破鏡再び照らす
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とんとんとムマ先生が膝を叩いている。
「……確かにそれなら、ムマ先生がイラ立つのもわかります」
「は?」
「いやだって、さっきから貧乏揺すり酷いですし、指もトントンとうるさいですし。
裁判の内容にイラ立っているんですよね」
「これはニコチン依存症だ」
「そっち!?」
裁判の内容にイラついてたんじゃないの!?
というか、お前も当事者だったんだから真剣に見ろよ!!
「私にとって、ニコチンは生きる活力なんだ。仕方ないだろ」
「だったら吸ってくればいいじゃないですか。
裁判所は病院と違って喫煙所ありますよ」
もう彼が吐血しようが風邪気味だろうが、知らない。
自己管理は自分でしてもらうことにした。
「ライターを病院に忘れてきてしまって、吸いたくても吸えないんだ。
だから、病院で午前中に吸ったっきり、一度も吸えていない」
「あぁ、だからか」
「だから?」
「ここで最初に会ったとき、変だなぁって思ったんですよ。
けど、何が変なのかよくわからなかったんです。
今やっとわかりました。
先生からタバコの匂いがあんまりしなかったからだったんですね」
「くっ。禁断症状が出てきて、もう限界だ。
タバコはあの紫の検事に没収されるし……今日は厄日だ」
「あぁ、だったら椎名先生に両方貸してもらったらどうですか?」
怪訝そうな顔でムマ先生がこちらを見た。
「なにを言ってるんだ君は?奴は"非喫煙者"だぞ。
タバコもライターも持ってるはずないだろ」
「あれ?
タバコの匂いがしたから、てっきり吸うのかなぁって思ったんですけど。
違うんですね」
「……なに?それは本当か?」
「ええ、本当ですよ。白衣からムマ先生と同じ"ヘブンズブラック"の匂いがしましたから」
そういうと、ムマ先生がにやっと口角をあげた。
「ふーん。なるほど」
「どっどうしたんですか?」
クックックと喉で笑ったあと、悪役面で彼がこちらをみる。
「いや、なに。善良な市民としては凶悪犯を野放しにするわけにはいくまい」
「は?」
ムマ先生が立ち上がり、思わずあたしも椅子から立ち上がる。
彼の進む方向に手を伸ばすが、空を切りあたしは呆然と彼の背を見るはめになる。
「えっちょっと!?そっちは……!」
「それでは、判決を言い渡します。
「今のは……?」
「……ゲフッ……わっ私だ」
な…………
法廷のド真ん中には、土気色の死人の顔色をした医者が吐血しながら立っていた。
…………なにやってのさ!あの人は!!!
「なんなのですか!?あなたは」
本当にな!なに吐血したうえ偉そうに証言台に立ってるんだよ!
「一つ彼に確認をしていいかな、裁判長」
「それは大事なことなのですか?」
「……そうかもしれないしそうじゃないかもしれない」
診察のときのようなふわふわした言い方に、法律家たちが戸惑いの表情を浮かべる。
「弁護士と検事はどうかな?質問してもいいだろうか」
「僕は構わないよ」
「オレも、かまいません」
ムマ先生だってバカではない。
なにか考えがあって、あそこに立ったのだろう。
……と思いたい。
法廷で証言していたときとは別の緊張で胃が痛くなる。
「椎名先生。あなた、タバコを吸いますか?」
「はぁ?そんなもの吸いませんよ。
タバコの匂いは嫌いなんです。
あなたが一番よく知ってるでしょ」
「あのときはよくもやってくれましたね。
病院内のヘビースモーカーたちがどれだけ肩身の狭い思いをすることになったか!」
弁護席から青年の静かな黒瞳が、じっと椎名先生を見つめる。
「椎名さん。証拠があれば犯行を認めるんですね」
「あるんなら出してみろよ!?まぁ、出せるわけないけどな!」
弁護席の青年が椎名の言葉を受けて、ふっと口元を上げる。
「わかりました」
腕を組み、弁護士は自信満々な表情で相手を見つめ返す。
「なっ!?でたらめだ!そんなものあるわけない!!」
「いえ、証拠ならちゃんとありますよ」
「それでは、弁護人、彼が仮眠室に居たという証拠を提出してください」
彼があるモノを突きつける。
「くらえ!」
「それは……先ほどの"タバコ"ですか?」
「……椎名さん。その白衣を調べてもいいですか」
「いっいいですよ。もちろん。……証拠なんて出てきませんから」
「そうとも限りませんよ」
「えっ」
「……そうか。そういうことか」
牙琉さんが納得したような声をあげる。
「どういうことですかな?弁護人」
「あなたの白衣にタバコの"匂い"が付着しているはずです。
風邪気味で鼻が利かない今のあなたじゃわからないかもしれませんが」
椎名先生がガシャンっと万年筆を床に落とす。
「……さっきムマ先生と話したときに彼の匂いが移ったのでしょう。
ほらっあの人はヘビースモーカーですから」
「それは残念ながら、通らない」
ムマ先生がハッキリと否定して、理由を述べる。
「なぜなら、私はこの裁判所に来てから一度もタバコを吸っていない。
病院にライターを忘れてきてしまってね。
見てのとおり、タバコも証拠品として没収されてしまった」
「だからどうしたというんです?
