The trap(ぶぜさに)
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「ワンチャンたち、頭とお散歩に行きませんか」
「頭、生憎ですがワンチャンは暑さが苦手です」
「俺もぉ……そこ閉めてぇ……」
ばっちりクーラーが効いた室内でぐったりと畳に横たわる村雲に従い、部屋に入ってぴったりと障子戸を閉ざす。五月雨はまだ元気な方で、座布団に正座して短冊と向き合っていた。一応夏を感じたい気持ち自体はあるようだが、体が追いつかないらしい。
「頭、ワンチャンのために外で見つけた季語を教えてください」
「松井が死にそうな顔でトマト運んでたよ。一緒に見に行こうよ」
「大切なワンチャンを殺すおつもりですか。頭が望むのならば仕方がありませんが……」
「なんでそんなひどいことするの……? 雨さんを殺すくらいなら二束三文の俺から……ううっ……」
「しないよ、頭そんなひどいことしない。諦めるから私のこと隠して」
部屋の奥の押し入れを開けて、中のものを端に寄せる。私1人分くらいならば入れそうなスペースができたので、そこに入って膝を抱える。これで準備は万端だ。村雲と五月雨は顔を見合わせ、ワンチャン語で二言三言言葉を交わしてから首を傾げた。
「何をやらかしたんですか?」
「やらかしたの前提でくるのやめてよ」
「違うんですか」
「違ってはないかもしれませんけど」
「どうせ豊前でしょ? 早く謝ればいいのに」
「……五月雨と村雲なら分かってくれると思うけど、最近夜も暑くなってきたでしょ? だから別の布団で寝たいって言ったらあの手この手で自分の布団に引きずりこんでくるようになって。ムカついたから私の部屋出禁にしたらめっちゃ怒っちゃった……」
「なるほど、ワンチャンならぬ犬も食わない、というやつですね。一句生み出せそうな気配です」
「ええ、すごいね、雨さん。俺、すっごいくだらなーって思っちゃったよ」
「私もくだらないなって思ってるよ。でも豊前がムキになって引かないからもうどうしようもなくなっちゃって」
「そういうとこあるよね、豊前」
「自分の心に素直な刀ですから。……おや、噂をすればですね」
「!」
私には何も察知できていないが、優秀な忍び兼刀剣男士兼ワンチャンの耳を信じて即座に押し入れを閉ざす。それとほぼ同時、部屋の外から渦中の男の声と障子を開く音が聞こえた。
「雨、雲。主見てねーか?」
「さて……頭が何か?」
「部屋、出禁にされた」
「……それなら部屋に籠城してるんじゃないの?」
「それはねーな。梅雨空けたから出かけてえって言ってたんだ」
「なんだ、でーとのお誘いってこと?」
「そんなとこ。せっかくだし遠駆けとかいいよな」
「そういうことなら見ましたよ、頭」
「あー!」
すっと開かれた襖の向こうで、豊前がニッと口角を上げた。いつものさわやかな笑い方に比べると悪役めいて見えるのは、目が笑っていないからだろう。私を売ったワンチャンは、良いことをしたと言わんばかりに満足そうに微笑んでいた。
「五月雨、なんで!」
「仲直りのきっかけがほしいということでしょう? ならばこれは頭にとっても利になると判断しました」
「分かってんなぁ、雨! んじゃ行こうぜ、主」
「助けてワンチャンたち!」
「いってらっしゃーい」
ずるずると押し入れから引きずり出され、問答無用で肩に担がれドナドナされていく私を、村雲は何の感情もなく見送った。あのワンチャンは私に興味がなさすぎるのではないだろうか。いや、興味を持たれすぎても面倒なことになるとは、機嫌よく私を運ぶこの刀によって身をもって学んだ。何故こんなことになったのかと深いため息を吐き出すと、豊前は肩を揺らして笑う。
