下手の横好き
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2月14日 午後3時29分
氷室デパート 屋上展示場
デパートの屋上は球体を半分に切ったような半球型のガラスドームに包まれていた。
展示場の天井を覆う透明なガラスから、冬の柔らかな日の光が室内を優しく照らす。
そのドームの真ん中のシャンデリアの下で、
ガラスケースに入ったピンクダイヤが人込みに囲まれていた。
モミジは双眼鏡で中の様子を見るが、肝心のピンクダイヤは見えない。
「さすが人気の宝石。展示場に入るには時間がかかりそうね」
ヒューッと荒れ狂う冬風が、モミジたちに吹きつける。
「さっぶ!」
モミジはチェスターコートにつつまれてる腕を激しくさする。
モミジはキャメル色の分厚いチェスターコートを羽織っていたが、
それでも冷気は容赦なく体に伝わってくる。
藤色のポンチョコートに包まれている春美も、思わず白いマフラーに顔をうずめる。
「寒くないかい?春美ちゃん」
女性姿の鬼風はガチガチと歯を微かに鳴らしつつ、隣の少女に声をかける。
「はい、このお洋服のおかげで寒くありません」
春美がポンチョの下から両腕を広げ、その場でくるっと回ってみせた。
ポンチョの襟と裾に白いファーがついており、もこもことしている。
「あの薄手の白いケープよりはこっちのほうが大分マシなはずよ」
ポンチョを見下ろす春美の顔はどこか嬉しそうに輝いていた。
春美が着ていた上着が頼りないことに気付いた鬼風が、
ここへ来る前に買い与えたものである。
ふと春美のにこやかな顔つきが消え、顔を曇らせる。
「でも、本当によろしかったのですか?
このような可愛らしいお洋服を頂いてしまって……」
モミジはガシッと春美の両肩を力強く掴む。
「女の子が体を冷やすような恰好しちゃいけません!」
女性の力強い勢いに思わず、春美は後ずさる。
「つーか、私としてはヒートテックタイツも穿かせたいぐらいなんだから」
「いえ、これ以上はいけません!」
モミジの言葉に春美が首を横に振りながら、体の前で両手を振る。
教育がよろしいのか、春美はコート以外は絶対におごってもうおうとはしなかった。
ちなみにポンチョも最初は春美は頑なに受け取ろうとしなかったが、
モミジがコートだけは絶対に着ろと半ば無理矢理押しつけたものであった。
「だけど、もう少し見なくてもよかったの?
春美ちゃん、まだ服を見ていたかったんじゃない?」
先ほど春美がじっくりとアパレルショップを見ていたのを思い出し、
鬼風がそう尋ねた。
春美はうっと体を跳ねさせたが、煩悩を振り払うようにプルプルと首を振る。
「いえ!可愛いお洋服を見に来たのではありませんから!」
そう言いつつも、ちょっとだけ名残り惜しそうに
春美はショッピングモールの方へ視線をちらちらと向ける。
そんな少女の仕草に思わず鬼風はほっこりとした笑みを浮かべる。
「けど、モミジさまはなぜこのデパートに訪ねられたのですか?」
「もしかしたら、あのピンクダイヤに解決のヒントがあると思ったの」
「ヒントですか」
「うーん……一応事件の筋道は浮かんでいるのだけど……」
その言葉に春美が前のめりになる。
「では、わたくしたちのチョコの在処がわかったのですね!?」
「それはまだよ。ただ確証を得たいの。私の推理が間違っていないかどうかのね」
「それはいったいどのような推理なのですか?」
「ピンクダイヤを見終わった後に、聞かせてあげるわ」
鬼風は、ピンクダイヤを見るために並んでいる列に目をやる。
「やっぱり行列もカップルが多いわね。あーあ。私も愛しいあの子と来たかったなぁ」
「そういえば、モミジさまの想い人はどんな殿方なのですか?」
モミジはよくぞ聞いてくれたわねと言わんばかりの、
晴れ晴れとした笑顔を春美に向ける。
「あら?そんなに私の彼への熱い想いを聴きたいのかしら?」
「是非お聴きしたいです」
顔を隠した春美の人差し指と中指の間から、
丸い瞳が興味深そうに茶髪女性の鬼風に向けられている。
「えっと……」
予想していた反応と正反対で、モミジがしどろもどろになる。
戸惑うモミジを特に気にせず、春美が再び尋ねる。
「それで、どんなお方なのですか?」
「え!?……えっと、そうだな……背は小っちゃくて、茶色い髪してて、童顔で……」
「なんだか女の子みたいな方なのですね」
