の声も雑音にしか聞こえない。
感情というものが、とっくの昔に死滅したような息苦しさ。
この孤独は、心臓の奥に刺さったまま抜けない棘みたいに、一瞬たりとも俺を休ませてはくれない。
(……なぁ、ミナミ。今のこの現実は、ただの悪い夢だと言ってくれ)
何度、そう考えたんだろう。
この悪夢からさえ覚めれば、またあいつが「ユウ」と呼んでくれる。
そんな、救いようのない空想にすがっている自分に吐き気がする。
事実を突きつけられながら、それでも頭のどこかで「死んだはずなんてない」という現実逃避を繰り返す。
自分を殺してしまいそうなほどの、惨めで醜い願いだ。
俺は毛布を蹴った。
止まらない動悸を抱えたまま、あいつを探して廊下を彷徨う。
誰に見られることもない、闇に紛れた亡霊のような足取りで。
(どこだ……ミナミ)
あいつの姿を探す必要なんてないことは、知っている。
それなのに、足は勝手に、かつて二人で過ごした場所や、あいつが好きだった場所をなぞっていく。
廊下に響く自分の足音すら、あいつの気配を打ち消すようで苛立たしい。
最後に辿り着いたのは、冷気と死臭が澱む地下の霊安室だった。
ここには、俺が一番見たくない、けれど目を逸らすことのできない現実が並んでいる。
たくさんの棺の中に、あいつはいる。
冷たい板に閉じ込められて、もう二度と俺に応えてはくれない。
俺はあいつの棺に近づくと、その冷たい表面に全身を預けるように突っ伏した。
板越しに伝わる冷たさが、あいつの不在を容赦なく宣告してくる。
「……会いてぇよ、ミナミ」
掠れた声が、狭い空間に虚しく反響する。
強がってみても、刀を握ってみても、結局俺はあいつ一人も守れなかった。
「……」
歯を食いしばる。
「……俺を」
息が漏れる。
「置いてくな」
棺に頬を押し付ける。
涙なのか、ただの冷気による痛みなのか、視界が酷く滲んでいた。
今の俺にとって、ここだけが唯一あいつとの繋がりを残した場所だ。
「……俺も、そっちに行きてぇ。今すぐ、お前のいる場所まで連れてってくれ」
棺を抱きしめる腕に力を込める。
暗闇は、少しも俺を救ってはくれない。
ただ俺を、あいつのいない現実の深淵へと、さらに深く沈めようとしていた。
冷たい棺の蓋を、俺は力任せに跳ね飛ばした。
空だ。
あの時、俺自身の指で瞼を閉じ、冷たくなった肌に触れ、呼吸が止まったことをこの手で確認したはずのミナミが――どこにもいない。
「……あ?」
脳が現実を拒絶する。肉体が無い。
教団が、何を隠し、何を生み出している場所かなんて知っている。自分自身がその最たる証拠だ。一度死んだ人間を、どう弄ぶか。どう作り変えるか。
「……ッ、クソ……!!」
視界が真っ赤に染まる。
死んだ魚のように生気のなかった俺の瞳に、赤い憎悪が混ざる。
あいつらだ。あいつらが、ミナミの死さえも俺から奪ったんだ。
俺はそのまま、コムイの私室へ向かった。
深夜の教団に、俺の荒い足音だけが響く。扉を蹴り開けると、今から寝ようとしていたコムイが目を丸くした。
「神田? どうした、こんな時間に……」
「……ミナミを、どこやった」
低い、地獄から響くような声だった。
コムイが「なんの事か分からないよ」と言ったあと何かを言い淀む。その態度が、俺の火薬庫に引火した。
「ふざけんなよ!!」
胸ぐらを掴んでベッドから引きずり落とし、床に叩きつける。
「じゃあ何だ、ミナミが自分で起き上がって、歩いてここから出て行ったって言うのかよ!!」
俺は咆哮しながら、コムイの顔面に拳を叩き込んだ。一度じゃない。二度、三度。感触なんてどうでもいい。
ただ、この男の血で、嘘を洗い流してやりたかった。
「神田、やめろ! 殺す気か!」
騒ぎを聞きつけた団員たちが、俺の背中に飛びついてくる。
だが、今の俺を止められる奴なんていない。再びコムイに掴みかかる。
「ミナミを返せ……!!」
俺の視界は歪んでいた。
床に転がるコムイを見下ろしながら、気づけば俺の頬を、熱いものが伝っていた。
