焼け木杭に火がつく
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
1月31日 午前11時25分
八百谷屋敷 人形屋敷
はぁーと一人の女性が焼け落ちた屋敷の前でため息を吐いていた。
右手に持っていた袋から、黒くコーティングされているお菓子をつまみ、口に放り込む。
後頭部からチョロッと束ねられた毛が出ていた。
彼女の白衣の裾が風で揺れている。
彼女の背後から、ジャラっと金属音をさせながら男が近づいてくる。
「宝月刑事クン。来てたんだね」
「げっ」
宝月刑事は振り返ると、苦手な上司が居たので思わず顔をしかめた。
「かりんとうを投げるのはやめてくれよ」
「なっ投げませんよ!」
「ごめんごめん。今にも投げたそうな顔をしていたから、つい」
宝月刑事は図星を言い当てられ、うっと視線をそらした。
「……仕事熱心ですね。そんなにあの泥棒のことが気になるんですか」
「まあね。僕の事件に関わっている重要人物だからさ。……彼女に関する情報はなかったかい?」
「"彼女"って、誰ですか?」
宝月刑事が怪訝な顔をした。
「……すまない。言い間違えたよ。彼、"鬼風"に関する情報はなかったかい?」
「それなら全然です。彼についての新しい情報は何も見つかっていません」
「そうか」
ポリポリと宝月刑事がかりんとうを咀嚼する音が響く。
「生田伊次郎の事情聴取はもう終わったんですか?」
「あぁ、まだ口を割らないこともあるけど殺人の方は完全に認めてるよ」
「七姫を盗んだのもあの伊次郎だったんですよね」
「まぁ盗んだというより隠したというのが正しいかもね。麻薬に関わっていたことがバレたくないからあの地下室に色々と隠していたようだしね」
ボリンっと白衣の刑事は、かりんとうを強く噛み砕く。
「……牙琉検事。」
宝月はかりんとうの袋を検事の胸に軽く叩きつけるように渡す。
「これあげます。先に警察署の方に戻ります」
そう言って早足で去っていく白衣の刑事を牙琉は見送る。
無理矢理渡されたかりんとうの袋を目の前まで持ち上げた。
「あー!」
「宝月刑事クン?」
去ったと思っていた人物がなにやらこちらを指差しながら戻ってきた。
「牙琉検事!それわたしのかりんとう!なんで持ってるんですか!」
「はっ?」
刑事の言葉に牙琉は眉間に皺をよせる。
「いやさっき君が押し付けたんだろ」
「盗まれたんですよ!というか勝手に持ってかないでくだっ!」
彼女の胸に袋を押し付け、牙琉はさきほどの刑事を追いかける。
「ちょっ!牙琉検事!?」
…………。
「やっぱりだ」
白衣の女性刑事が苦々し気に男の声で告げた。
壁にもたれながら、耳に当てているスマホに向かってしゃべりかける。
それは宝月刑事に変装していた鬼風であった。
「七姫は"10年前"にとっくに盗まれてた。
あのサヘイって男の言葉を聞いた瞬間、嫌な予感はしてたけど見事に的中だ」
鬼風は険しい表情のまま、口を開く。
「……どう思う?相棒」
深刻な声色で通信機の向こうの参謀に訊いた。
『たぶん大丈夫だ。まだ奴らが動いてるってことは、あっちもお目当てのものは見つかっていないんだろうよ』
「……そう……だな」
受話器越しから聞こえる言葉に、ホッとしたような息を吐き鬼風は立ち上がる。
「……できれば奴らの手に入る前に"コウセキ"だけでも壊しとけばよかったんだけどな」
『過去におきたことはしょうがねえ。奴らが悪用してないことだけを祈るしかねえよ』
「だな」
鬼風はパンッと手のひらに向かって、拳を放つ。
「奴らよりも早くすべての"コウセキ"を回収しなきゃな」
~To be continued~