バレンタイン2026神田
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時はバレンタインの数日前。
廊下の角、任務報告の合間みたいな時間に、神田が唐突に口を開いた。
「お前、何の花が好きだ」
「……え?」
ミナミは瞬きをする。
「どうしたの、急に」
神田は視線を逸らし、眉間にうっすら皺を寄せた。
「もうすぐ……アレの日だろ」
「アレ?」
「……お前が甘ったるい菓子を俺に押し付ける日だよ」
「押し付けるってなに!?私の気持ちだよ?」
「人に嫌がらせするのが気持ちか?俺はてっきり嫌われてるのかと思ったぜ」
「嫌いなわけないじゃん!」
ミナミが即答すると、神田の眉がほんのわずかに動いた。
言い過ぎた、とでも思ったのか。
でも謝る代わりに、吐き捨てるように言う。
「……いいから」
その声は不機嫌のままなのに、どこか急いでいる。
「好きな花を言え」
「え……」
「リサーチだ。文句あんのか」
「ない!ないけど……ユウ、かわいい」
「うるせぇ」
「ユウから貰えるなら……ドクダミでも構わないぐらいだよ」
ミナミが笑うと、神田はさらに不機嫌そうに口を尖らせた。
「普通の花にしろ。普通の」
「普通のってなに?」
「知らねぇ。だから聞いてんだろ」
ぶっきらぼうなのに、耳の端だけ赤い。
ミナミはくすっと笑って、少しだけ声を落とした。
「……じゃあね。ユウが選んだ花が好き」
神田の動きが止まる。
「それじゃリサーチになんねぇだろ」
ミナミはにこっと笑う。
「ユウが私のこと考えてくれた、その時間がもうプレゼントだから」
神田は小さく舌打ちした。
「……うるせぇ」
神田は頭を掻きながら、めちゃんこ不機嫌そうな顔をした。
眉間の皺がいつもより深い。
「だから、そういうのが面倒だから聞いてんだろ」
ぶっきらぼうに吐き捨てるくせに、視線だけは逸らさない。
ミナミは一瞬だけ口を尖らせてから、しょうがないな、というふうに小さくため息をついた。
神田の機嫌を損ねないように、少しだけ声を柔らかくする。
「私、ピンク色の花が好きだよ」
「……色?」
「うん。花の名前とか詳しくないから」
ミナミは肩をすくめて笑う。
「ユウに難しいことさせたくないし」
その言葉に、神田の目がほんのわずかに細くなる。
不機嫌そうなままなのに、どこか“逃げ道を用意された”みたいな顔。
「ユウが花屋で困ってる姿、想像できちゃって…。そんな姿も見てみたいけど、可哀想に見えてきたから」
「お前に可哀想なんて言われたくねぇんだよ」
吐き捨てながら、神田はまた頭を掻いた。
そして、ぼそりと低く言う。
「ピンクな」
「うん」
「……わかった」
たったそれだけなのに。
ミナミの胸が、春みたいにふわっとあたたかくなる。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
バレンタイン当日。
教団の廊下は、朝から妙に騒がしかった。
紙袋を抱えた団員たちが行き交い、誰かが笑って、誰かが照れている。
甘い匂いが、空気の端に漂っていた。
そんな中。
ミナミは書類を抱えながら歩いていて、
角を曲がったところで、ふいに足を止めた。
そこに神田がいた。
壁にもたれて、腕組をして、ただ、立っているだけなのに、周囲の空気がそこだけ静かだった。
そして、彼の手には、淡いピンクのストックが一輪。
ミナミが声をかけるより早く、神田が短く言った。
「おい」
「ユウ!」
神田はその花を、ぶっきらぼうに差し出した。
「…やるよ」
「えっ……!?」
ミナミの顔がぱっと明るくなる。
「ユウ、それ……!」
「うるせぇ。黙って受け取れ」
「ありがとう!!」
両手で大事そうに受け取った瞬間。
ミナミの微笑みが、柔らかく咲いた。
それを見た神田の胸が、ほんの一瞬だけ跳ねる。
(……だから、そういう顔やめろ)
喉の奥が妙に熱い。
神田はすぐにそっぽを向いた。
「……ほら」
