焼け木杭に火がつく
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「今の声は……」
バンッと怒りを露わにし、西山が証言台の手すりを叩く。
「そのばあさんの"写メ"なんて関係ねえ。犯人はオレだ。その出てきた写真が唯一の証拠だ!
それは変わらないはずだ。
なんなら、もう一度証言してやるよ!」
「いいでしょう。サイバンチョ弁護側は西山さんの尋問を要求します」
「ふむ、わかりました。弁護側の要求を許可します」
そのバアさんの言う通りだ
俺は夕方の4時45分頃にあそこにいた
屋敷に入るところを目撃したんだろう
俺はタダノを地下室で殺害し
そのあとやってきた八百谷奈々子を殴った
彼女もろとも証拠を隠滅するため火をつけた
「!」
オドロキは思わず左手首を持ち上げた。
その反応に、鬼風の唇が弧を描く。
「どうやら、また見つけたようだね」
「ええ」
「ちなみにヒントは?」
「もう見つけたんですか?気になる"クセ"を」
「まあね。聞くかい?」
「……お願いします」
ちょっと悔しそうにオドロキは泥棒に頭を下げる。
「真面目で我慢強いタイプだね。あの男は。だからこそ本音を胸の奥底にしまいこむ」
鬼風が腕を組んで、証人の男を見据える。
「"拳"だね。気になるところは。人は我慢するとき歯を噛みしめたり拳を握ったりする。
だから、拳に注意してごらん」
鬼風のアドバイスを参考に、オドロキは注意深く証人を見つめる。
「西山さん。もう一度証言をしてください」
西山が無言で頷く。
そのバアさんの言う通りだ
――違う
俺は夕方の4時45分頃にあそこにいた
―――違う
屋敷に入るところを目撃したんだろう
―――違う
俺はタダノを
――――ここ!
きゅっと強い締め付けを感じ、オドロキは感覚を研ぎ澄ます。
地下室で殺害し
固く握られた拳を彼の瞳が捕捉する。
「……見つけましたよ。
あの人、地下室という言葉を言うとき、火傷がある方の拳を強く握っている」
「へえ、火傷」
鬼風のその表情に、オドロキは眉を寄せる。
「なにか知ってるんですか?」
「どうしてそう思う?」
「アンタの顔がそう言ってます」
鬼風がチェシャ猫のようにニヒルな笑みを浮かべる。
「知ってるというよりも面白いと思ってさ」
「は?」
「あの"火傷"。なんだかなにかに似てない?」
鬼風に言われ、オドロキは男の"火傷"を目を細めてじっと見る。
「あ!」
ある事実にオドロキは気づいた。
「証拠品の鍵と同じ形だ…!」
「いや、微妙に違う。
似てるけど、鏡合わせのような"左右対称"だ」
確かに鍵の形と火傷は似ているが完全に一致しない。
そして、オドロキはもう一つの事実に気づいた。
「西山さん!」
「なんだ?まだ証言してるんだが」
「あなたの火傷。それと証拠品の鍵が似ているのはなぜですか?」
指摘され西山が、火傷のある拳を手でサッと覆い隠す。
「どういうことですか?」
「"あなたが持っている鍵"と鍵の形をした火傷は似ています。
同じではありません。
むしろ、"希月さんが持ってきた鍵の火傷"と"一致"しているのはなぜですか?」
西山が冷や汗をかく。
「もしや、あなたの鍵は本当はあなたの物ではないのでは?」
「これはぬっ盗んだからだよ!」
「―――いいえ、それはありえません。
なぜならその鍵はここにないはずのものなんです」
突如、割り込んできた少女弁護士の言葉にハッと西山が振り向いた。
鬼風がオドロキが何か言いかけるのを手で制しした。
「それは奈々子さんから渡された物。その鍵はある二人に渡された。
その一方は……そう"生田佐平"という人物にね」
「……だから、これは盗んだ物だ。だから持ち主の名前なんて知らん」
心音姿の泥棒がふっと笑い息をもらす。
「なにを言うんです。それはあなたの物でしょ」
弁護士の右目が前髪で隠れ、その伏目がちな左目がキラッと光る。
獲物を捕捉したような笑みを口元に浮かべた。
「10年前の火事で鍵の形の火傷を負った"生田佐平"さん?」
男の顔が朱に染まり、荒い声をあげる。
「違う俺は!そんな人物なんかじゃない!」
男の反応など気にせず、鬼風は続ける。
「あなたが持っていた鍵は本当はあなたのものではありません。誰かからもらったものなのでしょう
その証拠に私が持ってきた鍵とあなたの火傷を合わせてみると……」
「なんと!確かに、希月弁護士が持ってきた鍵と証人の火傷の方なら完全に一致しますぞ!
