焼け木杭に火がつく
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同日 某時刻
地方裁判所 第2法廷
カンッと裁判長の木槌が鳴った。
「これより審理を再開します。
それでは牙琉検事、先ほどの鍵の結果はどうなりましたか?」
牙琉検事が口を開く。
「先ほどの鍵だけど、弁護側の指摘通りだったよ。
西川の持っていた鍵を合わせると完全に一致した。
どうやら元々恋人をつなぐペアアクセサリーのように、二つ合わさると一つの形になるものだったらしい」
「それでは、鍵は2つあったということですね」
ダンッと牙琉検事が背後の壁に拳を突き立てる。
「さぁ、それじゃ今度こそ熱いギグをかき鳴らそうじゃないか」
「望むところです」
弁護側には枷がなくなり、本当の審理が始まりを告げる。
「それじゃ、検察側は証人を召喚するよ。事件に関わる重要な知識を持っている人物をね」
法廷に入ってきたのは割烹着の女性だった。
「あの人は…大野さん」
「なに?苦手な人なのかい?」
顔をしかめたオドロキを不思議そうに見ながら、少女姿の鬼風が尋ねる。
「出会い頭に尻を触られたので……その印象が抜けなくっ!?」
ブルッとオドロキは背中に悪寒が走った。
「へぇー……」
隣で後輩の顔のまま、底冷えのする表情を浮かべたオニがいた。
「オドロキくん」
「はっはい」
オドロキは声が上ずった。
「この裁判が終わったら」
「終わったら?」
ぐっと顔を寄せて、鬼風が言う。
「君の尻を触らせて」
「こっ断る!!」
凶悪な顔つきで迫られたが、オドロキは鬼からの脅しに屈しなかった。
「私だってな、隣でほっそい腰の下から膨らむ小鳥のようなお尻が視界にチラチラ入るたびに内なる獣が尻尾降って舌出してよーしよしステイステイ私ステイっていう状態なんだよ!」
「……後輩の顔使ってそれ以上喋るなよ」
希月の顔でセクハラ発言をされ、オドロキの額に青筋が浮かんだ。
ちっと軽く舌打ちをしたあと、牙琉検事の説明に耳を傾ける。
「昨日の裁判で弁護側は"現場に居た被告人は被害者の変装だった"という結論が出た。
しかし、この証人によってその主張は崩れる」
「どういうことですか!?」
「君たちは昨日の裁判で、燃えた着物の一部が変装に使われた証拠だと主張した」
パチンっと牙琉の指の音が法廷に響く。
「しかし、それはありえない。なぜなら……証人」
大野は言いにくそうに口をもごもごさせてから、言葉を発する。
「残骸の着物……あの赤い着物はナナちゃんしか持ってない特注品なんだよ」
「なっなんですってぇえええ!」
オドロキは絶叫したが、すぐに訊ねる。
「最近、赤い着物が盗まれたという話は!?」
「そんな話はないね」
オドロキはキッと隣にいる鬼風を睨む。
「鬼風さん!あなたがやったんでしょ!」
「おいおい。私が欲しいのは七姫であって、小娘の着物なんていらねえよ」
呆れたように泥棒は半目でオドロキを見返す。
ふむと顎に手を当てながら、鬼風は検察側へと視線を向ける。
「しかし、案外やるなぁ。あの検事」
「なに感心してるんですか!?」
「別に私は弁護士じゃないし。あくまで君のサポートだ。
あの被告人がどうなるかは君の努力次第だろ」
「アンタなぁ」
検事の説明を受けて、証人の大野が口を開いた。
「だから、ナナちゃんに変装することはありえないんだよ」
「けど、ナナちゃんが犯人じゃないのは確かだよ!
さっきあのジャンパーの男がでてきて、思い出したんだよ!
こいつが真犯人さ!
