幸せにつつまれた場所
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【⠀幸せに包まれた場所⠀】
その部屋は、いつも甘い匂いがした。
焼きたてのケーキの砂糖と、乾いた紙の匂いと、陽だまりの空気が混ざったような、不思議な匂い。
ミナミは窓辺に腰掛けて、光に透けるカーテンをぼんやり眺めていた。
午後の光が、彼女の髪を淡く照らしている。
その背中を見つめながら、リンクは静かに息を吐いた。
(……ここにいると、音がやわらぐ)
外の世界は、いつも鋭い。
命令、戦い、正義、死。
彼の人生は、ずっと刃の上を歩くみたいだった。
それなのに、ミナミのいるこの空間だけは違う。
足元が、ちゃんと床になっている。
呼吸が、ちゃんと胸に落ちる。
「ねえ、ハワード」
ミナミが振り向く。
その笑顔が、あまりにも自然で、あまりにも無防備で、リンクの胸が少しだけ締めつけられる。
「なんですか?」
「ここ、好き?」
何でもない問いなのに、なぜか答えに迷う。
ここ、とは。
部屋のことか。
教団のことか。
それとも――
ミナミのことか。
リンクは視線をそらして、少しだけ考える。
「……嫌いじゃない」
ミナミがくすっと笑った。
「それ、すごくハワードらしいね」
そう言って、彼の隣に移動してきて腰を下ろす。
距離はほんのわずかしかないのに、空気がふっと柔らかくなる。
リンクの心臓が、少しだけ速く打つ。
この場所は、
彼にとって、戦場でも任務でもない。
ただ、お菓子とミナミがいるだけの場所。
それだけで、世界はずいぶんと穏やかになる。
(……ここが)
リンクは、言葉にしないまま、そう思う。
(……私の、幸せなんだ)
ミナミは気づかない。
自分が、誰かの世界をこんなにも変えていることに。
ただ、いつものようにそこにいるだけなのに。
その無自覚さが、
リンクを、いちばん深く、幸せにしていた。
リンクは、ほんの少しだけ視線を落としてから、ミナミのほうを見る。
「……今、あなたが欲しいと言ったら」
低く、静かな声。
「あなたは……困りますか」
「え……?」
ミナミが瞬きをする。
「い、今……? まだ……昼だよ……?」
リンクの唇が、わずかに緩む。
「そうですね」
そう言って、彼は1歩分距離を詰めた。
「……では、口づけくらいなら、許してもらえますか?」
「え、でも……ケーキ……食べたばかり……」
ミナミの声は小さく、どこか逃げ腰なのに、拒んでいない。
リンクは、そっと彼女の頬に手を添える。
「ええ。かまいません」
指先が、肌の温度を確かめるみたいにやさしく触れる。
「……きっと、とても甘いのでしょうね」
そのまま、ゆっくりと距離を詰めて。
唇が、重なる。
一瞬だけ触れるキスじゃなく、確かめるように、ゆっくり、時間をかけて。
徐々に背中がソファーに押し倒されていく。
ちゅ…ちゅく…くちゅ…
舌先を絡み取られて奥までなぞられた。
「…んっ」
ミナミの息が、リンクの唇に混じる。
数十秒――
世界から音が消えたみたいな静けさの中で、
唇はようやく、そっと離れた。
でも、リンクはすぐには距離を取らず、そのまま、ミナミの頬、耳、首筋へと唇を落としていく。
「…あ…」
ちゅ、と小さな音を立てて、最後に首元で離れた。
「……今は、これで我慢しておきます」
そう言う声は落ち着いているのに、どこか熱を含んでいる。
ミナミは、言葉を失ったまま、頬を押さえる。
顔はもう、湯気が出そうなくらい真っ赤だ。
リンクはその様子を見て、くすっと小さく笑い、
「……夜も、一緒にいましょうね」
と、何気ないみたいに言った。
その一言で、ミナミの顔がさらに赤くなるのを見て、リンクの目が、少しだけ満足そうに細くなった。
「は…はい」
「約束ですよ?」
「……はい」
ミナミは小さくうなずいた。
その言葉に、リンクは目を細めて笑った。
しかし、この後、リンクは長官の言いつけで任務へ行くことになる。