「下手だよな、かくれんぼ」
「……なんで分かったの?」
「気配だだ漏れ」
「これだから刀剣男士は……」
「んで? そろそろ出禁解除してくれんだろ?」
「しーまーせーんー」
「なんで」
「だから、暑いから!」
「じゃあクーラーついてる部屋で寝ようぜ。そしたらいくらでも引っついてていーんだろ?」
「共用スペースでくっついて寝るカップルなんて害だよ、害。隣の布団で寝るだけでいいじゃんか」
「それじゃ一緒に寝る意味ねーだろ?」
「あると思いますけど?」
縁側を進み玄関を抜け、豊前はまっすぐ厩へと向かう。自分は靴を履いておきながら私をはだしのまま馬に乗せたのは、間違いなくわざとだろう。こうすれば私は自由に動き回ることができず、豊前を頼るほかない。出禁に対するささやかな報復行動に頭を抱えるも、豊前は一向に気にせず後ろに乗り、私を抱き込むように手綱を握った。
「捕まってろよ」
「どこに……うわっ」
横向きに乗せられてしまったから掴む場所などどこにもない。戸惑っている間に馬が走り出してしまったから思わず豊前の腕をつかむと、喉を鳴らすような音が聞こえた。少し腹が立ったので無言で腕をつねる。それでも豊前は楽しげに笑うだけだった。
梅雨が明けた本丸の空気は、1カ月前に比べるとからりと乾いていた。日差しは強く気温は高いが、梅雨特有の不快さは消え失せている。こうして風を感じられれば、多少密着していても気にならないほどだ。少しだけ気分が和らぐと、それを見越したように豊前は「良い風だな」と笑った。思っていたよりも機嫌がよさそうで、逆に訝しい気持ちが強くなる。
「……もっと怒ってなかったっけ?」
「ん、まーな。でもせっかくのでーとなんだから、しかめ面より笑ってる方がいいだろ?」
「それは、まあ……」
「あと経理に主の部屋にクーラーつけるように提案しといた」
「は!?」
「この暑さじゃ主が死んじまうからって言ったら、わりと真剣に検討してたぜ」
「ちょっとちょっと? 私に無断で何してんの!?」
「俺と主の死活問題だかんなー」
「そんな出費するくらいなら景趣変えるよ!」
「お、言質取ったぜ? 暑くないなら一緒に寝ていーんだよな?」
「うぐ……」
確かに理論上はそういうことになる。体よく誘導されてしまった自分が悔しいが、豊前は見た目以上に面倒な男だということはこの半月くらいでいやというほど思い知った。自分がやりたいことは意地でもやるし、相手を傷つけてしまわない限りはわりと強引に事を進める。そのうえ強情だから、こちらが折れる方が話が早い場面が多かった。それでもまだ別れようとは思わないのはひとえに、彼がまっすぐに私を好いてくれているからだ。
「遠駆けなんてひとりでも十分楽しいけどよ、2人きりだと、どこまでも行けそうな気分になるな」
「夕飯までには戻ってね? 今日は糖度高いトマトが採れたって桑名が騒いでたんだから」
「そーなん? ……あ。あれか? ちょっと元気なかったやつ」
「そうそう。豊前と桑名ががんばってお世話してたでしょ?」
「主に食ってほしかったからな。うし、そうと決まれば引き返すか!」
「えっ、もう!? わわっ」
急ブレーキからのUターンは、乗馬に慣れていない私にはちょっとした恐怖だった。豊前がしっかりと支えてくれていることは分かっていても、背筋がひやりと冷える。豊前の腕をつかむ力を強めると、まるで感情がこもっていない「いてえ」という声が降ってきた。
「誰のせいだと……!」
「いーよ、俺のせいで」
「最初から豊前のせいでしかないからね!?」
「元は主の出禁だろ?」
「出禁の原因は豊前! 分かってないでしょ!」
「好きなやつにくっついてたいってだけで、こんなに責められるとは思わねーだろ?」
