焼け木杭に火がつく
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そして、再び口を開く。
「もっと前だ」
「前?」
「今、彼のことをなんつった?」
「……はっ?」
なかなか答えない牙琉に鬼風はイラ立ちながら舌打ちした。
「オドロキくんのことを何と呼んだかって聞いてんだよ」
「……おデコくんがどうかしたのかい?」
鬼の泥棒はハッと息を呑んだかと思うと、顔面を真っ青にしてこめかみを手で押さえた。
「おデコ……くん……だって……!?」
牙琉顔の鬼風は胸倉から手を離し、よろよろしながら牙琉に背を向けた。
「おデコくん……おデコくん……おデコくん……」
夢遊病患者でも見るような目つきで、牙琉は鬼に声をかけようとした。
キッと鬼風が凶悪な目つきで牙琉を睨む。
少しだけ牙琉はその眼圧にたじろいた。
「ニックネームで呼び合うとか、なにそれチョー羨ましいんですけど!?」
「……はぁ?」
「まだちゃんと自己紹介だってしてもらってないのに……!ちょっとアンタあの赤い弁護士君のなんなのさぁ!!」
「いや、なにって言われても……その、ライバルというか」
「ライバルだって!?!?」
キィーーーーっ!!と鬼風はどこからか取り出したハンカチを噛んだ。
そして、ハンカチを思いっきり引っ張った。
「ライバル!!"宿敵"と書いて"親友"と読むあのライバルとか!」
鬼の泥棒はすごい形相でハンカチを噛んでいる。
自分の顔で取り乱す姿を見せられ、牙琉の顔が盛大に引きつる。
「……もしかして、アンタはおデコくんに熱をあげてるのかい?」
平静を保とうと前髪をかきあげながら、牙琉が尋ねた。
「大好き……いや、愛してるに決まってるじゃないか!」
心音と牙琉は絶句した。
うわぁーと心音は呆れの混じった冷ややかな視線で鬼の泥棒を見つめていた。
そして、牙琉は頭を両手で抱えて、顔を伏せる。
彼の脳内では、怪盗鬼風のイメージがガラガラと音を立てて崩れていた。
彼が初めて鬼風と出会った夜。
確かに鬼風は犯罪者であるが、物語に出てくる怪盗のようなカリスマ性があった。
罪人を裁く立場である彼ですら、ほんの少し彼に対する憧れのようなものがあったのだ。
でも、この若い弁護士の話題を出した途端、まるで別人のように雰囲気が変わってしまった。
そのだらしない顔立ちに、牙琉は失望に近いものを感じていた。
「あっあの、鬼風さん、センパイは……男ですよ」
「別に愛の前に性別なんて些細な問題だろ」
胸を張って堂々と痛い発言をした悪党に、牙琉の体はふらっとよろめいた。
「がっ牙琉検事!?大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫さ。ちょっと、風に弄ばれてしまっただけさ」
心音の目には彼の表情や仕草はいつも通りに映ったが、彼の声から強い落胆の感情を聞き取ったが、それは自分の胸の中だけにしまうことにした。
「なんだか、意外と冷静だね。弁護士の卵ちゃんは。あぁ、さっきの見たらわかるか」
「卵じゃありません!ちゃんと弁護士です!……さっきので確信はしましたが、その、法廷のときからなんとなく気づいてました」
黄色い弁護士の言葉に、鬼風はきょとんとした顔をする。
