焼け木杭に火がつく
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パアァンッッ!!
乾いた音が勢いよく鳴った。
「!?」
「!?」
「!?」
ジーンと痺れる強烈な痛覚が、オドロキの両拳に走る。
「いっ」
オドロキは目を真ん丸く見開いて、机から離れる。
「てぇえええええええ!!」
天啓の大音声が法廷に木霊する。
ヒリヒリと赤く広がる痛みに、オドロキがその箇所にふーっと無意識に息を吹きかけた。
彼はバッと勢いよく顔を上げた。
彼の目の前には、蜂蜜色のサイドテールの少女―――希月心音が立っていた。
彼女は、オドロキの机に置かれていた拳を上から思いっきり叩きつけたのだ。
そのため、彼の手の甲は真っ赤になっている。
「アンタなにすっ!」
怒りから、思わず後輩に変装している泥棒のことをオドロキは忘れた。
彼が何か言おうとする前に、すっと心音の指がオドロキの唇に当てられる。
「……オドロキセンパイ」
オドロキが静かになると、ニコッと目を細めて少女の口元が柔らかく弧を描く。
「目は覚めましたか?」
「えっ」
「顔を伏せて、居眠りなんてセンパイらしくないですよ」
カッカッとブーツの足音が響く。
それが響くたびに、彼女のサイドテールが揺れる。
「オレは寝てたわけじゃ」
「だったら、異議ありって叫ばなきゃ。」
オドロキは揺れる彼女の髪を目で追いながら、彼女の言葉に耳を傾けていた。
「……それとも、その無駄に大きな声はただの飾りですか?」」
オドロキの隣に戻ってきた彼女は、ニヒルな笑みを浮かべていた。
彼の知っている後輩なら絶対にしないような笑みを。
その言葉を聞き、オドロキは悔しそうに顔をうつむかせた。
「……けど」
ギュッと指を手のひらに食い込ませるほど、拳を握りしめる。
だらりと下げていた腕を、強張らせた。
「もう立証する術が……」
机の下で、彼女が静かにオドロキの左拳を両手で包んだ。
「大丈夫」
自分がいつも唱える言葉が彼の耳に届く。
幼い後輩の声だったが、そこには大人の女性の響きがあった。
「……無理ですよ」
ぎゅっとさらに彼女は彼の拳を強く握る。
「大丈夫」
オドロキは俯かせていた顔を、横にいる彼女に向けた。
そっと他には聞こえない声で、女性が囁く。
「王泥喜法介は大丈夫だよ」
ふっと隠れた前髪の下で、微笑みが彼を優しく包みこむ。
すっと手が放され、オドロキはその熱が名残惜しくなる。
熱が消えたと同時に、相手の顔は後輩の顔に戻っていた。
「確かに大野さんの証言で、状況は悪くなりました。
でも、よく考えてください。
犯人はなぜそれを出さなかったんですか?」
「え?」
「彼女の犯行を決定づける証拠品と証言であるのに、彼は彼女に口止めをしていた。
彼が真犯人と仮定したら、それはムジュンしているように見えませんか?」
オドロキが鬼の言葉を聞き、はっとした。
「センパイが、もし犯人ならどうして隠したと思います?」
「……大野さんの証言が聞かれたらまずかったから」
少女姿の鬼がこくりと頷く。
「深く掘り下げてもわからないなら、視点を変えてましょう。
……発想を"逆転"させるんです」
その聞き慣れた言葉が泥棒の口から出たことに、オドロキは目を大きく開いた。
「なぜ証言しなかったのかではなく、どうして証言させたくなかったのか」
オドロキは真摯に女性の言葉に耳を傾ける。
「結論がどう考えても、間違ってる。
だったら、前提も根拠もすべてぶっ壊して、無かったことにしちゃえばいいんです。
思い込みや勘違い。そういうものが邪魔をしているんなら、ゼロから組み立て直すんですよ!
