破鏡再び照らす
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同日 午後4時25分
地方裁判所 控え室
恐ろしいほど時間の流れが遅く、証人になると大量の質問を投げつけられるのかと想像して身震いしていた。
だが、時計を確認し続けて、1時間経ったときにはさすがに違和感を覚えた。
「ムマ先生、いくらなんでも遅すぎないか?」
彼が証言するのは、“遺体を見たときの現場の状況”と“彼のアリバイ”についてだったはず。
大した証言ではないはずなのに、やけに遅い。
……弁護士がよほど優秀で、なかなか判決まで行けないのだろうか?
一体、どんな人なんだろう。その弁護士って。
リブレ出版の小説を嗜むキフジンとしては、スーツの眼鏡男子を想像してしまう。
長時間におよぶ極度の緊張状態のせいで、妄想が加速する。
検事さんがチャラい系だから、弁護士はクールな堅物系だと萌えるな。
うわぁー、天敵からのそういう関係に発展しちゃう系とかおいしい。
やはり検事さんが攻めか?いや、あえての受けか?
現実逃避ゆえの妄想は、"いけない"と思うほどついつい止まらなくなってしまう。
だが、不謹慎だなと自分でも思ったので、さすがにそれ以上はやめた。
とりあえず、聞かれる内容をできるだけ予想して、台詞を紙に書いて、頭に叩き込んでおこう。
紙は持っていなかったので、スマホに打ち込みながら順番を待つことにした。
扉の向こうから聞こえた音にソファから立ち上がると、コンコンと扉をノックする音がする。
一刻も早く裁判の状況を知りたくて、検事さんのために急いで扉を開ける。
「ががががっ牙琉、さん。あの、裁判は……」
なぜか検事さんが驚いたように目を大きく開いていたが、すぐに柔和な笑みを浮かべた。
急いでドアを開け過ぎたかな。
そして、自分の失言を思い出し、口を両手で押さえた。
そうだ……!
そういえば証人として召喚される場合、ほかの証人のことを聞いちゃいけないって裁判の前に説明されたんだった。
「なっなんでも、なっなーい…で、す!!」
「状況が気になるのもわかるよ。
証言に影響しない程度に伝えてあげる。
……法廷の流れが少し変わってね」
「変わった?」
聞いても大丈夫ですか?と彼の顔を覗き込みながら尋ねると、彼は頷いた。
「えっと……検事さん……つまり、どういうことですか?」
「被告人以外にも犯行が可能だったということが証明されたってこと」
なっ!?
「なっなな、んで!?」
「Dr.ムマが自分のアリバイを証言しているときに
おデコくん……弁護士クンの尋問でね。
あのドクターが事件が起きる日の午前中に、サボっていた事実がわかったんだよ。
証拠として、現場の仮眠室に落ちていた吸い殻を提出された」
「サボリ!?」
「それとあのドクターだけど……。
彼の貴重な“タバコ”を証拠品として没収しようとしたとき、彼が暴れたんだ」
「えっ!?検事さん大丈夫だったんですか!?怪我は?」
「僕は大丈夫。むしろ、大丈夫じゃないのはドクターの方かな。
彼の方が吐血して倒れたからね。
今は医務室で安静にして寝てるよ」
検事さんの言葉にあたしは口をあんぐり開けてしまう。
それから、頬をヒクヒクと引くつかせる。
あのオッサンは!!!!
仕事をサボタージュして一服してやがったのか!
しかも人様の仮眠室で……
ってあれ?
「かっ“仮眠室”?どっどこです、か?」
「“現場の隣の部屋”さ。
診察室には患者からはわからないように扉があってね。
その扉が仮眠室への入口ってわけさ」
牙琉検事さんの話を簡単にまとめるとこのようになる。
診察室は角部屋で、私たち三人以外が現場に向かうまで、棒陸夫しかいなかった。
だから、彼だけが犯行が可能だった。
要するに密室?……ってやつだったのか。
でも、診察室の中には仮眠室という"隠し部屋"があった。
その部屋のせいで密室が崩れて、棒陸夫以外にも犯行が可能だったことを証明してしまった。
以上が先ほどの法廷の流れだ。
というか!!なにしてんのあの不良ドクター!!