だってこの男は事件当日にハッキリバッチリおばちゃんが見かけたからね!屋敷の外で!」
「それではそのときのことを証言してもらいましょうか」
「証言なんかしなくたって!この写真が証拠だよ!」
彼女が提出したのは夕日で赤く染まった屋敷の扉の前で、ジャンパー男が立っている写真だった。
「確かにそこの男性ですな」
「証人。少しいいですか?」
少女の姿のオニカゼが訝しげに質問を口にする。
「なんで、写真なんか撮ってたんですか?」
「最近、カメラにはまっちゃったんだよ。
昔、写真部に所属していたんだけどね。そのときのセンパイがもうそりゃカッコ良くてねいぶくろっていうもう亡くなった俳優なんだけど苦味走ったイイ男にそりゃもうそっくりで若いころは男ともろくに話せないような恥ずかしがりやなおばちゃんは今じゃ全然だけどあのときはせんぱいの前で
「証人のおしゃべりに異議を唱えます」
鬼風は二の腕だけを挙手しながら、異議を唱えた。
「弁護側の異議を認めます。証人はおしゃべりを中断するように」
「あらやだ。しゃべると止まらなくてねえ」
大野の声をスルーして、オニカゼは続けた。
「とにかく、カメラを撮っていたのは趣味だったからですか?それならなぜインスタントカメラなんかで撮っていたんですか?」
「カメラってのは高くてねぇ。ちょうど手ごろなのが昔買ったそれしかなかったんだよ」
オドロキは浮かんだ疑問を発する。
「……ケータイで写真は撮らなかったんですか?」
「なんとっ!?ケータイで写真も撮れるのですか!?」
「あのじーちゃん。なかなかの大物だな」
呆れた表情で鬼風がサイバンチョを見る。
「あぁ……そうだったのかい」
大野の返答を聞き、オドロキはなんだか引っかかりのようなものを感じた。
だが、それを上手く言葉にできなかったので、特に口にはしなかった。
「この写真の日付を見ると、火災が発生する約1時間前に撮られてたようですな」
「今日残す写真をなににしようか決めていたんだよ。
けど、夕方の4時45分ごろにこの男が屋敷の前にいるのが見えてね。
怪しいと思ったオバちゃんはすぐさま手元のカメラで撮ったんだよ。
そのあと、そいつに声をかけようとしたら姿を見失っちまったのさ。
その周りを探し回っても、いなくて屋敷の外まで探しに行っちゃったのさ。
けど、帰ってきたら屋敷は燃えててしかもナナちゃんが犯人だと聞いてびっくりしてね。
男を見たことをすっかり忘れちまったのさ」
証人の言葉を聞いていたオドロキに、鬼風が証人に顔を向けたまま声をかける。
「突破口は見つかりそう?」
「わかりません。でも、ここから見つけ出さなきゃあの西山って人が犯人にされます」
「あのお嬢ちゃんの無罪を勝ち取るには、罪を西山に擦りつけるしかなさそうだけど?」
オドロキは睨みつけるように、隣の泥棒を見据えた。
「……無実の人を救うのが弁護士です。けど、誰かに罪を擦り付けて無実にしたいわけじゃない」
「今の状況でそれはかなり難しいんじゃないか?」
「うっ」
「…彼女は被告人のことを大事に思ってる。今までの言動からそれはわかるはず。
その"気持ち"を頭に入れながら、証言を聞いてみるとしようか」
気持ち?
オニカゼのよくわからない助言にオドロキは首を傾げた。
「それでは、その写真を撮ったときの証言をお願いします」
私見たんだよ!ナナちゃんが逮捕される前に!
屋敷の前でうろつく怪しい男を!
ナナちゃんが逮捕されたことに気がいってすっかり忘れてたけど
確かに居たんだよ。火事になる前に!
その証拠が、さっき提出した写真さ!
きっと犯人はあいつだよ。間違いないね!
