焼け木杭に火がつく
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「離れの屋敷だけど、やっぱり大きいなぁ」
うちの事務所より広いなぁ……。
一瞬浮かんだ悲しい事実を振り払うように、心音は頭を振った。
「あっ!あれは……」
屋敷の外を周り終えた彼女が屋敷の正面に戻ってくると、前方に遠目でもわかる美丈夫が見える。
現場を見つめる凛々しい横顔に心音は見覚えがあった。
「ガリュー検事!」
相手に近づきながら、声をかけた。
牙琉は一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、瞬時に鮮やかな微笑を浮かべる。
「やぁ希月弁護士クン」
「どうしてあなたがここに?」
「なーに。風に呼ばれてね」
「風……ですか」
「捜査中のようだけど、いつものセンパイくんがいないようだね」
「オドロキ先輩は先に屋敷の中を調べてもらってます。屋敷回りを見終わったので、私も中に行く途中です」
「なるほど。後輩を持ってから、先輩風を吹かしてるみたいだね」
はぁと牙琉はため息をひとつこぼした。
「今日は大変だったよ。あの鬼風を逃がして、法廷では軽傷とはいえ怪我人も出してしまった。
夕神検事は担当検事から外されて、謹慎を言い渡されたしね」
「そんな……」
心音は片手で肩をぎゅっと握り、目を伏せる。
そんな彼女を見てガリューは髪の後ろをかいたあと、シルバーリングのはめられた手を彼女の頭に置いた。
「短いものだから大丈夫さ。それにどんな優秀な検事……御剣検事局長だって、きっと鬼風を捕まえることはできなかっただろうさ。だから、すぐに復帰できるよ」
「はい」
ガリューの言葉に心音は少しだけ気が楽になった。
「それにしても、ガリュー検事は鬼風のこと知ってるんですね」
「あぁ。なんたって僕を出し抜いたいけ好かない奴だからね。情けないことに、"紅葉姫"というお宝の警備に参加させてもらったときまんまと奴に騙されたのさ。
今回も奴が関わってるようだし、担当を任されてよかったよ」
「"担当"ってことは……もしかして」
「そう。今回の事件の担当検事は僕さ。」
「へぇーそれは初耳だなぁー」
突如乱入してきた声に心音が振り向いた。
「え!?ええ!?」
心音は横から現れた人物の顔と目の前の人物の顔を交互に見つめる。
「今回の事件はこのボクーーー"牙琉響也"が担当することになっているはずなんだけどな」
「やれやれ。まさかこんなに堂々と変装してやってくるとは思わなかったよ」
「がっガリュー検事がふっ二人!?」
あわわと頬を両手で押さえ、慌てふためく心音。
「ドッチガホンモノー」
モニタの音声に、乱入してきたガリューが前髪をかきあげる。
「顔を引っ張ればすぐにわかるさ」
その言葉に、最初に居たガリューは乱入してきたガリューの顔に手を伸ばす。
「いてててて」
最初のガリューが問答無用で乱入してきたガリューの鼻を引っ張ったが、皮膚が伸びるだけである。
「どうなってるんだ!?変装が取れないだって!?」
「なにわざとらしいこと言ってるんだ!君が偽物だろ!」
乱入ガリューがお返しとばかりに、最初のガリューの頬を引っ張った。
ぐにーっと黒い皮膚の頬が伸びる。
「はなせ!やめろ!」
「なっ嘘だろ!変装が取れない!?」
「君こそ白々しいぞ!鬼風のくせに!」
「僕は本物の牙琉響也だ!」
「僕が本物に決まってるだろ」
「あぁー!どっちが本物の牙琉検事なの!?」
言い争いをする二人のイケメンに心音が頭をかきむしりながら、叫んだ。
ハァハァと言い合いで息を乱す二人の内一人が、笑みを浮かべる。
「君たちお得意の、"逆転の発想"を使おうじゃないか。
どっちかが"本物"ということは……つまり、どっちかが"偽物"ってことだろ。
それなら……」
ガチャンと自分の手首と相手の手首にピカピカしたシルバーを嵌める。
「へ?」
「こうして繋いでしまえば。どっちが偽物でも大丈夫だろ」
「なんで検事が手錠持ってんだよ!!」
「あっやっぱりこっちが偽物だったんだ」
最初に心音と話していた方の牙琉がつきつけた指を見て、しまったと顔を引きつらせた。
「だぁあああ!ちっくしょう。だからなんで検事が捜査にくるんだよ!?」
「真実を追求するためさ」
それより……と牙琉が険しい顔つきになる。
「僕の顔に変装するのやめてくれない?肖像権で訴えて勝つよ」
「やだよ。だってこの顔便利なんだもん」
「"もん"って言っても可愛くないですから……」
鬼風は正体がバレたとたん、牙琉の雰囲気が一瞬で崩れた。
彼のまっすぐ伸びていた背筋は猫背になり、だらしなくなる。
キリッと引き締めていた顔は、薄い笑みを張り付けた飄々とした顔つきになる。
「顔パスなんてやっぱ芸能人って得だよな」
「けど、どうなってるんだいその顔。さっき引っ張っても取れなかったぞ」
「企業秘密だ」
「このまま警察に突き出す前に……ひとつ、教えてくれないか怪盗鬼風」
「なに、私のスリーサイズが知りたいって?」
牙琉は鬼風の言葉をスルーした。
「どうして、君は人形にこだわるんだい?