警察に協力どころか、敵に反撃の材料を与えてどうするのさ!?
「君もその部屋は知らなかったんだね」
「はっはい。いいっ今、初めって、知り、ました」
なるほど。
ムマ先生が言った"一か所"しか吸えない場所ってイザヨイ先生の"仮眠室"だったのか。
「あの病院に勤めている“医者”はみんな知っているって、あのドクターが言っていたよ」
「あの、それより、大っ丈夫、なんっです、か。…こっの、ままじゃ…被告人が……逃げて、しまうっんじゃ……」
「んー……そうかもしれないね」
「そっそうか、もって……諦めっるん、ですか!?」
「なにを?」
「……えっ」
なにって……訊き返されて、驚きながらも答えた。
「ははっ犯人、を捕っまえる、こと……」
「君は少し誤解してるみたいだね」
問題をまちがえた生徒に言い聞かす教師のように、牙琉検事が言う。
「被告人を裁くことだけが僕らの仕事じゃない。
僕らの仕事は"真実"を明らかにして、その罪を裁くことさ」
真実……。
「君は目隠しをされて、目の前のことを冷静に見つめられていないみたいだ」
「めっ目……隠ーしって?」
「"憎しみ"という名の暗闇のことさ」
憎しみという言葉にドキッとした。
彼の詩的な表現で告げられた言葉はキザだとも思ったが、嫌味ったらしく思わせない不思議な力があった。
普通の人がやったら鬱陶しいが、彼の雰囲気がそう思わせない。
検事さんから休廷のあとに、法廷に来るように告げられ、とりあえず控え室で待った。
「はぁー」
ふと扉の方から、不快な匂いが漂ってきて顔を歪めた。
あの不良ドクター、またタバコ吸いやがって!!
扉の向こうにいる人物に怒りを感じ、ずかずかと扉まで歩く。
扉を開けながら、ついでに証言についての文句も吐きつけてやる。
「ちょっとムマ先生!?サボタ―ジュしてたってどういうことですか!?」
「うわっ!?」
開けた瞬間、目の前に立っていたのは、気の良さそうな顔の男性だった。
「しっ椎名先生!?」
はっと我に返る。
「ももおももっ申し訳ありません!!!!」
すぐに腰を折って深く頭を下げた。
早とちり……。
あぁもう、ホント!こういう、そそっかしいところがダメなんだよなぁ。あたし。
「あぁ、そんな謝らなくても良いですよ。顔を上げて」
このまま、控室のソファの隙間に顔をうずめて埋まってしまいたかった。
「へっくしゅっ!」
椎名先生が盛大なくしゃみをする。
「かか風邪っです、か?」
「あぁ、情けないですけど」
ズーッと椎名先生は鼻をすする。
私と同じようにマスクをしている。
彼の風邪は鼻からくるタイプらしい。
「これから、証言するんですよね。君は一体どういう証言を?」
あまり話すべきでないとわかっていたが、答えないのも失礼かと思い、なるだけ曖昧に答える。
「きっ昨日、のこと、……ああああっの、おおおお男がせっ先、生を…なな殴っろ、うとし、たこと、です……」
そう言った瞬間、椎名先生が渋い表情をした。
「……たぶん、その証言だけじゃ決定的なものにはならないよ」
「え?」
決定的にならない?
「でっでも、あっあの、人っは、置物っの凶、器を持って、逃っ走したっ、て」
「私も、ほぼあの男で確定だと予想していたけど、結果はどうだい?
裁判はここまで長引いている」
その事実を言われ、何も言えなくなった。
他に犯人がいるというのか?
そんなのあるわけない。
凶器だって、殺人を起こす動機だってあった。
それで罪が確定しないなんて……。
「いてっ」
悔しさで唇を噛んだ瞬間、頬に痛みが走る。
昨日の殴られたとこを忘れていた……。
そこで、ふと考えがよぎる。
待てよ。
昨日の出来事を上手く証言すれば……。
「あぁ、そろそろ休憩が終わるみたいだ。
引き止めてしまってすみません」
そう言って椎名先生が去っていった。
"「……たぶん、その証言だけじゃ決定的なものにはならないよ」"
彼の言葉を思い出し、ぐっと拳を握りこむ。
あの男が犯人なんだ。
絶対、逃がしてたまるもんか。
地方裁判所 控え室
恐ろしいほど時間の流れが遅く、証人になると大量の質問を投げつけられるのかと想像して身震いしていた。
だが、時計を確認し続けて、1時間経ったときにはさすがに違和感を覚えた。
「ムマ先生、いくらなんでも遅すぎないか?」
彼が証言するのは、“遺体を見たときの現場の状況”と“彼のアリバイ”についてだったはず。
大した証言ではないはずなのに、やけに遅い。
……弁護士がよほど優秀で、なかなか判決まで行けないのだろうか?