そうすればさっき渡した"証拠品"が切り札になるはずですから」
「証拠品?」
「あの"切れ端"と写真をよく見てください」
言われた通りに写真を見ると、オドロキは気づいた。
勢いよく顔を上げたオドロキの視線に対して、彼女はニコッと笑う。
「ほらほら。そんな怖い顔してたら、敵になめられますよ」
少女の笑顔の中にどこか不敵なものが見え隠れしている。
「こんなときこそ、笑わなきゃ」
彼女がパチッと片目をつぶった。
少女は不敵な泥棒の顔を浮かべ
「弁護士なら、ヤバイ状況のときこそ堂々と笑ってみせろよ」
凛とした声が、オドロキの耳だけに届いた。
「弁護人?」
「さぁ、センパイ。」
後輩の顔に戻り、彼女は前を向く。
「Let's Do This !」
そして、人差し指を法廷へとつきつけた。
王泥喜法介はっ大丈夫だ!
彼は脳内で事件を整理していく。
鬼風さんの言う通り、すべてゼロにして考え直すんだ。
まずこれまで出てきた事実を整理していこう。
大野さんの提出してくれた写真には、八百谷さんが写っている。
このことから、現場には八百谷さんと被害者の2人しかいないということになる。
だけど、八百谷さんが犯人でないならば、この人物は一体誰か?
―――――もちろん、犯人である生田伊次郎だ。
生田伊次郎が八百谷さんに変装していた。
けど、大野さんの証言によると、奈々子さんの来ている着物は一着しかない。
一体彼はどこから着物や黒い長髪のカツラを持ってきたのか。
着物の柄はそういえば、どこかで見たことはないだろうか?
そうだ。鬼風さんの持ってきた切れ端だ。
彼は切れ端を、地下に隠されていた七姫が着ていた着物の切れ端だと言っていた。
つまり
―――――着物は七姫から外したモノ。
オドロキはすべての事実を整理し、真相につながる道を見つけ出した。
「へえ」
鬼風は彼の表情を見て、目を見張る。
そして、彼に尋ねた。
「確か、アンタはあの嬢ちゃんの無実を証明するって約束したんだよな?」
ふっと笑い、彼の背を押すように鬼風は告げる。
「なら、てめえの言った言葉ぐらい、最後まで貫き通してみせな」
「通してやりますよ!」
「それでは、この決定的な証拠品から判決に移りたいと…」
「弁護人?」
「その写真は被告人ではありません!」
「では、一体この写真は誰なのですか?」
「それは……生田伊次郎です!」
「あなたバカですか?あの着物は一着しかないと」
「いいえ。あの着物ならあるんですよ。
この切れ端とこの写真の着物は同じ柄です。
この切れ端は地下室に隠されていた七姫の着物なんです。
あなたは七姫から着物をはぎ取り、八百谷さんになりすましたんです!」
「なっなんですとーーー!?」
オドロキは自分の推理を続ける。
「人形から着物をはぎ取り、用意しておいたカツラで八百谷さんに成りすました。
あなたはその恰好で被害者と共に屋敷に入り、地下室で彼女を殺害した。
そのあと放火しにきた八百谷さんを殴り、彼女と死体さらに変装した証拠品ごと燃やそうとした。
だが、八百谷さんは運良く佐平さんに助けられてしまった」
「バレてしまったのなら、認めます」
やったか?オドロキが伊次郎の姿をじっと見据える。
「ええ。認めます。女装をしていたことは。
でも、私が殺人をした証拠なんてありませんよね?」
「たっ確かに……」
そんな!
オドロキは絶句した。
「裁判長。証拠がないのならば、私は帰ってもよろしいですか?」
「…………」
苦虫を潰した顔をしながら、サイバンチョは目を閉じる。
そう、この場にいる法廷はすべてはわかっていた。
今、証言台に立っている人物が真犯人だということは。
けれど、彼を捕まえることができる"証拠"がなかった。
「……検察側、異議はありませんか」
牙琉検事は机の上で拳を握り、悔し気に顔を歪める。
そう、彼も異議を唱えたいが、言葉を出せずにいた。
沈黙を肯定と取り、サイバンチョは弁護席を見る。
「弁護側、異議はありませんか」
「……」
くそっ!なにか、なにかないのか!