ちなみに希月弁護士。この鍵はどこで手に入れたものなのですか?」
「これは現場の担当刑事だったサハリ刑事が持ってきたものです。
昨日の火災現場で発見したあと、使用人の女性……オニカゼに殴られ渡せなかったと言ってました」
心音の姿で嘘の言葉を流暢にしゃべる泥棒を、白けた目でオドロキは見ていた。
「ちがう!オレは!」
証言台の男の否定し続ける様子を見ながら、鬼風はオドロキに言葉を発する
「さてと、あとはあの男をどう説得するかだな」
「説得ですか」
オドロキが厳しい表情で証言台を見つめる。
「この鍵は現場に落ちていたもの。あの男が落とした物だ。
そしてあの男が持ってきた鍵は……"真犯人"からもらったモノさ」
オドロキが目を大きく開き、少女姿の鬼風の横顔を見た。
「あとは、あの男の正体を暴き、真実をしゃべらせるだけだ」
「サイバンチョ!弁護側は証人の正体を証明するために、ある証人の召喚を要請します」
「それは誰ですか?」
「"唐井翔賀"さんです」
「その必要はない」
その声が法廷の傍聴席から聞こえてきた。
「わしならここじゃ」
傍聴席から降り、証言台に立つ男の隣に老人が並んだ。
「このお方は10年前の大火事のとき、行方不明になった"佐平坊ちゃん"です」
「おい!カライ!」
ガタッと椅子が倒れる音が法廷に響く。
呆然とした顔で、奈々子が椅子から立ち上がっていた。
「サヘイ……兄さん?」
西山は着物の少女に振り返るが、彼女の表情を振り払うように顔をそむける。
「知らん!オレはお前みたいな奴知らん!」
「西山さん。……いいえ、生田サヘイさん」
「……っ」
オドロキが男の本名を呼ぶと、男が黙って顔を俯かせる。
「生田佐平さんが証言してくれないのなら、唐井さん。あなたが証言してくれませんか。
あの日になにがあったかを」
「坊ちゃんはあの日、わしと一緒に火事を目撃したのです」
「唐井!!」
「坊ちゃん。あなたがオジョウサンを大事に思っとるのは知っとります。
ですが、わしはあなたの使用人です。あなたに恨まれようが本当のことを言わせていただきやす」
固い意志のこめられた表情を向けられ、佐平は喉に言葉を詰まらせた。
唐井が話し始める。
「10年前の火災から坊ちゃんはこの家から姿を消しました。
だが、事件の日に坊ちゃんが帰ってきたのです。
わしは驚いて言葉が出やせんでした。
立派なオノコになっていやしたが、面影は昔と変わりませんでしたので、わしはすぐに坊ちゃんだとわかりやした。
わしの小屋で色々話をしていたときです。あの火事が起こったのは」
…………
"「この火事を皆に伝えろ!」
「いけやせん!オジョウサンがまだ屋敷の中に!
!?
坊ちゃん!なにをなさるんです!?」
「ナナコを連れ出す!」
「いけません!この火事ではもう……坊ちゃん!戻ってくだせぇ!」"
…………
「そのあと、サヘイ坊ちゃんはオジョウサンを連れて屋敷の玄関から出てきやした。
そのあと、坊ちゃんはわしにオジョウサンを預けて、119番通報をして屋敷から去っていきました。
オジョウサンに怪我は見られなかったので、小屋に寝かせておき、わしは屋敷の者に火事を伝えに走りました」
「生田佐平さん」
オドロキは晴れ渡った夜空色の瞳で、佐平の顔を見つめる。
オドロキの頭には、所長の顔とある言葉がよぎる。
「オレは八百谷さんのことを信じています」
"最後まで依頼人を信じること"
「だから、オレはここに立っています」
彼は所長の掲げる信念を胸に、佐平に言葉を投げかける。
「八百谷さんのことを大切に思うなら、"嘘"で彼女を守ろうとしないでください」
嘘を見透かすその黒瞳が男を映し出す。
「オレが彼女の無実を証明します」
すがるような目でサヘイが弁護側に険しい視線を送る。
「本当に?」
力強く、オドロキが頷いた。
佐平がゆっくりと口を開く。