「あっいや、顔は別にキレイじゃなくて……まぁ、フツーの……サル顔?」
「……想い人なのですよね?」
貶しているような物言いに、つい春美は確認してしまった。
「別に容姿で好きになったわけじゃないから」
「見た目ではなく内面に惹かれたのですね。
では、どんなところに惹かれたのですか!?」
「う゛え゛」
目をキラキラとさせ、
前傾でこちらに顔を寄せる少女に女性姿の鬼風はたじたじになる。
「そっそのだな……惹かれたといえば……」
考え込んでからポツリと言葉をこぼして、モミジは語り始める。
「強いて言えば……目かな……
うーん……なんだろう……茶色っていうには黒っぽくて
黒って言うには茶色っぽいという黒褐色の目が
見てて、なんだか目が離せないっていうか
別に綺麗な目ってわけではないんだ。
ただ、まっすぐ射るような強い眼差しが……
……こうドキリとさせられるというか……、
あと、目だけじゃなくて真摯な横顔とか
小さいけどたくましい背中とか……」
少女があらあらまぁまぁと頬を染め、
こちらへ熱心に視線を向けてくるのを見て、鬼風はハッと我に返る。
「あぁああ!そのあの」
モミジは前方の列が動き出すのを視界の端に捕らえた。
「ほらっ列が!もうそろそろ!時間だから!」
「あっ、動いたようですね」
列が本格的に動いたのを見ると、春美もおしゃべりを止めた。
少女の追求が止まり、モミジはほっと胸を撫でおろす。
ガラスドーム内に入り、しばらく並んでいると順番がやってきた。
その優しげなピンクの輝きを目の前にして、二人は思わず感嘆の声をあげる。
「これがピンクダイヤか」
「綺麗ですわ」
春美はほうと恍惚のため息を零しながら、
両頬に手を当てて指の間からうっとりと見つめる。
鬼風はダイヤの輝きに目もくれずスマホを取り出したが、
看板にカメラの絵の上から赤い×がつけられてるのが目に入る。
「っと。写真撮影は禁止か……」
それならと……モミジは指輪に内蔵された特殊カメラで
ピンクダイヤをこっそりと撮影した。
モミジのコートのポケットからスマホが鳴りだす。
モミジはスマホを取り出し、先ほどの画像を添付してメールで送信する。
ピンクダイヤの写真を杏里に送信し終えて、
モミジはふとカメラを持った男性とマイクを片手に持つ女性の姿が目に入る。
スーツの中年男性に女性がマイクを向けた。
「それでは、氷室デパートの安田 大輝 副オーナー。
今日、怪盗鬼風から予告状をもらった感想は?」
マイクを向けられた黒髪オールバッグの男が口を開く。
「いやぁー驚きましたよ。
まさかあの泥棒が、我がデパートのピンクダイヤを盗みにくるとは思いませんでした」
安田は渋い表情を変え、笑みを浮かべる。
「はっはっはっ。だが、盗れるものなら盗ってみてほしいものですよ」
「すごい自信ですね。なにか秘策があるのですか?」
「秘策など使わなくとも……怪盗など今じゃ流行りませんよ。
今夜その泥棒を捕まえて、それを証明してやりますとも」
自信に満ち溢れた態度で、安田がレポーターの質問に答えていた。
それを見て、モミジは蛇のような探る目つきで彼を見た。
同じように見ていた春美も、怪訝な顔色を浮かべる。
「あの副オーナー……鬼風に盗まれるっていうのに、ずいぶんとご機嫌だな」
「それどころか……なんだか、大事な恋人でも待っているようですわ」
春美の言葉通り、副オーナーは盗まれない自信があるというより、
盗んで行って欲しいと言っているような態度に見えた。
突如、鬼風のスマホからセレナーデ調の着うたが鳴る。
茶髪女性の鬼風はほんの少しだけ動きを止めて、
その冬空に浮かぶ月のように澄んだ歌声に耳を傾けた。
眉を小さく寄せて、茶髪の女性は口元に柔らかな微笑を浮かべる。
しかし、すぐに顔を元に戻すと、着うたを切った。
スマホの画面を開き、受信したメールを目で読み上げる。
鬼風の顔にうっすらとふてぶてしい笑いの皺が刻まれた。
「モミジさま。それで、ピンクダイヤを見てなにかわかったのですか?」
スマホをしまい、春美に顔を向ける。
「あぁ、バッチリさ」
「では、わたくしたちのチョコはどこにあるのですか!?」
「私の予想が正しければ、"鬼風"がこのデパートに現れたときに出てくるはずだ」
「どういうことですか?」
「"逆転"させて考えてみればいいのさ。
なぜ、デパートのチョコが盗まれたかではなく。
どうして、デパートのチョコを盗まなければいけなかったのか」
