破鏡再び照らす
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同日 午前11時14分
総合病院 診察室
少し回復したのか、無間先生はあたしの肩から腕をどかし、中に入るといつもの椅子に座った。
「さて、それじゃそこのベッドに横になってくれ」
「はーい」
白いベッドに横たわり、少し固めの枕に後頭部を押し付ける。
診察前に仮眠を取ったあと、彼と話をするのが恒例になっているのだ。
入院中は病院の薬品の匂いが臭くて、寝つきが悪かったのだが、不思議なことに、この先生の診察室ではすぐに睡魔が来てくれる。
10分だけの仮眠。
先生曰く、寝起きのぼんやりとした状態の患者の方が診察をしやすいらしい。
彼なりのやりやすさがあるのだろう。
とりあえず、あたしは専門医の言う通りに従っている。
数回ゆっくりとした瞬きをすると、勝手に瞼が閉じてくれる。
大きな真綿に包まれているような微睡みに、意識がゆっくりと落ちていく。
「そろそろだよ」
だが、ぬるま湯に沈んでいくような心地よい眠りを声に邪魔された。
ぱちっと目を開ける。
こちらを見下ろす男に首をかしげる。
「もう、10分経っちゃったんですか?」
「あぁ、経ったよ」
……もうちょっと寝てたかったなぁ……。
どうして10分とはこんなに短いのだろうか。
ベッドから体を起こし、彼の前の椅子まで歩く。
そして、顔を思いっきり歪めてやった。
「……ちょっと待て」
「どうしたんだ?」
気にする様子を一切見せないヤブ医者に、目を嫌そうに細めてやった。
ヤブ医者がすばやく手元に取り出したモノを指さす。
「なに堂々とタバコを出してるんですか?」
「いやっ口寂しくてな」
「ここ禁煙!!」
背後にある看板を親指でさす。
やれやれと肩をすくめながら、無間先生は黒いタバコの箱を胸ポケットに入れた。
「さっき吸ったばかりなのにまだ吸う気ですか!?」
「なっ私は今日初めて吸うつもりだったぞ!」
「甘ったるい匂いさせてよく言いますよ」
ぎくっと医者の肩が跳ねた。
わざとらしく鼻をつまんで、文句を言ってやる。
「けど、タバコなのになんでこんなに甘ったるい匂いなんですか?
ココナッツ と トロピカルフルーツ って」
胸やけしそうな組み合わせだ。
「"ヘブンズブラック"でしたっけ?」
「タバコの匂いが嫌いな割にはよく知ってるな」
うっと言葉が喉に詰まったが、彼の能力の前では無意味だと悟り、素直に吐き出す。
「あたしの好きなアニメの……その、お気に入りのキャラが、吸ってる、タバコと、同じ銘柄、ですから……」
いっ言えない、抱き枕にそのタバコの匂いつけて、思いっきりクンクン嗅ぐつもりだったなんて。
結局、去年の4月に販売停止になったと知って、その野望は打ち砕かれたが……。
「ははーん、なるほど。このタバコの匂いを使って、 アニメのキャラの匂いハァハァ とかやりたかったんだな」
「ななんあんあなな!?」
ガタンッ!!と丸椅子を倒しながら立ち上がってしまった。
慌てて椅子を起こしながら、言い返す。
「こっ心を読まないでください!!」
「表情を読まなくても、男子中学生が考えそうな発想だよ」
「ちちちちちちがう!!ふっざけんな!やるわけないでしょ!!そんなこと!」
図星を突かれたあたしを見て、ムマ先生はため息を吐く。
「どうして君はそう」
「"内弁慶"って……言いたいんでしょ」
先に言われる前に、自分から言ってやった。
ドスンッと乱暴に椅子に座り直す。
「……わかってますよ……」
自分のイラ立っている声が耳にまとわりつく。
慣れた相手と親しい相手にしか普通にしゃべることができない。
彼の視線を見たくなくて、奥歯を噛んで顔を伏せた。
「あたしだって……好きでどもってるわけじゃない」
安定しない声の高さ、引きつるような息の音、言葉を遮るどもり。
他人の前だとなぜかそれが出てきてしまうのだ。
ギュッと両手で親指を握り込む。