「オドロキ先輩と話すときだけ鬼風さんから強い"歓喜"の感情が伝わってきたんです。だから、もしかしたら……とは思ってました」
オニカゼは我に返ったのか、表情を元に戻す。
「……あっ。あぁー、そうか。そうなのか……」
口元を手で隠すように押さえながら、鬼風は視線をそらした。
「なるほど、さすが成歩堂事務所の弁護士さんだ。優秀な弁護士が揃ってるみたいだな」
優秀と言われ慣れない言葉に、心音がそわそわと髪の毛を触りだす。
「優秀だなんてそんな……」
そんな彼女を見て、鬼風は口元に小さな笑みを浮かべた。
だが、すぐに鋭い顔つきになる。
「……牙琉検事」
「そんなに睨んでも君を解放するつもりは」
「臭い」
「ハッ?」
牙琉のこめかみに青筋が浮かぶ。
「なっ臭いってどういう」
「煙のニオイがするんだよ。どっかから」
オニカゼはキョロキョロと辺りを見回す。
「煙?そんなニオイ……!」
牙琉検事が鼻を鳴らしながら、周りを見回すと屋敷の様子に気づいた。
「うそっ!?」
心音が牙琉の視線に釣られて、そちらを見ると屋敷から煙があがっていた。
「一体どこから!?火の気なんてまったくないのに!?」
はっと心音があることに気づく。
「オドロキ先輩!」
心音はほぼ無意識に足が動いた。
「牙琉検事、先ほどのことで」
「牙琉検事が二人!?」
突如やってきた警官たちが二人の牙琉を見て、声をあげた。
それを見て、鬼風の目が光る。
「こいつは鬼風だ!手錠で拘束済みさ!」
「えっ!?」
牙琉が手首を見ると、鬼風にかかっていたはずの片方の輪がいつの間にか自分の手首につけられていた。
「観念しろ!」
「待て!僕は本物だっ!!」
牙琉が制止の声をあげるが、2人の警官にのしかかられ彼は地面に抑えつけられる。
オニカゼは心音の後を追い、屋敷へと入っていく。
同日 某時刻
人形屋敷 北部屋
「オドロキ先輩!!」
先輩の名を必死に呼び、入口、南部屋を探すが、彼の姿は見当たらなかった。
「先輩、もしかして他の場所に?」
確証は持てないが、彼の姿がないので、もしやここにはいないのではと楽観的な予想が彼女の頭に浮かぶ。
「いや、それはない」
背後からの声で、心音の不安が戻ってくる。
怖い顔つきで、部屋を睨みつける美貌の検事がいた。
いや、その美貌を借りている鬼風がいた。
「どうして、もしかしたら上手く逃げたんじゃ」
「私はオドロキくんが入ったあとに、入口周辺をうろついていた。
けど、彼は出てきていない。
残念ながら、まだあの子はここに残ってる」
「じゃっじゃあ!どこにいるんですか!?」
オニカゼは煙を見回し、その先を見る。
「……たぶん、地下だ」
「へ?」
「よく見ろ。床下から煙がでてる」
「あっ!」
オニカゼの言う通り、部屋の床から煙が漏れていた。
「たぶん、この北部屋に地下室があるんだよ」
「地下室……?」
「これで私の謎もやっと解けた」
「けど、どうやって入るんですか!?」
そう心音が尋ねた瞬間、警官が乱入してくる。
「危ないからはやくきなさい!」
「ちょっまだオドロキ先輩が!」
心音が警官の脇を取ろうと、両手を伸ばす。
「そうだ。はやく戻らないと危険だ!」
心音が技をかける前に、鬼風が心音の両手を取った。
彼女は鬼風に技をかけようとするが、びくともしない。
……なにこれ?