証拠品リストを見まわす、思考を回すが、裁判を延ばす方法すら浮かばない。
検事と同じようにオドロキは証言席を睨むことしかできない。
「……なければ、この生田佐平を放火殺人事件の犯人として緊急逮捕します」
サイバンチョの無慈悲な言葉に、奈々子は顔を青ざめた。
「いやっ!その人を連れていかないでっ!」
奈々子は被告席から手を伸ばすが、カカリカンに止められる。
「王泥喜さん!」
オドロキは名を呼ばれ、はっと奈々子の方へ振り向いた。
「兄さんを助けてください!」
大きな目のふちから涙をこぼしながら、少女が懇願する。
「お願いします!お願いします!」
オドロキは机の上で拳を握り、ふるふると震わす。
どうすればいいんだっ!
「カカリカン」
佐平の両腕をカカリカンたちが捕らえる。
「いやっ!兄さん!佐平兄さん!」
カカリカンに連れていかれる佐平に向かって泣き叫ぶ。
「お願い!その人を取らないで!」
遠くなっていく佐平の背中を見て、奈々子は膝から崩れ落ち、髪が彼女の横顔を覆う。
「私の……好きな人を……連れていかないで……」
身を引き裂かれるような彼女の声に、法廷中の人々が胸を痛める。
その姿を見て、オドロキは顔を引き締めた。
なにやってんだ!オドロキホースケ!オレは弁護士だろ!
無実の人が連れていかれようとしてんのに!
なにをぼけっとしてんだ!
己を強く叱咤して、その瞳に再び強い意志を灯す。
期限はあと1日だけど、あいつはきっと確実に証拠を消し去ってしまう!
今はあいつを捕まえる証拠はない!でも、ここであいつを逃がすわけにはいかない!
「それじゃ、犯人が捕まったことですし僕はこれで。」
オドロキが口を開く。
その声に、サイバンチョが目を見開き、牙琉検事がポカンと口を開き、
そして―――――オドロキがその声に身をのけぞらせた。
乾いた音が勢いよく鳴った。
「!?」
「!?」
「!?」
ジーンと痺れる強烈な痛覚が、オドロキの両拳に走る。
「いっ」
オドロキは目を真ん丸く見開いて、机から離れる。
「てぇえええええええ!!」
天啓の大音声が法廷に木霊する。
ヒリヒリと赤く広がる痛みに、オドロキがその箇所にふーっと無意識に息を吹きかけた。
彼はバッと勢いよく顔を上げた。
彼の目の前には、蜂蜜色のサイドテールの少女―――希月心音が立っていた。
彼女は、オドロキの机に置かれていた拳を上から思いっきり叩きつけたのだ。
そのため、彼の手の甲は真っ赤になっている。
「アンタなにすっ!」
怒りから、思わず後輩に変装している泥棒のことをオドロキは忘れた。
彼が何か言おうとする前に、すっと心音の指がオドロキの唇に当てられる。
「……オドロキセンパイ」
オドロキが静かになると、ニコッと目を細めて少女の口元が柔らかく弧を描く。
「目は覚めましたか?」
「えっ」
「顔を伏せて、居眠りなんてセンパイらしくないですよ」
カッカッとブーツの足音が響く。
それが響くたびに、彼女のサイドテールが揺れる。
「オレは寝てたわけじゃ」
「だったら、異議ありって叫ばなきゃ。」
オドロキは揺れる彼女の髪を目で追いながら、彼女の言葉に耳を傾けていた。
「……それとも、その無駄に大きな声はただの飾りですか?」」
オドロキの隣に戻ってきた彼女は、ニヒルな笑みを浮かべていた。
彼の知っている後輩なら絶対にしないような笑みを。
その言葉を聞き、オドロキは悔しそうに顔をうつむかせた。
「……けど」
