下手の横好き
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
2月14日 午後1時23分
たなぼた駅 ロッカー
「はぁ…はぁ…」
男は横にあるコインロッカーの壁に手をつけながら、荒い呼吸を繰り返している。
「いやーなかなか良い距離を走ったな」
男はその声にはっと顔をあげる。
男の前に茶髪の女性――――モミジが立っていた。
男は大きく目を開く。
「お前……さっきの女…!」
なにもかも把握しているかのように、女がニヤリと笑う。
男が女姿の鬼風から逃げようと後ろに走り出す。
「逃がしません!!」
春美が両手を広げて、立ちふさがる。
「バカっ!」
待機を命じていたはずの少女が飛び出してきて、
モミジは思わず罵声を吐き出してしまう。
鬼風から逃れようと泥棒が春美の方へ走った。
泥棒は鬼風の予想を上回る俊足で、春美へと突進していく。
このままでは春美が突き飛ばされてしまう。
「春美ちゃんっ!!」
「どけぇっ!!」
男の泥棒が小柄な少女に向かって腕を振り下ろす。
バギン!!
「……へ?」
鈍い音とともに男の泥棒がふっ飛ばされ、モミジは顔を思いっきり引きつらせた。
泥棒が少女からビンタをくらい、ドオンと地面に落ちる。
愛らしい小柄な少女の手の平から出されたとは思えない重い一撃に、
モミジはついてないはずの股のモノがヒュンと冷えたような錯覚を感じた。
「こっ怖ぇ……」
大人しい子ほど怒らせてはいけない。
モミジは少女の重すぎる平手で
地面に倒れた泥棒に哀れみの視線を向ける。
「さぁ!盗ったチョコをすべてお返しなさい!!」
「さああるもの全部出しな。
身ぐるみ全部剥がされてあそこのビルの屋上から吊るされたなくなければな」
哀れみの視線を向けたのも一瞬で、すぐに恨みを思い出し、
鬼風は春美と一緒に地面に倒れる泥棒を見下ろす。
「誰がお前たちみたいなアマなんかに……」
ヒュンッヒュンッと春美が腕を振り抜き、無言で素振りをしだす。
先ほどの強烈なビンタを思い出したのか、泥棒が威勢の良かった口を閉ざす。
それに追い打ちをかけるように、鬼風が泥棒を後ろ手にひねり上げる。
いででででと泥棒がわめく。
「……でチョコはどこだ?ええ?」
「くっロッカーだ!そこのロッカー!!」
パッと鬼風が手を放すと、泥棒がぐったりと地面に落ちた。
「ふんっ。だが、場所がわかっても鍵がなければどうしようもなっ……」
春美が腕を構えて、泥棒を見下ろす。
彼女の周囲から怒気が煙のように立ち上っていた。
男の泥棒が再び口を噤む。
「はいはい。カワイイ顔が台無しだよ、お姉さん」
春美を落ち着かせるように、女姿のモミジがポンポンッと形の良い少女の頭を軽く叩く。
「別に場所さえわかれば……」
モミジはポケットからヘアピンを取り出し、先っちょをロッカーの鍵穴に差し込む。
カチャカチャと音がしたかと思うと、カチッと鍵が開いた。
「なっ!?」
チョコ泥棒は、少女に殴られて腫れた顔を驚愕で歪める。
「まぁ……」
感心したように春美はその動作を見つめたあと、急いでロッカーの中身を覗き出す。
その後ろから鬼風がロッカーを覗き込む。
「さてと、例のブツはっと……うっわぁ本当に大量に盗んだわね」
モミジは別の意味で倒れてる男に哀れみの視線を向ける。
「アンタさ、いくらモテないからってこれはねえわよ。余計虚しくならない?」
「好きでこんな物盗んだんじゃねえ!」
「はぁ?じゃあなんでこのブツがあるのさ」
モミジはロッカーの中に詰め込まれたチョコレートを親指でさした。
「俺は頼まれたんだ!」
「誰に?」
「……相手はわからねえ」