たかだかタバコの匂いがついてたぐらいで、犯人扱いされちゃ困りますね」
「忘れてるようだけど。事件の日に、現場の仮眠室に入ったのは二人だけ。
そこのドクターと、この事件の犯人さ。
そして、事件が発生する前に、この顔色の悪いドクターはタバコを吸うために仮眠室に籠っていた。
仮眠室にはタバコの匂いがかなり充満していたはずだよ。
その中に30分以上潜んでいたのならば、タバコの匂いが白衣についてもおかしくない。
ちなみに、タバコの匂いは感じられなくなっても、服にはまだその匂い分子が付着しているんだよ」
「さらに、無間さんが吸っていたタバコは貴重なタバコです。
去年の四月に販売が停止されている」
「君の白衣についた匂いの分子を調べれば、どこのタバコか分析することも可能なはずだよ」
ビシッと牙琉検事が指先を椎名につきつける。
「その白衣から、"ヘブンズブラック"の匂い分子が検出された場合、もう言い逃れはできない」
「きょっ去年の4月に販売を停止した、そっそんな貴重なタバコなら!
それを持っていたあの医者の方が怪しいだろ!?」
「おっと。その言い訳は通用しないよ」
牙琉が前髪をかきあげながら、説明する。
「なぜなら、彼には犯行当時アリバイがある。
先ほどの証人、枯山実吹と昼食を取っていたというね」
ムマ先生が補足するように言う。
「嘘だと思うなら、食堂の職員に訊いてみればいい。
私たちが食事をしていたことを証言してくれるだろう」
「ぐぐぐぐgっ……!!!!」
「"証拠品"が示しているんですよ」
赤い弁護士が人差し指をまっすぐに伸ばし、白衣が肩からずり落ちている椎名につきつけた。
「あなたが……十六夜 伊代さんを殺した“犯人”だってことが!」
「う……」
ぶるぶると椎名の体が震え出す。
目をギョロギョロと泳がせ、体を揺らす。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ダンダンダン!!!!と証言台をメチャクチャに叩き、額を打ちつけた瞬間。
叫び声が途切れ、床にに崩れ落ちる。
白衣から隠されたメスがガシャンガシャンと大量に落とされる。
「くそっ!……あの女が!あの女が!来なければ!」
椎名がダンッと床を殴る。
「くそっ。あいつが悪いんだ……。部屋に戻ってこなければ……私は……」
"「っ!椎名先生!?なにをなさってるんです!」
「こっこれは…その…」
「……返してください!今なら、なかったことにしてあげますから!」
「うっうおおおおおおお!」
ガンッ!!"
真相はこうだった。
椎名は多額の借金を抱えており、その返済を待ってもらうために、患者の個人情報をこっそりと売っていたらしい。
今回も、イザヨイ先生の研究内容を盗むために、彼女の診察室に泥棒に入ったらしい。
だが、運悪く忘れ物をして戻ってきたイザヨイ先生に現場を見られてしまった。
そのとき、口論となり、もみ合っているときに……
彼女を殺害。
机に置かれていたメモ帳を見て、棒 陸夫が来ることを知った犯人は
彼にすべてをなすりつけようとした。
こうして、あたしの知りたかった真実は、非常にくだらない理由によるものだった。
「……確かにそれなら、ムマ先生がイラ立つのもわかります」
「は?」
「いやだって、さっきから貧乏揺すり酷いですし、指もトントンとうるさいですし。
裁判の内容にイラ立っているんですよね」
「これはニコチン依存症だ」
「そっち!?」
裁判の内容にイラついてたんじゃないの!?