合気道の心得がある心音の技を鬼風はあっさりと封じられてしまったのだ。
焦る心音の耳元にそっと鬼がささやく。
その声を聞き、心音の動きが止まる。
「この子を連れていってくれ!すぐにここから出よう!」
「わかりました!」
心音は素直に警官に手を引かれる。
そして、牙琉姿の鬼風は彼女たちの去っていく方向に背を向けた。
警官に手を引かれながら、心音は先ほどの鬼の声を思い出す。
"「私が彼を助ける。絶対にだ」"
泥棒から常に聞こえていたノイズは、そのときにはまったく聞こえなかった。
初めて聞いた胸に直接響くような、クリアで真っ直ぐな声……オニカゼの強い"決意"の声。
心音は鬼の心を信じ、ノイズだらけだった泥棒に先輩を託した。
あの人なら、きっと大丈夫。
心音は自分の耳を信じることにした。
「もっと前だ」
「前?」
「今、彼のことをなんつった?」
「……はっ?」
なかなか答えない牙琉に鬼風はイラ立ちながら舌打ちした。
「オドロキくんのことを何と呼んだかって聞いてんだよ」
「……おデコくんがどうかしたのかい?」
鬼の泥棒はハッと息を呑んだかと思うと、顔面を真っ青にしてこめかみを手で押さえた。
「おデコ……くん……だって……!?」
牙琉顔の鬼風は胸倉から手を離し、よろよろしながら牙琉に背を向けた。
「おデコくん……おデコくん……おデコくん……」
夢遊病患者でも見るような目つきで、牙琉は鬼に声をかけようとした。
キッと鬼風が凶悪な目つきで牙琉を睨む。
少しだけ牙琉はその眼圧にたじろいた。
「ニックネームで呼び合うとか、なにそれチョー羨ましいんですけど!?」
「……はぁ?」
「まだちゃんと自己紹介だってしてもらってないのに……!ちょっとアンタあの赤い弁護士君のなんなのさぁ!!」
「いや、なにって言われても……その、ライバルというか」
「ライバルだって!?!?」
キィーーーーっ!!と鬼風はどこからか取り出したハンカチを噛んだ。
そして、ハンカチを思いっきり引っ張った。
「ライバル!!"宿敵"と書いて"親友"と読むあのライバルとか!」
鬼の泥棒はすごい形相でハンカチを噛んでいる。
自分の顔で取り乱す姿を見せられ、牙琉の顔が盛大に引きつる。
「……もしかして、アンタはおデコくんに熱をあげてるのかい?」
平静を保とうと前髪をかきあげながら、牙琉が尋ねた。
「大好き……いや、愛してるに決まってるじゃないか!」
心音と牙琉は絶句した。
うわぁーと心音は呆れの混じった冷ややかな視線で鬼の泥棒を見つめていた。
そして、牙琉は頭を両手で抱えて、顔を伏せる。
彼の脳内では、怪盗鬼風のイメージがガラガラと音を立てて崩れていた。
彼が初めて鬼風と出会った夜。
確かに鬼風は犯罪者であるが、物語に出てくる怪盗のようなカリスマ性があった。
罪人を裁く立場である彼ですら、ほんの少し彼に対する憧れのようなものがあったのだ。
でも、この若い弁護士の話題を出した途端、まるで別人のように雰囲気が変わってしまった。
そのだらしない顔立ちに、牙琉は失望に近いものを感じていた。
「あっあの、鬼風さん、センパイは……男ですよ」
「別に愛の前に性別なんて些細な問題だろ」
胸を張って堂々と痛い発言をした悪党に、牙琉の体はふらっとよろめいた。
「がっ牙琉検事!?大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫さ。ちょっと、風に弄ばれてしまっただけさ」
心音の目には彼の表情や仕草はいつも通りに映ったが、彼の声から強い落胆の感情を聞き取ったが、それは自分の胸の中だけにしまうことにした。
「なんだか、意外と冷静だね。弁護士の卵ちゃんは。あぁ、さっきの見たらわかるか」
「卵じゃありません!ちゃんと弁護士です!……さっきので確信はしましたが、その、法廷のときからなんとなく気づいてました」
黄色い弁護士の言葉に、鬼風はきょとんとした顔をする。
「オドロキ先輩と話すときだけ鬼風さんから強い"歓喜"の感情が伝わってきたんです。だから、もしかしたら……とは思ってました」