ギュッと指を手のひらに食い込ませるほど、拳を握りしめる。
だらりと下げていた腕を、強張らせた。
「もう立証する術が……」
机の下で、彼女が静かにオドロキの左拳を両手で包んだ。
「大丈夫」
自分がいつも唱える言葉が彼の耳に届く。
幼い後輩の声だったが、そこには大人の女性の響きがあった。
「……無理ですよ」
ぎゅっとさらに彼女は彼の拳を強く握る。
「大丈夫」
オドロキは俯かせていた顔を、横にいる彼女に向けた。
そっと他には聞こえない声で、女性が囁く。
「王泥喜法介は大丈夫だよ」
ふっと隠れた前髪の下で、微笑みが彼を優しく包みこむ。
すっと手が放され、オドロキはその熱が名残惜しくなる。
熱が消えたと同時に、相手の顔は後輩の顔に戻っていた。
「確かに大野さんの証言で、状況は悪くなりました。
でも、よく考えてください。
犯人はなぜそれを出さなかったんですか?」
「え?」
「彼女の犯行を決定づける証拠品と証言であるのに、彼は彼女に口止めをしていた。
彼が真犯人と仮定したら、それはムジュンしているように見えませんか?」
オドロキが鬼の言葉を聞き、はっとした。
「センパイが、もし犯人ならどうして隠したと思います?」
「……大野さんの証言が聞かれたらまずかったから」
少女姿の鬼がこくりと頷く。
「深く掘り下げてもわからないなら、視点を変えてましょう。
……発想を"逆転"させるんです」
その聞き慣れた言葉が泥棒の口から出たことに、オドロキは目を大きく開いた。
「なぜ証言しなかったのかではなく、どうして証言させたくなかったのか」
オドロキは真摯に女性の言葉に耳を傾ける。
「結論がどう考えても、間違ってる。
だったら、前提も根拠もすべてぶっ壊して、無かったことにしちゃえばいいんです。
思い込みや勘違い。そういうものが邪魔をしているんなら、ゼロから組み立て直すんですよ!
そうすればさっき渡した"証拠品"が切り札になるはずですから」
「証拠品?」
「あの"切れ端"と写真をよく見てください」
言われた通りに写真を見ると、オドロキは気づいた。
勢いよく顔を上げたオドロキの視線に対して、彼女はニコッと笑う。
「ほらほら。そんな怖い顔してたら、敵になめられますよ」
少女の笑顔の中にどこか不敵なものが見え隠れしている。
「こんなときこそ、笑わなきゃ」
彼女がパチッと片目をつぶった。
少女は不敵な泥棒の顔を浮かべ
「弁護士なら、ヤバイ状況のときこそ堂々と笑ってみせろよ」
凛とした声が、オドロキの耳だけに届いた。
「弁護人?」
「さぁ、センパイ。」
後輩の顔に戻り、彼女は前を向く。
「Let's Do This !」
そして、人差し指を法廷へとつきつけた。
王泥喜法介はっ大丈夫だ!
彼は脳内で事件を整理していく。
鬼風さんの言う通り、すべてゼロにして考え直すんだ。
まずこれまで出てきた事実を整理していこう。
大野さんの提出してくれた写真には、八百谷さんが写っている。
このことから、現場には八百谷さんと被害者の2人しかいないということになる。
だけど、八百谷さんが犯人でないならば、この人物は一体誰か?
―――――もちろん、犯人である生田伊次郎だ。
生田伊次郎が八百谷さんに変装していた。
けど、大野さんの証言によると、奈々子さんの来ている着物は一着しかない。
一体彼はどこから着物や黒い長髪のカツラを持ってきたのか。
着物の柄はそういえば、どこかで見たことはないだろうか?