守りたいものを胸の奥で抱えたまま、それでも別れなければならない人の目で
「……すみません」
と低く、少し悔しそうな声。
「まさか私の方から、約束を破ることになるなんて」
「いいえ」
ミナミはすぐに首を振る。
「私は、大丈夫です」
強がりでも、取り繕いでもなく。
ただ、彼の決意を否定したくなかった。
リンクは、ほんの一瞬だけ言葉に迷い、それから小さく息を吐く。
「こんなことなら……昼間に、抱いておけばよかった」
「え……?」
思いがけない言葉に、ミナミの頬が一気に熱を帯びる。
視線が揺れて、言葉を失った彼女を見て、リンクはくすりと笑った。
「冗談ですよ」
そう言いながら、彼はそっとミナミの頭の上に手を置く。
撫でるでもなく、包むでもなく――ただ、そこに“いる”と伝えるような、静かな手つき。
「……待っていてください」
声は穏やかで、しかし揺るがない。
「必ず、帰りますから」
「……はい」
ミナミはその手のぬくもりを感じながら、ゆっくりと頷く。
「待ってます。お気をつけて」
リンクは最後にもう一度だけ彼女を見つめ、何か言いかけて、結局言葉にせずに背を向けた。
扉が閉まる音が、やけに大きく響く。
その瞬間、部屋に残ったのは、甘い匂いと、彼のいなくなった空気だけ。
ミナミは唇を噛みしめる。
胸の奥に広がるのは、寂しさと、不安と、それでも確かにあった“幸せ”の記憶。
(…無事に…帰ってきて)
声には出さず、心の中でそう願いながら、彼女はそっと目を伏せた。
約束の続きを、ただ静かに待つために。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
季節が、ゆっくりと移り変わる頃。
太陽が傾き、人の声が少しずつ遠ざかっていく時間帯。
方舟で降り立ったのは、古い石造りの教会。
今はそこの裏口から出て、通りへ足を踏み出した所だ。
夕暮れの光が、ステンドグラスを淡く染めている。
その時。
『 おめでとう!』
はじけるような歓声に、ミナミは思わず足を止めた。
振り返ると、教会の扉から出てきたばかりの新郎新婦が、ライスシャワーを浴びている。
白いドレス、黒いタキシード、はにかんだ笑顔。
周囲の人々は、祝福の声を惜しみなく投げかけていた。
(……結婚)
ミナミの胸が、少しだけきゅっとする。
結婚は、好きな人と辿り着く幸せの最終形。
そんなふうに、彼女はずっと思ってきた。
(私もハワードと……いつか……)
自分でも驚くほど自然に、その姿を思い描いてしまう。
そのときだった。
「……ミナミ?」
聞き慣れた声に、心臓が跳ねる。
祝福のざわめきとは反対の向こう、名前を呼ばれた方へ振り向いた瞬間――
「……ハワード!?」
そこにいたのは、数ヶ月ぶりのリンクだった。
驚いた表情のまま、こちらを見つめている。
「なぜ、ここに……」
「今から、任務で……。まさか、会えるなんて……」
ほんの一瞬の沈黙のあと、リンクの口元がゆるむ。
「……偶然ですね。いえ、ミナミと私なら、必然でしょうか」
その微笑みは、他の誰にも向けない、やわらかなものだった。
少し痩せた頬と、疲れのにじむ目元。
それでも、ミナミを見た瞬間に浮かぶその笑顔だけは、変わらない。
「会えるなんて思ってなかったから……すごく、嬉しい」
ミナミは破顔する勢いでそう言った。
リンクは少し照れたように視線を逸らし、ふとウェディング姿の二人へ目を向ける。
「ああ……結婚式ですか。幸せそうですね」
形のいい唇に、静かな笑み。
「はい……」
ミナミは少しもじもじしながら続ける。
「いつか……私も……」
言いかけた言葉に、リンクの視線が戻る。
「……ミナミ」
穏やかに、しかしまっすぐに。
「その隣には……私がいますか?」
「もちろんです」
迷いのない答えに、リンクは一瞬目を見開いてから、ゆっくりと微笑った。
それは、ミナミにだけ見せる、誰よりもやさしい表情。
「……良かった」
その一言が、何よりも深く胸に染みる。
