下手の横好き
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2月14日 午前10時03分
警察局 エントランス
「屈辱だ…」
警視庁の入り口に飾ってある桜のエンブレムを茶髪の女性が目をきつく細めながら、見上げていた。
泥棒がなにを好き好んで警察に泣きつかにゃならんのだ。
「くうー私のショコラを奪いやがった命知らずめっ」
ぶつぶつと怨念をまき散らすのは妙齢の女性に変装している鬼風だった。
自動ドアを抜け、中に入る。
正面の免許関連の受付の横からなにやら人の行列ができていた。
その行列を目で追いかけていくと、奥に追いやられるように鬼風のお目当ての課があった。
盗難届けを受理する受付に、年頃の女性たちが並んでいたのだ。
通常はあまり忙しくないであろう部署に人がごった返しになっている。
「ちょっとなんとかしてください!せっかく氷室デパートで買った高級チョコだったんです!」
「職場の先輩に渡す大事なチョコが盗まれてしまって!」
「いくらかかったと思ってんのよあのチョコ!あの高級店で買ったんだからね!」
「ダーリンに渡すはずだった愛のチョコが盗まれてミケ子ショックなの!!」
同じ怒りを露わにした鬼風だが、それ以上の感情を爆発させる乙女たちにさすがの鬼風も顔を引きつらせて冷や汗を垂れ流す。
警官に文句を言う女性集団に、鬼風は呆然とする。
「……女って怖えなぁ」
思わずそう零してしまった。
「少し、落ち着いてもらえるかな。せっかくの美人が台無しだよ」
背後から初夏の風のような爽やかな男の声が軽やかに響く。
ギンッと殺気混じりの大量の視線が刺さり、自分に向けられていなくとも思わず鬼風はヒッと肩を揺らす。
モミジは声の方へ顔を向けた。
絹のような金色の髪に、アイスブルーの瞳。
南国の海辺がよく似合う褐色の美男がモミジの背後に立っていた。
有名人である牙琉検事の登場に、不満をぶちまけていた女性集団が静かになる。
「ええ、すみません」
「ちょっと、気が立ってしまって」
「ごめんなさい、恥ずかしいところを見せてしまったようで」
愛の女神すらも虜にしてしまいそうな色男を見て、女性たちは途端にしおらしくなる。
彼女たちは恍惚のため息をもらしながら、男の姿を熱っぽい視線で見つめていた。
ただ一人を除いて。
……器量良しの異性には男女共通で弱いものなんだな。
モミジだけは冷めた目つきで今の状況を眺めていた。
なるほど、警察は牙琉検事のようなイケメンを出せば、少なくとも女連中は鬼の形相は崩すだろうと考えたんだな。
まぁ、綺麗な男の前で平気で醜態さらすような女は……
「ふっざけんじゃないわよ!!私の大事なチョコを盗られて落ち着いていられるもんですか!!」
……私ぐらいだろう。
鬼風は達観した感想を心の中で述べつつ、怒りを牙琉検事にぶちまけた。
尋常じゃない気迫に押されたのか、さすがの牙琉検事が後ずさる。
だが、彼はなんとか涼し気ないつもの笑みを再び浮かべる。
「君たちの心とも言える恋のショコラを奪われて、怒りの炎を燃やしたくなる気持ちもわかるさ。けど、警察も君たちのために努力している。怒りを向けるべき相手を間違えているんじゃないかい?お嬢さん?」
うわぁお。この絶妙に甘い声のなかに織り交ぜられた蔑みの音。腹立つわぁー。
こいつは絶対フェミニストの皮をかぶったただのロックヤロウだ。
女性姿の鬼風は渋面で元ロックスターを見上げる
「心配しなくても、犯人ならすぐ捕まるさ。
犯人である"鬼風"の痕跡が残されていたからね」
「は?」
モミジは変装を忘れ、素で声を出した。
「泥棒とはいえ、一人の男だったのかな。よほどチョコが欲しかったとみえるよ」
牙琉の手に掲げられた白いカードに鬼風は大きくかっぴらいた目を向ける。
「"乙女の真心、確かに頂きやした。怪盗鬼風。"ほらね?」
モミジは三秒ほど制止してから、つま先から頭の先まで震えを走らせたあと口を開く。
「はぁああああああ!?」
とんだ濡れ衣に女性姿の鬼風が怒りを露わに叫ぶ。
その大声に牙琉だけじゃなく、周りにいた女性たちもビクッと体を揺らす。
全員、プルプルと震える鬼風を恐る恐る見ていた。
ふざけんじゃねえぞ!
私が盗むのはコウセキの人形だけだっつうの!
なんで乙女の真心を盗むような無粋な真似をせにゃならんのだ!!