「ん?」
「早く寄越せ」
「え?なにを?」
神田は眉間に皺を寄せる。
「……アレだよ」
低く、苛立ったように吐き捨てる。
「毎年、罰ゲームみたいに押し付けてくるやつ。今年も……仕方ねぇから貰ってやる」
「も〜……素直じゃないんだから」
ミナミはくすっと笑いながら、小さな箱を差し出した。
カカオ90パー。
甘さよりも苦さが勝つ、大人のチョコ。
神田はそれを受け取る。
指先に触れる紙の感触より、ミナミの“気持ち”のほうが妙に重い。
「……」
神田の口元が、ほんのわずかに緩む。
一瞬だけ。
それは、誰にも見えないくらい短いのに。
ミナミだけは気づいてしまう。
(良かった…ユウ嬉しそう)
「ふふ」
ミナミは花を胸に抱えたまま笑った。
神田はそれを見ないふりをして、低く言う。
「…それでよかったんだろ?」
「うん」
ミナミは小さく頷く。
「ユウが選んでくれたから、いちばん好き」
神田の喉が、また詰まる。
それ以上は何も言えない。
だから代わりに、ぶっきらぼうに吐き捨てた。
「……さっさと行け」
「どこへ?」
「仕事だろ?」
「ユウは任務ある?」
「……当然」
「寂しいな…」
「……寂しいとか言うな」
喉の奥で噛み殺すみたいな声。
「……行けなくなるだろ」
並ぶ足音。ふたりは並んで歩き出す。
「今度はいつ会えるかな」
花の匂いを嗅ぎながら、ミナミが小さく言った。
神田は答えない。
答えられない。
視線を逸らしたまま、胸の奥だけがうるさい。
傍にいたい。それなのに、行かなきゃならない。
神田は舌打ちを飲み込んで、低く言った。
「……知らねぇよ」
冷たい声。
ミナミの肩が少し落ちる。
その瞬間、神田の眉が僅かに動いた。
言葉を探すみたいに、ほんの少しだけ間が空く。
それから、神田は花に視線を落とした。
ピンクの、一輪。
ぶっきらぼうに、ぼそりと吐き捨てる。
「……そいつが枯れるまでには戻ってやるよ」
ミナミが瞬きをする。
「え……」
神田はもうミナミを見ない。
見たら、任務に行けなくなる。
「おもしれー顔すんな」
そう言って神田は歩く速度を速めた。
「先に行く」
その背中は嘘みたいにまっすぐで。
帰る、という約束だけが、貰った花より強く残った。
「待ってよー!見送りたい!」
「来るな!」
「せめてキスぐらい…」
「黙れ」
低い声が落ちた。
怒ってるみたいなのに、違う。
どこか掠れていて、息が混じっている。
「じゃあ、ハグは?」
神田の背中が止まった。
その瞬間、雨の音も、廊下のざわめきも、遠くなる。
神田は振り返らないまま、吐き捨てるように言う。
「……そんなもんしたら……行けなくなるだろ」
ミナミの胸が、きゅっと鳴る。
「そ、それは、困るね……」
小さな声。
神田は舌打ちを飲み込んで、歩きだそうとした。
でも。次の瞬間。
「……チッ」
苛立ちみたいな音と一緒に、神田が戻ってくる。
乱暴に、ミナミの腕を掴んで引き寄せた。
驚く暇もない。
強く唇が重なる。
熱くて、噛みつくみたいなキス。
更に片手をミナミの腰に回して、密着するように抱き寄せる。
舌先が、遠慮なく滑り込んでくる。
ぬるい熱が、口の中をゆっくり掻き回して、
逃げ場を塞ぐみたいに絡め取られる。
ちゅ、と湿った音が落ちて、
次の瞬間には、吸い上げるように深く、強く。
呼吸が奪われて、頭がぼうっと白くなる。
唇が離れたとき、糸を引きそうなほど濃い温度だけが残った。
「……これで十分だろ」
掠れた声。
目を合わせない。
まるで、見たら壊れるみたいに。
ミナミが息を呑む。
「ユウ…」
神田はもう背を向けている。
「……枯れるまでには戻る」
それだけ言って、今度こそ歩き出した。
ピンクの花を抱えたミナミだけが、その場に取り残される。
胸の奥に残ったのは、甘い苦しさと、
確かに触れた約束だった。
でも。
神田の手には、チョコがあって、
ミナミの手には、ピンクの花がある。
それだけで今日は――
いつもより少しだけ、特別だった。