「責められたあとも自覚がないのが問題なんだってば……」
「ハハ……お、見ろよ。きれーだぞ、空」
あからさまに話をそらそうとする豊前をさらに問いつめたくなったが、ひとまず促されるまま空を見上げる。少しずつ傾き始めた太陽が、オレンジ色に燃えていた。天高い部分はまだまだ青く、端の方だけ橙色と青色が混ざり合っている。本丸付近は遮蔽物が多いが、この場所は拓けていたため山の端までがすべて見通せた。ゆっくりと速度を落とし立ち止まった馬の上、2人でじっと、夕焼けの空に見入る。
「本当にきれい。良いタイミングだったね」
「……実は、どうしても一緒に見てーなって思って」
「え」
「景趣変わったら同じ景色は見せてやれねーだろ? だから今日のうちにって思ってさ」
思わず見上げた豊前は、私を見てはいなかった。まっすぐに夕焼けの空を見つめる横顔に照れくささはない。純粋に、私と共にこの景色が見たかった。ただそれだけの気持ちしかないのだとよく分かる優しげな微笑みに、胸の奥がぎゅうと締めつけられるような感覚を覚える。どれほど面倒で子どもっぽいところがあっても、こういう一面を見せられるとついほだされてしまうから困りものだ。
(景趣変える理由だって豊前なのに)
まるでそんな諍いはなかったかのように、心が安らいでいる自分がいた。
ついと赤い瞳がこちらを向き、静かに細められる。自分がどのような顔をしているのかは分からない。しかし豊前の満足そうな顔を見るに、私の方も似たような表情を浮かべているのだろう。絶対に逃げられないこんな場所に囲い込まれておいて何をのんきなと、冷静な頭は考える。しかしどちらからともなく顔を寄せ、唇を重ねると、この男ならばきっと大丈夫だと、楽観的なことばかりが浮かんでしまうから不思議だ。恋人となってからでもなお近いと感じるこの距離も、豊前相手ならば簡単に許せてしまっていた。
「頭、生憎ですがワンチャンは暑さが苦手です」
「俺もぉ……そこ閉めてぇ……」
ばっちりクーラーが効いた室内でぐったりと畳に横たわる村雲に従い、部屋に入ってぴったりと障子戸を閉ざす。五月雨はまだ元気な方で、座布団に正座して短冊と向き合っていた。一応夏を感じたい気持ち自体はあるようだが、体が追いつかないらしい。
「頭、ワンチャンのために外で見つけた季語を教えてください」
「松井が死にそうな顔でトマト運んでたよ。一緒に見に行こうよ」
「大切なワンチャンを殺すおつもりですか。頭が望むのならば仕方がありませんが……」
「なんでそんなひどいことするの……? 雨さんを殺すくらいなら二束三文の俺から……ううっ……」
「しないよ、頭そんなひどいことしない。諦めるから私のこと隠して」
部屋の奥の押し入れを開けて、中のものを端に寄せる。私1人分くらいならば入れそうなスペースができたので、そこに入って膝を抱える。これで準備は万端だ。村雲と五月雨は顔を見合わせ、ワンチャン語で二言三言言葉を交わしてから首を傾げた。
「何をやらかしたんですか?」
「やらかしたの前提でくるのやめてよ」
「違うんですか」
「違ってはないかもしれませんけど」
「どうせ豊前でしょ? 早く謝ればいいのに」
「……五月雨と村雲なら分かってくれると思うけど、最近夜も暑くなってきたでしょ? だから別の布団で寝たいって言ったらあの手この手で自分の布団に引きずりこんでくるようになって。ムカついたから私の部屋出禁にしたらめっちゃ怒っちゃった……」
「なるほど、ワンチャンならぬ犬も食わない、というやつですね。一句生み出せそうな気配です」
「ええ、すごいね、雨さん。俺、すっごいくだらなーって思っちゃったよ」