春美は鬼風の言いたいことがよくわからず、首を傾げたままだった。
「さて、準備をするとしますか」
氷室デパート 屋上展示場
デパートの屋上は球体を半分に切ったような半球型のガラスドームに包まれていた。
展示場の天井を覆う透明なガラスから、冬の柔らかな日の光が室内を優しく照らす。
そのドームの真ん中のシャンデリアの下で、
ガラスケースに入ったピンクダイヤが人込みに囲まれていた。
モミジは双眼鏡で中の様子を見るが、肝心のピンクダイヤは見えない。
「さすが人気の宝石。展示場に入るには時間がかかりそうね」
ヒューッと荒れ狂う冬風が、モミジたちに吹きつける。
「さっぶ!」
モミジはチェスターコートにつつまれてる腕を激しくさする。
モミジはキャメル色の分厚いチェスターコートを羽織っていたが、
それでも冷気は容赦なく体に伝わってくる。
藤色のポンチョコートに包まれている春美も、思わず白いマフラーに顔をうずめる。
「寒くないかい?春美ちゃん」
女性姿の鬼風はガチガチと歯を微かに鳴らしつつ、隣の少女に声をかける。
「はい、このお洋服のおかげで寒くありません」
春美がポンチョの下から両腕を広げ、その場でくるっと回ってみせた。
ポンチョの襟と裾に白いファーがついており、もこもことしている。
「あの薄手の白いケープよりはこっちのほうが大分マシなはずよ」
ポンチョを見下ろす春美の顔はどこか嬉しそうに輝いていた。
春美が着ていた上着が頼りないことに気付いた鬼風が、
ここへ来る前に買い与えたものである。
ふと春美のにこやかな顔つきが消え、顔を曇らせる。
「でも、本当によろしかったのですか?
このような可愛らしいお洋服を頂いてしまって……」
モミジはガシッと春美の両肩を力強く掴む。
「女の子が体を冷やすような恰好しちゃいけません!」
女性の力強い勢いに思わず、春美は後ずさる。
「つーか、私としてはヒートテックタイツも穿かせたいぐらいなんだから」
「いえ、これ以上はいけません!」
モミジの言葉に春美が首を横に振りながら、体の前で両手を振る。
教育がよろしいのか、春美はコート以外は絶対におごってもうおうとはしなかった。
ちなみにポンチョも最初は春美は頑なに受け取ろうとしなかったが、
モミジがコートだけは絶対に着ろと半ば無理矢理押しつけたものであった。
「だけど、もう少し見なくてもよかったの?
春美ちゃん、まだ服を見ていたかったんじゃない?」
先ほど春美がじっくりとアパレルショップを見ていたのを思い出し、
鬼風がそう尋ねた。
春美はうっと体を跳ねさせたが、煩悩を振り払うようにプルプルと首を振る。
「いえ!可愛いお洋服を見に来たのではありませんから!」
そう言いつつも、ちょっとだけ名残り惜しそうに
春美はショッピングモールの方へ視線をちらちらと向ける。
そんな少女の仕草に思わず鬼風はほっこりとした笑みを浮かべる。
「けど、モミジさまはなぜこのデパートに訪ねられたのですか?」
「もしかしたら、あのピンクダイヤに解決のヒントがあると思ったの」
「ヒントですか」
「うーん……一応事件の筋道は浮かんでいるのだけど……」
その言葉に春美が前のめりになる。
「では、わたくしたちのチョコの在処がわかったのですね!?」
「それはまだよ。ただ確証を得たいの。私の推理が間違っていないかどうかのね」
「それはいったいどのような推理なのですか?」
「ピンクダイヤを見終わった後に、聞かせてあげるわ」
鬼風は、ピンクダイヤを見るために並んでいる列に目をやる。
「やっぱり行列もカップルが多いわね。あーあ。私も愛しいあの子と来たかったなぁ」
「そういえば、モミジさまの想い人はどんな殿方なのですか?」
モミジはよくぞ聞いてくれたわねと言わんばかりの、
晴れ晴れとした笑顔を春美に向ける。
「あら?そんなに私の彼への熱い想いを聴きたいのかしら?」
「是非お聴きしたいです」
顔を隠した春美の人差し指と中指の間から、
丸い瞳が興味深そうに茶髪女性の鬼風に向けられている。
「えっと……」
予想していた反応と正反対で、モミジがしどろもどろになる。
戸惑うモミジを特に気にせず、春美が再び尋ねる。
「それで、どんなお方なのですか?」
「え!?……えっと、そうだな……背は小っちゃくて、茶色い髪してて、童顔で……」
「なんだか女の子みたいな方なのですね」
「あっいや、顔は別にキレイじゃなくて……まぁ、フツーの……サル顔?」
「……想い人なのですよね?」