「……あぁ、そうだオレは生田佐平。
10年前の火事で行方不明になっていた」
佐平が奈々子に視線を送る。
日差しのような柔らかな視線を黒髪の女性に送る。
「……変わらないなその綺麗な黒髪は」
ふっと優しく笑う顔に、奈々子が震える。
「サヘイ……兄さん……」
ボロボロと彼女の瞳から涙がこぼれ落ちていく。
「サヘイ……兄さん……!」
被告人の泣き声が止んでから、オドロキがある質問を佐平にする。
「どうして、10年間もこの屋敷に帰ってこなかったんですか?」
「帰ってこなかったんじゃない。帰ってこれなかったんだ。
俺は……ここでの記憶をすべて無くしていたから」
バンッと机を激しく叩きつけた音が法廷に響く。
「証人っ!!」
心音が
いや
正確には心音姿の鬼風が前のめりに証人を見つめていた。
「どうした……のさ。希月さん」
「記憶がなかったのなら、今まであなたはどこにいたのですか!?」
今まで冷静だった弁護士の少女が突如興奮しながら訊ねてきて、佐平は少したじたじになりながら答える。
「俺は火事のあと親切な老夫婦に拾われて、そのまま育てられたんだ。
だが、その夫婦が両方とも他界してから数年後にようやくここの生活を思い出した。
この火傷と事故のとき持っていた鍵の手がかりからようやっと記憶を取り戻した」
佐平が顔を曇らせる。
「やっと屋敷にたどり着いたのに、また……火事で燃えていた」
「そう……ですか……。証言ありがとうございます」
鬼風が姿勢を元に戻す。
「突然どうしたんですか?鬼風さん」
「いやっ、悪い。この裁判では大したことじゃない。個人的に気になっただけだ」
オドロキは気になったが、鬼風の様子からこれ以上話してもらえないと思い、それ以上追求するのを諦めた。
オドロキは佐平に顔を向けた。
「じゃあ、あなたは八百谷さんを助けたときに、現場に自分の鍵を落としたんですね?」
「あぁ」
「それでは、その鍵は一体誰から!?」
オドロキの言葉に、少し躊躇してからサヘイが口を開く。
「生田伊次郎……オレの弟からもらいました。
そして、オレが自白すればナナが助かるとも言われた」
「弁護側は生田伊次郎の召喚を要求します!」
「カカリカン!ただちにその人物をこの法廷に連れてきなさい!」
…………。
バンッと怒りを露わにし、西山が証言台の手すりを叩く。
「そのばあさんの"写メ"なんて関係ねえ。犯人はオレだ。その出てきた写真が唯一の証拠だ!
それは変わらないはずだ。
なんなら、もう一度証言してやるよ!」
「いいでしょう。サイバンチョ弁護側は西山さんの尋問を要求します」
「ふむ、わかりました。弁護側の要求を許可します」
そのバアさんの言う通りだ
俺は夕方の4時45分頃にあそこにいた
屋敷に入るところを目撃したんだろう
俺はタダノを地下室で殺害し
そのあとやってきた八百谷奈々子を殴った
彼女もろとも証拠を隠滅するため火をつけた
「!」
オドロキは思わず左手首を持ち上げた。
その反応に、鬼風の唇が弧を描く。
「どうやら、また見つけたようだね」
「ええ」
「ちなみにヒントは?」
「もう見つけたんですか?気になる"クセ"を」
「まあね。聞くかい?」
「……お願いします」
ちょっと悔しそうにオドロキは泥棒に頭を下げる。
「真面目で我慢強いタイプだね。あの男は。だからこそ本音を胸の奥底にしまいこむ」
鬼風が腕を組んで、証人の男を見据える。
「"拳"だね。気になるところは。人は我慢するとき歯を噛みしめたり拳を握ったりする。
だから、拳に注意してごらん」
鬼風のアドバイスを参考に、オドロキは注意深く証人を見つめる。
「西山さん。もう一度証言をしてください」
西山が無言で頷く。
そのバアさんの言う通りだ
――違う
俺は夕方の4時45分頃にあそこにいた
―――違う
屋敷に入るところを目撃したんだろう
―――違う
俺はタダノを
――――ここ!