ただの高価な人形じゃない。
"金山 繁左衛門(カネヤマ ハンザエモン)"の作品だけを盗む。
彼と君にはどんな繋がりがあるんだい」
泥棒の青年は朝霧のような真意の見えない笑みを浮かべ、牙琉の氷柱のような青瞳を受け止めた。
ふっと小さく笑い声を漏らし、オニは顔を伏せる。
「――――――ひとつ、昔話をしてやろう」
唐突なオニカゼの切り出しに、牙琉が眉をひそめた。
なにか言いたげな検事を、泥棒は目で制す。
「あるところに男がいた。
男は人形のような美しい女を愛していた。
だが、その女が不慮の事故で亡くなってしまう。
それ以来、男は悲しみを埋めるために、何度も何度も代わりとなるような女の人形を手に入れたが、自分の愛した女の代わりになる人形はとうとう見つからなかった。
ある日、村に旅人の男がやってくる。
旅の男はその男の姿を見て、心を痛めた。
一月ほど旅の男は姿を消し、再びやってくるとなんと死んだはずの女を連れていた。
その奇跡に男は大いに喜ぶ。
男はその女を嫁にもらい、死ぬまで一生暮らした。
女は何も喋らず、病弱で床に伏せてばかりだったが、男が女の顔を覗き込むと、女はときおり微笑んだ。
そして、男が病に倒れ、病床についたとき、男は女の手を握りながら天寿を全うした。
ところが、男が死を迎えると同時に、女も男の布団の上に倒れ込む。
なんと、女は人形へと姿を変えてしまった」
長い物語を終え、余韻を出してから、再びオニが口を開く。
「とまぁ、これがこの人形屋敷にまつわる伝説。そして、その女ってのが"七姫"だと言われている」
「それで?」
長い話を聞き終え、牙琉は苛立つように問いかける。
「そのおとぎ話と君の泥棒がどう関係しているっていうんだ」
「……この話は真っ赤なウソってわけではないんだよ」
「え?」
心音が声をあげた。
「じゃっじゃあ!七姫は元は人間だったってことですか!?」
「そんなわけないだろ」
「でも、ウソではないって!」
「そうだけど、人間が普通人形になるかよ。……というか"逆"なんだよ」
「"逆"?」
心音はオウム返しで尋ねた。
「"人間"が"人形"になったのではなく、"人形"が"人間"に見えていたとしたら?」
牙琉と心音はそろって鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。
心音が素早く言葉を投げつける。
「だって、いくらなんでもずっと生きてたように見せるなんて……無理ですよ!」
「もし、この話が本当なら、そっちの方がまだ可能性はあるんじゃねえの?」
「でっでも、やっぱり無茶ですよ!だって人形がそんな長い間人間に見えるなんて!」
「……騙せる方法があったとしたら?」
挑発するような笑みを浮かべて、牙琉の顔をした鬼は心音たちに視線を送る。
「まぁ、これがヒント。あとは自力で解けよ」
「えええええ!?」
「全然、ヒントになってないだろ。それ」
牙琉は胡乱な目で鬼風を睨む。
だが、すぐに彼はふっと笑みを浮かべる。
「どうやら、盗みの理由を教える気はないみたいだね」
「犯罪者の行動理由なんて教えるはずねえでしょ」
「アンタの泥棒の動機なんてどうでもいいや。
もうすぐここに警察がやってくる。それまで大人しくしていてくれよ。
……けど、昨日の法廷にはがっかりだよ。おデコくんに簡単に正体を見抜かれるなんてさ。
もっと油断ならない人だと思ってたよ、マヌケな泥棒さん」
牙琉は鬼風に挑発的な笑みを向ける。
眉を跳ね上げた鬼風は、牙琉の胸倉をつかみあげた。
「……今、なんつった?」
ぎらぎらとした殺気立った目を牙琉は涼しげに受け流す。
「マヌケな泥棒くんと言ったんだ」
「ちがうっ!」
鋭い声をあげて、牙琉の言葉を否定した。
うちの事務所より広いなぁ……。
一瞬浮かんだ悲しい事実を振り払うように、心音は頭を振った。
「あっ!あれは……」
屋敷の外を周り終えた彼女が屋敷の正面に戻ってくると、前方に遠目でもわかる美丈夫が見える。
現場を見つめる凛々しい横顔に心音は見覚えがあった。
「ガリュー検事!」
相手に近づきながら、声をかけた。
牙琉は一瞬、虚を突かれたような顔をしたが、瞬時に鮮やかな微笑を浮かべる。
「やぁ希月弁護士クン」
「どうしてあなたがここに?」
「なーに。風に呼ばれてね」
