監査官、結婚します──クリスマスの惨劇
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クリスマスの午前、中央庁は不思議な静けさに包まれていた。
普段は怒号と書類と走り回る職員で満ちる廊下も、ごく一部を除けば今日ばかりは休暇の香りが漂っている。
――ルベリエ長官私邸。
「リンクが……リンクが来るのよォォ……!」
男の甲高い声が屋敷に響いた。
長官は朝からずっとキッチンに立ち、エプロン姿でケーキを三種類焼き、七面鳥をオーブンに入れ、さらにカラス型のクッキーを大量生産していた。
クリスマス用のツリーは天井まで届く豪華仕様。
金と白のリボンは“リンクに似合う色”として厳選したものだ。
暖炉の前の一番いい席には、リンクのためにふわふわのクッションをセット。
侍女たちは震えながら見守る。
「長官……まるで息子を迎える母親のようです」
「息子じゃないわよ。うちの子よ!!!」
(……それは息子では?)
誰も突っ込めないまま、楽しい惨劇の準備は整った。
夕刻。
門のチャイムが鳴った瞬間、長官は料理を放り出し玄関へダッシュした。
「リンク~~~♡♡♡」
両手を広げて飛びつく勢いだった。
しかし玄関が開いた瞬間、その表情は凍りつく。
「長官。メリークリスマス」
「……め、メリークリスマス……?」
「なんで女連れてきてんのよォォォオオ!!?」
屋敷に叫声が響く。
侍女2名が気絶した。
リンクは無表情のまま、ミナミの肩に軽く手を添えた。
「本日、報告があります」
(……まず、ツリーを褒めないのね……)
長官は怒る前に少し傷ついた。
リンクは淡々と続ける。
「私はこちらのミナミさんと――結婚します」
「っ!!!!?」←ミナミ
「報告の順番が違うでしょうがあああああ!!」
屋敷全体が揺れた。
その後、こめかみを引きつかせた長官は、リンクを通してもミナミを通さない。
それはもうあからさまに。
⊂(`・ω・´)⊃バッ
「ルベリエ長官!」
「チッ」
リンクに注意されてからしぶしぶとミナミを中に通した。
おもてなし用のリビングに2人を通すとルベリエは
・リンクの席 → 高級なふわふわクッション
・ミナミの席 → なぜか硬い椅子(しかも足がガタガタ)
を用意する。
・リンクの皿 → 分厚い七面鳥
・ミナミの皿 → ちっ……さい一切れ
・リンクの飲み物 → 高級ワイン
・ミナミ→ 水。なぜか常温。ちょっと青臭い。
(……嫌われてる……完全に……)
冷や汗タラタラなミナミ。
「長官。あなたの対応は不適切です。ミナミに対し礼を欠いています」
「黙りなさい!あんたは黙ってて!!」
なぜかリンクが怒られる。
長官は笑顔なのに目が笑っていない。
「ねぇあなた。リンクはねぇ……とっても繊細なの。大変なの。
あなたみたいな一般人に務まるのかしらぁ~~?」
(ひぃ……)←ミナミ
「……私は繊細ではありません。事実と異なる報告はやめてください」
「黙ってろと言ってるでしょ!!」
「……はい」
完全に“母親に押され気味の息子”。
そして、ケーキタイム、事件は起きる
ルベリエはツリーの光を背に、
なぜか“勝ち誇った女王のような足取り”で皿を運んできた。
リンクの前へはふわふわのショートケーキ。
ふんわりクリーム、上に金粉。
どう見ても最高級。
だが、ミナミの前に置かれた皿は――
黒い。
ケーキが薄すぎるとか、形が崩れているとかではない。
皿の半分を占めて鎮座する黒焦げの塊。
鳥のシルエット……のはずだが、
(……これは…鳥…?)
ミナミはその黒い塊を指先で突っつく。
ツリーの灯が当たると、
表面がテカり、まるで炭の塊のように光った。
ルベリエは満面の笑みで言い放つ。
「はい♡ 特製カラスクッキーよォ♡
あなたのために、焼き直し…違った…焼いたの♡」
その“あなたのため”が
明らかに殺意を含んでいた。
「え、あの……これ……」
(わざと炭になるまで焼いたんですね…)
近づくほどに鼻を刺す焦げ臭さ。
何かの怒りが凝縮したような匂いがする。
(……これ絶対……嗅覚ダメになる……)
ルベリエは手を顎に添えて上機嫌。
「リンクのは柔らかいクリームなのに、
あなたのはカラス。
ふふっ……わかるわよねぇ……?」
ルベリエの声はやたら甘いのに、
言葉の棘が丸見えだった。
ミナミは反射的に背筋を伸ばす。
笑顔を作ろうとしたものの、
口角がひくついて上手く上がらない。
(わかる……?
わかるってなに……?
いやわからなくていい……絶対にわかりたくない……)
視線は皿の上の黒焦げカラスへ吸い寄せられ、
その“存在感”に、手指がピクリと震えた。
思わず膝の上でこっそり拳をぎゅっと握る。
“逃げ出したい衝動”を押さえるためだ。
しかし、ルベリエはそれを見逃さない。
「まぁ……震えてるの? 大丈夫かしらぁ〜?