きゅっと強い締め付けを感じ、オドロキは感覚を研ぎ澄ます。
地下室で殺害し
固く握られた拳を彼の瞳が捕捉する。
「……見つけましたよ。
あの人、地下室という言葉を言うとき、火傷がある方の拳を強く握っている」
「へえ、火傷」
鬼風のその表情に、オドロキは眉を寄せる。
「なにか知ってるんですか?」
「どうしてそう思う?」
「アンタの顔がそう言ってます」
鬼風がチェシャ猫のようにニヒルな笑みを浮かべる。
「知ってるというよりも面白いと思ってさ」
「は?」
「あの"火傷"。なんだかなにかに似てない?」
鬼風に言われ、オドロキは男の"火傷"を目を細めてじっと見る。
「あ!」
ある事実にオドロキは気づいた。
「証拠品の鍵と同じ形だ…!」
「いや、微妙に違う。
似てるけど、鏡合わせのような"左右対称"だ」
確かに鍵の形と火傷は似ているが完全に一致しない。
そして、オドロキはもう一つの事実に気づいた。
「西山さん!」
「なんだ?まだ証言してるんだが」
「あなたの火傷。それと証拠品の鍵が似ているのはなぜですか?」
指摘され西山が、火傷のある拳を手でサッと覆い隠す。
「どういうことですか?」
「"あなたが持っている鍵"と鍵の形をした火傷は似ています。
同じではありません。
むしろ、"希月さんが持ってきた鍵の火傷"と"一致"しているのはなぜですか?」
西山が冷や汗をかく。
「もしや、あなたの鍵は本当はあなたの物ではないのでは?」
「これはぬっ盗んだからだよ!」
「―――いいえ、それはありえません。
なぜならその鍵はここにないはずのものなんです」
突如、割り込んできた少女弁護士の言葉にハッと西山が振り向いた。
鬼風がオドロキが何か言いかけるのを手で制しした。
「それは奈々子さんから渡された物。その鍵はある二人に渡された。
その一方は……そう"生田佐平"という人物にね」
「……だから、これは盗んだ物だ。だから持ち主の名前なんて知らん」
心音姿の泥棒がふっと笑い息をもらす。
「なにを言うんです。それはあなたの物でしょ」
弁護士の右目が前髪で隠れ、その伏目がちな左目がキラッと光る。
獲物を捕捉したような笑みを口元に浮かべた。
「10年前の火事で鍵の形の火傷を負った"生田佐平"さん?」
男の顔が朱に染まり、荒い声をあげる。
「違う俺は!そんな人物なんかじゃない!」
男の反応など気にせず、鬼風は続ける。
「あなたが持っていた鍵は本当はあなたのものではありません。誰かからもらったものなのでしょう
その証拠に私が持ってきた鍵とあなたの火傷を合わせてみると……」
「なんと!確かに、希月弁護士が持ってきた鍵と証人の火傷の方なら完全に一致しますぞ!
ちなみに希月弁護士。この鍵はどこで手に入れたものなのですか?」
「これは現場の担当刑事だったサハリ刑事が持ってきたものです。
昨日の火災現場で発見したあと、使用人の女性……オニカゼに殴られ渡せなかったと言ってました」
心音の姿で嘘の言葉を流暢にしゃべる泥棒を、白けた目でオドロキは見ていた。
「ちがう!オレは!」
証言台の男の否定し続ける様子を見ながら、鬼風はオドロキに言葉を発する
「さてと、あとはあの男をどう説得するかだな」
「説得ですか」
オドロキが厳しい表情で証言台を見つめる。
「この鍵は現場に落ちていたもの。あの男が落とした物だ。
そしてあの男が持ってきた鍵は……"真犯人"からもらったモノさ」
オドロキが目を大きく開き、少女姿の鬼風の横顔を見た。
「あとは、あの男の正体を暴き、真実をしゃべらせるだけだ」
「サイバンチョ!弁護側は証人の正体を証明するために、ある証人の召喚を要請します」
「それは誰ですか?」
「"唐井翔賀"さんです」
「その必要はない」
その声が法廷の傍聴席から聞こえてきた。
「わしならここじゃ」
傍聴席から降り、証言台に立つ男の隣に老人が並んだ。
「このお方は10年前の大火事のとき、行方不明になった"佐平坊ちゃん"です」
「おい!カライ!」
ガタッと椅子が倒れる音が法廷に響く。
呆然とした顔で、奈々子が椅子から立ち上がっていた。
「サヘイ……兄さん?」
西山は着物の少女に振り返るが、彼女の表情を振り払うように顔をそむける。
「知らん!オレはお前みたいな奴知らん!」
「西山さん。……いいえ、生田サヘイさん」
「……っ」
オドロキが男の本名を呼ぶと、男が黙って顔を俯かせる。
「生田佐平さんが証言してくれないのなら、唐井さん。あなたが証言してくれませんか。
あの日になにがあったかを」
「坊ちゃんはあの日、わしと一緒に火事を目撃したのです」
「唐井!!」
「坊ちゃん。あなたがオジョウサンを大事に思っとるのは知っとります。
ですが、わしはあなたの使用人です。あなたに恨まれようが本当のことを言わせていただきやす」
固い意志のこめられた表情を向けられ、佐平は喉に言葉を詰まらせた。
唐井が話し始める。
「10年前の火災から坊ちゃんはこの家から姿を消しました。
だが、事件の日に坊ちゃんが帰ってきたのです。
わしは驚いて言葉が出やせんでした。
立派なオノコになっていやしたが、面影は昔と変わりませんでしたので、わしはすぐに坊ちゃんだとわかりやした。
わしの小屋で色々話をしていたときです。あの火事が起こったのは」
…………
"「この火事を皆に伝えろ!」
「いけやせん!オジョウサンがまだ屋敷の中に!