貶しているような物言いに、つい春美は確認してしまった。
「別に容姿で好きになったわけじゃないから」
「見た目ではなく内面に惹かれたのですね。
では、どんなところに惹かれたのですか!?」
「う゛え゛」
目をキラキラとさせ、
前傾でこちらに顔を寄せる少女に女性姿の鬼風はたじたじになる。
「そっそのだな……惹かれたといえば……」
考え込んでからポツリと言葉をこぼして、モミジは語り始める。
「強いて言えば……目かな……
うーん……なんだろう……茶色っていうには黒っぽくて
黒って言うには茶色っぽいという黒褐色の目が
見てて、なんだか目が離せないっていうか
別に綺麗な目ってわけではないんだ。
ただ、まっすぐ射るような強い眼差しが……
……こうドキリとさせられるというか……、
あと、目だけじゃなくて真摯な横顔とか
小さいけどたくましい背中とか……」
少女があらあらまぁまぁと頬を染め、
こちらへ熱心に視線を向けてくるのを見て、鬼風はハッと我に返る。
「あぁああ!そのあの」
モミジは前方の列が動き出すのを視界の端に捕らえた。
「ほらっ列が!もうそろそろ!時間だから!」
「あっ、動いたようですね」
列が本格的に動いたのを見ると、春美もおしゃべりを止めた。
少女の追求が止まり、モミジはほっと胸を撫でおろす。
ガラスドーム内に入り、しばらく並んでいると順番がやってきた。
その優しげなピンクの輝きを目の前にして、二人は思わず感嘆の声をあげる。
「これがピンクダイヤか」
「綺麗ですわ」
春美はほうと恍惚のため息を零しながら、
両頬に手を当てて指の間からうっとりと見つめる。
鬼風はダイヤの輝きに目もくれずスマホを取り出したが、
看板にカメラの絵の上から赤い×がつけられてるのが目に入る。
「っと。写真撮影は禁止か……」
それならと……モミジは指輪に内蔵された特殊カメラで
ピンクダイヤをこっそりと撮影した。
モミジのコートのポケットからスマホが鳴りだす。
モミジはスマホを取り出し、先ほどの画像を添付してメールで送信する。
ピンクダイヤの写真を杏里に送信し終えて、
モミジはふとカメラを持った男性とマイクを片手に持つ女性の姿が目に入る。
スーツの中年男性に女性がマイクを向けた。
「それでは、氷室デパートの安田 大輝 副オーナー。
今日、怪盗鬼風から予告状をもらった感想は?」
マイクを向けられた黒髪オールバッグの男が口を開く。
「いやぁー驚きましたよ。
まさかあの泥棒が、我がデパートのピンクダイヤを盗みにくるとは思いませんでした」
安田は渋い表情を変え、笑みを浮かべる。
「はっはっはっ。だが、盗れるものなら盗ってみてほしいものですよ」
「すごい自信ですね。なにか秘策があるのですか?」
「秘策など使わなくとも……怪盗など今じゃ流行りませんよ。
今夜その泥棒を捕まえて、それを証明してやりますとも」
自信に満ち溢れた態度で、安田がレポーターの質問に答えていた。
それを見て、モミジは蛇のような探る目つきで彼を見た。
同じように見ていた春美も、怪訝な顔色を浮かべる。
「あの副オーナー……鬼風に盗まれるっていうのに、ずいぶんとご機嫌だな」
「それどころか……なんだか、大事な恋人でも待っているようですわ」
春美の言葉通り、副オーナーは盗まれない自信があるというより、
盗んで行って欲しいと言っているような態度に見えた。
突如、鬼風のスマホからセレナーデ調の着うたが鳴る。
茶髪女性の鬼風はほんの少しだけ動きを止めて、
その冬空に浮かぶ月のように澄んだ歌声に耳を傾けた。
眉を小さく寄せて、茶髪の女性は口元に柔らかな微笑を浮かべる。
しかし、すぐに顔を元に戻すと、着うたを切った。
スマホの画面を開き、受信したメールを目で読み上げる。
鬼風の顔にうっすらとふてぶてしい笑いの皺が刻まれた。
「モミジさま。それで、ピンクダイヤを見てなにかわかったのですか?」
スマホをしまい、春美に顔を向ける。
「あぁ、バッチリさ」
「では、わたくしたちのチョコはどこにあるのですか!?」
「私の予想が正しければ、"鬼風"がこのデパートに現れたときに出てくるはずだ」
「どういうことですか?」
「"逆転"させて考えてみればいいのさ。
なぜ、デパートのチョコが盗まれたかではなく。
どうして、デパートのチョコを盗まなければいけなかったのか」
春美は鬼風の言いたいことがよくわからず、首を傾げたままだった。
「さて、準備をするとしますか」