廊下の曲がり角を通り過ぎてから、ふと鬼風が足を止めた。

そういえば、一度調整のために電気をすべて落とすって言ってたな。

その時間に、金庫室の下見でもしておくべきか？

一般のメイドは入れないようになってるみたいだしな。

少しだけ迷うが、鬼風は金庫室に向かうことにして、踵を返す。

「きゃっ」

背後に居た人物に気づかず、その人物とぶつかってしまった。

床に尻餅をついた相手を見て鬼風は、やべっと心の中で漏らした。

「すみません！！お怪我は……」

相手の鮮やかな空色に、鬼風の頬の筋肉がヒクッと引きつった。

「すみません。みぬき、よそ見してて」

少女は立ち上がりながらコツンとこめかみを叩き、舌を出す。

一瞬、モミジは声が出せなかったが、すぐに変装用の声を出す。

「こっこちらこそ申し訳ありませんでした！お客様にぶつかるなど」

鬼風は腰を直角に曲げて、空色の奇術師に頭を下げる。

「おっお怪我はありませんでしたか！？」

表面上はメイドの顔で少女を心配しながら、心の中で鬼風は仕事中の会話を思い出す。

そういや同僚が、坊ちゃんがマジックが見たいと駄々をこねていたって言ってたな。

マジシャンはそう多くはいない。

特に有名なマジシャンというと特に。

数少ないマジシャンの中で暇そうな人物と来れば、成歩堂みぬきが来るのは必然だろう。

「みぬきは大丈夫です」

「それならよかったです。本当に申し訳ありませんでした」

「いえいえ」

いつもの笑顔を浮かべて、みぬきは鬼風の元から去っていく。

空色のマントとシルクハットがモミジの目に映り、

モミジの顔にさざ波のような影が走る。

「……忌々しい」

鬼は異様な表情で顔を歪め、空色の奇術師に背を向けた。