焼け木杭に火がつく
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同日 某時刻
人形屋敷付近 管理小屋
「あれ?誰もいませんよ?」
オドロキたちが小屋の前に通りかかると、番犬がどこにもいなかった。
その主である庭師の老人も姿が見えなかった。
「留守ですかね」
失礼しまーすっと心音が管理小屋の扉を開けた。
特に後輩を止めたりせず、オドロキも彼女のあとに続く。
「中は思ったよりも片付いてますね」
玄関らしき小さなスペースと畳が敷かれた床があり、心音はきょろきょろと中を見回す。
畳の上には赤い布の炬燵が置かれていて、炬燵の上には湯呑が二つあり緑の液体が半分ほど残っていた。
「くおらぁっ!!!!!!」
「うきゃっ!!」
「うわあわ!!」
突如背後から怒声が聞こえ、二人はその場に飛び上がった。
「人の住処でなにしとんじゃ!!」
「すっすみません!」
「この人がどうしても見たいって言って……」
「言ってないし、真っ先に入ったのは希月さんだよね!?」
オドロキは後輩からの濡れ衣に盛大にツッコミを入れた。
「たくっ。火事からなんにも片付いとりゃせんのじゃから、勝手に覗かんでほしいわい」
「「すみません」」
「それで、なんのようじゃ?」
「実はですね。火災があった後のことを詳しく話していただけませんか」
「昨日の証言どおりじゃよ。わしはひとりでいた」
オドロキは老人の態度に肩をすくめる。
「やれやれ。やっぱり話す気はないみたいだな」
「それじゃ、いつものあれやっちゃいましょう」
Let's do this!
後輩の声でオドロキは左手首のくすんだ金色の腕輪に触れる。
指先で金属の感触を確かめながら、彼はそっと瞼を下した。
ゆっくりと瞼を持ち上げ、黒褐色の瞳が老人の姿を映し出す。
「それでは、カライさん。本当の話を聞かせてください」
「なんじゃと?わしはウソなんか吐いておらん!そんなおっかねえ目で睨みなさんな」
「それじゃ、もう一度タロウくんの散歩を終えたあとのことを話してください」
「がってんしょうちでぃ。わしは四時半頃にタロウの散歩に向かった。それを終えたあと熱い茶をすすりながら」
次の言葉に入った瞬間、黒い瞳がカライの動きを見つめる。
「一人で」
オドロキの目がそれを捕らえた。
「唐井さん。」
「なんでい!まだ話の途中でぃ!」
「あなたはあのとき、"一人"ではなかったのでは?」
「はぁ?なにを言ってんだ坊主」
表情は変わらない。
だが、オドロキは老人がほんの一瞬だけ口の動きを止めたのを見逃さなかった。
「バカは休み休み言いやがれ。わしは一人だったぞ。一匹は居たが。
でたらめ言いやがって」
「でたらめなんかじゃありませんよ。あなたが一人ではなかった可能性があるんです」
「なんじゃと?」
「あなたの小屋を調べました。確か、あなたは小屋を火災が起きたときの状態のままだと言いましたよね」
「あぁ。忙しくて小屋に戻ってゆっくりする暇はありゃせんかったわい」
「机に置かれていた湯呑が"2つ"あったんですよ」
「!……それは」
「カライさん」
オドロキはカライの目をじっと見返す。
老人は青年の眼差しに居心地の悪さを感じた。
「オレたちは八百谷さんの無罪を証明したいんです」
その真摯な瞳に、老人は観念したように口を開く。
「ふんっ。坊主だと舐めたのが間違いだったわい」
カライはそのしわくちゃな口から事実を語り始める。
「そうじゃ。お前さんの言う通りあのときわしは一人じゃなかった。ある男と一緒じゃった」
「それは誰ですか?」
「昔の知り合いじゃよ。この事件とは関わりはありゃせん」
関わりはない。
その言葉にオドロキの腕輪が反応した。
「唐井さん」
オドロキが老人に詰め寄る。
唐井は青年の夜空色の黒瞳にひるむ。
「……悪いが、こればかりは誰にも言えん。お前さんたちじゃない警察でも言うことはできない」
老人の頑な意思表示に、オドロキたちはそれ以上の追求を諦めた。
「じゃあ、あなたはあのとき一人ではなかった」
それなら、犯人はその人の可能性が高い。
「おい」
弁護士たちの脳内で浮かんだことを見たかのように、カライが声をかけた。
「いいか。わしが保証する。わしと一緒にいたあの方は絶対に殺しも放火なんかもしとらん!じゃから、バカな考えを起こすなよ。弁護士ども」
老人の目に怒りを感じ取り、二人はとりあえず頷くことだけした。
「オジョウサンは災難じゃと思う。なんたってあの火事で両親を失った」
老人は感傷に浸るように語り始める。
「10年前にもこの屋敷で火事があったんじゃよ。
そのときにオジョウサンの両親が亡くなった
両親からの莫大な遺産があったおかげで、生活には困らなかったみたいじゃがな。
金があっても戻ってこんモノもある。
両親がいなくなった穴は伊次郎ボッチャンがなんとか埋めてくださった。
将来はあの伊次郎ボッチャンと、継いだ遺産を共有して家族となる
それだけは確かなオジョウサンの幸せじゃろう」
老人ははぁと息を吐く。
「……わしはあのオジョウサンが好かん」
「どうしてですか?」
「それは事件に関係あるのか?」
じろりと睨まれ、オドロキは首を横に振る。
老人の地雷を踏むと感じ、それ以上の追求はやめた。
「……わしが話せることはここまでじゃ。わしは疲れたから、他所に行ってくれんか」
「……ありがとうございました」
老人の嘘を暴き、二人は依頼人のいる留置所へと向かった。
人形屋敷付近 管理小屋
「あれ?誰もいませんよ?」
オドロキたちが小屋の前に通りかかると、番犬がどこにもいなかった。
その主である庭師の老人も姿が見えなかった。
「留守ですかね」
失礼しまーすっと心音が管理小屋の扉を開けた。
特に後輩を止めたりせず、オドロキも彼女のあとに続く。
「中は思ったよりも片付いてますね」
玄関らしき小さなスペースと畳が敷かれた床があり、心音はきょろきょろと中を見回す。
畳の上には赤い布の炬燵が置かれていて、炬燵の上には湯呑が二つあり緑の液体が半分ほど残っていた。
「くおらぁっ!!!!!!」
「うきゃっ!!」
「うわあわ!!」
突如背後から怒声が聞こえ、二人はその場に飛び上がった。
「人の住処でなにしとんじゃ!!」
「すっすみません!」
「この人がどうしても見たいって言って……」
「言ってないし、真っ先に入ったのは希月さんだよね!?」
オドロキは後輩からの濡れ衣に盛大にツッコミを入れた。
「たくっ。火事からなんにも片付いとりゃせんのじゃから、勝手に覗かんでほしいわい」
「「すみません」」
「それで、なんのようじゃ?」
「実はですね。火災があった後のことを詳しく話していただけませんか」
「昨日の証言どおりじゃよ。わしはひとりでいた」
オドロキは老人の態度に肩をすくめる。
「やれやれ。やっぱり話す気はないみたいだな」
「それじゃ、いつものあれやっちゃいましょう」
Let's do this!