「ほう?」
ポキポキッとわざとらしく鬼風が指を鳴らす。
「本当だ!俺は13日にあのデパートで買われたチョコをすべて盗めと言われたんだ!」
「嘘をつけ。ならなんで女性からしか盗んでないのよ。
あの日にチョコを買った野郎だっていたはずだろ?」
「それも言われたんだ!男性じゃなくて女性から盗めと!」
モミジは疑り深そうに視線を下していたが、
ふぅと息を吐くと女姿の鬼風は泥棒の首筋に手を置く。
男はビクッと身をすくめてしまった。
ただ手を置かれただけだったが、
まるで鋭利な刃物でも当てられてるような緊張が彼の体に走ったのだ。
「もう一度訊くぞ?お前は頼まれたからチョコを盗んだのか?」
「あぁ」
「さらに13日に、あのデパートで買われたチョコをすべて盗めと指示された」
「あぁ」
「そして男性じゃなくて女性だけから盗めと」
「あぁ、そうだって言ってるだろ」
「……それじゃ、最後だ。
お前は今日、デパートでチョコを盗めと命令されている」
偽の予告状を取り出し、男に見せつける。
「そっそれをどこで……」
「そうなのか?どうなんだ?」
ギュッと男の首筋に女の形の良い爪が食い込む。
「あぁ」
モミジはふっと目を閉じて、首筋から手を放す。
「…なるほど」
腰に手を当て、男を見下ろす。
「本当にお前は頼まれただみたいだな」
「アンタ……一体……」
甲高い悲鳴が聞こえ、鬼風は思わず耳を塞ぐ。
「ない!!」
和装束の少女が顔を青ざめさせたかと思うと、キッと涙目混じりで男を睨む。
「マヨイさまの!マヨイさまのチョコをどこに隠したのですか!?」
春美が憤怒の表情を浮かべて、泥棒に詰め寄る。
「は?チョコなら全部そこに」
パンッと春美が泥棒の頬に一発かました。
「嘘おっしゃい!あそこからはマヨイさまのチョコは見当たりませんでしたわ!」
「しっ知らぶねらっ!!」
「お返しなさい!」
パパパパッと往復ビンタをくらってる泥棒を傍観しつつ、
鬼風もふらーっとロッカーの方に足を進める。
そして、中身を確認すると笑顔を浮かべながら泥棒の元に戻ってきた。
「おいっ。お前」
「ばっばんばよ」
顔がパンパンに膨れ上がった泥棒の胸倉を鬼風が掴みあげる。
「私のチョコもないんだがどういうことだ?ええ?」
モミジはかろうじて女の声のまま、ドスの効いた低い声で泥棒を問いただす。
笑顔で殺気を放ちながら、男の胸倉を揺さぶる。
「しっ知らねえ!俺は盗んだチョコは全部そこに」
「嘘こいてんじゃねえぞ!ああ!?
私の愛のチョコをどこに隠したかって聞いてんだよ!ボケェ!!」
ガクガクッと首を揺さぶる。
「知らないっ!本当だっ!」
モミジはガッと男の首を片手で持ち上げる。
「本当に?」
静かな女の声だが、男の背中にスルリと氷が滑ったような悪寒が走る。
「ほっ本当だ……!」
鬼風は男の首から手を放した。
男が再び地面に落ちる。
モミジは口元を覆うように手を当て、考え込む。
……一体どういうことなんだ?
「決まってます!嘘をついているのです!
そうでなければマヨイさまやモミジさまのチョコだけがなぜないのですか!」
「残念だけど。彼は嘘をついてないよ」
「どうしてわかるのですか?」
「さっき質問したとき、脈や呼吸の特徴的な乱れがなかった。
あれは嘘をついてる人間の状態じゃない」
春美がパチパチと瞬きをする。
「……わかるのですか?」
「ん?」
「……その……ウソを、ついてるかどうか」
少し答えることを迷ったが、モミジは素直に口に出す。
「あぁ。……少し、だけだけどね」
「まるで王泥喜さんやナルホドくんみたいですわ……」
知人の名前が出てきて、鬼風は慌てて話題を戻した。
