焼け木杭に火がつく
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「牙琉検事。生田伊次郎はどうなりましたか?」
「今までの饒舌が嘘のように黙りこんでいるよ。被害者の殺した動機や詳しいことは何もしゃべっていない」
「そうですか」
サイバンチョが被告人である少女に視線を向ける。
「では、被告・八百谷奈々子」
証言台に立っている赤い着物の少女がサイバンチョを見上げる。
「判決を言い渡します」
無
罪
法廷に祝福の紙吹雪が舞い上がる。
八百谷はチラリと生田佐平の方に顔を向け、花が綻ぶような笑顔を見せた。
紙吹雪と歓声が止み、サイバンチョが弁護側へ視線を向ける。
「しかし、弁護側はよく"無鉱石"など手に入りましたな」
「そりゃそうさ。地下室が焼ける前に盗んだものなんだからな」
弁が側の少女の言葉に法廷中が凍り付いた。
オドロキも頭が真っ白になる。
こいつ、なにを言って!?
「弁護側、それは現場を捏造したということですか!?」
「いや、事件が発生する前に盗んだんだから、いじっちゃいねえよ」
「きっ希月弁護士???」
雰囲気の変わった少女にサイバンチョが戸惑いの声をあげる。
「あっはははは」
突然、黄色いスーツの少女が笑い出す。
「弁護側の現状にまだ気づかないとはおめでたい連中だな」
「どっどういうことですか!?」
「……こういう状態だってことさ」
鬼風がその腕をオドロキの肩に回すと、彼の首にナイフをつきつける。
キャー!と悲鳴が上がる。
オドロキは状況の変化についていけず、目を白黒させていた。
「この弁護士は自分の後輩と同僚、そして自分自身を人質にされていたってことさ」
バンッ!と扉が開いた。
「たっ大変です!」
一人のカカリカンが汗だくで法廷に駆け込んできた。
「希月弁護士とマジシャンの少女が鬼風に襲われて倒れていました!」
法廷中の人々が弁護側の少女に向けられる。
クッククと喉にこもるような笑い声をあげている。
「開廷前に言ったのさ。もし、私のことをバラせばあの少女たちだけでなく……」
鬼風がオドロキの頸動脈にナイフをつきつける。
「……お前自身の命もないと」
「怪盗鬼風!あなたはいつから希月弁護士と入れ替わっていたのですかな!?」
「証拠品を持ってきたところからさ。
あぁでも安心してくれ。
証拠品はなにもいじっちゃいないよ。
実際の裁判の進行は私はほぼ手を出してない。
それに、本当に裁判の判決を変えたいならサイバンチョを脅すべきだ。
けど、私はこの裁判で真実をあきらかにしてくれなきゃ困るのさ。
ちゃんと犯人が法的に捕まってほしかったからね。
逃げられないところまで追い詰めたかったんだよ。
念のためにチョロそうな弁護側を脅して発破をかけてやったのさ」
ジリジリと鬼風に近寄るカカリカンたち。
「おっと。動くなよ。動けば、この弁護士の首はないと思えよ」
カカリカンが一歩足を踏み出した瞬間、ピッと鬼風がナイフを動かす。
たらっと彼の首筋に赤いモノが垂れる。
「……私は動くなと言ったはずだが?」
鬼風はオドロキを連れながら、ゆっくりとゆっくりと法廷の入り口へと進んでいく。
くっこんなやつを信じるなんて!
なんて馬鹿だったんだ!