後輩の声でオドロキは左手首のくすんだ金色の腕輪に触れる。
指先で金属の感触を確かめながら、彼はそっと瞼を下した。
ゆっくりと瞼を持ち上げ、黒褐色の瞳が老人の姿を映し出す。
「それでは、カライさん。本当の話を聞かせてください」
「なんじゃと?わしはウソなんか吐いておらん!そんなおっかねえ目で睨みなさんな」
「それじゃ、もう一度タロウくんの散歩を終えたあとのことを話してください」
「がってんしょうちでぃ。わしは四時半頃にタロウの散歩に向かった。それを終えたあと熱い茶をすすりながら」
次の言葉に入った瞬間、黒い瞳がカライの動きを見つめる。
「一人で」
オドロキの目がそれを捕らえた。
「唐井さん。」
「なんでい!まだ話の途中でぃ!」
「あなたはあのとき、"一人"ではなかったのでは?」
「はぁ?なにを言ってんだ坊主」
表情は変わらない。
だが、オドロキは老人がほんの一瞬だけ口の動きを止めたのを見逃さなかった。
「バカは休み休み言いやがれ。わしは一人だったぞ。一匹は居たが。
でたらめ言いやがって」
「でたらめなんかじゃありませんよ。あなたが一人ではなかった可能性があるんです」
「なんじゃと?」
「あなたの小屋を調べました。確か、あなたは小屋を火災が起きたときの状態のままだと言いましたよね」
「あぁ。忙しくて小屋に戻ってゆっくりする暇はありゃせんかったわい」
「机に置かれていた湯呑が"2つ"あったんですよ」
「!……それは」
「カライさん」
オドロキはカライの目をじっと見返す。
老人は青年の眼差しに居心地の悪さを感じた。
「オレたちは八百谷さんの無罪を証明したいんです」
その真摯な瞳に、老人は観念したように口を開く。
「ふんっ。坊主だと舐めたのが間違いだったわい」
カライはそのしわくちゃな口から事実を語り始める。
「そうじゃ。お前さんの言う通りあのときわしは一人じゃなかった。ある男と一緒じゃった」
「それは誰ですか?」
「昔の知り合いじゃよ。この事件とは関わりはありゃせん」
関わりはない。
その言葉にオドロキの腕輪が反応した。
「唐井さん」
オドロキが老人に詰め寄る。
唐井は青年の夜空色の黒瞳にひるむ。
「……悪いが、こればかりは誰にも言えん。お前さんたちじゃない警察でも言うことはできない」
老人の頑な意思表示に、オドロキたちはそれ以上の追求を諦めた。
「じゃあ、あなたはあのとき一人ではなかった」
それなら、犯人はその人の可能性が高い。
「おい」
弁護士たちの脳内で浮かんだことを見たかのように、カライが声をかけた。
「いいか。わしが保証する。わしと一緒にいたあの方は絶対に殺しも放火なんかもしとらん!じゃから、バカな考えを起こすなよ。弁護士ども」
老人の目に怒りを感じ取り、二人はとりあえず頷くことだけした。
「オジョウサンは災難じゃと思う。なんたってあの火事で両親を失った」
老人は感傷に浸るように語り始める。
「10年前にもこの屋敷で火事があったんじゃよ。
そのときにオジョウサンの両親が亡くなった
両親からの莫大な遺産があったおかげで、生活には困らなかったみたいじゃがな。
金があっても戻ってこんモノもある。
両親がいなくなった穴は伊次郎ボッチャンがなんとか埋めてくださった。
将来はあの伊次郎ボッチャンと、継いだ遺産を共有して家族となる
それだけは確かなオジョウサンの幸せじゃろう」
老人ははぁと息を吐く。
「……わしはあのオジョウサンが好かん」
「どうしてですか?」
「それは事件に関係あるのか?」
じろりと睨まれ、オドロキは首を横に振る。
老人の地雷を踏むと感じ、それ以上の追求はやめた。
「……わしが話せることはここまでじゃ。わしは疲れたから、他所に行ってくれんか」
「……ありがとうございました」
老人の嘘を暴き、二人は依頼人のいる留置所へと向かった。