「風……ですか」
「捜査中のようだけど、いつものセンパイくんがいないようだね」
「オドロキ先輩は先に屋敷の中を調べてもらってます。屋敷回りを見終わったので、私も中に行く途中です」
「なるほど。後輩を持ってから、先輩風を吹かしてるみたいだね」
はぁと牙琉はため息をひとつこぼした。
「今日は大変だったよ。あの鬼風を逃がして、法廷では軽傷とはいえ怪我人も出してしまった。
夕神検事は担当検事から外されて、謹慎を言い渡されたしね」
「そんな……」
心音は片手で肩をぎゅっと握り、目を伏せる。
そんな彼女を見てガリューは髪の後ろをかいたあと、シルバーリングのはめられた手を彼女の頭に置いた。
「短いものだから大丈夫さ。それにどんな優秀な検事……御剣検事局長だって、きっと鬼風を捕まえることはできなかっただろうさ。だから、すぐに復帰できるよ」
「はい」
ガリューの言葉に心音は少しだけ気が楽になった。
「それにしても、ガリュー検事は鬼風のこと知ってるんですね」
「あぁ。なんたって僕を出し抜いたいけ好かない奴だからね。情けないことに、"紅葉姫"というお宝の警備に参加させてもらったときまんまと奴に騙されたのさ。
今回も奴が関わってるようだし、担当を任されてよかったよ」
「"担当"ってことは……もしかして」
「そう。今回の事件の担当検事は僕さ。」
「へぇーそれは初耳だなぁー」
突如乱入してきた声に心音が振り向いた。
「え!?ええ!?」
心音は横から現れた人物の顔と目の前の人物の顔を交互に見つめる。
「今回の事件はこのボクーーー"牙琉響也"が担当することになっているはずなんだけどな」
「やれやれ。まさかこんなに堂々と変装してやってくるとは思わなかったよ」
「がっガリュー検事がふっ二人!?」
あわわと頬を両手で押さえ、慌てふためく心音。
「ドッチガホンモノー」
モニタの音声に、乱入してきたガリューが前髪をかきあげる。
「顔を引っ張ればすぐにわかるさ」
その言葉に、最初に居たガリューは乱入してきたガリューの顔に手を伸ばす。
「いてててて」
最初のガリューが問答無用で乱入してきたガリューの鼻を引っ張ったが、皮膚が伸びるだけである。
「どうなってるんだ!?変装が取れないだって!?」
「なにわざとらしいこと言ってるんだ!君が偽物だろ!」
乱入ガリューがお返しとばかりに、最初のガリューの頬を引っ張った。
ぐにーっと黒い皮膚の頬が伸びる。
「はなせ!やめろ!」
「なっ嘘だろ!変装が取れない!?」
「君こそ白々しいぞ!鬼風のくせに!」
「僕は本物の牙琉響也だ!」
「僕が本物に決まってるだろ」
「あぁー!どっちが本物の牙琉検事なの!?」
言い争いをする二人のイケメンに心音が頭をかきむしりながら、叫んだ。
ハァハァと言い合いで息を乱す二人の内一人が、笑みを浮かべる。
「君たちお得意の、"逆転の発想"を使おうじゃないか。
どっちかが"本物"ということは……つまり、どっちかが"偽物"ってことだろ。
それなら……」
ガチャンと自分の手首と相手の手首にピカピカしたシルバーを嵌める。
「へ?」
「こうして繋いでしまえば。どっちが偽物でも大丈夫だろ」
「なんで検事が手錠持ってんだよ!!」
「あっやっぱりこっちが偽物だったんだ」
最初に心音と話していた方の牙琉がつきつけた指を見て、しまったと顔を引きつらせた。
「だぁあああ!ちっくしょう。だからなんで検事が捜査にくるんだよ!?」
「真実を追求するためさ」
それより……と牙琉が険しい顔つきになる。
「僕の顔に変装するのやめてくれない?肖像権で訴えて勝つよ」
「やだよ。だってこの顔便利なんだもん」
「"もん"って言っても可愛くないですから……」
鬼風は正体がバレたとたん、牙琉の雰囲気が一瞬で崩れた。
彼のまっすぐ伸びていた背筋は猫背になり、だらしなくなる。
キリッと引き締めていた顔は、薄い笑みを張り付けた飄々とした顔つきになる。
「顔パスなんてやっぱ芸能人って得だよな」
「けど、どうなってるんだいその顔。さっき引っ張っても取れなかったぞ」
「企業秘密だ」
「このまま警察に突き出す前に……ひとつ、教えてくれないか怪盗鬼風」
「なに、私のスリーサイズが知りたいって?」
牙琉は鬼風の言葉をスルーした。
「どうして、君は人形にこだわるんだい?
