親の心子知らず
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その瞬間、鬼風はふっと笑みをこぼし、子どもの縄を手放した。
鬼風だけその場を離れ、メイド長が残された浩太に向かって抱きついた。
「浩太っ!!!!」
「メイド……ちょう?」
メイド長が初めて見せる態度に、浩太は戸惑う。
浩太を必死に掻き抱く様子を見て、鬼風は納得したような顔になる。
「やっぱり、アンタが浩太の本当の母親だったんだな」
「……どうしてわかったのですか?」
「そうだな。気づいたきっかけは……」
モミジはトントンと自分の額を人差し指でノックするように叩く。
「"おデコ"かな」
メイド長が不審そうに相手を見つめる。
「劣勢遺伝子である"ストレートの額"の両親から、
優性遺伝である"富士額"の子どもが生まれるなんてありえんよ。
ここの死んだ前当主も、あの妙子って女も、富士額じゃなかったからな。
劣性遺伝の両親から優性遺伝の子どもが生まれるなんておかしいと思ったのさ。
まぁ、額はあくまできっかけに過ぎない。
確信を持ったのは、ガキんちょに対するアンタの態度からさ。
当主に対するメイドの態度と言うには、アンタは情が強く出すぎてた」
鬼の青年の言葉に、メイド長は静かに目を閉じた。
「あなたのおっしゃる通り、浩太は私の息子です。
私と前当主はしょせん愛人という関係でした。
身分が違うのはもちろん、卑しい前科を持つ女が妻になるなどあの方に不利になる。
だから、黙っていたのです」
「卑しい前科ってのは……いや、言いたくねえなら口を閉じててくれ」
メイド長が首を横に振る。
「いえ。大丈夫です。私は昔、あなたと同じ泥棒でした」
メイド長はゆっくりと瞼を持ち上げ、遠い過去を思い出したのか少し目を伏せる。
「泥棒から足を洗って、ここでなんとか雇ってもらうことができました。
働くうちにここの旦那さまの優しさにいつの間にか惹かれてしまったのです。
そういう関係になるのは時間の問題だったと思います」
「なるほどね」
「この関係をいつかは断たねばならない。
そう思っていたある日、私のお腹に子ども―――浩太を授かりました。
その瞬間、私はこの屋敷を出る決意をしました。
旦那さまに迷惑をかけず、一人で浩太を育てようと思っていたのです。
しかし、ある日旦那さまと奥様……正妻である妙子が交通事故に遭いました。
そのときに、旦那さまは死亡し、妙子は子どもが産めない体になりました。
そして、私の子を跡継ぎにするということになったのです。
私が母親であることは隠し、妙子の子どもとしてこの家に置くことにしました。
浩太の母親が私だという事実を知っているのは、旦那さまと一部の者だけのはずでしたが……どこからか漏れてしまったのでしょう。
あの女も知っていたのはそういう事かと」
ギュッとメイド長は怒りを思い出し、拳を握る。
「あの女の態度には度々疑問が浮かびましたが、前当主がなくなってあの女は権力を良いように使っていました。
まさか、浩太を殺そうと考えていたとは……」
メイド長は鉄仮面の顔に怒りをにじませる。
「メイドちょうは……ぼくがきらいだったんじゃないの?」
きょとんと状況を飲み込めてない顔で、浩太がメイド長の顔を見上げる。
「嫌うものですか!」
「でも、いつもおこってばっかりで……」
「あなたに立派な当主になってほしかったからです」
メイド長の顔が曇る。
「けれど、私はもうこの屋敷には居られません。こんな私が母親だなんて……」
「そんなのいい!!」
浩太が叫んだ。
メイド長は目を丸くして、大粒の涙を零す我が子を見つめる。
「いいよ。どろぼうだっていいよ……ぼくのそばに……いてよ……」
その言葉にメイド長の顔がくしゃりと歪む。
抱き合う親子の様子を、ふっと笑みを浮かべながら鬼風は見つめていた。
『なーに油売ってんだ』
耳元のイヤリングから相棒の声を聞こえ、鬼風が動いた。
「とっと!わりぃ今行く」
鬼風は二人に近づくと、浩太の頭にポンッと頭を乗せる。
「……母ちゃんを大事にしろよ。坊ちゃん」
二人から離れ、黒装束の青年は右手の人形を軽く掲げる。