大野の証言のあと、オニカゼは目を歪め、腑に落ちない顔をする。
「……」
「鬼風さん?」
「うーん、どう見てもあの西川ってやつがクロだとは思うんだけど。個人的にはそう思えないんだよなぁ」
「どうしてそう思うんですか?」
「悪党の勘」
ふうっと息を吐き、鬼風は続ける。
「人を一人殺して証拠を燃やすような"悪"には感じられない」
少女姿の泥棒は訝しむように、強く目を細める。
軽く握った拳で口元を隠し、なにかを探るような視線を西川に送っている。
「……いや、気のせいか」
小さくつぶやいた声は、オドロキの耳には届かなかった。
オニカゼは口元から拳を離し、オドロキに言う。
「……ところで"腕輪"の反応はあるかい?」
オドロキは腕輪の感触を確認するように、くすんだ金色のリングに触れた。
「いいえ、ないです」
「……少し言い方を変えよう。君の"目"には彼女が嘘を吐いてるように見えるかい?」
言い方を変えたことに違和感を覚えたが、気にせずオドロキは答える。
「いえ、オレにはそう見えません」
「……今のところはそうだろうよ」
「え?」
「私はあの証人が事実を話してるとは思えない」
「けど、腕輪の反応はありませんよ」
「その腕輪の悪いところだ。
"省略された嘘"は見抜けない。単なる嘘の証言は簡単に見つかるけど、隠された嘘を見つけることはできない」
「隠された嘘?」
「あの人は確かにあの西山を見たことに関しては嘘は吐いてない。けど、重要なことをあえて証言していない」
「どうしてわかるんですか?」
「ああいう中年のおばさんは、いかんせんおせっかいな上に感情だけで暴走しがちだ。歪んだ優しさで事実を隠そうとする」
「それなら、"嘘"を引きずりだしてやりますよ」
「そうだな。ゆさぶりから、嘘の証言を引き出すしかない」
私見たんだよ!ナナちゃんが逮捕される前に!
屋敷の前でうろつく怪しい男を!
ナナちゃんが逮捕されたことに気がいってすっかり忘れてたけど
確かに居たんだよ。火事になる前に!
その証拠が、さっき提出した写真さ!
きっと犯人はあいつだよ。間違いないね!
オドロキが渋い表情で証人を見る。
「この証言に嘘があるというけど……」
彼の表情を見て、鬼風はすぐに察する。
「"嘘"が見つからなかった?」
「はい」
「それなら、もう一度じっくりゆさぶってみようか。
それと、見てて……あの証人の気になる癖は……」
オニカゼはじっと証人の動きを観察する。
「手の動きかな……」
「手?」
「"手は口ほどに物を言う"ってね」
「それを言うなら"目"じゃないんですか?」
「今回の場合は合ってるさ。なんだか落ち着かない感じだろ」
「あの人自身、落ち着いてる感じはしませんけど」
「落ち着きのなさにさらに落ち着きのなさが加わってるんだよ。彼女の手の動き」
「…………」
「ん?どうした?」
鬼風はオドロキが妙な顔で自分のことを見ていることに気づく。
「いやっ。なんかアンタって……裁判に慣れてますよね」
「まぁ、高校の頃に法律事務所でバイトしてたから。
その時に、所長さんの裁判に助手として何度も立ち会ったことがあるだけさ」
「……アンタ、年いくつですか?」
「83歳」
「…嘘ですね」
「腕輪が反応した?」
「腕輪がなくてもわかりますよ!」
ふぅと息を吐いてから、オドロキが証言台に顔を戻した。
鬼風の言葉を頭に入れ、オドロキは大野に言う。
「もう一度証言してもらっていいですか」
「いいよ。必要なら何度だって証言するよ」
大野の証言を聞き、オドロキは気になる箇所を見つける。
その証拠が、さっき提出した写真さ!
ドックンと全身の血流が激しくなると共に、左手首から締め付けを感じる。
――――――――――この証言だ!