「許さねぇ……。俺はお前たちを、教団を、絶対に許さねぇ……ッ!!」
喉が裂けるような声だった。
自分でも驚くほど、みっともなく、汚い声で。
永遠の愛なんて綺麗事を信じていたわけじゃない。ただ、あいつの魂の安らぎさえも許さないこの場所が、死ぬほど憎かった。
「……返せよ。ミナミを、返してくれ……ッ」
引きずられるようにして部屋から離されながら、俺は涙で滲む景色の中、ただそれだけを叫び続けた。
あいつのいないこの世界に、神なんていない。いるのは、俺の愛を食い物にするクソみたいなシステムだけだ。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
季節が移り変わるのを感じるような、温かな朝だった。
だが、その温もりは俺にとっては何の慰めにもならない。
窓の外では冬が終わろうとしている。
だが、俺の世界からはとうの昔に色が消え去っていた。
静まり返った自室で、俺の耳を打つのは、ただ自分の呼吸音だけだ。
あいつがここにいないという事実が、重たい鎖のように俺の身体を縛り付けている。
毎日、同じルーティンをこなす。
任務に行き、敵を斬り、食事を摂り、眠る。
そんな変わり映えのしない日々が、まるで何かの儀式のように淡々と過ぎていく。
あんなにも深く想っていたはずなのに、
時々、自分の痛みさえ薄れている気がする。
それが、ひどく怖かった。
まだ、あいつの温もりが指先に残っている気がする。
なのに、この世界はあいつを欠いたまま、当たり前のように明日を迎えようとしている。
あいつがいない世界で生きて、何になる。
俺にはもう、命を燃やす理由も、守るべきものさえ何一つ残っちゃいない。
それでも、俺は足を止められない。
止まれば、あいつの抜け殻を求めて彷徨う自分の意識が、完全に壊れてしまいそうだからだ。
だから俺は、自分を欺くように、教団という組織の駒として各地の支部を巡った。
任務をこなす裏で、俺は執念深く、あいつの足取りを追った。
各地の支部を虱潰しに調べ上げ、あいつが最後に辿り着いた場所を導き出す。
そして、ようやく確信に変わる。
ロシア支部。
不穏な冷気が漂うその場所が、あいつを隠した真犯人だと。
俺は再び、闇の中へ踏み出す。
今度こそ、あいつを見つける。
それ以外は、全てどうでもいい。
ロシア支部の正門前。案の定、俺の姿を見るなり、警備の連中が武器を構えた。
「神田ユウ。お前はここへ立ち入ることを禁じられている」
……ふざけんな。
俺の邪魔をするものは、何人足りとも潰す。
六幻を抜き放つまでもなかった。
数人を物理的に叩きのめし、気絶した奴らの身体を踏み越えて、俺は地下へと続く通路を疾走した。
警報が鳴り響いているが、今の俺にはただの雑音に過ぎない。
奥へ、さらに奥へ。
支部の中枢にある、厳重に閉ざされた扉を、俺は力任せに破壊した。
そこは、実験棟というよりは、冷たい培養槽が並ぶ墓場だった。
漂う薬品の臭い、機械の唸り声。その中心、無機質な明かりの下に、あいつはいた。
「……ミナミ?」
そこにいたのは、俺が知っているミナミだった。
だが、同時に、決定的に何かが違っていた。
あいつは真っ白な、装飾の一切ないワンピースを纏い、まるで魂の抜けた蝋人形のように座り込んでいた。
肌は透き通るほど白く、その瞳は焦点が合っているようで、どこか遠くの虚空を見つめている。
俺が近づいても、あいつは身じろぎひとつしない。
「……ミナミ、俺だ。」
震える手で、俺はあいつの肩に触れようとした。その瞬間、あいつがゆっくりと首を傾げた。
機械的で、滑らかな動作。まるで精巧に作られた人形でしかないかのような、冷たい温度。
「……あ…な…た……だ…れ?」
その声は、あいつの声だった。なのに、そこには何の感情も宿っていない。
ガラスの向こう側で、教団の連中が俺を呆然と見ている。
あいつは、まだ言葉をうまく紡ぐことさえできない、ただの器にされていた。
俺の胸を、言いようのない絶望と、それを上回る怒りが引き裂く。
