小竜さに
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玄関の引き戸をわずかに開ければ、途端に隙間から冷えた風が入り込んだ。外に充満していた冬の空気は、無防備にさらされた手の甲から容赦なく体温を奪っていく。げんなりしながら吐き出したため息は白く、それがさらに気分を下向きにさせた。
「この世から月曜日なんか消え去ればいい……」
「ことさらに月曜日を嫌うよね、キミ」
からかうように言う小竜を振り返れば、彼はからかうように口角を上げて見せた。
審神者業と現世での仕事を兼業している審神者は珍しくない。私もその1人だ。おかげさまで平日、特に休み明けの月曜日の朝は何もなくとも憂鬱だというのに、こう寒くては外に出る気も失せるというもの。冬の月曜日に憎しみが募るのも致し方ないことだった。
「なんでこんな思いしてまで働いてるんだろ……」
「それでも辞めないところがキミらしくて、俺は好ましいけどね」
「うう……清廉潔白な主でいられるようがんばりますぅ……」
「ハハ、それは結構。……ほら、忘れ物だよ」
左頬に添えられた大きな手のひらに誘われるように上向けば、音も立てずに唇同士が触れ合って、すぐに離れた。出がけにキスなど付き合いたてのカップルのようで、少し気恥ずかしい。わずかに開いた口の端から漏れた白い息は、私の体温と外気温の差を教えていた。
「お、長船はすぐそういうことする……」
「そうやって刀派でくくられるのはあまり好きじゃないな、と言いたいところだけど、確かにうちの連中はどれもやりそうだ。……それで?」
「ん?」
「いくら月曜日の朝にすべて囚われてしまったキミでも、この広い本丸に置いていかれる哀れな恋人にかける情けくらいは、持ち合わせているだろう?」
「……」
これまたからかうように細められた瞳に、苦笑を浮かべて両手を広げる。物理的に大きな恋人は満足げに歩み寄り、私を腕の中に収めてしまった。少しだけ丸まった背中に両手を回し、労わるようになでてやると、くすぐったそうな笑い声が鼓膜を叩く。私の頭にすりと頬を寄せる仕草は、まるで飼い主に懐く動物のようだと考える。修行前の彼ならば絶対にしなかった甘え方には、未だに慣れない。けれど小竜が8時間と少しの間、私と離れがたいと思ってくれているという事実に、心が満たされないはずもない。引き戸を開けた瞬間の憂鬱な気分と冷えた空気が、明確に薄れるのを感じた。
「名残惜しいけれど、そろそろ時間かな」
お互いに惜しむように、できるだけゆっくりと両手を離し、少しだけ身を引くと、今度は頬に唇を寄せてから小竜は優しく私の背を押す。恋人と触れ合う面積が減るに従って、いよいよ1週間の始まりが現実味を帯びてきた。コート越しに感じる指先の感触が完全に離れるのと同時、楽しかった日曜日の余韻と後ろ髪引かれる思いを断ち切って、背筋を伸ばす。
「留守よろしくね」
「ああ、任せてくれ。でも、できるだけ早いお帰りを期待しているよ」
「気を付ける。どこかの誰かさんに旅に出られちゃったら困るし」
「おや、お見通しだね。キミに見透かされるのは、悪い気がしない」
「そういうもの? 私も夕飯のリクエストとか見透かしてほしいな」
「ハハ、キミの望みだ。努力はしてみるよ。……じゃあ、いってらっしゃい、俺の主」
「いってきます、小竜」
軽く手を振ってから、意を決して玄関から足を踏み出す。氷を直接肌に当てられるような冷気に体を縮こまらせるが、歩みは止めない。少し乱れたマフラーをしっかりとまき直し、きっと私が見えなくなるまで玄関先に佇んでいるのだろう恋人の視線を背中で受け止めながら、憂鬱な月曜日の朝を歩く。
「この世から月曜日なんか消え去ればいい……」
「ことさらに月曜日を嫌うよね、キミ」
からかうように言う小竜を振り返れば、彼はからかうように口角を上げて見せた。
審神者業と現世での仕事を兼業している審神者は珍しくない。私もその1人だ。おかげさまで平日、特に休み明けの月曜日の朝は何もなくとも憂鬱だというのに、こう寒くては外に出る気も失せるというもの。冬の月曜日に憎しみが募るのも致し方ないことだった。
「なんでこんな思いしてまで働いてるんだろ……」
「それでも辞めないところがキミらしくて、俺は好ましいけどね」
「うう……清廉潔白な主でいられるようがんばりますぅ……」
「ハハ、それは結構。……ほら、忘れ物だよ」
左頬に添えられた大きな手のひらに誘われるように上向けば、音も立てずに唇同士が触れ合って、すぐに離れた。出がけにキスなど付き合いたてのカップルのようで、少し気恥ずかしい。わずかに開いた口の端から漏れた白い息は、私の体温と外気温の差を教えていた。
「お、長船はすぐそういうことする……」
「そうやって刀派でくくられるのはあまり好きじゃないな、と言いたいところだけど、確かにうちの連中はどれもやりそうだ。……それで?」
「ん?」
「いくら月曜日の朝にすべて囚われてしまったキミでも、この広い本丸に置いていかれる哀れな恋人にかける情けくらいは、持ち合わせているだろう?」
「……」
これまたからかうように細められた瞳に、苦笑を浮かべて両手を広げる。物理的に大きな恋人は満足げに歩み寄り、私を腕の中に収めてしまった。少しだけ丸まった背中に両手を回し、労わるようになでてやると、くすぐったそうな笑い声が鼓膜を叩く。私の頭にすりと頬を寄せる仕草は、まるで飼い主に懐く動物のようだと考える。修行前の彼ならば絶対にしなかった甘え方には、未だに慣れない。けれど小竜が8時間と少しの間、私と離れがたいと思ってくれているという事実に、心が満たされないはずもない。引き戸を開けた瞬間の憂鬱な気分と冷えた空気が、明確に薄れるのを感じた。
「名残惜しいけれど、そろそろ時間かな」
お互いに惜しむように、できるだけゆっくりと両手を離し、少しだけ身を引くと、今度は頬に唇を寄せてから小竜は優しく私の背を押す。恋人と触れ合う面積が減るに従って、いよいよ1週間の始まりが現実味を帯びてきた。コート越しに感じる指先の感触が完全に離れるのと同時、楽しかった日曜日の余韻と後ろ髪引かれる思いを断ち切って、背筋を伸ばす。
「留守よろしくね」
「ああ、任せてくれ。でも、できるだけ早いお帰りを期待しているよ」
「気を付ける。どこかの誰かさんに旅に出られちゃったら困るし」
「おや、お見通しだね。キミに見透かされるのは、悪い気がしない」
「そういうもの? 私も夕飯のリクエストとか見透かしてほしいな」
「ハハ、キミの望みだ。努力はしてみるよ。……じゃあ、いってらっしゃい、俺の主」
「いってきます、小竜」
軽く手を振ってから、意を決して玄関から足を踏み出す。氷を直接肌に当てられるような冷気に体を縮こまらせるが、歩みは止めない。少し乱れたマフラーをしっかりとまき直し、きっと私が見えなくなるまで玄関先に佇んでいるのだろう恋人の視線を背中で受け止めながら、憂鬱な月曜日の朝を歩く。