「とっとりあえず、泥棒のさっきの言葉が本当だと仮定しましょう。
こいつの依頼主はなんでそんなことをさせたのか……」
モミジは脳内で散らばった疑問を思考という針で一つにつなぎ合わせようとする。
そして、モミジはパンッと手を叩いた。
「なっなにかわかったのですか!?」
「……うん。
まったくわからない!」
春美ががくっと肩を落とした。
「ええっと……」
春美はなんと返せば良いのかわからず、親指の爪を唇に当てて視線を彷徨わせている。
目を閉じてこめかみを掻きながらモミジは口を開く。
「情報が少なすぎるのよ。もう少し情報を集めないとなにもわからないわ。
とりあえず、盗品をもう一回見てみましょう。
私たちの見落としだったらラッキーだしね」
「見落としのはずはありません」
「やけに自信があるのね」
鬼風は純粋に感心した風に答えた。
「マヨイさまのチョコと自分のチョコを間違えないように、
装飾のリボンの裏側にお名前を書いたのです」
「それですぐにわかったのか」
ロッカーの中に詰められているチョコを一つずつ確認しながら、
女性姿の鬼風はハァとため息を吐いた。
「私もそうしておくべきだったかなぁ。
同じ包装紙ばっかりで全然区別がつかないのよね」
モミジはショコラの箱に直接メッセージカードを入れてあるため、
箱を触って微かな膨らみから自分の物かを判断しなければならない。
春美と比べれば鬼風の方がよほど見つけるのは難しいだろう。
「うわっこれもピンクダイヤのショコラじゃねえか」
ロッカーからは自分と同じチョコを買ったとわかる、特別な包装紙の箱ばかりが出てくる。
それをモミジはうんざりした顔で眺める。
恋する乙女の思考回路はどうしてこうも単純なのかね。
自分と同じように踊らされている乙女たちの証拠を見て、
女性姿の鬼風は苦笑いを浮かべる。
「もうこれ以上は見てらんないわね……」
雑誌で人気だからってこんなに被るか、フツー?
ふと、モミジの脳裏に線香花火のような光が一瞬だけ灯り、
道を見えなくしていた霧が少し晴れたような気がした。
「もしかして……」
鬼風は再びチョコ泥棒に近づき、声をかける。
「ねえ」
すっと彼の首筋に手をおく。
「13日にチョコを盗めと依頼した人物と、
今日デパートで鬼風のフリをしてダイヤを盗めと依頼した人物は
同一人物?」
「……そうだ」
泥棒の答えを聞いて、モミジは唇の片端を持ち上げる。
「それじゃ、行こうか。春美ちゃん」
女性姿の鬼風はふわりと笑みを浮かべ、少女を促す。
春美は相手の意図がわからず、眉をハの字にしてモミジを見つめる。
「どちらへ行かれるのですか?」
「氷室デパートさ」
女性の薄闇色の瞳がまるで悪戯っ子のように光っていた。
たなぼた駅 ロッカー
「はぁ…はぁ…」
男は横にあるコインロッカーの壁に手をつけながら、荒い呼吸を繰り返している。
「いやーなかなか良い距離を走ったな」
男はその声にはっと顔をあげる。
男の前に茶髪の女性――――モミジが立っていた。
男は大きく目を開く。
「お前……さっきの女…!」
なにもかも把握しているかのように、女がニヤリと笑う。
男が女姿の鬼風から逃げようと後ろに走り出す。
「逃がしません!!」
春美が両手を広げて、立ちふさがる。
「バカっ!」
待機を命じていたはずの少女が飛び出してきて、
モミジは思わず罵声を吐き出してしまう。
鬼風から逃れようと泥棒が春美の方へ走った。
泥棒は鬼風の予想を上回る俊足で、春美へと突進していく。
このままでは春美が突き飛ばされてしまう。
「春美ちゃんっ!!」
「どけぇっ!!」
男の泥棒が小柄な少女に向かって腕を振り下ろす。
バギン!!