こいつは、あいつであって、あいつじゃない。
「……ああ、そうか」
俺は六幻の柄を握りしめた。
教団は、あいつをこういう風に作り変えたのか。
俺の目の前で、あいつをただのモノとして扱っていたのか。
「……壊す。ここにあるもの全部、塵にしてやる」
俺の殺気が、実験室の空気を凍らせる。
“ あなた”と呼ばれたその痛みよりも深く、俺はこの場所そのものを憎悪していた。
ガラスの向こう側。
分厚い防弾ガラス越しに、ロシア支部長が高笑いしているのが見えた。
「素晴らしい。まさか、自ら試作品のテストに来てくれるとはな、神田ユウ。さあ、見ろ、彼女の真価を」
支部長の指が、目の前のパネルに触れる。
赤いボタンが、カチリと音を立てて押された。
支部長が嘲笑と共にボタンを叩くと、ミナミがゆらりと立ち上がり、その両手に何処からともなく二本の短刀が現れた。
生前にミナミが使っていたイノセンスだ。
その刃は青白く光り、あいつの鋭利な殺気を映し出している。
「……ッ!」
ミナミが踏み込む。
その動きは、俺が知っているあいつの面影をなぞりながらも、機械的な正確さを帯びていた。
交叉する二本の刃が、俺の首元と脇腹を同時に狙う。
俺は六幻の鞘でそれを受け流すが、短刀が鞘を削る火花が、暗い実験室を照らす。
俺はあえて剣を抜かない。
ミナミの二本の短刀が、肩をかすめる。
それを六幻で受けるのではなく、あえて肉体で受け止め、彼女の懐へ踏み込む。
「……ッ、おいミナミ!」
血の滲む傷口を無視して、ミナミの耳元に顔を寄せる。
「お前!!俺を覚えてねぇのか!?」
その瞳は、もはや怒りを超えて、愛おしさと狂気で濡れていた。
「お前…!!俺がっ、お前のファーストネームを呼ぶのに、俺がどれだけ時間かかったか……。部屋の隅で、何度も何度も、お前の名前を呼ぶ声が擦り切れるまで練習してたこと、お前…後で知って……笑いながら『そんなに呼ばなくても』って言ったくせに!その後、『嬉しい』と言ってくれたことが、俺は嬉しかった!」
ミナミの動きが、一瞬カクンと止まる。
支部長の怒号が室内に響くが、俺は構わず続ける。
「それにお前は…っ、俺の…っ胸の痣を見てはいつも!俺のっ…左胸に手を当てて言ったよな!『ここが止まったら、自分も一緒に止める』って。……あんな怖い誓いを、笑いながら言えるのはお前だけだ!」
ミナミの手から短刀を叩き落とし、ミナミの右手を掴んで自分の左胸にその手のひらを当てさせる。
そこに宿る鼓動を、彼女に感じさせるように。
「……あと、あの雨の日だ。お前は俺の小指を掴んで『明日も、明後日も名前を呼ぶ』って指切りした。……なぁ、ミナミ。今日が明日じゃなかったとしても、俺はお前の名前を呼び続けてるぞ。……俺を置いて、そんな物になるなんて、許さねぇ」
俺の叫びがミナミに届けばいい。
そう願いが。
叶った。
ミナミの瞳から、制御不能な雫が零れ落ちる。
支部長がコントロールパネルを弄るが、ミナミのコントロールが利かない。
「馬鹿な! 脳が焼けてもいい、壊せ!」
ミナミは俺の胸に額を押し当て、微かな、しかし震える声で呟いた。
「……ユ…ウ?」
その一言が、天国にも地獄にも変える言葉だった。
俺はミナミを強く抱き締めた。
その時、実験室の扉が、凄まじい音と共に吹き飛んだ。
なだれ込んできたのは鴉の野郎だ。教団の影、俺を縛り付ける鎖そのもの。
「神田ユウ。これ以上の反逆は許容しない。対象を拘束する」
無機質な声と共に、幾重もの呪符が空を舞う。
俺の周囲で空間が歪み、重圧がのしかかる。
身体が鉛のように重い。
呪符が放つ電流のような刺激が、ミナミと俺の皮膚を焼き、神経を直接抉ってくる。
「ぐっ……!!」
蓮の花が、俺の身体の中で暴れ出す。
呪符の魔力が俺の再生能力と干渉し、体内から引き裂かれるような激痛が奔る。
視界が白濁する。意識を保つことすら困難な、極限の苦痛。
だが、その苦しみが、俺の心臓を逆流する熱に変えた。
(……笑わせんな!こんな紙屑で、俺を止めたつもりか!)