クリスマスにカラス食べる覚悟が、ねぇ?」
「……っ(怖い……!!)」
喉がキュッと細くなる。
席の空気が一気に冷たく感じられる。
その瞬間、リンクの瞳だけが細く揺れた。
皿と皿の間に流れる“おかしな温度”を見抜いたらしく、
静かに眉が寄る。
ミナミの肩の力が入りすぎているのを見て、
リンクは呼吸より静かな動きで彼女の皿に手を伸ばした。
「長官……これは明らかに焼きすぎです。いや……炭です」
「焼きすぎだぁ?
これは“あなたを守るためのお札”みたいなものよ!
ねぇミナミさん? ちょっとくらい苦くても“嫁の試練”よォ?」
(試練って言った……!?)
ルベリエはさらに畳みかける。
「さぁ食べてみて?
あなたが本気でリンクを想っているなら……
歯が折れても食べられるでしょう?♡」
(いやいやいやいや…歯が折れたら任務どころじゃないし。これ確実に私を殺しにきてるよね!?)
リンクは黙っていられず、
そっとミナミの皿を手に取って自分の方へ寄せた。
「これは私が食べます」
「ちょっと!!やめなさいリンク!!
死んじゃうわよー!」
「え?私は死んでもいいんだ…」
とミナミが誰にも聞こえないようにポツリ。
「……長官。あなたのクッキーは危険です」
「なんでよォオオ!!!(号泣)」
「彼女の甘味の摂取量は、私が管理します。これは私がいただきます」
「え……リンク?」
「ちょ……ちょっと……ダメよー!」
ルベリエは号泣しながら、バッとリンクから炭を乗せた皿を取り上げ、キッチンへと戻って行った。
「ミナミ…長官が申し訳ない」
「ううん、少し驚いただけ。長官もきっといきなりで驚いてるんだと思う」
「ちょっとそこ離れなさーい!」
紅茶をカートに乗せて、すごい勢いでルベリエが戻ってきた。
「リンクは……リンクはねぇ……!!
小さいころ(※比喩)からずっと私の言うことを聞いて……!!
真面目で、綺麗で、可愛くて……!!
そんな子を、あんたみたいな子に渡せるわけないでしょおおお!!!」
「……私は物ではありません」
「あんたは黙ってなさい!!」
「なぜ私が怒られるのですか……」
(そこだけはリンクに同情するわ……)
「ムキーーっ!」
長官が泣きながらミナミにケーキを投げようとした瞬間。
「――許可しません」
その手首をリンクが掴んだ。
「彼女を傷つける行為は、私の任務に反します」
「(グサァァァァァァッ!!!)」
(※息子に掴まれて嬉しい)
涙が滝のように流れ出す。
「り、リンク……成長したのねぇ……
うぅっ……立派になって……(号泣)」
ルベリエはハンカチを握りつぶす勢いで泣き続け、
肩を震わせながらリンクを見上げていた。
リンクはというと、
まるで知らない暗号でも渡されたかのように
瞬きを一度、ゆっくりとした。
「どう反応すればいいのかわかりません」
その真顔に、ミナミは思わず息をのんだ。
(……この状況で、そんなに淡々と……!?)
リンクとルベリエの間で
温度差がひどすぎる。
テーブルを挟んだミナミは、
ただ座っているだけなのに
両手の位置をどこに置けばいいのかわからず、
そっと膝の上で指を絡めて落ち着こうとした。
(リンク……本当に混乱してる……
いや、混乱というか……“困ってるだけ”?
なんでこんな可愛い顔して冷静なの……)
リンクは泣きじゃくる長官から視線をそらし、
ふとミナミの方へ目を向けた。
その一瞬、
ミナミの心臓がキュッと締め付けられた。
(わ……
な、なんか私だけ普通の反応しないといけないみたいな……
え、でも無理……状況がカオスすぎる……)
気を抜くと笑ってしまいそうで、
でも泣きそうにもなって、
ミナミは口元をぎゅっと結んだ。
「……長官はなぜ泣いているのでしょう」
「リンク……」
(こっちが聞きたいよ……!)
ミナミは内心で頭を抱えつつ、
つい肩がくすっと震えた。
でも同時に、
リンクの困惑した横顔が愛しくも見えてしまう。
(リンク……ほんとにわかってない……可愛い……
こんな時でも……好きってなるの、ずるい……)
彼の困った眉と、
ルベリエの滝のような涙の対比があまりにもおかしくて、
ミナミの胸はじんわりと温かくなった。
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場がようやく落ち着き、三人でツリーを眺める。
ツリーの灯りが彼の横顔を照らす。
リンクがふいにミナミの手を取った。
指先だけ、控えめに。
「……混乱させてしまい、申し訳ありません」
「え?あ、いいえ……大丈夫」
リンクはかすかに息を整えた。
普段の任務の時より緊張している。
「私は……あなたと生きる未来を望んでいます。
理由は……説明が難しいのですが」
(理由は……好きだから)
「……どうか、そばにいてください」
「……リンク……」
その瞬間。
椅子を持ち上げて2人に振り下ろそうとする長官が…。
「手ぇ繋ぐなあああああああああ!!!」
「長官!落ち着いてください!」
(終わらない……この家族構造……)
でもリンクは、手を離さなかった。
むしろ、少しだけ強く握って立ちあがる。
「――ミナミ、一緒に逃げましょう!」
「ちょっとおおお!!きぃぃぃぃ!!!」
部屋の隅で待機していた侍女が一言。
「今日は長い夜になりそうですね……」
ツリーの灯りが激しく揺れ、しばらく3人の鬼ごっこは続く。
聖夜の夜。
あなたとリンクの距離だけが、確実に近づいていた。
おわり