終わり。2026/02/02
手前味噌ですが、この神田好き(*^ω^*)
廊下の角、任務報告の合間みたいな時間に、神田が唐突に口を開いた。
「お前、何の花が好きだ」
「……え?」
ミナミは瞬きをする。
「どうしたの、急に」
神田は視線を逸らし、眉間にうっすら皺を寄せた。
「もうすぐ……アレの日だろ」
「アレ?」
「……お前が甘ったるい菓子を俺に押し付ける日だよ」
「押し付けるってなに!?私の気持ちだよ?」
「人に嫌がらせするのが気持ちか?俺はてっきり嫌われてるのかと思ったぜ」
「嫌いなわけないじゃん!」
ミナミが即答すると、神田の眉がほんのわずかに動いた。
言い過ぎた、とでも思ったのか。
でも謝る代わりに、吐き捨てるように言う。
「……いいから」
その声は不機嫌のままなのに、どこか急いでいる。
「好きな花を言え」
「え……」
「リサーチだ。文句あんのか」
「ない!ないけど……ユウ、かわいい」
「うるせぇ」
「ユウから貰えるなら……ドクダミでも構わないぐらいだよ」
ミナミが笑うと、神田はさらに不機嫌そうに口を尖らせた。
「普通の花にしろ。普通の」
「普通のってなに?」
「知らねぇ。だから聞いてんだろ」
ぶっきらぼうなのに、耳の端だけ赤い。
ミナミはくすっと笑って、少しだけ声を落とした。
「……じゃあね。ユウが選んだ花が好き」
神田の動きが止まる。
「それじゃリサーチになんねぇだろ」
ミナミはにこっと笑う。
「ユウが私のこと考えてくれた、その時間がもうプレゼントだから」
神田は小さく舌打ちした。
「……うるせぇ」
神田は頭を掻きながら、めちゃんこ不機嫌そうな顔をした。
眉間の皺がいつもより深い。
「だから、そういうのが面倒だから聞いてんだろ」
ぶっきらぼうに吐き捨てるくせに、視線だけは逸らさない。
ミナミは一瞬だけ口を尖らせてから、しょうがないな、というふうに小さくため息をついた。
神田の機嫌を損ねないように、少しだけ声を柔らかくする。
「私、ピンク色の花が好きだよ」
「……色?」
「うん。花の名前とか詳しくないから」
ミナミは肩をすくめて笑う。
「ユウに難しいことさせたくないし」
その言葉に、神田の目がほんのわずかに細くなる。
不機嫌そうなままなのに、どこか“逃げ道を用意された”みたいな顔。
「ユウが花屋で困ってる姿、想像できちゃって…。そんな姿も見てみたいけど、可哀想に見えてきたから」
「お前に可哀想なんて言われたくねぇんだよ」
吐き捨てながら、神田はまた頭を掻いた。
そして、ぼそりと低く言う。
「ピンクな」
「うん」
「……わかった」
たったそれだけなのに。
ミナミの胸が、春みたいにふわっとあたたかくなる。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
バレンタイン当日。
教団の廊下は、朝から妙に騒がしかった。
紙袋を抱えた団員たちが行き交い、誰かが笑って、誰かが照れている。
甘い匂いが、空気の端に漂っていた。
そんな中。
ミナミは書類を抱えながら歩いていて、
角を曲がったところで、ふいに足を止めた。
そこに神田がいた。
壁にもたれて、腕組をして、ただ、立っているだけなのに、周囲の空気がそこだけ静かだった。
そして、彼の手には、淡いピンクのストックが一輪。
ミナミが声をかけるより早く、神田が短く言った。
「おい」
「ユウ!」
神田はその花を、ぶっきらぼうに差し出した。
「…やるよ」
「えっ……!?」
ミナミの顔がぱっと明るくなる。
「ユウ、それ……!」
「うるせぇ。黙って受け取れ」
「ありがとう!!」
両手で大事そうに受け取った瞬間。
ミナミの微笑みが、柔らかく咲いた。
それを見た神田の胸が、ほんの一瞬だけ跳ねる。
(……だから、そういう顔やめろ)
喉の奥が妙に熱い。
神田はすぐにそっぽを向いた。
「……ほら」
「ん?」
「早く寄越せ」
「え?なにを?」
神田は眉間に皺を寄せる。
