焼け木杭に火がつく
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同日 某時刻
留置所
「あっナナコさん!」
ガラス張りの向こうで扉が開き、心音はパイプ椅子から立ち上がった。
「体の調子はどうですか?」
「ええ、なんとか」
気遣う心音に着物の少女は控えめに笑う。
八百谷の顔色はだいぶ元に戻りつつあった。
「あの、昨日は聞けませんでしたが、事件のことなど話を聞かせてくれませんか」
「ええ、わかりました」
【事件のこと】
「あなたは屋敷に火をつけようとしたのは本当なんですか?」
「そうです」
「一体なんでそんなことをしようとしたんですか?」
「……」
ナナコは俯きながら口に出すべき言葉に迷っていた。
迷っているナナコを見て、オドロキは試しに放火の理由を口に出す。
「もしかして"七姫"が原因ですか?」
着物の少女が目を大きく見開く。
「七姫と放火が関係してるんですか?」
結びつかない出来事に心音が首を傾げている。
「……あの日、私は屋敷ではなく"七姫"を燃やすつもりでした」
「ええ!?」
「なんでまたそんなことを」
「……盗られたくなかった」
ぎゅっと膝の上で拳を固く握る。
「あれは、兄さんとの大事な思い出の品だから」
【兄さん】
「お兄さんってあの、婚約者の?」
「いえっ、"伊次郎兄さん"ではありません
……10年前の火事で亡くなった"佐平兄さん"のことです」
「大事な人だったんですね」
オドロキたちは初めて、彼女の柔らかな笑みを見た。
「ええ、私の初恋の人です」
奈々子は目を閉じ、瞼の裏に懐かしい思い出を映し出していた。
「佐平兄さんは伊次郎兄さんの兄で、よく二人に遊んでもらっていたんです」
【七姫のこと】
「あの七姫はもしやその佐平さんの物だったんですか?」
「いえ、そういう訳じゃありません」
「彼との思い出の品っと言ってたのはどういう意味ですか?」
「それは……」
奈々子の頬に朱が散らされる。
その反応に心音がピンと来た。
後輩はすかさずオドロキの耳元に近づく。
「もう!鈍いですね!オドロキ先輩!そんなの初恋の甘酸っぱいエピソードが詰まってるってことですよ!」
あぁ、なるほど。
後輩の発言にオドロキは納得し、顔を赤くしてもじもじとしていた依頼人に視線を向ける。
だが、突如依頼人の顔が曇る。
「……でも、伊次郎兄さんはそんなこと忘れてしまったみたいなんです」
【伊次郎兄さん】
「一週間前に泥棒から予告状が来たんです。私は警察を呼んで盗られないようにして欲しいと思ってました。
けど、伊次郎兄さんはあの人形に価値はないからあげてしまいなさいって」
オドロキはふとナナコと鬼風のやり取りを思い出す。
「あなたが守ってほしかった人形って、もしかして偽物の人形の方ですか?」
「そうです。北部屋にあった人形の方です。あれが私にとっての思い出の人形なんです
あの泥棒はどんなお宝も盗んでしまう。
そう言われて、私はなんとしてでも他人にあの人形を盗られたくありませんでした」
執念すら感じられるその声に、オドロキたちは圧倒される。
「けど、あの晩北部屋の人形はどこにもありませんでした」
奈々子は涙目でそう言葉を紡ぐ。
「それで悲しくてもうなにもかも燃えてしまえってヤケになってしまって
南部屋の七姫を燃やすために灯油を床にまいて、火をつけようとマッチを擦った瞬間、そこまでが私が覚えてる記憶です」
「え、火をつけて外に出たんじゃないんですか?」
「今日も言いましたが、マッチを擦って火がついたあと意識が途切れたんです。たぶん、タダノさんに殴られたのだと」
弁護士たちはその事実を思い出し、新たな謎が発覚した。
「じゃあ、奈々子さんはどうやって外に出たんですか!?」
「気が付いたら、管理小屋のベッドに居たんです。たぶん、カライが助けてくれたんだと思います。
それで、炎の音で目が覚めて、外にでて屋敷の炎を見て……自分のしたことの重大さにやっと気づきました」
着物の少女はぎゅっと膝の上で強く拳を固める。
「自分の勝手なことでこんなことになってしまいました」
着物の少女は顔を両手で覆う。
「!私、放火は確かにしました!けど、殺人はやってません!本当です!」
「大丈夫です。それを証明するためにオレはここにいます」
「オレたちですよ。私を忘れてもらっちゃ困りますね」
「そうだったね」
「はい、そうです!ナナコさんの無罪は明日の法廷で示してやりますとも!」
二人の弁護士を見て、奈々子は流れる涙が止まった。
そして、深々と頭を下げる。
「どうか……お願いします」
依頼人との会話を終え、若き弁護士たちは現場へと調査に戻った。