「その証拠とはなんですか?」
大野に証言をさせるために、オドロキが質問をする。
「そりゃもちろん」
鬼風のヒントに従い、オドロキは大野の手の動きを見つめる。
「その証拠が」
―――違う
「さっき」
―――違う
「提出した写真」
その癖をオドロキは今度は見逃さなかった。
胸の前のエプロンをぎゅっと握りしめる。
その指の僅かな筋肉の動きをオドロキの目が捕らえた。
"提出した写真"と発言したところで、エプロンの布地を左手で握り、微かに皺がよったのだ。
「大野さん。提出した写真について、尋ねてもいいですか」
「構やしないよ」
オドロキの言葉を聞き、鬼風は目を伏せて閉じている口元に笑みを浮かべる。
「弁護側は新たな証拠品の提出を大野さんに求めます」
「証拠品ですと?」
サイバンチョが首を傾げる
「大野さん。写真を提出してください」
オドロキの視線を受け、大野は肩をこわばらせた。
「何言ってんだい!写真ならそこの検事さんにフィルムごと渡してあるんだよ。写真なんてそれきりさ」
オドロキの手首がぎゅっと腕輪によって、きつく締めあげられる。
オドロキは首を横に振る。
「写真のフィルムじゃありません」
強い光を瞬かせる黒瞳に見つめられ、大野は無意識に彼から視線をそらした。
「"ケータイの画像"の提出をお願いします」
「あたしのケータイが、どうして欲しいんだい?」
「オレが昨日の現場で会ったとき、あなたはケータイで写真撮影していました」
くっと大野は顔を歪める。
「けっ消しちまったよ。ケータイの写真なんて」
心音姿の鬼風は片手でパンッと机を叩いた。
「昨日のあなたはケータイの画像消去がわからないとおっしゃっていましたよ」
「ぐっ」
「それなら残ってるはずですよね。16時45分前に入った屋敷に侵入した第三者の写真を!」
「しっ知らないよ!あたしゃ知らないんだから!」
ダメだな。ありゃ。
鬼風がぼやく。
「なんとかあのおばさんにケータイの写真を提出してもらうように説得するしかないようだな」
ふむとオニカゼは口を隠すように拳に口を当てる。
地方裁判所 第2法廷
カンッと裁判長の木槌が鳴った。
「これより審理を再開します。
それでは牙琉検事、先ほどの鍵の結果はどうなりましたか?」
牙琉検事が口を開く。
「先ほどの鍵だけど、弁護側の指摘通りだったよ。
西川の持っていた鍵を合わせると完全に一致した。
どうやら元々恋人をつなぐペアアクセサリーのように、二つ合わさると一つの形になるものだったらしい」
「それでは、鍵は2つあったということですね」
ダンッと牙琉検事が背後の壁に拳を突き立てる。
「さぁ、それじゃ今度こそ熱いギグをかき鳴らそうじゃないか」
「望むところです」
弁護側には枷がなくなり、本当の審理が始まりを告げる。
「それじゃ、検察側は証人を召喚するよ。事件に関わる重要な知識を持っている人物をね」
法廷に入ってきたのは割烹着の女性だった。
「あの人は…大野さん」
「なに?苦手な人なのかい?」
顔をしかめたオドロキを不思議そうに見ながら、少女姿の鬼風が尋ねる。
「出会い頭に尻を触られたので……その印象が抜けなくっ!?」
ブルッとオドロキは背中に悪寒が走った。
「へぇー……」
隣で後輩の顔のまま、底冷えのする表情を浮かべたオニがいた。
「オドロキくん」
「はっはい」
オドロキは声が上ずった。
「この裁判が終わったら」
「終わったら?」
ぐっと顔を寄せて、鬼風が言う。
「君の尻を触らせて」
「こっ断る!!」
凶悪な顔つきで迫られたが、オドロキは鬼からの脅しに屈しなかった。
「私だってな、隣でほっそい腰の下から膨らむ小鳥のようなお尻が視界にチラチラ入るたびに内なる獣が尻尾降って舌出してよーしよしステイステイ私ステイっていう状態なんだよ!」