ふつふつと湧きあがる熱を感じ、鬼風は細く呼吸を吐き出す。
口角を上げ、目じりを下げる。
そして、勢いよく笑顔のまま顔を上げた。
「そうですか。犯人はその方なんですか。ありがとうございます」
「あっあぁ」
鬼風は牙琉の横を通り抜ける。
去り際にさっと牙琉に体をぶつけた。
「あっ。失礼しました。それでは私はこれで」
モミジは氷柱のように冷たく細い声で別れを告げる。
警察局 エントランス
「屈辱だ…」
警視庁の入り口に飾ってある桜のエンブレムを茶髪の女性が目をきつく細めながら、見上げていた。
泥棒がなにを好き好んで警察に泣きつかにゃならんのだ。
「くうー私のショコラを奪いやがった命知らずめっ」
ぶつぶつと怨念をまき散らすのは妙齢の女性に変装している鬼風だった。
自動ドアを抜け、中に入る。
正面の免許関連の受付の横からなにやら人の行列ができていた。
その行列を目で追いかけていくと、奥に追いやられるように鬼風のお目当ての課があった。
盗難届けを受理する受付に、年頃の女性たちが並んでいたのだ。
通常はあまり忙しくないであろう部署に人がごった返しになっている。
「ちょっとなんとかしてください!せっかく氷室デパートで買った高級チョコだったんです!」
「職場の先輩に渡す大事なチョコが盗まれてしまって!」
「いくらかかったと思ってんのよあのチョコ!あの高級店で買ったんだからね!」
「ダーリンに渡すはずだった愛のチョコが盗まれてミケ子ショックなの!!」
同じ怒りを露わにした鬼風だが、それ以上の感情を爆発させる乙女たちにさすがの鬼風も顔を引きつらせて冷や汗を垂れ流す。
警官に文句を言う女性集団に、鬼風は呆然とする。
「……女って怖えなぁ」
思わずそう零してしまった。
「少し、落ち着いてもらえるかな。せっかくの美人が台無しだよ」
背後から初夏の風のような爽やかな男の声が軽やかに響く。
ギンッと殺気混じりの大量の視線が刺さり、自分に向けられていなくとも思わず鬼風はヒッと肩を揺らす。
モミジは声の方へ顔を向けた。
絹のような金色の髪に、アイスブルーの瞳。
南国の海辺がよく似合う褐色の美男がモミジの背後に立っていた。
有名人である牙琉検事の登場に、不満をぶちまけていた女性集団が静かになる。
「ええ、すみません」
「ちょっと、気が立ってしまって」
「ごめんなさい、恥ずかしいところを見せてしまったようで」
愛の女神すらも虜にしてしまいそうな色男を見て、女性たちは途端にしおらしくなる。
彼女たちは恍惚のため息をもらしながら、男の姿を熱っぽい視線で見つめていた。
ただ一人を除いて。
……器量良しの異性には男女共通で弱いものなんだな。
モミジだけは冷めた目つきで今の状況を眺めていた。
なるほど、警察は牙琉検事のようなイケメンを出せば、少なくとも女連中は鬼の形相は崩すだろうと考えたんだな。
まぁ、綺麗な男の前で平気で醜態さらすような女は……
「ふっざけんじゃないわよ!!私の大事なチョコを盗られて落ち着いていられるもんですか!!」
……私ぐらいだろう。
鬼風は達観した感想を心の中で述べつつ、怒りを牙琉検事にぶちまけた。
尋常じゃない気迫に押されたのか、さすがの牙琉検事が後ずさる。
だが、彼はなんとか涼し気ないつもの笑みを再び浮かべる。
「君たちの心とも言える恋のショコラを奪われて、怒りの炎を燃やしたくなる気持ちもわかるさ。けど、警察も君たちのために努力している。怒りを向けるべき相手を間違えているんじゃないかい?お嬢さん?」
うわぁお。この絶妙に甘い声のなかに織り交ぜられた蔑みの音。腹立つわぁー。
こいつは絶対フェミニストの皮をかぶったただのロックヤロウだ。
女性姿の鬼風は渋面で元ロックスターを見上げる
「心配しなくても、犯人ならすぐ捕まるさ。
犯人である"鬼風"の痕跡が残されていたからね」
「は?」
モミジは変装を忘れ、素で声を出した。
「泥棒とはいえ、一人の男だったのかな。よほどチョコが欲しかったとみえるよ」
牙琉の手に掲げられた白いカードに鬼風は大きくかっぴらいた目を向ける。
「"乙女の真心、確かに頂きやした。怪盗鬼風。"ほらね?」
モミジは三秒ほど制止してから、つま先から頭の先まで震えを走らせたあと口を開く。
「はぁああああああ!?」
とんだ濡れ衣に女性姿の鬼風が怒りを露わに叫ぶ。
その大声に牙琉だけじゃなく、周りにいた女性たちもビクッと体を揺らす。
全員、プルプルと震える鬼風を恐る恐る見ていた。
ふざけんじゃねえぞ!
私が盗むのはコウセキの人形だけだっつうの!
なんで乙女の真心を盗むような無粋な真似をせにゃならんのだ!!
ふつふつと湧きあがる熱を感じ、鬼風は細く呼吸を吐き出す。
口角を上げ、目じりを下げる。
そして、勢いよく笑顔のまま顔を上げた。
「そうですか。犯人はその方なんですか。ありがとうございます」
「あっあぁ」
鬼風は牙琉の横を通り抜ける。
去り際にさっと牙琉に体をぶつけた。
「あっ。失礼しました。それでは私はこれで」
モミジは氷柱のように冷たく細い声で別れを告げる。