破鏡再び照らす
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誰もが"黒"だと思っていた人間を、あの赤と黄色の弁護士はオセロのように"白"にひっくり返してしまった。
「判決を言い渡しましょう」
本当の事が明らかにされ、法廷にカラフルな紙吹雪が飛ぶ。
傍聴人たちが拍手をしている。
あたしはその中で黙って座っていた。
罪なき人を助け出したヒーローたちに目を向ける。
ふと、忙しなく首を振り、きょろきょろとする赤い弁護士の姿が目に入った。
無事に裁判に勝ったのに、落ち着きのない奴だな。
まるで……誰かを探してるのかのように見えた。
そんな弁護士に、被告人の男がぺこぺこと頭を下げ、泣いていた。
黄色い女の弁護士と赤い男の弁護士は、そんな彼に顔を向けている。
ありもしない罪がなくなり、あの男性も安心したのだろう。
けど、あたしはそんな男に優しい視線を送れなかった。
犯人になればよかった とはもう思わない。
でも、あの人間が果たして元妻の死によって、暴力癖が治るのだろうか。
アレはまたこの裁判所にご厄介になるだろう。
人間はそう簡単に変わりはしない。
裁判所に広がる歓声や拍手が不快な刺激となって耳に伝わる。
この場所が鬱陶しく思えて、あたしは立ち上がり退出した。
同日 午後5時30分
地方裁判所 廊下
最悪だ。
証人なんて二度とやるもんか。
裁判中で人の少ない廊下にホッと息を吐きだす。
人だかりや混雑したところはどうも嫌いだ。
人の声も
体から発生する他人の熱も
あの汗と香が混ざり合った匂いも
すべてが嫌な気分にさせられる。
後ろから革靴で床を蹴る音が聞こえる。
壁に寄り、後ろの人物のために通路を空けた。
ずいぶんと急いでいるようで荒い息遣いまでしている。
通り過ぎるのを待とうかとも思ったが、自分がここから出た方が速いと思い、歩く速度は上げる。
「待ってください!」
嫌な声を聞いた。
私はさらに速足に歩く。
腕をぐっと後ろから引かれ、バッと振り返ってしまった。
曙色の紅の男性が、こちらを見据えていた。
ピンと天に向かって伸びる二本の鳶色の前髪と、丸顔の広い額の下からあの黒と褐色の瞳が鋭くこちらを見つめている。
はぁ……はぁ……息を切らしながら、こちらを睨む赤い弁護士。
掴まれた手首が痛い。
「あ、あの、なっなにか」
上ずった声と引きつった声の混じった、いつもの口調で私は尋ねた。
彼は乱れた呼吸のまま、口を開く。
「あなた、"オニカゼ"さんですよね!?」
おに……かぜ……?
私は覚えのない単語に、首を傾げたあと横に振った。
強く手首を掴まれ、その痛みに顔をしかめる。
「ちっちがい、ます……!