オニカゼは我に返ったのか、表情を元に戻す。
「……あっ。あぁー、そうか。そうなのか……」
口元を手で隠すように押さえながら、鬼風は視線をそらした。
「なるほど、さすが成歩堂事務所の弁護士さんだ。優秀な弁護士が揃ってるみたいだな」
優秀と言われ慣れない言葉に、心音がそわそわと髪の毛を触りだす。
「優秀だなんてそんな……」
そんな彼女を見て、鬼風は口元に小さな笑みを浮かべた。
だが、すぐに鋭い顔つきになる。
「……牙琉検事」
「そんなに睨んでも君を解放するつもりは」
「臭い」
「ハッ?」
牙琉のこめかみに青筋が浮かぶ。
「なっ臭いってどういう」
「煙のニオイがするんだよ。どっかから」
オニカゼはキョロキョロと辺りを見回す。
「煙?そんなニオイ……!」
牙琉検事が鼻を鳴らしながら、周りを見回すと屋敷の様子に気づいた。
「うそっ!?」
心音が牙琉の視線に釣られて、そちらを見ると屋敷から煙があがっていた。
「一体どこから!?火の気なんてまったくないのに!?」
はっと心音があることに気づく。
「オドロキ先輩!」
心音はほぼ無意識に足が動いた。
「牙琉検事、先ほどのことで」
「牙琉検事が二人!?」
突如やってきた警官たちが二人の牙琉を見て、声をあげた。
それを見て、鬼風の目が光る。
「こいつは鬼風だ!手錠で拘束済みさ!」
「えっ!?」
牙琉が手首を見ると、鬼風にかかっていたはずの片方の輪がいつの間にか自分の手首につけられていた。
「観念しろ!」
「待て!僕は本物だっ!!」
牙琉が制止の声をあげるが、2人の警官にのしかかられ彼は地面に抑えつけられる。
オニカゼは心音の後を追い、屋敷へと入っていく。
同日 某時刻
人形屋敷 北部屋
「オドロキ先輩!!」
先輩の名を必死に呼び、入口、南部屋を探すが、彼の姿は見当たらなかった。
「先輩、もしかして他の場所に?」
確証は持てないが、彼の姿がないので、もしやここにはいないのではと楽観的な予想が彼女の頭に浮かぶ。
「いや、それはない」
背後からの声で、心音の不安が戻ってくる。
怖い顔つきで、部屋を睨みつける美貌の検事がいた。
いや、その美貌を借りている鬼風がいた。
「どうして、もしかしたら上手く逃げたんじゃ」
「私はオドロキくんが入ったあとに、入口周辺をうろついていた。
けど、彼は出てきていない。
残念ながら、まだあの子はここに残ってる」
「じゃっじゃあ!どこにいるんですか!?」
オニカゼは煙を見回し、その先を見る。
「……たぶん、地下だ」
「へ?」
「よく見ろ。床下から煙がでてる」
「あっ!」
オニカゼの言う通り、部屋の床から煙が漏れていた。
「たぶん、この北部屋に地下室があるんだよ」
「地下室……?」
「これで私の謎もやっと解けた」
「けど、どうやって入るんですか!?」
そう心音が尋ねた瞬間、警官が乱入してくる。
「危ないからはやくきなさい!」
「ちょっまだオドロキ先輩が!」
心音が警官の脇を取ろうと、両手を伸ばす。
「そうだ。はやく戻らないと危険だ!」
心音が技をかける前に、鬼風が心音の両手を取った。
彼女は鬼風に技をかけようとするが、びくともしない。
……なにこれ?
合気道の心得がある心音の技を鬼風はあっさりと封じられてしまったのだ。
焦る心音の耳元にそっと鬼がささやく。
その声を聞き、心音の動きが止まる。
「この子を連れていってくれ!すぐにここから出よう!」
「わかりました!」
心音は素直に警官に手を引かれる。
そして、牙琉姿の鬼風は彼女たちの去っていく方向に背を向けた。
警官に手を引かれながら、心音は先ほどの鬼の声を思い出す。
"「私が彼を助ける。絶対にだ」"
泥棒から常に聞こえていたノイズは、そのときにはまったく聞こえなかった。
初めて聞いた胸に直接響くような、クリアで真っ直ぐな声……オニカゼの強い"決意"の声。
心音は鬼の心を信じ、ノイズだらけだった泥棒に先輩を託した。
あの人なら、きっと大丈夫。
心音は自分の耳を信じることにした。