「治らないんですよ。どうやっても」
話せるくせに、人前に出た途端、いつものように声を出せなくなる。
「でも、私とは話せてる」
「知らない人とは全然話せないんですよ」
じっと変な視線を向けてくる医者に、瞼に不自然な力が入る。
「あの?なんですか?」
「そのハイネックは?」
バッと思わず首を手で隠す。
「あっいや……その」
無間先生はふぅと息を吐き、机のカルテを取り、それを目で読み始める。
「……本当に喉をしめないように」
目はカルテに向けたまま、軽い声で注意をしてきた。
「……やめろとは言わないんですね」
「言って欲しかった?」
それに否定も肯定もできなかった。
図星だったのかもしれない。……認めたくないけど。
「"ミュンヒハウゼン症候群"なんですかね?」
口に出してから、目を強く閉じて、顔を伏せた。
自分で言ってどうする……。
馬鹿さ加減に自己嫌悪で死にたくなる。
「忘れてください……」
「せいぜい、軽い"虚偽性障害"だろ」
「忘れろって言ったでしょ。あと否定はしないのかよ」
ネットで調べた精神病を口に出すのはやめよう……。
ミュンヒハウゼン症候群。
簡単に言えば、
みんなから悲劇のヒロインに思われたくて自分を痛めつける精神障害のことだ。
「自覚しているのなら、大きな怪我をすることはないだろう」
あたしはでかいため息を吐いた。
その後は、最近の経過報告と、簡単な世間話をして、ベッドで横になり10分目を閉じて、診察は終了した。
ぼんやりとする頭を振り、ベッドから起き上がる。
「診察日は一か月後だ。欠かさず来ておくれ」
「……私、金がないんですけど」
「けど、君は来るだろ」
思いっきりしかめっ面をしてやった。
悪徳ドクターめ……!
「名医の間違いだろ」
心の悪態にすら返事をされ、唇をひしゃ曲げた。
心を読むのに長けている人と話すのは楽だが、厄介でもある。
総合病院 診察室
少し回復したのか、無間先生はあたしの肩から腕をどかし、中に入るといつもの椅子に座った。
「さて、それじゃそこのベッドに横になってくれ」
「はーい」
白いベッドに横たわり、少し固めの枕に後頭部を押し付ける。
診察前に仮眠を取ったあと、彼と話をするのが恒例になっているのだ。
入院中は病院の薬品の匂いが臭くて、寝つきが悪かったのだが、不思議なことに、この先生の診察室ではすぐに睡魔が来てくれる。
10分だけの仮眠。
先生曰く、寝起きのぼんやりとした状態の患者の方が診察をしやすいらしい。
彼なりのやりやすさがあるのだろう。
とりあえず、あたしは専門医の言う通りに従っている。
数回ゆっくりとした瞬きをすると、勝手に瞼が閉じてくれる。
大きな真綿に包まれているような微睡みに、意識がゆっくりと落ちていく。
「そろそろだよ」
だが、ぬるま湯に沈んでいくような心地よい眠りを声に邪魔された。
ぱちっと目を開ける。
こちらを見下ろす男に首をかしげる。
「もう、10分経っちゃったんですか?」
「あぁ、経ったよ」
……もうちょっと寝てたかったなぁ……。
どうして10分とはこんなに短いのだろうか。
ベッドから体を起こし、彼の前の椅子まで歩く。
そして、顔を思いっきり歪めてやった。
「……ちょっと待て」
「どうしたんだ?」
気にする様子を一切見せないヤブ医者に、目を嫌そうに細めてやった。
ヤブ医者がすばやく手元に取り出したモノを指さす。
「なに堂々とタバコを出してるんですか?」
「いやっ口寂しくてな」
「ここ禁煙!!」
背後にある看板を親指でさす。
やれやれと肩をすくめながら、無間先生は黒いタバコの箱を胸ポケットに入れた。
「さっき吸ったばかりなのにまだ吸う気ですか!?」
「なっ私は今日初めて吸うつもりだったぞ!」
「甘ったるい匂いさせてよく言いますよ」
ぎくっと医者の肩が跳ねた。
わざとらしく鼻をつまんで、文句を言ってやる。
「けど、タバコなのになんでこんなに甘ったるい匂いなんですか?