「……へ?」
鈍い音とともに男の泥棒がふっ飛ばされ、モミジは顔を思いっきり引きつらせた。
泥棒が少女からビンタをくらい、ドオンと地面に落ちる。
愛らしい小柄な少女の手の平から出されたとは思えない重い一撃に、
モミジはついてないはずの股のモノがヒュンと冷えたような錯覚を感じた。
「こっ怖ぇ……」
大人しい子ほど怒らせてはいけない。
モミジは少女の重すぎる平手で
地面に倒れた泥棒に哀れみの視線を向ける。
「さぁ!盗ったチョコをすべてお返しなさい!!」
「さああるもの全部出しな。
身ぐるみ全部剥がされてあそこのビルの屋上から吊るされたなくなければな」
哀れみの視線を向けたのも一瞬で、すぐに恨みを思い出し、
鬼風は春美と一緒に地面に倒れる泥棒を見下ろす。
「誰がお前たちみたいなアマなんかに……」
ヒュンッヒュンッと春美が腕を振り抜き、無言で素振りをしだす。
先ほどの強烈なビンタを思い出したのか、泥棒が威勢の良かった口を閉ざす。
それに追い打ちをかけるように、鬼風が泥棒を後ろ手にひねり上げる。
いででででと泥棒がわめく。
「……でチョコはどこだ?ええ?」
「くっロッカーだ!そこのロッカー!!」
パッと鬼風が手を放すと、泥棒がぐったりと地面に落ちた。
「ふんっ。だが、場所がわかっても鍵がなければどうしようもなっ……」
春美が腕を構えて、泥棒を見下ろす。
彼女の周囲から怒気が煙のように立ち上っていた。
男の泥棒が再び口を噤む。
「はいはい。カワイイ顔が台無しだよ、お姉さん」
春美を落ち着かせるように、女姿のモミジがポンポンッと形の良い少女の頭を軽く叩く。
「別に場所さえわかれば……」
モミジはポケットからヘアピンを取り出し、先っちょをロッカーの鍵穴に差し込む。
カチャカチャと音がしたかと思うと、カチッと鍵が開いた。
「なっ!?」
チョコ泥棒は、少女に殴られて腫れた顔を驚愕で歪める。
「まぁ……」
感心したように春美はその動作を見つめたあと、急いでロッカーの中身を覗き出す。
その後ろから鬼風がロッカーを覗き込む。
「さてと、例のブツはっと……うっわぁ本当に大量に盗んだわね」
モミジは別の意味で倒れてる男に哀れみの視線を向ける。
「アンタさ、いくらモテないからってこれはねえわよ。余計虚しくならない?」
「好きでこんな物盗んだんじゃねえ!」
「はぁ?じゃあなんでこのブツがあるのさ」
モミジはロッカーの中に詰め込まれたチョコレートを親指でさした。
「俺は頼まれたんだ!」
「誰に?」
「……相手はわからねえ」
「ほう?」
ポキポキッとわざとらしく鬼風が指を鳴らす。
「本当だ!俺は13日にあのデパートで買われたチョコをすべて盗めと言われたんだ!」
「嘘をつけ。ならなんで女性からしか盗んでないのよ。
あの日にチョコを買った野郎だっていたはずだろ?」
「それも言われたんだ!男性じゃなくて女性から盗めと!」
モミジは疑り深そうに視線を下していたが、
ふぅと息を吐くと女姿の鬼風は泥棒の首筋に手を置く。
男はビクッと身をすくめてしまった。
ただ手を置かれただけだったが、
まるで鋭利な刃物でも当てられてるような緊張が彼の体に走ったのだ。
「もう一度訊くぞ?お前は頼まれたからチョコを盗んだのか?」
「あぁ」
「さらに13日に、あのデパートで買われたチョコをすべて盗めと指示された」
「あぁ」
「そして男性じゃなくて女性だけから盗めと」
「あぁ、そうだって言ってるだろ」
「……それじゃ、最後だ。
お前は今日、デパートでチョコを盗めと命令されている」
偽の予告状を取り出し、男に見せつける。
「そっそれをどこで……」
「そうなのか?どうなんだ?」
ギュッと男の首筋に女の形の良い爪が食い込む。
「あぁ」
モミジはふっと目を閉じて、首筋から手を放す。
「…なるほど」
腰に手を当て、男を見下ろす。
「本当にお前は頼まれただみたいだな」
「アンタ……一体……」
甲高い悲鳴が聞こえ、鬼風は思わず耳を塞ぐ。
「ない!!」
和装束の少女が顔を青ざめさせたかと思うと、キッと涙目混じりで男を睨む。
「マヨイさまの!マヨイさまのチョコをどこに隠したのですか!?」
春美が憤怒の表情を浮かべて、泥棒に詰め寄る。
「は?チョコなら全部そこに」
パンッと春美が泥棒の頬に一発かました。
「嘘おっしゃい!あそこからはマヨイさまのチョコは見当たりませんでしたわ!」
「しっ知らぶねらっ!!」
「お返しなさい!」
パパパパッと往復ビンタをくらってる泥棒を傍観しつつ、
鬼風もふらーっとロッカーの方に足を進める。
そして、中身を確認すると笑顔を浮かべながら泥棒の元に戻ってきた。
「おいっ。お前」
「ばっばんばよ」
顔がパンパンに膨れ上がった泥棒の胸倉を鬼風が掴みあげる。
「私のチョコもないんだがどういうことだ?ええ?」
モミジはかろうじて女の声のまま、ドスの効いた低い声で泥棒を問いただす。
笑顔で殺気を放ちながら、男の胸倉を揺さぶる。
「しっ知らねえ!俺は盗んだチョコは全部そこに」
「嘘こいてんじゃねえぞ!ああ!?