一体、どんな人なんだろう。その弁護士って。
リブレ出版の小説を嗜むキフジンとしては、スーツの眼鏡男子を想像してしまう。
長時間におよぶ極度の緊張状態のせいで、妄想が加速する。
検事さんがチャラい系だから、弁護士はクールな堅物系だと萌えるな。
うわぁー、天敵からのそういう関係に発展しちゃう系とかおいしい。
やはり検事さんが攻めか?いや、あえての受けか?
現実逃避ゆえの妄想は、"いけない"と思うほどついつい止まらなくなってしまう。
だが、不謹慎だなと自分でも思ったので、さすがにそれ以上はやめた。
とりあえず、聞かれる内容をできるだけ予想して、台詞を紙に書いて、頭に叩き込んでおこう。
紙は持っていなかったので、スマホに打ち込みながら順番を待つことにした。
扉の向こうから聞こえた音にソファから立ち上がると、コンコンと扉をノックする音がする。
一刻も早く裁判の状況を知りたくて、検事さんのために急いで扉を開ける。
「ががががっ牙琉、さん。あの、裁判は……」
なぜか検事さんが驚いたように目を大きく開いていたが、すぐに柔和な笑みを浮かべた。
急いでドアを開け過ぎたかな。
そして、自分の失言を思い出し、口を両手で押さえた。
そうだ……!
そういえば証人として召喚される場合、ほかの証人のことを聞いちゃいけないって裁判の前に説明されたんだった。
「なっなんでも、なっなーい…で、す!!」
「状況が気になるのもわかるよ。
証言に影響しない程度に伝えてあげる。
……法廷の流れが少し変わってね」
「変わった?」
聞いても大丈夫ですか?と彼の顔を覗き込みながら尋ねると、彼は頷いた。
「えっと……検事さん……つまり、どういうことですか?」
「被告人以外にも犯行が可能だったということが証明されたってこと」
なっ!?
「なっなな、んで!?」
「Dr.ムマが自分のアリバイを証言しているときに
おデコくん……弁護士クンの尋問でね。
あのドクターが事件が起きる日の午前中に、サボっていた事実がわかったんだよ。
証拠として、現場の仮眠室に落ちていた吸い殻を提出された」
「サボリ!?」
「それとあのドクターだけど……。
彼の貴重な“タバコ”を証拠品として没収しようとしたとき、彼が暴れたんだ」
「えっ!?検事さん大丈夫だったんですか!?怪我は?」
「僕は大丈夫。むしろ、大丈夫じゃないのはドクターの方かな。
彼の方が吐血して倒れたからね。
今は医務室で安静にして寝てるよ」
検事さんの言葉にあたしは口をあんぐり開けてしまう。
それから、頬をヒクヒクと引くつかせる。
あのオッサンは!!!!
仕事をサボタージュして一服してやがったのか!
しかも人様の仮眠室で……
ってあれ?
「かっ“仮眠室”?どっどこです、か?」
「“現場の隣の部屋”さ。
診察室には患者からはわからないように扉があってね。
その扉が仮眠室への入口ってわけさ」
牙琉検事さんの話を簡単にまとめるとこのようになる。
診察室は角部屋で、私たち三人以外が現場に向かうまで、棒陸夫しかいなかった。
だから、彼だけが犯行が可能だった。
要するに密室?……ってやつだったのか。
でも、診察室の中には仮眠室という"隠し部屋"があった。
その部屋のせいで密室が崩れて、棒陸夫以外にも犯行が可能だったことを証明してしまった。
以上が先ほどの法廷の流れだ。
というか!!なにしてんのあの不良ドクター!!
警察に協力どころか、敵に反撃の材料を与えてどうするのさ!?