ココナッツ と トロピカルフルーツ って」
胸やけしそうな組み合わせだ。
「"ヘブンズブラック"でしたっけ?」
「タバコの匂いが嫌いな割にはよく知ってるな」
うっと言葉が喉に詰まったが、彼の能力の前では無意味だと悟り、素直に吐き出す。
「あたしの好きなアニメの……その、お気に入りのキャラが、吸ってる、タバコと、同じ銘柄、ですから……」
いっ言えない、抱き枕にそのタバコの匂いつけて、思いっきりクンクン嗅ぐつもりだったなんて。
結局、去年の4月に販売停止になったと知って、その野望は打ち砕かれたが……。
「ははーん、なるほど。このタバコの匂いを使って、 アニメのキャラの匂いハァハァ とかやりたかったんだな」
「ななんあんあなな!?」
ガタンッ!!と丸椅子を倒しながら立ち上がってしまった。
慌てて椅子を起こしながら、言い返す。
「こっ心を読まないでください!!」
「表情を読まなくても、男子中学生が考えそうな発想だよ」
「ちちちちちちがう!!ふっざけんな!やるわけないでしょ!!そんなこと!」
図星を突かれたあたしを見て、ムマ先生はため息を吐く。
「どうして君はそう」
「"内弁慶"って……言いたいんでしょ」
先に言われる前に、自分から言ってやった。
ドスンッと乱暴に椅子に座り直す。
「……わかってますよ……」
自分のイラ立っている声が耳にまとわりつく。
慣れた相手と親しい相手にしか普通にしゃべることができない。
彼の視線を見たくなくて、奥歯を噛んで顔を伏せた。
「あたしだって……好きでどもってるわけじゃない」
安定しない声の高さ、引きつるような息の音、言葉を遮るどもり。
他人の前だとなぜかそれが出てきてしまうのだ。
ギュッと両手で親指を握り込む。
「治らないんですよ。どうやっても」
話せるくせに、人前に出た途端、いつものように声を出せなくなる。
「でも、私とは話せてる」
「知らない人とは全然話せないんですよ」
じっと変な視線を向けてくる医者に、瞼に不自然な力が入る。
「あの?なんですか?」
「そのハイネックは?」
バッと思わず首を手で隠す。
「あっいや……その」
無間先生はふぅと息を吐き、机のカルテを取り、それを目で読み始める。
「……本当に喉をしめないように」
目はカルテに向けたまま、軽い声で注意をしてきた。
「……やめろとは言わないんですね」
「言って欲しかった?」
それに否定も肯定もできなかった。
図星だったのかもしれない。……認めたくないけど。
「"ミュンヒハウゼン症候群"なんですかね?」
口に出してから、目を強く閉じて、顔を伏せた。
自分で言ってどうする……。
馬鹿さ加減に自己嫌悪で死にたくなる。
「忘れてください……」
「せいぜい、軽い"虚偽性障害"だろ」
「忘れろって言ったでしょ。あと否定はしないのかよ」
ネットで調べた精神病を口に出すのはやめよう……。
ミュンヒハウゼン症候群。
簡単に言えば、
みんなから悲劇のヒロインに思われたくて自分を痛めつける精神障害のことだ。
「自覚しているのなら、大きな怪我をすることはないだろう」
あたしはでかいため息を吐いた。
その後は、最近の経過報告と、簡単な世間話をして、ベッドで横になり10分目を閉じて、診察は終了した。
ぼんやりとする頭を振り、ベッドから起き上がる。
「診察日は一か月後だ。欠かさず来ておくれ」
「……私、金がないんですけど」
「けど、君は来るだろ」
思いっきりしかめっ面をしてやった。
悪徳ドクターめ……!
「名医の間違いだろ」
心の悪態にすら返事をされ、唇をひしゃ曲げた。
心を読むのに長けている人と話すのは楽だが、厄介でもある。