「……アレだよ」
低く、苛立ったように吐き捨てる。
「毎年、罰ゲームみたいに押し付けてくるやつ。今年も……仕方ねぇから貰ってやる」
「も〜……素直じゃないんだから」
ミナミはくすっと笑いながら、小さな箱を差し出した。
カカオ90パー。
甘さよりも苦さが勝つ、大人のチョコ。
神田はそれを受け取る。
指先に触れる紙の感触より、ミナミの“気持ち”のほうが妙に重い。
「……」
神田の口元が、ほんのわずかに緩む。
一瞬だけ。
それは、誰にも見えないくらい短いのに。
ミナミだけは気づいてしまう。
(良かった…ユウ嬉しそう)
「ふふ」
ミナミは花を胸に抱えたまま笑った。
神田はそれを見ないふりをして、低く言う。
「…それでよかったんだろ?」
「うん」
ミナミは小さく頷く。
「ユウが選んでくれたから、いちばん好き」
神田の喉が、また詰まる。
それ以上は何も言えない。
だから代わりに、ぶっきらぼうに吐き捨てた。
「……さっさと行け」
「どこへ?」
「仕事だろ?」
「ユウは任務ある?」
「……当然」
「寂しいな…」
「……寂しいとか言うな」
喉の奥で噛み殺すみたいな声。
「……行けなくなるだろ」
並ぶ足音。ふたりは並んで歩き出す。
「今度はいつ会えるかな」
花の匂いを嗅ぎながら、ミナミが小さく言った。
神田は答えない。
答えられない。
視線を逸らしたまま、胸の奥だけがうるさい。
傍にいたい。それなのに、行かなきゃならない。
神田は舌打ちを飲み込んで、低く言った。
「……知らねぇよ」
冷たい声。
ミナミの肩が少し落ちる。
その瞬間、神田の眉が僅かに動いた。
言葉を探すみたいに、ほんの少しだけ間が空く。
それから、神田は花に視線を落とした。
ピンクの、一輪。
ぶっきらぼうに、ぼそりと吐き捨てる。
「……そいつが枯れるまでには戻ってやるよ」
ミナミが瞬きをする。
「え……」
神田はもうミナミを見ない。
見たら、任務に行けなくなる。
「おもしれー顔すんな」
そう言って神田は歩く速度を速めた。
「先に行く」
その背中は嘘みたいにまっすぐで。
帰る、という約束だけが、貰った花より強く残った。
「待ってよー!見送りたい!」
「来るな!」
「せめてキスぐらい…」
「黙れ」
低い声が落ちた。
怒ってるみたいなのに、違う。
どこか掠れていて、息が混じっている。
「じゃあ、ハグは?」
神田の背中が止まった。
その瞬間、雨の音も、廊下のざわめきも、遠くなる。
神田は振り返らないまま、吐き捨てるように言う。
「……そんなもんしたら……行けなくなるだろ」
ミナミの胸が、きゅっと鳴る。
「そ、それは、困るね……」
小さな声。
神田は舌打ちを飲み込んで、歩きだそうとした。
でも。次の瞬間。
「……チッ」
苛立ちみたいな音と一緒に、神田が戻ってくる。
乱暴に、ミナミの腕を掴んで引き寄せた。
驚く暇もない。
強く唇が重なる。
熱くて、噛みつくみたいなキス。
更に片手をミナミの腰に回して、密着するように抱き寄せる。
舌先が、遠慮なく滑り込んでくる。
ぬるい熱が、口の中をゆっくり掻き回して、
逃げ場を塞ぐみたいに絡め取られる。
ちゅ、と湿った音が落ちて、
次の瞬間には、吸い上げるように深く、強く。
呼吸が奪われて、頭がぼうっと白くなる。
唇が離れたとき、糸を引きそうなほど濃い温度だけが残った。
「……これで十分だろ」
掠れた声。
目を合わせない。
まるで、見たら壊れるみたいに。
ミナミが息を呑む。
「ユウ…」
神田はもう背を向けている。
「……枯れるまでには戻る」
それだけ言って、今度こそ歩き出した。
ピンクの花を抱えたミナミだけが、その場に取り残される。
胸の奥に残ったのは、甘い苦しさと、
確かに触れた約束だった。
でも。
神田の手には、チョコがあって、
ミナミの手には、ピンクの花がある。
それだけで今日は――
いつもより少しだけ、特別だった。
終わり。2026/02/02
手前味噌ですが、この神田好き(*^ω^*)