「……でしたら」
ミナミの前に一歩、リンクが距離を詰める。
「私が必ず、あなたに花嫁衣裳を着せてあげますよ」
その声は、誓いみたいに静かで、でも熱を帯びている。
ミナミの頬が一気に赤くなる。
「……ハ、ハワード……?」
リンクは少しだけ困ったように笑う。
「言ってしまいましたね……」
それでも、視線は逸らさない。
「約束というほど形のあるものではありませんが……それでも、私は本気です」
夕暮れの光が、二人の影を重ねる。
果たされるかどうか分からない未来。
それでも、今この瞬間――
リンクの言葉は、確かにミナミの心を“選んで”いた。
ミナミは小さく微笑み返しながら思った。
これが“幸せの形”なのかもしれない。
誓いの言葉も、指輪もなくても。
こうして、同じ未来を見つめられること。
――それだけで、十分すぎる。と。
おわり。2026/01/14
もしも約束を破ったのがミナミだったら⬇
約束を破ったのは、ミナミのほうだった。
あれから任務に向かう事になった。
それを知った彼の表情は、怒っているようで、でもどこか不安そうだった。
「……あなたは、本当に私を振り回しますね」
低く落ちた声に、ミナミの肩がぴくりと揺れる。
「ごめんなさい……でも、どうしても――」
言い終わる前に、リンクの指が、そっと彼女の顎に触れた。
逃がさない距離。けれど、乱暴ではない。
「約束を破った罰を、どうするか……考えています」
耳元で囁かれて、ミナミの心臓が跳ねる。
近すぎる呼吸。離れない視線。
「……怖いですか?」
そう言いながら、リンクの親指が彼女の頬をなぞる。
それは、叱る仕草というより――確かめるみたいな、甘い触れ方だった。
「……今は、これで勘弁しておきます」
そう言って、ほんの一瞬だけ、唇と唇が触れる距離まで近づいて……。
すぐに離れるリンク。
残されたミナミのほうが、よほど“お仕置き”を受けたみたいに、頬を熱く、そしてその頬を膨らませて立ち尽くす。
このお預けが罰だったーー。
☻くじ引きアプリでどっちに進むか決めたんだけど、ミナミコースもいいね。
その部屋は、いつも甘い匂いがした。
焼きたてのケーキの砂糖と、乾いた紙の匂いと、陽だまりの空気が混ざったような、不思議な匂い。
ミナミは窓辺に腰掛けて、光に透けるカーテンをぼんやり眺めていた。
午後の光が、彼女の髪を淡く照らしている。
その背中を見つめながら、リンクは静かに息を吐いた。
(……ここにいると、音がやわらぐ)
外の世界は、いつも鋭い。
命令、戦い、正義、死。
彼の人生は、ずっと刃の上を歩くみたいだった。
それなのに、ミナミのいるこの空間だけは違う。
足元が、ちゃんと床になっている。
呼吸が、ちゃんと胸に落ちる。
「ねえ、ハワード」
ミナミが振り向く。
その笑顔が、あまりにも自然で、あまりにも無防備で、リンクの胸が少しだけ締めつけられる。
「なんですか?」
「ここ、好き?」
何でもない問いなのに、なぜか答えに迷う。
ここ、とは。
部屋のことか。
教団のことか。
それとも――
ミナミのことか。
リンクは視線をそらして、少しだけ考える。
「……嫌いじゃない」
ミナミがくすっと笑った。
「それ、すごくハワードらしいね」
そう言って、彼の隣に移動してきて腰を下ろす。
距離はほんのわずかしかないのに、空気がふっと柔らかくなる。
リンクの心臓が、少しだけ速く打つ。
この場所は、
彼にとって、戦場でも任務でもない。
ただ、お菓子とミナミがいるだけの場所。
それだけで、世界はずいぶんと穏やかになる。
(……ここが)
リンクは、言葉にしないまま、そう思う。
(……私の、幸せなんだ)
ミナミは気づかない。
自分が、誰かの世界をこんなにも変えていることに。
ただ、いつものようにそこにいるだけなのに。
その無自覚さが、
リンクを、いちばん深く、幸せにしていた。
リンクは、ほんの少しだけ視線を落としてから、ミナミのほうを見る。