「それじゃ、“雲の絶間姫”確かに頂きやした」
鬼風は彼らに背を向け、風と一緒にその身を消した。
鬼風だけその場を離れ、メイド長が残された浩太に向かって抱きついた。
「浩太っ!!!!」
「メイド……ちょう?」
メイド長が初めて見せる態度に、浩太は戸惑う。
浩太を必死に掻き抱く様子を見て、鬼風は納得したような顔になる。
「やっぱり、アンタが浩太の本当の母親だったんだな」
「……どうしてわかったのですか?」
「そうだな。気づいたきっかけは……」
モミジはトントンと自分の額を人差し指でノックするように叩く。
「"おデコ"かな」
メイド長が不審そうに相手を見つめる。
「劣勢遺伝子である"ストレートの額"の両親から、
優性遺伝である"富士額"の子どもが生まれるなんてありえんよ。
ここの死んだ前当主も、あの妙子って女も、富士額じゃなかったからな。
劣性遺伝の両親から優性遺伝の子どもが生まれるなんておかしいと思ったのさ。
まぁ、額はあくまできっかけに過ぎない。
確信を持ったのは、ガキんちょに対するアンタの態度からさ。
当主に対するメイドの態度と言うには、アンタは情が強く出すぎてた」
鬼の青年の言葉に、メイド長は静かに目を閉じた。
「あなたのおっしゃる通り、浩太は私の息子です。
私と前当主はしょせん愛人という関係でした。
身分が違うのはもちろん、卑しい前科を持つ女が妻になるなどあの方に不利になる。
だから、黙っていたのです」
「卑しい前科ってのは……いや、言いたくねえなら口を閉じててくれ」
メイド長が首を横に振る。
「いえ。大丈夫です。私は昔、あなたと同じ泥棒でした」
メイド長はゆっくりと瞼を持ち上げ、遠い過去を思い出したのか少し目を伏せる。
「泥棒から足を洗って、ここでなんとか雇ってもらうことができました。
働くうちにここの旦那さまの優しさにいつの間にか惹かれてしまったのです。
そういう関係になるのは時間の問題だったと思います」
「なるほどね」
「この関係をいつかは断たねばならない。
そう思っていたある日、私のお腹に子ども―――浩太を授かりました。
その瞬間、私はこの屋敷を出る決意をしました。
旦那さまに迷惑をかけず、一人で浩太を育てようと思っていたのです。
しかし、ある日旦那さまと奥様……正妻である妙子が交通事故に遭いました。
そのときに、旦那さまは死亡し、妙子は子どもが産めない体になりました。
そして、私の子を跡継ぎにするということになったのです。
私が母親であることは隠し、妙子の子どもとしてこの家に置くことにしました。
浩太の母親が私だという事実を知っているのは、旦那さまと一部の者だけのはずでしたが……どこからか漏れてしまったのでしょう。
あの女も知っていたのはそういう事かと」
ギュッとメイド長は怒りを思い出し、拳を握る。
「あの女の態度には度々疑問が浮かびましたが、前当主がなくなってあの女は権力を良いように使っていました。
まさか、浩太を殺そうと考えていたとは……」
メイド長は鉄仮面の顔に怒りをにじませる。
「メイドちょうは……ぼくがきらいだったんじゃないの?」
きょとんと状況を飲み込めてない顔で、浩太がメイド長の顔を見上げる。
「嫌うものですか!」
「でも、いつもおこってばっかりで……」
「あなたに立派な当主になってほしかったからです」
メイド長の顔が曇る。
「けれど、私はもうこの屋敷には居られません。こんな私が母親だなんて……」
「そんなのいい!!」
浩太が叫んだ。
メイド長は目を丸くして、大粒の涙を零す我が子を見つめる。
「いいよ。どろぼうだっていいよ……ぼくのそばに……いてよ……」
その言葉にメイド長の顔がくしゃりと歪む。
抱き合う親子の様子を、ふっと笑みを浮かべながら鬼風は見つめていた。
『なーに油売ってんだ』
耳元のイヤリングから相棒の声を聞こえ、鬼風が動いた。
「とっと!わりぃ今行く」
鬼風は二人に近づくと、浩太の頭にポンッと頭を乗せる。
「……母ちゃんを大事にしろよ。坊ちゃん」
二人から離れ、黒装束の青年は右手の人形を軽く掲げる。
「それじゃ、“雲の絶間姫”確かに頂きやした」
鬼風は彼らに背を向け、風と一緒にその身を消した。