……すっすみま、せ…いい言って、るっこと…わから、ない…です…」
そう答えた。
掴まれた手の力が緩み、彼は口を開いたまま顔が空間に凍りついていた。
ほんの一瞬だけ見えた彼の悲痛な表情に、胸を締め付けられるような痛みがした。
彼は涙をこらえるように目尻が下がり、口は固く結ばれていた。
その後、
そうですか……と彼が弱々しく言葉を発する。
目は少し眠いときのように伏し目がちで、さびしげな目つきになっていた。
まるで天国へと続く蜘蛛の糸を切られてしまったかのようだった。
黄色いブレスレットがついた彼の腕が、私の手首から落ちる。
「すっすみませ、これで」
私は逃げるように彼の前から、立ち去った。
「あの!!」
ちらりと後ろを振り返ると、彼が深く頭を下げていた。
「さっきは……すみませんでした」
だが、その謝罪にあたしは何も答えなかった。
もう早く忘れたかった。
馬鹿な証言をした自分のことも、きつく追求してきた弁護士のことも。
「判決を言い渡しましょう」
本当の事が明らかにされ、法廷にカラフルな紙吹雪が飛ぶ。
傍聴人たちが拍手をしている。
あたしはその中で黙って座っていた。
罪なき人を助け出したヒーローたちに目を向ける。
ふと、忙しなく首を振り、きょろきょろとする赤い弁護士の姿が目に入った。
無事に裁判に勝ったのに、落ち着きのない奴だな。
まるで……誰かを探してるのかのように見えた。
そんな弁護士に、被告人の男がぺこぺこと頭を下げ、泣いていた。
黄色い女の弁護士と赤い男の弁護士は、そんな彼に顔を向けている。
ありもしない罪がなくなり、あの男性も安心したのだろう。
けど、あたしはそんな男に優しい視線を送れなかった。
犯人になればよかった とはもう思わない。
でも、あの人間が果たして元妻の死によって、暴力癖が治るのだろうか。
アレはまたこの裁判所にご厄介になるだろう。
人間はそう簡単に変わりはしない。
裁判所に広がる歓声や拍手が不快な刺激となって耳に伝わる。
この場所が鬱陶しく思えて、あたしは立ち上がり退出した。
同日 午後5時30分
地方裁判所 廊下
最悪だ。
証人なんて二度とやるもんか。
裁判中で人の少ない廊下にホッと息を吐きだす。
人だかりや混雑したところはどうも嫌いだ。
人の声も
体から発生する他人の熱も
あの汗と香が混ざり合った匂いも
すべてが嫌な気分にさせられる。
後ろから革靴で床を蹴る音が聞こえる。
壁に寄り、後ろの人物のために通路を空けた。
ずいぶんと急いでいるようで荒い息遣いまでしている。
通り過ぎるのを待とうかとも思ったが、自分がここから出た方が速いと思い、歩く速度は上げる。
「待ってください!」
嫌な声を聞いた。
私はさらに速足に歩く。
腕をぐっと後ろから引かれ、バッと振り返ってしまった。
曙色の紅の男性が、こちらを見据えていた。
ピンと天に向かって伸びる二本の鳶色の前髪と、丸顔の広い額の下からあの黒と褐色の瞳が鋭くこちらを見つめている。
はぁ……はぁ……息を切らしながら、こちらを睨む赤い弁護士。
掴まれた手首が痛い。
「あ、あの、なっなにか」
上ずった声と引きつった声の混じった、いつもの口調で私は尋ねた。
彼は乱れた呼吸のまま、口を開く。
「あなた、"オニカゼ"さんですよね!?」
おに……かぜ……?
私は覚えのない単語に、首を傾げたあと横に振った。
強く手首を掴まれ、その痛みに顔をしかめる。
「ちっちがい、ます……!
……すっすみま、せ…いい言って、るっこと…わから、ない…です…」
そう答えた。
掴まれた手の力が緩み、彼は口を開いたまま顔が空間に凍りついていた。
ほんの一瞬だけ見えた彼の悲痛な表情に、胸を締め付けられるような痛みがした。
彼は涙をこらえるように目尻が下がり、口は固く結ばれていた。
その後、
そうですか……と彼が弱々しく言葉を発する。
目は少し眠いときのように伏し目がちで、さびしげな目つきになっていた。
まるで天国へと続く蜘蛛の糸を切られてしまったかのようだった。
黄色いブレスレットがついた彼の腕が、私の手首から落ちる。
「すっすみませ、これで」
私は逃げるように彼の前から、立ち去った。
「あの!!」
ちらりと後ろを振り返ると、彼が深く頭を下げていた。
「さっきは……すみませんでした」
だが、その謝罪にあたしは何も答えなかった。
もう早く忘れたかった。
馬鹿な証言をした自分のことも、きつく追求してきた弁護士のことも。