「……今、あなたが欲しいと言ったら」
低く、静かな声。
「あなたは……困りますか」
「え……?」
ミナミが瞬きをする。
「い、今……? まだ……昼だよ……?」
リンクの唇が、わずかに緩む。
「そうですね」
そう言って、彼は1歩分距離を詰めた。
「……では、口づけくらいなら、許してもらえますか?」
「え、でも……ケーキ……食べたばかり……」
ミナミの声は小さく、どこか逃げ腰なのに、拒んでいない。
リンクは、そっと彼女の頬に手を添える。
「ええ。かまいません」
指先が、肌の温度を確かめるみたいにやさしく触れる。
「……きっと、とても甘いのでしょうね」
そのまま、ゆっくりと距離を詰めて。
唇が、重なる。
一瞬だけ触れるキスじゃなく、確かめるように、ゆっくり、時間をかけて。
徐々に背中がソファーに押し倒されていく。
ちゅ…ちゅく…くちゅ…
舌先を絡み取られて奥までなぞられた。
「…んっ」
ミナミの息が、リンクの唇に混じる。
数十秒――
世界から音が消えたみたいな静けさの中で、
唇はようやく、そっと離れた。
でも、リンクはすぐには距離を取らず、そのまま、ミナミの頬、耳、首筋へと唇を落としていく。
「…あ…」
ちゅ、と小さな音を立てて、最後に首元で離れた。
「……今は、これで我慢しておきます」
そう言う声は落ち着いているのに、どこか熱を含んでいる。
ミナミは、言葉を失ったまま、頬を押さえる。
顔はもう、湯気が出そうなくらい真っ赤だ。
リンクはその様子を見て、くすっと小さく笑い、
「……夜も、一緒にいましょうね」
と、何気ないみたいに言った。
その一言で、ミナミの顔がさらに赤くなるのを見て、リンクの目が、少しだけ満足そうに細くなった。
「は…はい」
「約束ですよ?」
「……はい」
ミナミは小さくうなずいた。
その言葉に、リンクは目を細めて笑った。
しかし、この後、リンクは長官の言いつけで任務へ行くことになる。
守りたいものを胸の奥で抱えたまま、それでも別れなければならない人の目で
「……すみません」
と低く、少し悔しそうな声。
「まさか私の方から、約束を破ることになるなんて」
「いいえ」
ミナミはすぐに首を振る。
「私は、大丈夫です」
強がりでも、取り繕いでもなく。
ただ、彼の決意を否定したくなかった。
リンクは、ほんの一瞬だけ言葉に迷い、それから小さく息を吐く。
「こんなことなら……昼間に、抱いておけばよかった」
「え……?」
思いがけない言葉に、ミナミの頬が一気に熱を帯びる。
視線が揺れて、言葉を失った彼女を見て、リンクはくすりと笑った。
「冗談ですよ」
そう言いながら、彼はそっとミナミの頭の上に手を置く。
撫でるでもなく、包むでもなく――ただ、そこに“いる”と伝えるような、静かな手つき。
「……待っていてください」
声は穏やかで、しかし揺るがない。
「必ず、帰りますから」
「……はい」
ミナミはその手のぬくもりを感じながら、ゆっくりと頷く。
「待ってます。お気をつけて」
リンクは最後にもう一度だけ彼女を見つめ、何か言いかけて、結局言葉にせずに背を向けた。
扉が閉まる音が、やけに大きく響く。
その瞬間、部屋に残ったのは、甘い匂いと、彼のいなくなった空気だけ。
ミナミは唇を噛みしめる。
胸の奥に広がるのは、寂しさと、不安と、それでも確かにあった“幸せ”の記憶。
(…無事に…帰ってきて)
声には出さず、心の中でそう願いながら、彼女はそっと目を伏せた。
約束の続きを、ただ静かに待つために。
❄︎ ❅ *. ❅ ✥ ✣ ✤
季節が、ゆっくりと移り変わる頃。
太陽が傾き、人の声が少しずつ遠ざかっていく時間帯。
方舟で降り立ったのは、古い石造りの教会。
今はそこの裏口から出て、通りへ足を踏み出した所だ。
夕暮れの光が、ステンドグラスを淡く染めている。
その時。
『 おめでとう!』
はじけるような歓声に、ミナミは思わず足を止めた。
振り返ると、教会の扉から出てきたばかりの新郎新婦が、ライスシャワーを浴びている。