私の愛のチョコをどこに隠したかって聞いてんだよ!ボケェ!!」
ガクガクッと首を揺さぶる。
「知らないっ!本当だっ!」
モミジはガッと男の首を片手で持ち上げる。
「本当に?」
静かな女の声だが、男の背中にスルリと氷が滑ったような悪寒が走る。
「ほっ本当だ……!」
鬼風は男の首から手を放した。
男が再び地面に落ちる。
モミジは口元を覆うように手を当て、考え込む。
……一体どういうことなんだ?
「決まってます!嘘をついているのです!
そうでなければマヨイさまやモミジさまのチョコだけがなぜないのですか!」
「残念だけど。彼は嘘をついてないよ」
「どうしてわかるのですか?」
「さっき質問したとき、脈や呼吸の特徴的な乱れがなかった。
あれは嘘をついてる人間の状態じゃない」
春美がパチパチと瞬きをする。
「……わかるのですか?」
「ん?」
「……その……ウソを、ついてるかどうか」
少し答えることを迷ったが、モミジは素直に口に出す。
「あぁ。……少し、だけだけどね」
「まるで王泥喜さんやナルホドくんみたいですわ……」
知人の名前が出てきて、鬼風は慌てて話題を戻した。
「とっとりあえず、泥棒のさっきの言葉が本当だと仮定しましょう。
こいつの依頼主はなんでそんなことをさせたのか……」
モミジは脳内で散らばった疑問を思考という針で一つにつなぎ合わせようとする。
そして、モミジはパンッと手を叩いた。
「なっなにかわかったのですか!?」
「……うん。
まったくわからない!」
春美ががくっと肩を落とした。
「ええっと……」
春美はなんと返せば良いのかわからず、親指の爪を唇に当てて視線を彷徨わせている。
目を閉じてこめかみを掻きながらモミジは口を開く。
「情報が少なすぎるのよ。もう少し情報を集めないとなにもわからないわ。
とりあえず、盗品をもう一回見てみましょう。
私たちの見落としだったらラッキーだしね」
「見落としのはずはありません」
「やけに自信があるのね」
鬼風は純粋に感心した風に答えた。
「マヨイさまのチョコと自分のチョコを間違えないように、
装飾のリボンの裏側にお名前を書いたのです」
「それですぐにわかったのか」
ロッカーの中に詰められているチョコを一つずつ確認しながら、
女性姿の鬼風はハァとため息を吐いた。
「私もそうしておくべきだったかなぁ。
同じ包装紙ばっかりで全然区別がつかないのよね」
モミジはショコラの箱に直接メッセージカードを入れてあるため、
箱を触って微かな膨らみから自分の物かを判断しなければならない。
春美と比べれば鬼風の方がよほど見つけるのは難しいだろう。
「うわっこれもピンクダイヤのショコラじゃねえか」
ロッカーからは自分と同じチョコを買ったとわかる、特別な包装紙の箱ばかりが出てくる。
それをモミジはうんざりした顔で眺める。
恋する乙女の思考回路はどうしてこうも単純なのかね。
自分と同じように踊らされている乙女たちの証拠を見て、
女性姿の鬼風は苦笑いを浮かべる。
「もうこれ以上は見てらんないわね……」
雑誌で人気だからってこんなに被るか、フツー?
ふと、モミジの脳裏に線香花火のような光が一瞬だけ灯り、
道を見えなくしていた霧が少し晴れたような気がした。
「もしかして……」
鬼風は再びチョコ泥棒に近づき、声をかける。
「ねえ」
すっと彼の首筋に手をおく。
「13日にチョコを盗めと依頼した人物と、
今日デパートで鬼風のフリをしてダイヤを盗めと依頼した人物は
同一人物?」
「……そうだ」
泥棒の答えを聞いて、モミジは唇の片端を持ち上げる。
「それじゃ、行こうか。春美ちゃん」
女性姿の鬼風はふわりと笑みを浮かべ、少女を促す。
春美は相手の意図がわからず、眉をハの字にしてモミジを見つめる。
「どちらへ行かれるのですか?」
「氷室デパートさ」
女性の薄闇色の瞳がまるで悪戯っ子のように光っていた。