怒り、憎しみが、全身の血管を駆け巡る。
教団への憎悪が、痛みすらも麻痺させる。俺は折れかけた足に無理やり力を込め、六幻を抜く代わりに、その拳で迫りくる鴉の仮面を粉砕した。
この程度の痛み、ミナミが受けたものに比べれば屁でもねぇ。
「……ミナミに触るな!!」
俺は地面を蹴り、拘束を強引に引きちぎってミナミを更に強く抱き寄せる。
その華奢な身体には力が入っていなかった。
鴉の放つ呪符が、俺の背中を、肩を、執拗に切り裂く。
痛みで視界が揺れるが、そんなことはどうでもいい。
「ミナミ、もう離さねぇ……!」
支部の出口へ向けて駆け出す。背後から無数の攻撃が降り注ぐ。
時折、肩や太ももに刃が深々と突き刺さるが、そのたびに俺は憎悪を増幅させ、より速く、より鋭く、障害を斬り裂いて進んだ。
支部を抜け出した先も、なお執拗に鴉の気配が追ってくる。
逃げ場はない。
そう思いかけたその時、目の前の空気が澄んだ。
「神田!」
聞き覚えのある、忌々しくも頼もしい声が響く。アレンだ。
あいつは状況を瞬時に悟ったのか、迷いのない目つきで俺を見た。
「遅くなりました!」
アレンが描き出すのは、方舟のゲート。
俺は傷だらけの身体で、ぐったりとしたミナミを胸に抱き直す。
「どこでもいい……ここから遠くなら、どこでも……ッ」
言葉はそれだけで十分だった。
アレンは頷き、ゲートを大きく広げる。
俺はためらわず、その光の向こうへ足を踏み入れた。
扉が閉まる間際、アレンに向かって短く吐き捨てる。
「……恩に着る」
視界が光に包まれる。
教団の影も、ロシア支部の闇も、すべてゲートの向こうへ置き去りだ。
俺はミナミの頬に自分の額を寄せ、二度とアイツらに奪わせないと、誓うように強く抱きしめた。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
あれから数日が経った。
教団という呪縛を断ち切り、たどり着いたのは太陽の光が当たらない名もなき廃墟の教会だった。
かつての仲間も、蓮の寿命も、教団の命令も、すべてが遠い世界の出来事のようだ。
今、俺の手元にあるのは、神が授けた奇跡か、それとも狂気が生んだ悪夢か。
外は、永遠のような夜が続いている。
ここには光もなければ、決められた明日もない。俺にとっては、それこそが何よりも心地よい暗闇だ。
床に腰を下ろし、俺は膝の上に向き合うようにミナミを乗せている。
真っ白なワンピースに包まれたミナミの身体は、驚くほど軽い。意志のない人形のように、あいつは俺の腕の中でじっとしている。
「……ミナミ。おい、こっちを見ろ」
ミナミの頬を指先でなぞる。
ミナミの瞳は相変わらずどこか遠くを向いているけれど、俺が名前を呼ぶと、僅かに瞬きをする。その反応だけで、俺の心臓は安堵と狂喜で震える。
「……ユウ、……ウ、ウ」
「そうだ。俺だ。ユウだ」
カタコトの、掠れた声。知性は失われ、記憶は霧の向こうへ消えてしまったかのように見える。
それでも、ミナミは俺の顔を見ると、ぼんやりとだが口元を緩める。
俺はミナミの小さな背中をまるで壊れやすい宝物を扱うように抱きしめた。
「前のお前は、もっと口うるさかった。俺が飯を残すと小言を言いやがって……。あの時の、お前の怒った顔、今でも時々無性に懐かしくなる」
人形相手に、俺は話し続ける。
誰にも聞かれない、二人きりの秘密の時間。
ミナミの髪を梳かし、教団から持ち出した布で丁寧に服を整える。
まるで子供の頃に欲しかった玩具を愛でるように、俺は黙ってミナミの世話をする。
「お前…図書室で兎が隠してた菓子を勝手に食べて、知らん顔してたよな」
俺の言葉に、ミナミが
「……ォかシ、……オイシ、カッタ」と答える。
その単語だけで、あいつの中に、確かにあの日の記憶が残っているのだと突きつけられる。
嬉しい、と心から思う。
たとえ魂が半分身体から抜け落ちていたとしても、俺という存在がコイツの欠片に刻まれている。
その事実に、俺の胸は締め付けられるほど熱くなる。
「……俺のこと、覚えててくれたんだな」
俺はミナミの額に、自分の額を押し付ける。
教団にいた頃、あんなにも孤独に怯えていたのに、今はコイツさえいれば、この先の未来がどうなろうと構わない。
「……ミナミ。俺たちは、これからどこへ行こうか。……何もしなくていい。ただ、お前が笑ってくれるなら、俺はこの先も、この暗闇の中でずっとお前を見てる」
ミナミが「……ユウ、……スキ」と、たどたどしく呟く。
その言葉が、俺の腐りかけた心臓を、一瞬だけ人間のように鼓動させた。
この世界で生きる意味なんて、もう何ひとついらない。
ただこいつを抱いて、この暗闇で生きていければそれでいい。
それが俺にとっての、唯一の奇跡だった。
おわり
2026/03/08
あとがき≫( ∈ ‹‹ ・~ 〉
ここまで読んでくださりありがとうございました( * . .)"ペコリ
この物語のその後は、教団に追われながらも、このまま壊れたミナミと二人で生きる世界のままです。
元に戻る事を信じて、神田はこの後、このミナミと生きていく事を決める。
きっとどっかに住み着くんじゃないかな?
