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よせがき

 卒業アルバムの後ろの方に、真っ白なページがあった。笑ったり泣いたり、みんなぐちゃぐちゃになりながら思いの丈をぶつける。ぶつけている。ぶつけているのを僕は見ている。教室の隅っこでため息をついたまま、自分だけが別世界の住人だ。別に友達がいないわけじゃない。みんなと離ればなれになる寂しさと、みんな大人になってしまうんだという残念さのようなものに卒業の感動が冷まされただけだった。

 ぼーっと眺めていてもわかる。クラスの中心には最後まで佐伯の姿があった。サッカー部の部長だった彼は顔もいいし背も高い、典型的な人気者だった。クラスメイトには佐伯を探すならひとだかりを探せと言われるほどだ。

 一瞬、ほんの一瞬だけ佐伯と目があった。

 僕はクラスメイトを眺めているのに飽きてきて、机に突っ伏した。

 少し経って、ガタガタという音に気づくと佐伯が僕の卒業アルバムを持っていた。彼は名前ペンの太い方で、真っ白なページにバカみたいにデカい字でなにかを書くと、何も言わずにまたみんなの輪に戻っていった。

 彼の人気の秘訣はこういうところなんだろうな、と改めて感じた。まず空気が読める。人を傷つけない。そして気配りが上手い。この3つを兼ね備えてるのが佐伯だった。僕も彼のような人間だったら、と何度考えたことだろう、何度考えたことだろう。

 劣等感か、それともあまりに非力な自分に嫌気がさしたのかはわからない。僕は佐伯との思い出を忘れられないでいた。

 僕は修学旅行の夜、ずっと好きだった秦野さんに告白をした。フラれた。なんとなくフラれる気はしていた。でもフラれ方を選べないのは想定外だった。

「私佐伯くんが好きなの」

あまりにも普遍的で、あまりにも痛い一撃だった。そりゃそうだあんな素敵な奴がいてわざわざ僕を選ぶ理由はないわかってる、わかってるつもりだった、わかりたくはなかった、わかるまえに消えてなくなりたかった、だから、僕は死ぬことにした。なのになんでだろう。死ぬ直前に話したのはあの佐伯だった。

 誰もいないはずの屋上で飛び降りてやろうと柵を超えたとき、昼寝をしていた佐伯に見つかった。飛び降りようとする僕にも優しい声で、

「オイよせ、ガキじゃないんだから」

だからお前は人気者なんだろうなって思った頃には、僕はもうぺちゃんこだった。

 学生時代の恋愛なんて命に関わる問題じゃないだろう、今では笑えてくる。それでも僕が死を選んでしまったのは事実だ。自分の死をもって、僕は人というものは簡単に死ぬんだということを学んだ。いまとなっては彼の言葉も飲み込める。僕は大人になれなかったんだ。未来なんていくらでもあるのにそれに気づけなかった。告白が失敗しただけだったのに、人生を終わらせてしまったのはもっと失敗だった。佐伯も秦野さんもきっと素敵な大人になっていく。やっぱり寂しい。

「なぁ佐伯、さっきなにしてたんだ?」

「ああ、あいつのアルバムにもさ、なにか書いてやりたくて」

「なんて書いたんだよ」

そういえば、なんて書いたんだろう。
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