小竜さに
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追ってこいと煽るくせに、いざ手を伸ばせばするりと逃げるこの男に抱く感情は、いつも複雑だ。
空をかくばかりの指先へのいらだち。試すような微笑みへの悔しさ。思うように振り向いてもらえない悲しみや不安に、それでも諦められないほど大きくなった、好意。
彼が何をどうしたいのかが分からない。私が落胆するたびに挑戦的に細められる紫色が、いっそ憎たらしくて仕方がない。それでもふわりと翻る金の髪とその上で揺れる赤色をいつまでも目で追いかける自分は、きっと正気をなくしてしまったのだ。
「私のこと、どうしたいの?」
ついに彼を直接問い詰めるに至ったのは、ぐちゃぐちゃに混ぜ込まれた感情の波が、かろうじてそれらをせき止めていた堤防を押し流したあとだった。
「キミの好きにすればいいさ」
「答えになってない」
「おや、キミはすでに、答えを得ていると思っていたけれど」
「……私に言わせるつもり?」
小竜が言わんとすることは分からなくもない。彼は誰彼構わずちょっかいを出すようなタイプではない。表面上の振る舞いが友好的であれ他人行儀であれ、あちらから声をかけ、視線を送ってくる時点で、特別だと思われている証だ。それは私も理解している。
だが散々振り回しておいてなお私に自発的な言葉を求めるとは、いったいどういう了見か。ここまできたら、自分が思いを口にすればいい。
非難をこめたにらむような視線に返ったのは謝罪や反省ではなく、「そうだよ」という一言と、目だけを細めた、余裕を滲ませる笑みだった。
「戦じゃ、相手を自分のテリトリーに誘い込むのは定石だろ?」
言いながら、小竜は正面から私の手を取った。あれほど捕まえようと躍起になっていた指先が、こんなにも呆気なく私に触れる。思いが叶った喜びと、あの努力はなんだったのかという悔しさが同時に湧き上がり、心臓が不規則に拡張と収縮を繰り返した。
「自分の思うがままに事を運びたいならば、逃げる背を安易に追ってはいけない」
穏やかな声が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「勝機がないまま挑発に乗るのは自殺行為だし、降伏するのなら、機をよく見るべきだ。そして俺が思うに、その機は、今だよ」
包むように私の両手を手のひらに乗せ、手の甲をゆっくりとなぞる親指が熱い。私の目ではなく重なった手元を見下ろす視線はもっと熱く、心地よく鼓膜を揺らす声音は、どこか甘い。伏せたまつげの美しさに気を取られ、ぐっと息をのんだ私に気がついたのだろう。小竜は少しだけ視線を持ち上げると、ふと息を吐くように笑った。
「教えてくれ、主。キミが俺を、どうしたいのか」
「……」
「まあ言葉にされずとも、キミが俺に夢中なことはとっくに知っているけれど。それでも、その口から、聞かせてくれ」
濃くなった悔しさは、自分が彼にかなうことはないと知っているからこそ。自ら白旗を降るべきだと促す瞳は、それすら見透かして私の口が開くのを待っている。
(……私にだって、プライドくらいある)
選べる道は多くはないが、簡単に負けを認めることもできない。無言は精一杯の抵抗だ。このかっこつけな男も、きっともうこれ以上言葉を重ねてくることはない。私の両手を包む手に力をこめ、やわやわと握り、彼の思いを訴えるのみ。
この攻防戦を終わらせる一声は、私の手に握られている。
空をかくばかりの指先へのいらだち。試すような微笑みへの悔しさ。思うように振り向いてもらえない悲しみや不安に、それでも諦められないほど大きくなった、好意。
彼が何をどうしたいのかが分からない。私が落胆するたびに挑戦的に細められる紫色が、いっそ憎たらしくて仕方がない。それでもふわりと翻る金の髪とその上で揺れる赤色をいつまでも目で追いかける自分は、きっと正気をなくしてしまったのだ。
「私のこと、どうしたいの?」
ついに彼を直接問い詰めるに至ったのは、ぐちゃぐちゃに混ぜ込まれた感情の波が、かろうじてそれらをせき止めていた堤防を押し流したあとだった。
「キミの好きにすればいいさ」
「答えになってない」
「おや、キミはすでに、答えを得ていると思っていたけれど」
「……私に言わせるつもり?」
小竜が言わんとすることは分からなくもない。彼は誰彼構わずちょっかいを出すようなタイプではない。表面上の振る舞いが友好的であれ他人行儀であれ、あちらから声をかけ、視線を送ってくる時点で、特別だと思われている証だ。それは私も理解している。
だが散々振り回しておいてなお私に自発的な言葉を求めるとは、いったいどういう了見か。ここまできたら、自分が思いを口にすればいい。
非難をこめたにらむような視線に返ったのは謝罪や反省ではなく、「そうだよ」という一言と、目だけを細めた、余裕を滲ませる笑みだった。
「戦じゃ、相手を自分のテリトリーに誘い込むのは定石だろ?」
言いながら、小竜は正面から私の手を取った。あれほど捕まえようと躍起になっていた指先が、こんなにも呆気なく私に触れる。思いが叶った喜びと、あの努力はなんだったのかという悔しさが同時に湧き上がり、心臓が不規則に拡張と収縮を繰り返した。
「自分の思うがままに事を運びたいならば、逃げる背を安易に追ってはいけない」
穏やかな声が、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「勝機がないまま挑発に乗るのは自殺行為だし、降伏するのなら、機をよく見るべきだ。そして俺が思うに、その機は、今だよ」
包むように私の両手を手のひらに乗せ、手の甲をゆっくりとなぞる親指が熱い。私の目ではなく重なった手元を見下ろす視線はもっと熱く、心地よく鼓膜を揺らす声音は、どこか甘い。伏せたまつげの美しさに気を取られ、ぐっと息をのんだ私に気がついたのだろう。小竜は少しだけ視線を持ち上げると、ふと息を吐くように笑った。
「教えてくれ、主。キミが俺を、どうしたいのか」
「……」
「まあ言葉にされずとも、キミが俺に夢中なことはとっくに知っているけれど。それでも、その口から、聞かせてくれ」
濃くなった悔しさは、自分が彼にかなうことはないと知っているからこそ。自ら白旗を降るべきだと促す瞳は、それすら見透かして私の口が開くのを待っている。
(……私にだって、プライドくらいある)
選べる道は多くはないが、簡単に負けを認めることもできない。無言は精一杯の抵抗だ。このかっこつけな男も、きっともうこれ以上言葉を重ねてくることはない。私の両手を包む手に力をこめ、やわやわと握り、彼の思いを訴えるのみ。
この攻防戦を終わらせる一声は、私の手に握られている。