白いドレス、黒いタキシード、はにかんだ笑顔。
周囲の人々は、祝福の声を惜しみなく投げかけていた。
(……結婚)
ミナミの胸が、少しだけきゅっとする。
結婚は、好きな人と辿り着く幸せの最終形。
そんなふうに、彼女はずっと思ってきた。
(私もハワードと……いつか……)
自分でも驚くほど自然に、その姿を思い描いてしまう。
そのときだった。
「……ミナミ?」
聞き慣れた声に、心臓が跳ねる。
祝福のざわめきとは反対の向こう、名前を呼ばれた方へ振り向いた瞬間――
「……ハワード!?」
そこにいたのは、数ヶ月ぶりのリンクだった。
驚いた表情のまま、こちらを見つめている。
「なぜ、ここに……」
「今から、任務で……。まさか、会えるなんて……」
ほんの一瞬の沈黙のあと、リンクの口元がゆるむ。
「……偶然ですね。いえ、ミナミと私なら、必然でしょうか」
その微笑みは、他の誰にも向けない、やわらかなものだった。
少し痩せた頬と、疲れのにじむ目元。
それでも、ミナミを見た瞬間に浮かぶその笑顔だけは、変わらない。
「会えるなんて思ってなかったから……すごく、嬉しい」
ミナミは破顔する勢いでそう言った。
リンクは少し照れたように視線を逸らし、ふとウェディング姿の二人へ目を向ける。
「ああ……結婚式ですか。幸せそうですね」
形のいい唇に、静かな笑み。
「はい……」
ミナミは少しもじもじしながら続ける。
「いつか……私も……」
言いかけた言葉に、リンクの視線が戻る。
「……ミナミ」
穏やかに、しかしまっすぐに。
「その隣には……私がいますか?」
「もちろんです」
迷いのない答えに、リンクは一瞬目を見開いてから、ゆっくりと微笑った。
それは、ミナミにだけ見せる、誰よりもやさしい表情。
「……良かった」
その一言が、何よりも深く胸に染みる。
「……でしたら」
ミナミの前に一歩、リンクが距離を詰める。
「私が必ず、あなたに花嫁衣裳を着せてあげますよ」
その声は、誓いみたいに静かで、でも熱を帯びている。
ミナミの頬が一気に赤くなる。
「……ハ、ハワード……?」
リンクは少しだけ困ったように笑う。
「言ってしまいましたね……」
それでも、視線は逸らさない。
「約束というほど形のあるものではありませんが……それでも、私は本気です」
夕暮れの光が、二人の影を重ねる。
果たされるかどうか分からない未来。
それでも、今この瞬間――
リンクの言葉は、確かにミナミの心を“選んで”いた。
ミナミは小さく微笑み返しながら思った。
これが“幸せの形”なのかもしれない。
誓いの言葉も、指輪もなくても。
こうして、同じ未来を見つめられること。
――それだけで、十分すぎる。と。
おわり。2026/01/14
もしも約束を破ったのがミナミだったら⬇
約束を破ったのは、ミナミのほうだった。
あれから任務に向かう事になった。
それを知った彼の表情は、怒っているようで、でもどこか不安そうだった。
「……あなたは、本当に私を振り回しますね」
低く落ちた声に、ミナミの肩がぴくりと揺れる。
「ごめんなさい……でも、どうしても――」
言い終わる前に、リンクの指が、そっと彼女の顎に触れた。
逃がさない距離。けれど、乱暴ではない。
「約束を破った罰を、どうするか……考えています」
耳元で囁かれて、ミナミの心臓が跳ねる。
近すぎる呼吸。離れない視線。
「……怖いですか?」
そう言いながら、リンクの親指が彼女の頬をなぞる。
それは、叱る仕草というより――確かめるみたいな、甘い触れ方だった。
「……今は、これで勘弁しておきます」
そう言って、ほんの一瞬だけ、唇と唇が触れる距離まで近づいて……。
すぐに離れるリンク。
残されたミナミのほうが、よほど“お仕置き”を受けたみたいに、頬を熱く、そしてその頬を膨らませて立ち尽くす。
このお預けが罰だったーー。
☻くじ引きアプリでどっちに進むか決めたんだけど、ミナミコースもいいね。