!?
坊ちゃん!なにをなさるんです!?」
「ナナコを連れ出す!」
「いけません!この火事ではもう……坊ちゃん!戻ってくだせぇ!」"
…………
「そのあと、サヘイ坊ちゃんはオジョウサンを連れて屋敷の玄関から出てきやした。
そのあと、坊ちゃんはわしにオジョウサンを預けて、119番通報をして屋敷から去っていきました。
オジョウサンに怪我は見られなかったので、小屋に寝かせておき、わしは屋敷の者に火事を伝えに走りました」
「生田佐平さん」
オドロキは晴れ渡った夜空色の瞳で、佐平の顔を見つめる。
オドロキの頭には、所長の顔とある言葉がよぎる。
「オレは八百谷さんのことを信じています」
"最後まで依頼人を信じること"
「だから、オレはここに立っています」
彼は所長の掲げる信念を胸に、佐平に言葉を投げかける。
「八百谷さんのことを大切に思うなら、"嘘"で彼女を守ろうとしないでください」
嘘を見透かすその黒瞳が男を映し出す。
「オレが彼女の無実を証明します」
すがるような目でサヘイが弁護側に険しい視線を送る。
「本当に?」
力強く、オドロキが頷いた。
佐平がゆっくりと口を開く。
「……あぁ、そうだオレは生田佐平。
10年前の火事で行方不明になっていた」
佐平が奈々子に視線を送る。
日差しのような柔らかな視線を黒髪の女性に送る。
「……変わらないなその綺麗な黒髪は」
ふっと優しく笑う顔に、奈々子が震える。
「サヘイ……兄さん……」
ボロボロと彼女の瞳から涙がこぼれ落ちていく。
「サヘイ……兄さん……!」
被告人の泣き声が止んでから、オドロキがある質問を佐平にする。
「どうして、10年間もこの屋敷に帰ってこなかったんですか?」
「帰ってこなかったんじゃない。帰ってこれなかったんだ。
俺は……ここでの記憶をすべて無くしていたから」
バンッと机を激しく叩きつけた音が法廷に響く。
「証人っ!!」
心音が
いや
正確には心音姿の鬼風が前のめりに証人を見つめていた。
「どうした……のさ。希月さん」
「記憶がなかったのなら、今まであなたはどこにいたのですか!?」
今まで冷静だった弁護士の少女が突如興奮しながら訊ねてきて、佐平は少したじたじになりながら答える。
「俺は火事のあと親切な老夫婦に拾われて、そのまま育てられたんだ。
だが、その夫婦が両方とも他界してから数年後にようやくここの生活を思い出した。
この火傷と事故のとき持っていた鍵の手がかりからようやっと記憶を取り戻した」
佐平が顔を曇らせる。
「やっと屋敷にたどり着いたのに、また……火事で燃えていた」
「そう……ですか……。証言ありがとうございます」
鬼風が姿勢を元に戻す。
「突然どうしたんですか?鬼風さん」
「いやっ、悪い。この裁判では大したことじゃない。個人的に気になっただけだ」
オドロキは気になったが、鬼風の様子からこれ以上話してもらえないと思い、それ以上追求するのを諦めた。
オドロキは佐平に顔を向けた。
「じゃあ、あなたは八百谷さんを助けたときに、現場に自分の鍵を落としたんですね?」
「あぁ」
「それでは、その鍵は一体誰から!?」
オドロキの言葉に、少し躊躇してからサヘイが口を開く。
「生田伊次郎……オレの弟からもらいました。
そして、オレが自白すればナナが助かるとも言われた」
「弁護側は生田伊次郎の召喚を要求します!」
「カカリカン!ただちにその人物をこの法廷に連れてきなさい!」
…………。