教団の夜は、いつだって底なしの暗闇だ。
微睡みの中で見ていた景色が、音を立てて崩れ去る。
夢の中のミナミは、眩しいほどに笑っていた。
あいつの手の温もり、俺の名前を呼ぶ声、あの穏やかな日常の残滓。
それらを必死に掴み取ろうとした指先には、冷たいシーツの感触だけが残る。
「……ッ」
喉の奥から、乾いた音が漏れた。
目が覚めても、そこには何もない。
ただ、淀んだ空気が俺の肺を重く圧迫するだけだ。
あいつがいない世界で呼吸をすることに、なんの意味があるのか。
何を食っても味がせず、誰の声も雑音にしか聞こえない。
感情というものが、とっくの昔に死滅したような息苦しさ。
この孤独は、心臓の奥に刺さったまま抜けない棘みたいに、一瞬たりとも俺を休ませてはくれない。
(……なぁ、ミナミ。今のこの現実は、ただの悪い夢だと言ってくれ)
何度、そう考えたんだろう。
この悪夢からさえ覚めれば、またあいつが「ユウ」と呼んでくれる。
そんな、救いようのない空想にすがっている自分に吐き気がする。
事実を突きつけられながら、それでも頭のどこかで「死んだはずなんてない」という現実逃避を繰り返す。
自分を殺してしまいそうなほどの、惨めで醜い願いだ。
俺は毛布を蹴った。
止まらない動悸を抱えたまま、あいつを探して廊下を彷徨う。
誰に見られることもない、闇に紛れた亡霊のような足取りで。
(どこだ……ミナミ)
あいつの姿を探す必要なんてないことは、知っている。
それなのに、足は勝手に、かつて二人で過ごした場所や、あいつが好きだった場所をなぞっていく。
廊下に響く自分の足音すら、あいつの気配を打ち消すようで苛立たしい。
最後に辿り着いたのは、冷気と死臭が澱む地下の霊安室だった。
ここには、俺が一番見たくない、けれど目を逸らすことのできない現実が並んでいる。
たくさんの棺の中に、あいつはいる。
冷たい板に閉じ込められて、もう二度と俺に応えてはくれない。
俺はあいつの棺に近づくと、その冷たい表面に全身を預けるように突っ伏した。
板越しに伝わる冷たさが、あいつの不在を容赦なく宣告してくる。
「……会いてぇよ、ミナミ」
掠れた声が、狭い空間に虚しく反響する。
強がってみても、刀を握ってみても、結局俺はあいつ一人も守れなかった。
「……」
歯を食いしばる。
「……俺を」
息が漏れる。
「置いてくな」
棺に頬を押し付ける。
涙なのか、ただの冷気による痛みなのか、視界が酷く滲んでいた。
今の俺にとって、ここだけが唯一あいつとの繋がりを残した場所だ。
「……俺も、そっちに行きてぇ。今すぐ、お前のいる場所まで連れてってくれ」
棺を抱きしめる腕に力を込める。
暗闇は、少しも俺を救ってはくれない。
ただ俺を、あいつのいない現実の深淵へと、さらに深く沈めようとしていた。
冷たい棺の蓋を、俺は力任せに跳ね飛ばした。
空だ。
あの時、俺自身の指で瞼を閉じ、冷たくなった肌に触れ、呼吸が止まったことをこの手で確認したはずのミナミが――どこにもいない。
「……あ?」
脳が現実を拒絶する。肉体が無い。
教団が、何を隠し、何を生み出している場所かなんて知っている。自分自身がその最たる証拠だ。一度死んだ人間を、どう弄ぶか。どう作り変えるか。
「……ッ、クソ……!!」
視界が真っ赤に染まる。
死んだ魚のように生気のなかった俺の瞳に、赤い憎悪が混ざる。
あいつらだ。あいつらが、ミナミの死さえも俺から奪ったんだ。
俺はそのまま、コムイの私室へ向かった。
深夜の教団に、俺の荒い足音だけが響く。扉を蹴り開けると、今から寝ようとしていたコムイが目を丸くした。
「神田? どうした、こんな時間に……」
「……ミナミを、どこやった」
低い、地獄から響くような声だった。
コムイが「なんの事か分からないよ」と言ったあと何かを言い淀む。その態度が、俺の火薬庫に引火した。
「ふざけんなよ!!」
胸ぐらを掴んでベッドから引きずり落とし、床に叩きつける。
「じゃあ何だ、ミナミが自分で起き上がって、歩いてここから出て行ったって言うのかよ!!」
俺は咆哮しながら、コムイの顔面に拳を叩き込んだ。一度じゃない。二度、三度。感触なんてどうでもいい。
ただ、この男の血で、嘘を洗い流してやりたかった。