というか、お前も当事者だったんだから真剣に見ろよ!!
「私にとって、ニコチンは生きる活力なんだ。仕方ないだろ」
「だったら吸ってくればいいじゃないですか。
裁判所は病院と違って喫煙所ありますよ」
もう彼が吐血しようが風邪気味だろうが、知らない。
自己管理は自分でしてもらうことにした。
「ライターを病院に忘れてきてしまって、吸いたくても吸えないんだ。
だから、病院で午前中に吸ったっきり、一度も吸えていない」
「あぁ、だからか」
「だから?」
「ここで最初に会ったとき、変だなぁって思ったんですよ。
けど、何が変なのかよくわからなかったんです。
今やっとわかりました。
先生からタバコの匂いがあんまりしなかったからだったんですね」
「くっ。禁断症状が出てきて、もう限界だ。
タバコはあの紫の検事に没収されるし……今日は厄日だ」
「あぁ、だったら椎名先生に両方貸してもらったらどうですか?」
怪訝そうな顔でムマ先生がこちらを見た。
「なにを言ってるんだ君は?奴は"非喫煙者"だぞ。
タバコもライターも持ってるはずないだろ」
「あれ?
タバコの匂いがしたから、てっきり吸うのかなぁって思ったんですけど。
違うんですね」
「……なに?それは本当か?」
「ええ、本当ですよ。白衣からムマ先生と同じ"ヘブンズブラック"の匂いがしましたから」
そういうと、ムマ先生がにやっと口角をあげた。
「ふーん。なるほど」
「どっどうしたんですか?」
クックックと喉で笑ったあと、悪役面で彼がこちらをみる。
「いや、なに。善良な市民としては凶悪犯を野放しにするわけにはいくまい」
「は?」
ムマ先生が立ち上がり、思わずあたしも椅子から立ち上がる。
彼の進む方向に手を伸ばすが、空を切りあたしは呆然と彼の背を見るはめになる。
「えっちょっと!?そっちは……!」
「それでは、判決を言い渡します。
「今のは……?」
「……ゲフッ……わっ私だ」
な…………
法廷のド真ん中には、土気色の死人の顔色をした医者が吐血しながら立っていた。
…………なにやってのさ!あの人は!!!
「なんなのですか!?あなたは」
本当にな!なに吐血したうえ偉そうに証言台に立ってるんだよ!
「一つ彼に確認をしていいかな、裁判長」
「それは大事なことなのですか?」
「……そうかもしれないしそうじゃないかもしれない」
診察のときのようなふわふわした言い方に、法律家たちが戸惑いの表情を浮かべる。
「弁護士と検事はどうかな?質問してもいいだろうか」
「僕は構わないよ」
「オレも、かまいません」
ムマ先生だってバカではない。
なにか考えがあって、あそこに立ったのだろう。
……と思いたい。
法廷で証言していたときとは別の緊張で胃が痛くなる。
「椎名先生。あなた、タバコを吸いますか?」
「はぁ?そんなもの吸いませんよ。
タバコの匂いは嫌いなんです。
あなたが一番よく知ってるでしょ」
「あのときはよくもやってくれましたね。
病院内のヘビースモーカーたちがどれだけ肩身の狭い思いをすることになったか!」
弁護席から青年の静かな黒瞳が、じっと椎名先生を見つめる。
「椎名さん。証拠があれば犯行を認めるんですね」
「あるんなら出してみろよ!?まぁ、出せるわけないけどな!」
弁護席の青年が椎名の言葉を受けて、ふっと口元を上げる。
「わかりました」
腕を組み、弁護士は自信満々な表情で相手を見つめ返す。
「なっ!?でたらめだ!そんなものあるわけない!!」
「いえ、証拠ならちゃんとありますよ」
「それでは、弁護人、彼が仮眠室に居たという証拠を提出してください」
彼があるモノを突きつける。
「くらえ!」
「それは……先ほどの"タバコ"ですか?」
「……椎名さん。その白衣を調べてもいいですか」
「いっいいですよ。もちろん。……証拠なんて出てきませんから」
「そうとも限りませんよ」
「えっ」
「……そうか。そういうことか」
牙琉さんが納得したような声をあげる。
「どういうことですかな?弁護人」
「あなたの白衣にタバコの"匂い"が付着しているはずです。
風邪気味で鼻が利かない今のあなたじゃわからないかもしれませんが」
椎名先生がガシャンっと万年筆を床に落とす。
「……さっきムマ先生と話したときに彼の匂いが移ったのでしょう。
ほらっあの人はヘビースモーカーですから」
「それは残念ながら、通らない」
ムマ先生がハッキリと否定して、理由を述べる。
「なぜなら、私はこの裁判所に来てから一度もタバコを吸っていない。
病院にライターを忘れてきてしまってね。
見てのとおり、タバコも証拠品として没収されてしまった」
「だからどうしたというんです?