ただの高価な人形じゃない。
"金山 繁左衛門(カネヤマ ハンザエモン)"の作品だけを盗む。
彼と君にはどんな繋がりがあるんだい」
泥棒の青年は朝霧のような真意の見えない笑みを浮かべ、牙琉の氷柱のような青瞳を受け止めた。
ふっと小さく笑い声を漏らし、オニは顔を伏せる。
「――――――ひとつ、昔話をしてやろう」
唐突なオニカゼの切り出しに、牙琉が眉をひそめた。
なにか言いたげな検事を、泥棒は目で制す。
「あるところに男がいた。
男は人形のような美しい女を愛していた。
だが、その女が不慮の事故で亡くなってしまう。
それ以来、男は悲しみを埋めるために、何度も何度も代わりとなるような女の人形を手に入れたが、自分の愛した女の代わりになる人形はとうとう見つからなかった。
ある日、村に旅人の男がやってくる。
旅の男はその男の姿を見て、心を痛めた。
一月ほど旅の男は姿を消し、再びやってくるとなんと死んだはずの女を連れていた。
その奇跡に男は大いに喜ぶ。
男はその女を嫁にもらい、死ぬまで一生暮らした。
女は何も喋らず、病弱で床に伏せてばかりだったが、男が女の顔を覗き込むと、女はときおり微笑んだ。
そして、男が病に倒れ、病床についたとき、男は女の手を握りながら天寿を全うした。
ところが、男が死を迎えると同時に、女も男の布団の上に倒れ込む。
なんと、女は人形へと姿を変えてしまった」
長い物語を終え、余韻を出してから、再びオニが口を開く。
「とまぁ、これがこの人形屋敷にまつわる伝説。そして、その女ってのが"七姫"だと言われている」
「それで?」
長い話を聞き終え、牙琉は苛立つように問いかける。
「そのおとぎ話と君の泥棒がどう関係しているっていうんだ」
「……この話は真っ赤なウソってわけではないんだよ」
「え?」
心音が声をあげた。
「じゃっじゃあ!七姫は元は人間だったってことですか!?」
「そんなわけないだろ」
「でも、ウソではないって!」
「そうだけど、人間が普通人形になるかよ。……というか"逆"なんだよ」
「"逆"?」
心音はオウム返しで尋ねた。
「"人間"が"人形"になったのではなく、"人形"が"人間"に見えていたとしたら?」
牙琉と心音はそろって鳩が豆鉄砲をくらったような顔をした。
心音が素早く言葉を投げつける。
「だって、いくらなんでもずっと生きてたように見せるなんて……無理ですよ!」
「もし、この話が本当なら、そっちの方がまだ可能性はあるんじゃねえの?」
「でっでも、やっぱり無茶ですよ!だって人形がそんな長い間人間に見えるなんて!」
「……騙せる方法があったとしたら?」
挑発するような笑みを浮かべて、牙琉の顔をした鬼は心音たちに視線を送る。
「まぁ、これがヒント。あとは自力で解けよ」
「えええええ!?」
「全然、ヒントになってないだろ。それ」
牙琉は胡乱な目で鬼風を睨む。
だが、すぐに彼はふっと笑みを浮かべる。
「どうやら、盗みの理由を教える気はないみたいだね」
「犯罪者の行動理由なんて教えるはずねえでしょ」
「アンタの泥棒の動機なんてどうでもいいや。
もうすぐここに警察がやってくる。それまで大人しくしていてくれよ。
……けど、昨日の法廷にはがっかりだよ。おデコくんに簡単に正体を見抜かれるなんてさ。
もっと油断ならない人だと思ってたよ、マヌケな泥棒さん」
牙琉は鬼風に挑発的な笑みを向ける。
眉を跳ね上げた鬼風は、牙琉の胸倉をつかみあげた。
「……今、なんつった?」
ぎらぎらとした殺気立った目を牙琉は涼しげに受け流す。
「マヌケな泥棒くんと言ったんだ」
「ちがうっ!」
鋭い声をあげて、牙琉の言葉を否定した。