「君もその部屋は知らなかったんだね」
「はっはい。いいっ今、初めって、知り、ました」
なるほど。
ムマ先生が言った"一か所"しか吸えない場所ってイザヨイ先生の"仮眠室"だったのか。
「あの病院に勤めている“医者”はみんな知っているって、あのドクターが言っていたよ」
「あの、それより、大っ丈夫、なんっです、か。…こっの、ままじゃ…被告人が……逃げて、しまうっんじゃ……」
「んー……そうかもしれないね」
「そっそうか、もって……諦めっるん、ですか!?」
「なにを?」
「……えっ」
なにって……訊き返されて、驚きながらも答えた。
「ははっ犯人、を捕っまえる、こと……」
「君は少し誤解してるみたいだね」
問題をまちがえた生徒に言い聞かす教師のように、牙琉検事が言う。
「被告人を裁くことだけが僕らの仕事じゃない。
僕らの仕事は"真実"を明らかにして、その罪を裁くことさ」
真実……。
「君は目隠しをされて、目の前のことを冷静に見つめられていないみたいだ」
「めっ目……隠ーしって?」
「"憎しみ"という名の暗闇のことさ」
憎しみという言葉にドキッとした。
彼の詩的な表現で告げられた言葉はキザだとも思ったが、嫌味ったらしく思わせない不思議な力があった。
普通の人がやったら鬱陶しいが、彼の雰囲気がそう思わせない。
検事さんから休廷のあとに、法廷に来るように告げられ、とりあえず控え室で待った。
「はぁー」
ふと扉の方から、不快な匂いが漂ってきて顔を歪めた。
あの不良ドクター、またタバコ吸いやがって!!
扉の向こうにいる人物に怒りを感じ、ずかずかと扉まで歩く。
扉を開けながら、ついでに証言についての文句も吐きつけてやる。
「ちょっとムマ先生!?サボタ―ジュしてたってどういうことですか!?」
「うわっ!?」
開けた瞬間、目の前に立っていたのは、気の良さそうな顔の男性だった。
「しっ椎名先生!?」
はっと我に返る。
「ももおももっ申し訳ありません!!!!」
すぐに腰を折って深く頭を下げた。
早とちり……。
あぁもう、ホント!こういう、そそっかしいところがダメなんだよなぁ。あたし。
「あぁ、そんな謝らなくても良いですよ。顔を上げて」
このまま、控室のソファの隙間に顔をうずめて埋まってしまいたかった。
「へっくしゅっ!」
椎名先生が盛大なくしゃみをする。
「かか風邪っです、か?」
「あぁ、情けないですけど」
ズーッと椎名先生は鼻をすする。
私と同じようにマスクをしている。
彼の風邪は鼻からくるタイプらしい。
「これから、証言するんですよね。君は一体どういう証言を?」
あまり話すべきでないとわかっていたが、答えないのも失礼かと思い、なるだけ曖昧に答える。
「きっ昨日、のこと、……ああああっの、おおおお男がせっ先、生を…なな殴っろ、うとし、たこと、です……」
そう言った瞬間、椎名先生が渋い表情をした。
「……たぶん、その証言だけじゃ決定的なものにはならないよ」
「え?」
決定的にならない?
「でっでも、あっあの、人っは、置物っの凶、器を持って、逃っ走したっ、て」
「私も、ほぼあの男で確定だと予想していたけど、結果はどうだい?
裁判はここまで長引いている」
その事実を言われ、何も言えなくなった。
他に犯人がいるというのか?
そんなのあるわけない。
凶器だって、殺人を起こす動機だってあった。
それで罪が確定しないなんて……。
「いてっ」
悔しさで唇を噛んだ瞬間、頬に痛みが走る。
昨日の殴られたとこを忘れていた……。
そこで、ふと考えがよぎる。
待てよ。
昨日の出来事を上手く証言すれば……。
「あぁ、そろそろ休憩が終わるみたいだ。
引き止めてしまってすみません」
そう言って椎名先生が去っていった。
"「……たぶん、その証言だけじゃ決定的なものにはならないよ」"
彼の言葉を思い出し、ぐっと拳を握りこむ。
あの男が犯人なんだ。
絶対、逃がしてたまるもんか。