「……後輩の顔使ってそれ以上喋るなよ」
希月の顔でセクハラ発言をされ、オドロキの額に青筋が浮かんだ。
ちっと軽く舌打ちをしたあと、牙琉検事の説明に耳を傾ける。
「昨日の裁判で弁護側は"現場に居た被告人は被害者の変装だった"という結論が出た。
しかし、この証人によってその主張は崩れる」
「どういうことですか!?」
「君たちは昨日の裁判で、燃えた着物の一部が変装に使われた証拠だと主張した」
パチンっと牙琉の指の音が法廷に響く。
「しかし、それはありえない。なぜなら……証人」
大野は言いにくそうに口をもごもごさせてから、言葉を発する。
「残骸の着物……あの赤い着物はナナちゃんしか持ってない特注品なんだよ」
「なっなんですってぇえええ!」
オドロキは絶叫したが、すぐに訊ねる。
「最近、赤い着物が盗まれたという話は!?」
「そんな話はないね」
オドロキはキッと隣にいる鬼風を睨む。
「鬼風さん!あなたがやったんでしょ!」
「おいおい。私が欲しいのは七姫であって、小娘の着物なんていらねえよ」
呆れたように泥棒は半目でオドロキを見返す。
ふむと顎に手を当てながら、鬼風は検察側へと視線を向ける。
「しかし、案外やるなぁ。あの検事」
「なに感心してるんですか!?」
「別に私は弁護士じゃないし。あくまで君のサポートだ。
あの被告人がどうなるかは君の努力次第だろ」
「アンタなぁ」
検事の説明を受けて、証人の大野が口を開いた。
「だから、ナナちゃんに変装することはありえないんだよ」
「けど、ナナちゃんが犯人じゃないのは確かだよ!
さっきあのジャンパーの男がでてきて、思い出したんだよ!
こいつが真犯人さ!
だってこの男は事件当日にハッキリバッチリおばちゃんが見かけたからね!屋敷の外で!」
「それではそのときのことを証言してもらいましょうか」
「証言なんかしなくたって!この写真が証拠だよ!」
彼女が提出したのは夕日で赤く染まった屋敷の扉の前で、ジャンパー男が立っている写真だった。
「確かにそこの男性ですな」
「証人。少しいいですか?」
少女の姿のオニカゼが訝しげに質問を口にする。
「なんで、写真なんか撮ってたんですか?」
「最近、カメラにはまっちゃったんだよ。
昔、写真部に所属していたんだけどね。そのときのセンパイがもうそりゃカッコ良くてねいぶくろっていうもう亡くなった俳優なんだけど苦味走ったイイ男にそりゃもうそっくりで若いころは男ともろくに話せないような恥ずかしがりやなおばちゃんは今じゃ全然だけどあのときはせんぱいの前で
「証人のおしゃべりに異議を唱えます」
鬼風は二の腕だけを挙手しながら、異議を唱えた。
「弁護側の異議を認めます。証人はおしゃべりを中断するように」
「あらやだ。しゃべると止まらなくてねえ」
大野の声をスルーして、オニカゼは続けた。
「とにかく、カメラを撮っていたのは趣味だったからですか?それならなぜインスタントカメラなんかで撮っていたんですか?」
「カメラってのは高くてねぇ。ちょうど手ごろなのが昔買ったそれしかなかったんだよ」
オドロキは浮かんだ疑問を発する。
「……ケータイで写真は撮らなかったんですか?」
「なんとっ!?ケータイで写真も撮れるのですか!?」
「あのじーちゃん。なかなかの大物だな」
呆れた表情で鬼風がサイバンチョを見る。
「あぁ……そうだったのかい」
大野の返答を聞き、オドロキはなんだか引っかかりのようなものを感じた。
だが、それを上手く言葉にできなかったので、特に口にはしなかった。
「この写真の日付を見ると、火災が発生する約1時間前に撮られてたようですな」