そうだ。鬼風さんの持ってきた切れ端だ。
彼は切れ端を、地下に隠されていた七姫が着ていた着物の切れ端だと言っていた。
つまり
―――――着物は七姫から外したモノ。
オドロキはすべての事実を整理し、真相につながる道を見つけ出した。
「へえ」
鬼風は彼の表情を見て、目を見張る。
そして、彼に尋ねた。
「確か、アンタはあの嬢ちゃんの無実を証明するって約束したんだよな?」
ふっと笑い、彼の背を押すように鬼風は告げる。
「なら、てめえの言った言葉ぐらい、最後まで貫き通してみせな」
「通してやりますよ!」
「それでは、この決定的な証拠品から判決に移りたいと…」
「弁護人?」
「その写真は被告人ではありません!」
「では、一体この写真は誰なのですか?」
「それは……生田伊次郎です!」
「あなたバカですか?あの着物は一着しかないと」
「いいえ。あの着物ならあるんですよ。
この切れ端とこの写真の着物は同じ柄です。
この切れ端は地下室に隠されていた七姫の着物なんです。
あなたは七姫から着物をはぎ取り、八百谷さんになりすましたんです!」
「なっなんですとーーー!?」
オドロキは自分の推理を続ける。
「人形から着物をはぎ取り、用意しておいたカツラで八百谷さんに成りすました。
あなたはその恰好で被害者と共に屋敷に入り、地下室で彼女を殺害した。
そのあと放火しにきた八百谷さんを殴り、彼女と死体さらに変装した証拠品ごと燃やそうとした。
だが、八百谷さんは運良く佐平さんに助けられてしまった」
「バレてしまったのなら、認めます」
やったか?オドロキが伊次郎の姿をじっと見据える。
「ええ。認めます。女装をしていたことは。
でも、私が殺人をした証拠なんてありませんよね?」
「たっ確かに……」
そんな!
オドロキは絶句した。
「裁判長。証拠がないのならば、私は帰ってもよろしいですか?」
「…………」
苦虫を潰した顔をしながら、サイバンチョは目を閉じる。
そう、この場にいる法廷はすべてはわかっていた。
今、証言台に立っている人物が真犯人だということは。
けれど、彼を捕まえることができる"証拠"がなかった。
「……検察側、異議はありませんか」
牙琉検事は机の上で拳を握り、悔し気に顔を歪める。
そう、彼も異議を唱えたいが、言葉を出せずにいた。
沈黙を肯定と取り、サイバンチョは弁護席を見る。
「弁護側、異議はありませんか」
「……」
くそっ!なにか、なにかないのか!
証拠品リストを見まわす、思考を回すが、裁判を延ばす方法すら浮かばない。
検事と同じようにオドロキは証言席を睨むことしかできない。
「……なければ、この生田佐平を放火殺人事件の犯人として緊急逮捕します」
サイバンチョの無慈悲な言葉に、奈々子は顔を青ざめた。
「いやっ!その人を連れていかないでっ!」
奈々子は被告席から手を伸ばすが、カカリカンに止められる。
「王泥喜さん!」
オドロキは名を呼ばれ、はっと奈々子の方へ振り向いた。
「兄さんを助けてください!」
大きな目のふちから涙をこぼしながら、少女が懇願する。
「お願いします!お願いします!」
オドロキは机の上で拳を握り、ふるふると震わす。
どうすればいいんだっ!
「カカリカン」
佐平の両腕をカカリカンたちが捕らえる。
「いやっ!兄さん!佐平兄さん!」
カカリカンに連れていかれる佐平に向かって泣き叫ぶ。
「お願い!その人を取らないで!」
遠くなっていく佐平の背中を見て、奈々子は膝から崩れ落ち、髪が彼女の横顔を覆う。
「私の……好きな人を……連れていかないで……」
身を引き裂かれるような彼女の声に、法廷中の人々が胸を痛める。
その姿を見て、オドロキは顔を引き締めた。
なにやってんだ!オドロキホースケ!オレは弁護士だろ!
無実の人が連れていかれようとしてんのに!
なにをぼけっとしてんだ!
己を強く叱咤して、その瞳に再び強い意志を灯す。
期限はあと1日だけど、あいつはきっと確実に証拠を消し去ってしまう!
今はあいつを捕まえる証拠はない!でも、ここであいつを逃がすわけにはいかない!
「それじゃ、犯人が捕まったことですし僕はこれで。」
オドロキが口を開く。
その声に、サイバンチョが目を見開き、牙琉検事がポカンと口を開き、
そして―――――オドロキがその声に身をのけぞらせた。