破鏡再び照らす
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同日 午後3時19分
地方裁判所 控え室
「はぁー」
胃がキリキリと痛む。
あまりの痛みに、ジュワッと胃酸が自分の胃を溶かしているような錯覚すら感じる。
前の職場にいたときのような重圧に、私の心を胃が代弁しているかのようだった。
検事さんの話によると、ただ問われたことに答えればいいと聞いた。
あっでも、なんかジンモン?をされるって言ってたな。
簡単に言うと、私の証言にツッコミを入れてくるらしい。
やだなー……頼むから証言して終わりにしてくれよ。
眼鏡の鉄仮面なスーツの弁護士から淡々と質問攻めされる光景が浮かび、キリキリと胃が締め上げられる。
証言したいと答えたものの、あの大衆のなかに立つと思うだけで、体に謎の重力がのしかかってくる。
コンコンっとドアのノックの音がして、ひゃいっと返事をした。
扉を開けると、土気色の顔をした中年の男性が立っていた。
「むっムマ、先、生」
あれ?
ふと彼から違和感がしたが、今はそれを気にする余裕はなかった。
彼のどこか不機嫌そうな顔に、首を傾げる。
「なぜ、ここに来た?」
そう問われ、言葉に詰まる。
「なぜって…………証言する、ため、ですけど……」
なんだか悪いことをしているような気分になったが、そんなことはないと自分に言い聞かせる。
「今からでも遅くない。辞退しなさい」
「はっ……」
いつものふわふわとした言い方ではなく、ハッキリした言い方に言葉を紡ぐのを忘れた。
「君のことは証言台に立たせないで欲しいと私からお願いしていたはずなんだがな」
「えっ」
「吃音が治っていないのに、証言台に立つんだ。
どういう状況になるか……君が一番わかっているはずだ」
そう言われ、瞬時に人込みの熱を思い出す。
体臭が混ざり合った大勢の人の前に立ち、しゃべることを想像した瞬間、ぞっと背中に強い冷気が滑る。
俯くと指が揺れているのが見え、その揺れを止めるために手を掴む。
「……私と話しているとき、忘れているかもしれないが。
君の"病"は君が思うよりも、よほど重いものだ」
「しゃべれなくなったことが……確かにあります」
「しゃべることができなくなるだけならいい。
それよりもひどいときがあっただろ」
それは……あたしが……
「"甘い"から。"弱い"から。
……そんな言葉で済ませてはいけない」
ムマ先生は前髪から覗く隻眼をこちらにまっすぐ向ける。
「君の悪いところだ。必要以上に自分を責め立てる」
あたしの心が見えているかのように、続ける。
「自分の身を守るために、"逃げる"ことも大事だ」
それはわかってる。
検事さんにだって迷惑をかけるかもしれない。
この証言だって断るべきだった。
両の拳をギュッと握る。
「……でっでも…」
わかってる。
自分の危うさは。
だから、これはあたしの自分勝手な……
「…証言したい……」
"正義"だ。
……いや、こんな私欲にまみれたモノを、正義なんて言わない。
正義と名付けることすら、おこがましい。
ただのわたしの"わがまま"だ。
中年の男性は片手で頭を押さえながらこちらを見た。
「……忠告はした。私がダメだと判断したら強制的に退場させる。
それだけは了承してくれ」
躊躇いつつも、あたしはゆっくりと首を下に振った。
地方裁判所 控え室
「はぁー」
胃がキリキリと痛む。
あまりの痛みに、ジュワッと胃酸が自分の胃を溶かしているような錯覚すら感じる。
前の職場にいたときのような重圧に、私の心を胃が代弁しているかのようだった。
検事さんの話によると、ただ問われたことに答えればいいと聞いた。
あっでも、なんかジンモン?をされるって言ってたな。
簡単に言うと、私の証言にツッコミを入れてくるらしい。
やだなー……頼むから証言して終わりにしてくれよ。
眼鏡の鉄仮面なスーツの弁護士から淡々と質問攻めされる光景が浮かび、キリキリと胃が締め上げられる。
証言したいと答えたものの、あの大衆のなかに立つと思うだけで、体に謎の重力がのしかかってくる。
コンコンっとドアのノックの音がして、ひゃいっと返事をした。
扉を開けると、土気色の顔をした中年の男性が立っていた。
「むっムマ、先、生」
あれ?
ふと彼から違和感がしたが、今はそれを気にする余裕はなかった。
彼のどこか不機嫌そうな顔に、首を傾げる。
「なぜ、ここに来た?」
そう問われ、言葉に詰まる。
「なぜって…………証言する、ため、ですけど……」
なんだか悪いことをしているような気分になったが、そんなことはないと自分に言い聞かせる。
「今からでも遅くない。辞退しなさい」
「はっ……」
いつものふわふわとした言い方ではなく、ハッキリした言い方に言葉を紡ぐのを忘れた。
「君のことは証言台に立たせないで欲しいと私からお願いしていたはずなんだがな」
「えっ」
「吃音が治っていないのに、証言台に立つんだ。
どういう状況になるか……君が一番わかっているはずだ」
そう言われ、瞬時に人込みの熱を思い出す。
体臭が混ざり合った大勢の人の前に立ち、しゃべることを想像した瞬間、ぞっと背中に強い冷気が滑る。
俯くと指が揺れているのが見え、その揺れを止めるために手を掴む。
「……私と話しているとき、忘れているかもしれないが。
君の"病"は君が思うよりも、よほど重いものだ」
「しゃべれなくなったことが……確かにあります」
「しゃべることができなくなるだけならいい。
それよりもひどいときがあっただろ」
それは……あたしが……
「"甘い"から。"弱い"から。
……そんな言葉で済ませてはいけない」
ムマ先生は前髪から覗く隻眼をこちらにまっすぐ向ける。
「君の悪いところだ。必要以上に自分を責め立てる」
あたしの心が見えているかのように、続ける。
「自分の身を守るために、"逃げる"ことも大事だ」
それはわかってる。
検事さんにだって迷惑をかけるかもしれない。
この証言だって断るべきだった。
両の拳をギュッと握る。
「……でっでも…」
わかってる。
自分の危うさは。
だから、これはあたしの自分勝手な……
「…証言したい……」
"正義"だ。
……いや、こんな私欲にまみれたモノを、正義なんて言わない。
正義と名付けることすら、おこがましい。
ただのわたしの"わがまま"だ。
中年の男性は片手で頭を押さえながらこちらを見た。
「……忠告はした。私がダメだと判断したら強制的に退場させる。
それだけは了承してくれ」
躊躇いつつも、あたしはゆっくりと首を下に振った。