「今日残す写真をなににしようか決めていたんだよ。
けど、夕方の4時45分ごろにこの男が屋敷の前にいるのが見えてね。
怪しいと思ったオバちゃんはすぐさま手元のカメラで撮ったんだよ。
そのあと、そいつに声をかけようとしたら姿を見失っちまったのさ。
その周りを探し回っても、いなくて屋敷の外まで探しに行っちゃったのさ。
けど、帰ってきたら屋敷は燃えててしかもナナちゃんが犯人だと聞いてびっくりしてね。
男を見たことをすっかり忘れちまったのさ」
証人の言葉を聞いていたオドロキに、鬼風が証人に顔を向けたまま声をかける。
「突破口は見つかりそう?」
「わかりません。でも、ここから見つけ出さなきゃあの西山って人が犯人にされます」
「あのお嬢ちゃんの無罪を勝ち取るには、罪を西山に擦りつけるしかなさそうだけど?」
オドロキは睨みつけるように、隣の泥棒を見据えた。
「……無実の人を救うのが弁護士です。けど、誰かに罪を擦り付けて無実にしたいわけじゃない」
「今の状況でそれはかなり難しいんじゃないか?」
「うっ」
「…彼女は被告人のことを大事に思ってる。今までの言動からそれはわかるはず。
その"気持ち"を頭に入れながら、証言を聞いてみるとしようか」
気持ち?
オニカゼのよくわからない助言にオドロキは首を傾げた。
「それでは、その写真を撮ったときの証言をお願いします」
私見たんだよ!ナナちゃんが逮捕される前に!
屋敷の前でうろつく怪しい男を!
ナナちゃんが逮捕されたことに気がいってすっかり忘れてたけど
確かに居たんだよ。火事になる前に!
その証拠が、さっき提出した写真さ!
きっと犯人はあいつだよ。間違いないね!
大野の証言のあと、オニカゼは目を歪め、腑に落ちない顔をする。
「……」
「鬼風さん?」
「うーん、どう見てもあの西川ってやつがクロだとは思うんだけど。個人的にはそう思えないんだよなぁ」
「どうしてそう思うんですか?」
「悪党の勘」
ふうっと息を吐き、鬼風は続ける。
「人を一人殺して証拠を燃やすような"悪"には感じられない」
少女姿の泥棒は訝しむように、強く目を細める。
軽く握った拳で口元を隠し、なにかを探るような視線を西川に送っている。
「……いや、気のせいか」
小さくつぶやいた声は、オドロキの耳には届かなかった。
オニカゼは口元から拳を離し、オドロキに言う。
「……ところで"腕輪"の反応はあるかい?」
オドロキは腕輪の感触を確認するように、くすんだ金色のリングに触れた。
「いいえ、ないです」
「……少し言い方を変えよう。君の"目"には彼女が嘘を吐いてるように見えるかい?」
言い方を変えたことに違和感を覚えたが、気にせずオドロキは答える。
「いえ、オレにはそう見えません」
「……今のところはそうだろうよ」
「え?」
「私はあの証人が事実を話してるとは思えない」
「けど、腕輪の反応はありませんよ」
「その腕輪の悪いところだ。
"省略された嘘"は見抜けない。単なる嘘の証言は簡単に見つかるけど、隠された嘘を見つけることはできない」
「隠された嘘?」
「あの人は確かにあの西山を見たことに関しては嘘は吐いてない。けど、重要なことをあえて証言していない」
「どうしてわかるんですか?」
「ああいう中年のおばさんは、いかんせんおせっかいな上に感情だけで暴走しがちだ。歪んだ優しさで事実を隠そうとする」
「それなら、"嘘"を引きずりだしてやりますよ」
「そうだな。ゆさぶりから、嘘の証言を引き出すしかない」
私見たんだよ!ナナちゃんが逮捕される前に!
屋敷の前でうろつく怪しい男を!
ナナちゃんが逮捕されたことに気がいってすっかり忘れてたけど
確かに居たんだよ。火事になる前に!
その証拠が、さっき提出した写真さ!