「神田、やめろ! 殺す気か!」
騒ぎを聞きつけた団員たちが、俺の背中に飛びついてくる。
だが、今の俺を止められる奴なんていない。再びコムイに掴みかかる。
「ミナミを返せ……!!」
俺の視界は歪んでいた。
床に転がるコムイを見下ろしながら、気づけば俺の頬を、熱いものが伝っていた。
「許さねぇ……。俺はお前たちを、教団を、絶対に許さねぇ……ッ!!」
喉が裂けるような声だった。
自分でも驚くほど、みっともなく、汚い声で。
永遠の愛なんて綺麗事を信じていたわけじゃない。ただ、あいつの魂の安らぎさえも許さないこの場所が、死ぬほど憎かった。
「……返せよ。ミナミを、返してくれ……ッ」
引きずられるようにして部屋から離されながら、俺は涙で滲む景色の中、ただそれだけを叫び続けた。
あいつのいないこの世界に、神なんていない。いるのは、俺の愛を食い物にするクソみたいなシステムだけだ。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
季節が移り変わるのを感じるような、温かな朝だった。
だが、その温もりは俺にとっては何の慰めにもならない。
窓の外では冬が終わろうとしている。
だが、俺の世界からはとうの昔に色が消え去っていた。
静まり返った自室で、俺の耳を打つのは、ただ自分の呼吸音だけだ。
あいつがここにいないという事実が、重たい鎖のように俺の身体を縛り付けている。
毎日、同じルーティンをこなす。
任務に行き、敵を斬り、食事を摂り、眠る。
そんな変わり映えのしない日々が、まるで何かの儀式のように淡々と過ぎていく。
あんなにも深く想っていたはずなのに、
時々、自分の痛みさえ薄れている気がする。
それが、ひどく怖かった。
まだ、あいつの温もりが指先に残っている気がする。
なのに、この世界はあいつを欠いたまま、当たり前のように明日を迎えようとしている。
あいつがいない世界で生きて、何になる。
俺にはもう、命を燃やす理由も、守るべきものさえ何一つ残っちゃいない。
それでも、俺は足を止められない。
止まれば、あいつの抜け殻を求めて彷徨う自分の意識が、完全に壊れてしまいそうだからだ。
だから俺は、自分を欺くように、教団という組織の駒として各地の支部を巡った。
任務をこなす裏で、俺は執念深く、あいつの足取りを追った。
各地の支部を虱潰しに調べ上げ、あいつが最後に辿り着いた場所を導き出す。
そして、ようやく確信に変わる。
ロシア支部。
不穏な冷気が漂うその場所が、あいつを隠した真犯人だと。
俺は再び、闇の中へ踏み出す。
今度こそ、あいつを見つける。
それ以外は、全てどうでもいい。
ロシア支部の正門前。案の定、俺の姿を見るなり、警備の連中が武器を構えた。
「神田ユウ。お前はここへ立ち入ることを禁じられている」
……ふざけんな。
俺の邪魔をするものは、何人足りとも潰す。
六幻を抜き放つまでもなかった。
数人を物理的に叩きのめし、気絶した奴らの身体を踏み越えて、俺は地下へと続く通路を疾走した。
警報が鳴り響いているが、今の俺にはただの雑音に過ぎない。
奥へ、さらに奥へ。
支部の中枢にある、厳重に閉ざされた扉を、俺は力任せに破壊した。
そこは、実験棟というよりは、冷たい培養槽が並ぶ墓場だった。
漂う薬品の臭い、機械の唸り声。その中心、無機質な明かりの下に、あいつはいた。
「……ミナミ?」
そこにいたのは、俺が知っているミナミだった。
だが、同時に、決定的に何かが違っていた。
あいつは真っ白な、装飾の一切ないワンピースを纏い、まるで魂の抜けた蝋人形のように座り込んでいた。
肌は透き通るほど白く、その瞳は焦点が合っているようで、どこか遠くの虚空を見つめている。
俺が近づいても、あいつは身じろぎひとつしない。
「……ミナミ、俺だ。」
震える手で、俺はあいつの肩に触れようとした。その瞬間、あいつがゆっくりと首を傾げた。
機械的で、滑らかな動作。まるで精巧に作られた人形でしかないかのような、冷たい温度。
「……あ…な…た……だ…れ?」
その声は、あいつの声だった。なのに、そこには何の感情も宿っていない。
ガラスの向こう側で、教団の連中が俺を呆然と見ている。