オドロキは自責の念に囚われた。
後輩やみぬきの安否も心配だが、彼はまずこの状況をなんとかしようとした。
どうにかして鬼風の気をそらさなければと、オドロキは脳を働かせようとする。
だが、ナイフを持っていない手がオドロキの脇腹をすべり、腰にたどり着く。
オドロキはその不審な動きに嫌な予感がした。
鬼風の手が彼の臀部まで下がった瞬間、ぎゅっと弁護士の尻肉をつかんだ。
オドロキの尻を執拗に揉みしだき、オドロキは気持ち悪さで顔が青ざめ硬直した。
彼は首に突きつけられたナイフなんかよりも尻を揉み回す手の方に何倍も恐怖を感じる。
だが、それで気持ち悪さは終わらなかった。
「ハァ……ハァ……オドロキくんの……お尻……」
耳元から聞こえた荒い息遣いに、体中に悪寒が伝わり、彼は無意識に腕を動かしていた。
「ごぼっ!!」
「っ!確保っ!!」
鬼風の鳩尾にオドロキの肘がヒットし、鬼風がナイフを取り落した。
その瞬間一斉にカカリカンが鬼風に飛びかかった。
「うわわわわっ!!」
鬼風が腹を押さえながら走りだし、カカリカンがそれを追いかける。
「大丈夫か?おでこくん!?」
額に青筋をクッキリと浮かばせ、変態の泥棒が去っていった扉をギッときつく睨む。
「あのヤロウ絶対捕まえてくださいっ」
自身が出せる一番低い声で牙琉検事に告げた。
「……もちろんそのつもりだ」
それから、悔しそうに顔を歪めながら、前髪をしおらせるオドロキの姿があった。
同日 某時刻
地方裁判所 医務室
オドロキは心音とみぬきの寝かされている部屋へと駆け込んだ。
そのあと奈々子と佐平が部屋へと入ってくる。
心音はまだ目を閉じている。
だが、みぬきは上半身を起こしていた。
「オドロキさん。裁判は!?」
「勝ったよ。そんなことより怪我は!?」
オドロキは怒りがおさまらないのか、拳を手のひらに叩きつける。
「くそっ!鬼風!あいつやっていいこと悪いことがあるだろ!」
「まっ待ってください!オドロキさん!鬼風さんは心音さんを助けてくれたんです!」
「だったらなんで倒れていたんだ!」
「それは……」
「君たちを共犯だと思わせなくなかったからだろ」
人当たりのよい美声が、医務室に響く。
みぬきとオドロキが声の方へ振り返る。
「牙琉検事!」
「あの泥棒はお嬢さんたちやおデコくんを仲間だと思わせないために、ああやって悪役を演じたんだろうよ。
スマートなやり方ではないけどね」
その言葉を聞き、少しだけオドロキは冷静さを取り戻す。
「みぬきちゃん。一体なにがあったんだい?」
「あのとき、みぬきたちを助けてくれたのは紗針刑事じゃなくて、鬼風さんだったんです」
みぬきは心音を発見したあとのことを話し始めた。
それは、少し時間をさかのぼる。
同日 某時刻
地方裁判所 空き部屋
「わかった」
紗針の言葉に心音がほっとする。
次の瞬間、彼女の首に紗針の手刀が入った。
がくっと心音の体が崩れる。
「なっ!なにするんですか!……紗針さん!」
「バーカ。こんな状態の子を法廷に連れていけるかよ」
紗針の口から全く別の男性の声に、みぬきは警戒するように目を細めた。
「……あなたは誰ですか?紗針さんじゃないですね」
紗針の口元に挑発的な笑みが浮かぶ。
「私が誰かって?」
後頭部に手を置き、髪を掴んだまま前へと引っ張る。
バリッと皮が破けた。
みぬきが口元を手で押さえる。
「おっ鬼風!?」
「そう。泥棒の鬼風だよ。魔術師のたまごちゃん」
突如、部屋の扉が開く。
「なっ!おっお前は!?」
「怪盗鬼風!?」
カカリカンが二人やってくる。
その瞬間、鬼風はみぬきの首に手刀を叩きこむ。
みぬきはその場に崩れ落ちる。
「おっ鬼風が!」
「少女に攻撃したぞ!」
「悪いけど、あんたらも眠ってくれよ」
そういって、電光石火のごとくカカリカンたちのみぞおちに拳を叩きこむ。
同日 某時刻
地方裁判所 医務室
みぬきが話し終えた。
牙琉検事が腰に手を当て、はぁとため息を吐いた。
「まったく。あいつはなんのためにこんなことをしたのか。
それに、カノ……彼に会ってから謎ばかりが増えていく。
なぜ、あいつは"無色石"を持っていたのか
組織とはいったいなんなのか」
オドロキは左手首につけられたくすんだ金色の腕輪を撫でた。
「一体……何者なんですか?あの人は」