きっと犯人はあいつだよ。間違いないね!
オドロキが渋い表情で証人を見る。
「この証言に嘘があるというけど……」
彼の表情を見て、鬼風はすぐに察する。
「"嘘"が見つからなかった?」
「はい」
「それなら、もう一度じっくりゆさぶってみようか。
それと、見てて……あの証人の気になる癖は……」
オニカゼはじっと証人の動きを観察する。
「手の動きかな……」
「手?」
「"手は口ほどに物を言う"ってね」
「それを言うなら"目"じゃないんですか?」
「今回の場合は合ってるさ。なんだか落ち着かない感じだろ」
「あの人自身、落ち着いてる感じはしませんけど」
「落ち着きのなさにさらに落ち着きのなさが加わってるんだよ。彼女の手の動き」
「…………」
「ん?どうした?」
鬼風はオドロキが妙な顔で自分のことを見ていることに気づく。
「いやっ。なんかアンタって……裁判に慣れてますよね」
「まぁ、高校の頃に法律事務所でバイトしてたから。
その時に、所長さんの裁判に助手として何度も立ち会ったことがあるだけさ」
「……アンタ、年いくつですか?」
「83歳」
「…嘘ですね」
「腕輪が反応した?」
「腕輪がなくてもわかりますよ!」
ふぅと息を吐いてから、オドロキが証言台に顔を戻した。
鬼風の言葉を頭に入れ、オドロキは大野に言う。
「もう一度証言してもらっていいですか」
「いいよ。必要なら何度だって証言するよ」
大野の証言を聞き、オドロキは気になる箇所を見つける。
その証拠が、さっき提出した写真さ!
ドックンと全身の血流が激しくなると共に、左手首から締め付けを感じる。
――――――――――この証言だ!
「その証拠とはなんですか?」
大野に証言をさせるために、オドロキが質問をする。
「そりゃもちろん」
鬼風のヒントに従い、オドロキは大野の手の動きを見つめる。
「その証拠が」
―――違う
「さっき」
―――違う
「提出した写真」
その癖をオドロキは今度は見逃さなかった。
胸の前のエプロンをぎゅっと握りしめる。
その指の僅かな筋肉の動きをオドロキの目が捕らえた。
"提出した写真"と発言したところで、エプロンの布地を左手で握り、微かに皺がよったのだ。
「大野さん。提出した写真について、尋ねてもいいですか」
「構やしないよ」
オドロキの言葉を聞き、鬼風は目を伏せて閉じている口元に笑みを浮かべる。
「弁護側は新たな証拠品の提出を大野さんに求めます」
「証拠品ですと?」
サイバンチョが首を傾げる
「大野さん。写真を提出してください」
オドロキの視線を受け、大野は肩をこわばらせた。
「何言ってんだい!写真ならそこの検事さんにフィルムごと渡してあるんだよ。写真なんてそれきりさ」
オドロキの手首がぎゅっと腕輪によって、きつく締めあげられる。
オドロキは首を横に振る。
「写真のフィルムじゃありません」
強い光を瞬かせる黒瞳に見つめられ、大野は無意識に彼から視線をそらした。
「"ケータイの画像"の提出をお願いします」
「あたしのケータイが、どうして欲しいんだい?」
「オレが昨日の現場で会ったとき、あなたはケータイで写真撮影していました」
くっと大野は顔を歪める。
「けっ消しちまったよ。ケータイの写真なんて」
心音姿の鬼風は片手でパンッと机を叩いた。
「昨日のあなたはケータイの画像消去がわからないとおっしゃっていましたよ」
「ぐっ」
「それなら残ってるはずですよね。16時45分前に入った屋敷に侵入した第三者の写真を!」
「しっ知らないよ!あたしゃ知らないんだから!」
ダメだな。ありゃ。
鬼風がぼやく。
「なんとかあのおばさんにケータイの写真を提出してもらうように説得するしかないようだな」
ふむとオニカゼは口を隠すように拳に口を当てる。