あいつは、まだ言葉をうまく紡ぐことさえできない、ただの器にされていた。
俺の胸を、言いようのない絶望と、それを上回る怒りが引き裂く。
こいつは、あいつであって、あいつじゃない。
「……ああ、そうか」
俺は六幻の柄を握りしめた。
教団は、あいつをこういう風に作り変えたのか。
俺の目の前で、あいつをただのモノとして扱っていたのか。
「……壊す。ここにあるもの全部、塵にしてやる」
俺の殺気が、実験室の空気を凍らせる。
“ あなた”と呼ばれたその痛みよりも深く、俺はこの場所そのものを憎悪していた。
ガラスの向こう側。
分厚い防弾ガラス越しに、ロシア支部長が高笑いしているのが見えた。
「素晴らしい。まさか、自ら試作品のテストに来てくれるとはな、神田ユウ。さあ、見ろ、彼女の真価を」
支部長の指が、目の前のパネルに触れる。
赤いボタンが、カチリと音を立てて押された。
支部長が嘲笑と共にボタンを叩くと、ミナミがゆらりと立ち上がり、その両手に何処からともなく二本の短刀が現れた。
生前にミナミが使っていたイノセンスだ。
その刃は青白く光り、あいつの鋭利な殺気を映し出している。
「……ッ!」
ミナミが踏み込む。
その動きは、俺が知っているあいつの面影をなぞりながらも、機械的な正確さを帯びていた。
交叉する二本の刃が、俺の首元と脇腹を同時に狙う。
俺は六幻の鞘でそれを受け流すが、短刀が鞘を削る火花が、暗い実験室を照らす。
俺はあえて剣を抜かない。
ミナミの二本の短刀が、肩をかすめる。
それを六幻で受けるのではなく、あえて肉体で受け止め、彼女の懐へ踏み込む。
「……ッ、おいミナミ!」
血の滲む傷口を無視して、ミナミの耳元に顔を寄せる。
「お前!!俺を覚えてねぇのか!?」
その瞳は、もはや怒りを超えて、愛おしさと狂気で濡れていた。
「お前…!!俺がっ、お前のファーストネームを呼ぶのに、俺がどれだけ時間かかったか……。部屋の隅で、何度も何度も、お前の名前を呼ぶ声が擦り切れるまで練習してたこと、お前…後で知って……笑いながら『そんなに呼ばなくても』って言ったくせに!その後、『嬉しい』と言ってくれたことが、俺は嬉しかった!」
ミナミの動きが、一瞬カクンと止まる。
支部長の怒号が室内に響くが、俺は構わず続ける。
「それにお前は…っ、俺の…っ胸の痣を見てはいつも!俺のっ…左胸に手を当てて言ったよな!『ここが止まったら、自分も一緒に止める』って。……あんな怖い誓いを、笑いながら言えるのはお前だけだ!」
ミナミの手から短刀を叩き落とし、ミナミの右手を掴んで自分の左胸にその手のひらを当てさせる。
そこに宿る鼓動を、彼女に感じさせるように。
「……あと、あの雨の日だ。お前は俺の小指を掴んで『明日も、明後日も名前を呼ぶ』って指切りした。……なぁ、ミナミ。今日が明日じゃなかったとしても、俺はお前の名前を呼び続けてるぞ。……俺を置いて、そんな物になるなんて、許さねぇ」
俺の叫びがミナミに届けばいい。
そう願いが。
叶った。
ミナミの瞳から、制御不能な雫が零れ落ちる。
支部長がコントロールパネルを弄るが、ミナミのコントロールが利かない。
「馬鹿な! 脳が焼けてもいい、壊せ!」
ミナミは俺の胸に額を押し当て、微かな、しかし震える声で呟いた。
「……ユ…ウ?」
その一言が、天国にも地獄にも変える言葉だった。
俺はミナミを強く抱き締めた。
その時、実験室の扉が、凄まじい音と共に吹き飛んだ。
なだれ込んできたのは鴉の野郎だ。教団の影、俺を縛り付ける鎖そのもの。
「神田ユウ。これ以上の反逆は許容しない。対象を拘束する」
無機質な声と共に、幾重もの呪符が空を舞う。
俺の周囲で空間が歪み、重圧がのしかかる。
身体が鉛のように重い。
呪符が放つ電流のような刺激が、ミナミと俺の皮膚を焼き、神経を直接抉ってくる。
「ぐっ……!!」
蓮の花が、俺の身体の中で暴れ出す。
呪符の魔力が俺の再生能力と干渉し、体内から引き裂かれるような激痛が奔る。
視界が白濁する。意識を保つことすら困難な、極限の苦痛。
だが、その苦しみが、俺の心臓を逆流する熱に変えた。
(……笑わせんな!こんな紙屑で、俺を止めたつもりか!)