「私もくだらないなって思ってるよ。でも豊前がムキになって引かないからもうどうしようもなくなっちゃって」
「そういうとこあるよね、豊前」
「自分の心に素直な刀ですから。……おや、噂をすればですね」
「!」
私には何も察知できていないが、優秀な忍び兼刀剣男士兼ワンチャンの耳を信じて即座に押し入れを閉ざす。それとほぼ同時、部屋の外から渦中の男の声と障子を開く音が聞こえた。
「雨、雲。主見てねーか?」
「さて……頭が何か?」
「部屋、出禁にされた」
「……それなら部屋に籠城してるんじゃないの?」
「それはねーな。梅雨空けたから出かけてえって言ってたんだ」
「なんだ、でーとのお誘いってこと?」
「そんなとこ。せっかくだし遠駆けとかいいよな」
「そういうことなら見ましたよ、頭」
「あー!」
すっと開かれた襖の向こうで、豊前がニッと口角を上げた。いつものさわやかな笑い方に比べると悪役めいて見えるのは、目が笑っていないからだろう。私を売ったワンチャンは、良いことをしたと言わんばかりに満足そうに微笑んでいた。
「五月雨、なんで!」
「仲直りのきっかけがほしいということでしょう? ならばこれは頭にとっても利になると判断しました」
「分かってんなぁ、雨! んじゃ行こうぜ、主」
「助けてワンチャンたち!」
「いってらっしゃーい」
ずるずると押し入れから引きずり出され、問答無用で肩に担がれドナドナされていく私を、村雲は何の感情もなく見送った。あのワンチャンは私に興味がなさすぎるのではないだろうか。いや、興味を持たれすぎても面倒なことになるとは、機嫌よく私を運ぶこの刀によって身をもって学んだ。何故こんなことになったのかと深いため息を吐き出すと、豊前は肩を揺らして笑う。
「下手だよな、かくれんぼ」
「……なんで分かったの?」
「気配だだ漏れ」
「これだから刀剣男士は……」
「んで? そろそろ出禁解除してくれんだろ?」
「しーまーせーんー」
「なんで」
「だから、暑いから!」
「じゃあクーラーついてる部屋で寝ようぜ。そしたらいくらでも引っついてていーんだろ?」
「共用スペースでくっついて寝るカップルなんて害だよ、害。隣の布団で寝るだけでいいじゃんか」
「それじゃ一緒に寝る意味ねーだろ?」
「あると思いますけど?」
縁側を進み玄関を抜け、豊前はまっすぐ厩へと向かう。自分は靴を履いておきながら私をはだしのまま馬に乗せたのは、間違いなくわざとだろう。こうすれば私は自由に動き回ることができず、豊前を頼るほかない。出禁に対するささやかな報復行動に頭を抱えるも、豊前は一向に気にせず後ろに乗り、私を抱き込むように手綱を握った。
「捕まってろよ」
「どこに……うわっ」
横向きに乗せられてしまったから掴む場所などどこにもない。戸惑っている間に馬が走り出してしまったから思わず豊前の腕をつかむと、喉を鳴らすような音が聞こえた。少し腹が立ったので無言で腕をつねる。それでも豊前は楽しげに笑うだけだった。
梅雨が明けた本丸の空気は、1カ月前に比べるとからりと乾いていた。日差しは強く気温は高いが、梅雨特有の不快さは消え失せている。こうして風を感じられれば、多少密着していても気にならないほどだ。少しだけ気分が和らぐと、それを見越したように豊前は「良い風だな」と笑った。思っていたよりも機嫌がよさそうで、逆に訝しい気持ちが強くなる。
「……もっと怒ってなかったっけ?」
「ん、まーな。でもせっかくのでーとなんだから、しかめ面より笑ってる方がいいだろ?」
「それは、まあ……」
「あと経理に主の部屋にクーラーつけるように提案しといた」
「は!?」
「この暑さじゃ主が死んじまうからって言ったら、わりと真剣に検討してたぜ」
「ちょっとちょっと? 私に無断で何してんの!?」