たかだかタバコの匂いがついてたぐらいで、犯人扱いされちゃ困りますね」
「忘れてるようだけど。事件の日に、現場の仮眠室に入ったのは二人だけ。
そこのドクターと、この事件の犯人さ。
そして、事件が発生する前に、この顔色の悪いドクターはタバコを吸うために仮眠室に籠っていた。
仮眠室にはタバコの匂いがかなり充満していたはずだよ。
その中に30分以上潜んでいたのならば、タバコの匂いが白衣についてもおかしくない。
ちなみに、タバコの匂いは感じられなくなっても、服にはまだその匂い分子が付着しているんだよ」
「さらに、無間さんが吸っていたタバコは貴重なタバコです。
去年の四月に販売が停止されている」
「君の白衣についた匂いの分子を調べれば、どこのタバコか分析することも可能なはずだよ」
ビシッと牙琉検事が指先を椎名につきつける。
「その白衣から、"ヘブンズブラック"の匂い分子が検出された場合、もう言い逃れはできない」
「きょっ去年の4月に販売を停止した、そっそんな貴重なタバコなら!
それを持っていたあの医者の方が怪しいだろ!?」
「おっと。その言い訳は通用しないよ」
牙琉が前髪をかきあげながら、説明する。
「なぜなら、彼には犯行当時アリバイがある。
先ほどの証人、枯山実吹と昼食を取っていたというね」
ムマ先生が補足するように言う。
「嘘だと思うなら、食堂の職員に訊いてみればいい。
私たちが食事をしていたことを証言してくれるだろう」
「ぐぐぐぐgっ……!!!!」
「"証拠品"が示しているんですよ」
赤い弁護士が人差し指をまっすぐに伸ばし、白衣が肩からずり落ちている椎名につきつけた。
「あなたが……十六夜 伊代さんを殺した“犯人”だってことが!」
「う……」
ぶるぶると椎名の体が震え出す。
目をギョロギョロと泳がせ、体を揺らす。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
ダンダンダン!!!!と証言台をメチャクチャに叩き、額を打ちつけた瞬間。
叫び声が途切れ、床にに崩れ落ちる。
白衣から隠されたメスがガシャンガシャンと大量に落とされる。
「くそっ!……あの女が!あの女が!来なければ!」
椎名がダンッと床を殴る。
「くそっ。あいつが悪いんだ……。部屋に戻ってこなければ……私は……」
"「っ!椎名先生!?なにをなさってるんです!」
「こっこれは…その…」
「……返してください!今なら、なかったことにしてあげますから!」
「うっうおおおおおおお!」
ガンッ!!"
真相はこうだった。
椎名は多額の借金を抱えており、その返済を待ってもらうために、患者の個人情報をこっそりと売っていたらしい。
今回も、イザヨイ先生の研究内容を盗むために、彼女の診察室に泥棒に入ったらしい。
だが、運悪く忘れ物をして戻ってきたイザヨイ先生に現場を見られてしまった。
そのとき、口論となり、もみ合っているときに……
彼女を殺害。
机に置かれていたメモ帳を見て、棒 陸夫が来ることを知った犯人は
彼にすべてをなすりつけようとした。
こうして、あたしの知りたかった真実は、非常にくだらない理由によるものだった。