怒り、憎しみが、全身の血管を駆け巡る。
教団への憎悪が、痛みすらも麻痺させる。俺は折れかけた足に無理やり力を込め、六幻を抜く代わりに、その拳で迫りくる鴉の仮面を粉砕した。
この程度の痛み、ミナミが受けたものに比べれば屁でもねぇ。
「……ミナミに触るな!!」
俺は地面を蹴り、拘束を強引に引きちぎってミナミを更に強く抱き寄せる。
その華奢な身体には力が入っていなかった。
鴉の放つ呪符が、俺の背中を、肩を、執拗に切り裂く。
痛みで視界が揺れるが、そんなことはどうでもいい。
「ミナミ、もう離さねぇ……!」
支部の出口へ向けて駆け出す。背後から無数の攻撃が降り注ぐ。
時折、肩や太ももに刃が深々と突き刺さるが、そのたびに俺は憎悪を増幅させ、より速く、より鋭く、障害を斬り裂いて進んだ。
支部を抜け出した先も、なお執拗に鴉の気配が追ってくる。
逃げ場はない。
そう思いかけたその時、目の前の空気が澄んだ。
「神田!」
聞き覚えのある、忌々しくも頼もしい声が響く。アレンだ。
あいつは状況を瞬時に悟ったのか、迷いのない目つきで俺を見た。
「遅くなりました!」
アレンが描き出すのは、方舟のゲート。
俺は傷だらけの身体で、ぐったりとしたミナミを胸に抱き直す。
「どこでもいい……ここから遠くなら、どこでも……ッ」
言葉はそれだけで十分だった。
アレンは頷き、ゲートを大きく広げる。
俺はためらわず、その光の向こうへ足を踏み入れた。
扉が閉まる間際、アレンに向かって短く吐き捨てる。
「……恩に着る」
視界が光に包まれる。
教団の影も、ロシア支部の闇も、すべてゲートの向こうへ置き去りだ。
俺はミナミの頬に自分の額を寄せ、二度とアイツらに奪わせないと、誓うように強く抱きしめた。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
あれから数日が経った。
教団という呪縛を断ち切り、たどり着いたのは太陽の光が当たらない名もなき廃墟の教会だった。
かつての仲間も、蓮の寿命も、教団の命令も、すべてが遠い世界の出来事のようだ。
今、俺の手元にあるのは、神が授けた奇跡か、それとも狂気が生んだ悪夢か。
外は、永遠のような夜が続いている。
ここには光もなければ、決められた明日もない。俺にとっては、それこそが何よりも心地よい暗闇だ。
床に腰を下ろし、俺は膝の上に向き合うようにミナミを乗せている。
真っ白なワンピースに包まれたミナミの身体は、驚くほど軽い。意志のない人形のように、あいつは俺の腕の中でじっとしている。
「……ミナミ。おい、こっちを見ろ」
ミナミの頬を指先でなぞる。
ミナミの瞳は相変わらずどこか遠くを向いているけれど、俺が名前を呼ぶと、僅かに瞬きをする。その反応だけで、俺の心臓は安堵と狂喜で震える。
「……ユウ、……ウ、ウ」
「そうだ。俺だ。ユウだ」
カタコトの、掠れた声。知性は失われ、記憶は霧の向こうへ消えてしまったかのように見える。
それでも、ミナミは俺の顔を見ると、ぼんやりとだが口元を緩める。
俺はミナミの小さな背中をまるで壊れやすい宝物を扱うように抱きしめた。
「前のお前は、もっと口うるさかった。俺が飯を残すと小言を言いやがって……。あの時の、お前の怒った顔、今でも時々無性に懐かしくなる」
人形相手に、俺は話し続ける。
誰にも聞かれない、二人きりの秘密の時間。
ミナミの髪を梳かし、教団から持ち出した布で丁寧に服を整える。
まるで子供の頃に欲しかった玩具を愛でるように、俺は黙ってミナミの世話をする。
「お前…図書室で兎が隠してた菓子を勝手に食べて、知らん顔してたよな」
俺の言葉に、ミナミが
「……ォかシ、……オイシ、カッタ」と答える。
その単語だけで、あいつの中に、確かにあの日の記憶が残っているのだと突きつけられる。
嬉しい、と心から思う。
たとえ魂が半分身体から抜け落ちていたとしても、俺という存在がコイツの欠片に刻まれている。
その事実に、俺の胸は締め付けられるほど熱くなる。
「……俺のこと、覚えててくれたんだな」
俺はミナミの額に、自分の額を押し付ける。
教団にいた頃、あんなにも孤独に怯えていたのに、今はコイツさえいれば、この先の未来がどうなろうと構わない。
「……ミナミ。俺たちは、これからどこへ行こうか。……何もしなくていい。ただ、お前が笑ってくれるなら、俺はこの先も、この暗闇の中でずっとお前を見てる」
ミナミが「……ユウ、……スキ」と、たどたどしく呟く。
その言葉が、俺の腐りかけた心臓を、一瞬だけ人間のように鼓動させた。
この世界で生きる意味なんて、もう何ひとついらない。
ただこいつを抱いて、この暗闇で生きていければそれでいい。
それが俺にとっての、唯一の奇跡だった。
おわり
2026/03/08
あとがき≫( ∈ ‹‹ ・~ 〉
ここまで読んでくださりありがとうございました( * . .)"ペコリ
この物語のその後は、教団に追われながらも、このまま壊れたミナミと二人で生きる世界のままです。
元に戻る事を信じて、神田はこの後、このミナミと生きていく事を決める。
きっとどっかに住み着くんじゃないかな?