「俺と主の死活問題だかんなー」
「そんな出費するくらいなら景趣変えるよ!」
「お、言質取ったぜ? 暑くないなら一緒に寝ていーんだよな?」
「うぐ……」
確かに理論上はそういうことになる。体よく誘導されてしまった自分が悔しいが、豊前は見た目以上に面倒な男だということはこの半月くらいでいやというほど思い知った。自分がやりたいことは意地でもやるし、相手を傷つけてしまわない限りはわりと強引に事を進める。そのうえ強情だから、こちらが折れる方が話が早い場面が多かった。それでもまだ別れようとは思わないのはひとえに、彼がまっすぐに私を好いてくれているからだ。
「遠駆けなんてひとりでも十分楽しいけどよ、2人きりだと、どこまでも行けそうな気分になるな」
「夕飯までには戻ってね? 今日は糖度高いトマトが採れたって桑名が騒いでたんだから」
「そーなん? ……あ。あれか? ちょっと元気なかったやつ」
「そうそう。豊前と桑名ががんばってお世話してたでしょ?」
「主に食ってほしかったからな。うし、そうと決まれば引き返すか!」
「えっ、もう!? わわっ」
急ブレーキからのUターンは、乗馬に慣れていない私にはちょっとした恐怖だった。豊前がしっかりと支えてくれていることは分かっていても、背筋がひやりと冷える。豊前の腕をつかむ力を強めると、まるで感情がこもっていない「いてえ」という声が降ってきた。
「誰のせいだと……!」
「いーよ、俺のせいで」
「最初から豊前のせいでしかないからね!?」
「元は主の出禁だろ?」
「出禁の原因は豊前! 分かってないでしょ!」
「好きなやつにくっついてたいってだけで、こんなに責められるとは思わねーだろ?」
「責められたあとも自覚がないのが問題なんだってば……」
「ハハ……お、見ろよ。きれーだぞ、空」
あからさまに話をそらそうとする豊前をさらに問いつめたくなったが、ひとまず促されるまま空を見上げる。少しずつ傾き始めた太陽が、オレンジ色に燃えていた。天高い部分はまだまだ青く、端の方だけ橙色と青色が混ざり合っている。本丸付近は遮蔽物が多いが、この場所は拓けていたため山の端までがすべて見通せた。ゆっくりと速度を落とし立ち止まった馬の上、2人でじっと、夕焼けの空に見入る。
「本当にきれい。良いタイミングだったね」
「……実は、どうしても一緒に見てーなって思って」
「え」
「景趣変わったら同じ景色は見せてやれねーだろ? だから今日のうちにって思ってさ」
思わず見上げた豊前は、私を見てはいなかった。まっすぐに夕焼けの空を見つめる横顔に照れくささはない。純粋に、私と共にこの景色が見たかった。ただそれだけの気持ちしかないのだとよく分かる優しげな微笑みに、胸の奥がぎゅうと締めつけられるような感覚を覚える。どれほど面倒で子どもっぽいところがあっても、こういう一面を見せられるとついほだされてしまうから困りものだ。
(景趣変える理由だって豊前なのに)
まるでそんな諍いはなかったかのように、心が安らいでいる自分がいた。
ついと赤い瞳がこちらを向き、静かに細められる。自分がどのような顔をしているのかは分からない。しかし豊前の満足そうな顔を見るに、私の方も似たような表情を浮かべているのだろう。絶対に逃げられないこんな場所に囲い込まれておいて何をのんきなと、冷静な頭は考える。しかしどちらからともなく顔を寄せ、唇を重ねると、この男ならばきっと大丈夫だと、楽観的なことばかりが浮かんでしまうから不思議だ。恋人となってからでもなお近いと感じるこの距離も、豊前相手ならば簡単に許せてしまっていた。
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